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2018年04月18日

業界が変わるビジネストレンド

「IoT住宅」は、業界を破壊してしまうのか?
―後れを取る日本が、世界市場でイニシアチブをとるために

 昨年2017年はIoT(Internet of Things)元年と言われた。IoTファクトリーやIoTを用いた医療サポートなど社会のいたるところにテクノロジーが活用され始めたが、住宅分野もその一つだ。2018年になって、ハウスメーカーでもIoT住宅ブランドのサービスを続々と投入している。IoTは住まいの中の生活、さらに業界の常識を劇的に変えていくという。今回は、サステナブル建築の研究に長年携わり、IoT住宅に詳しい東京大学 生産技術研究所の野城智也教授に、住まいを起点に家電や住宅設備、ハウスメーカーが直面する業界変革の最新動向を聞いた。

IoT住宅サービスが続々登場

 住宅そのものをIoT化することにより、これまでの生活が様変わりする。例えばこんな光景がすでに実現している。

 目を覚まし、ベッドの中から「おはよう」とスマートスピーカーに声をかける。するとシャッターが開き、エアコンが作動し、照明が自動的に点灯する。出勤時間に今度は「いってきます」と声をかければ、作動していたエアコン、照明は自動的に止まる。通勤途中、電車の中でふと”玄関のカギ”を閉めたか不安になっても、スマホから難なく確認ができる。

 夕方、子どもが親よりも先に家に帰ってくる。ドアを開けると、子どもの帰宅を知らせる画像が親のスマホに送られてくる。習いごとで子どもが外出したのもチェックできるというわけだ。母親も帰宅の時間だ。家についてすぐお風呂に入れるように外出先から湯はりをしておこう。これも帰宅前にスマホに一声かけておけば可能になる。

 これは、住関係の複合企業LIXILが2018年4月から提供を開始したIoTホームLink「Life Assist」で実現する暮らしのイメージだ。このシステムでは、家電、建材、住宅設備機器などを操作・連携する「ホームコントローラ」と、各種センサーやカメラ、AIスピーカーなどを操作・連携させる「リンクコントローラ」を独自に開発した。この二つを連携させIoTネットワークを構成する。

 また、大和ハウスも住宅のIoTに関するプロジェクトを本格的に始動させた。2017年11月に「コネクテッドホーム」ブランド「Daiwa Connect」を発表。その第1弾として、米Googleのスマートスピーカー「Google Home」とインターネット・プロバイダーのイッツ・コミュニケーションズのIoTサービス「インテリジェントホーム」を活用したIoTサービスを提供する。

世界では冷蔵庫が在庫管理システムに

 各社が取り組んでいる住まいのIoT化だが、「日本の歩みは遅く、危機感を持つべきだ」と話すのは、東京大学生産技術研究所の野城 智也教授だ。野城教授は現在、業界の枠を超え住宅のIoT化を推進するために2017年に設立された「コネクティッドホームアライアンス」の特別顧問も務める。世界の動向を踏まえ日本の状況を次のように説明する。

 「今や米国の家電量販店に行くと、IoT家電が並ぶ”Connected with”のコーナーがフロアの一角を占領しています。残念ながら、日本ではそうした光景は見かけられません。世界的にみると日本での住まいの中のIoT化では遅れをとっていると言わざるを得ません」

東京大学生産技術研究所 野城 智也教授
コネクティッドホーム アライアンス 特別顧問

 野城教授が危惧するのは、何も単純に製品のIoT化が遅れていることではない。IoTを組み込んだ製品がこれまで日本が培ってきたものづくりの「ジャパンブランド」という価値をドラスティックに変えていく可能性があること、それを企業側が認識していないことだ。例えば、香港のスタートアップ企業「Ambi Labs」では、家庭のエアコンを自動制御する安価なリモコン製品を発売した。この製品はエンドユーザーが手元で操作するスマートリモコンとAIを連携させ、ユーザーの好みを学習しながら気候や時間帯などの要素も分析して自動調節するというもの。エアコンと比較し安価な製品だが、これまでの業界の常識を変えるほどのインパクトを持つ。

 「通常エアコンは送風口などにセンサーを搭載し、高度な空調管理を行っています。しかし、エアコンの送風口と生活する人は離れているため、快適な温度や風量などに開きが出ていました。Ambiの決定的なアドバンテージは、センサーをエアコンの送風口からエンドユーザーの身の周りに移したことです。人に近い位置で空調管理をするため、より快適な調節を、それもAIで自動制御することができます。これまで、国内のエアコンメーカーは、製品そのものの機能や性能で競い合い、ジャパンブランドを築きあげてきました。しかしAmbiの登場で、製品の機能・性能そのものから価値が移行してしまう可能性があるのです」

 次に冷蔵庫の例をみてみよう。韓国大手の家電メーカーは、既にWebカメラを内蔵した冷蔵庫を製品化している。2018年1月に米ラスベガスで開催された世界最大級のエレクトロニクスショー「CES 2018」では、サムスンが冷蔵庫内の「在庫管理」をするだけでなく、パッケージについたラベルから消費期限を読み取り、期限の近い食材を利用した料理のレシピを提案するといった機能までデモンストレーションしている。

 「冷蔵庫は単に食料を冷蔵して保存するものから、『在庫管理』システムを持つものに変化し始めています。そう遠くない将来、スーパーマーケットのデリバリーサービスなどと連携していくことも考えられます。外出先から冷蔵庫の在庫を確認し、足りない具材をクレジットカードで決済、家に帰ったらその材料がデリバリーされていて、夕食を準備するといったことが想定されます」

 つまりIoT化により、製品の持つ意味合いが変わってくるというのだ。異業種との連携も含め、新しいサービスを発想する時代になってくる。IoT化が示すその価値の転換を認識せずに製品単体での機能競争でしか物事を捉えられずにいると、ものづくりを懸命に行っていても、企業が生き残れなくなることに野城教授は警鐘を鳴らしているのだ。

「不幸な組み合わせ」回避に向くのは日本企業

 ただし、住まい周りのIoT化が進むには、世界レベルでみてもまだまだ課題は多い。一つはIoT機器がセキュリティホールになる可能性だ。パソコンには現在セキュリティ対策ソフトが入るのが当たり前だが、家庭の中で使用される低価格の機器に対し、どうやってセキュリティ対策を施すかは大きな問題だ。当然個人情報保護の観点も議論が必要になる。

 さらに、IoT住宅の普及時に生じる課題として野城教授が指摘するのが「不幸な組み合わせ」への対応だ。例えば自然換気のために電動窓を開けるアプリケーションが、不在時に働いてもらっては不用心だ。それこそゲリラ豪雨の際に働いては家が水浸しになってしまう。省エネアプリケーションは空調機に「オフ」の命令を出しているのに、安眠アプリケーションが空調機を作動させようとすれば「オン・オフ」が繰り返され空調機を傷めてしまう。これがいわば「不幸な組み合わせ」だ。

 アプリケーション同士、あるいは状況とアプリケーションのコンフリクトは、どうしても起こるだろう。人が考えられる限りのケースを集め、さらに起きてしまった事象を積み上げていき、リスクシナリオをためていくことが必要になる。こうしたリスクシナリオの作成などは、きめ細やかな対応が得意な日本企業こそ力量を発揮できると野城教授は指摘する。

 「リスクシナリオをためていきながら、それを段々と論理化して、やがては機械学習やディープラーニングの対象にしていくようなことが、世界中で必要になってくるはずです。用途や組み合わせが決まっている工場のIoT化などと比べ、家庭の中には数多くのメーカーの製品が混在し、組み合わせも住まい手によって変わってきます。その点が住宅のIoT化が難しい点ですが、複雑なリスクシナリオを描くようなことは日本企業は得意なはずです。戦略的に行えれば日本企業がイニシアチブをとることも可能になると考えています」

日本企業が住宅IoT分野でリードするには

 住宅設備や住宅メーカーもこれまで住宅内のエネルギーマネジメントを行うHEMS(Home Energy Management System)などのスマートホームの経験を糧に、昨年から続々とIoT住宅サービスを提案している。しかし、まだ各メーカーが一部のベンダーと協調するのみで、現在は細かなサイロが立ち上がっている状態だ。サイロ化を問題視する傾向もあるが、野城教授はサイロをつなぐ「ユニバーサルな相互システムを構築すべき」と見解を示している。

 「住まいの中でIoTを稼働させる三階層の組織群(図)を構築すべきです。第一層(IoTサービス事業者)とユーザーのところで使われるモノ(Things)=第三層の間に第二層として関所システムとハブを置き、そこにモノに関するデータベース作成・管理組織を形成します。関所システムにリスクシナリオをためていくことで、IoTシステムの精度が上がっていきます。この第二層に有効なソフトウェアや、異なるサイロをまたいで第二層をつないでいくシステムを開発する能力を日本企業は持っているはずです」

 第二層を構築する重要性は、データ解析力やモノ(Things)の制御ノウハウを高めていけることにもある。新たなサービスを展開するにしても、リスクシナリオを描くにしても、データ解析力や制御ノウハウを持っていなければ話にならない。スマートスピーカーを通してGoogleやAmazonにだけデータが蓄積されていくのではなく、ユーザーからみて切れ目のないThingsの総合的運用ができるかが今後のカギを握るという。

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IoT住宅も、最後に必要になるのは人の手

 第二層は、グローバルにみればモノ(Things)とアプリケーションを繋ぐ管理組織であるとともに、ローカルにみればその場その場のインテグレータの役割を担う。「サイロ化したそれぞれのサービスを、ソフトウェアの第二層でシステム的につなぐ。ただし、最終的には各家庭の事情に合わせて、リスクシナリオを加味しながらアプリケーションなどを調整するローカルインテグレータの役割が必要になるはずです」

 事前の調整の他にも、IoT化が進めば家電が故障した際に、問題がネットワークにあるのか、アプリケーションにあるのかなど責任分界点の切り分けが必要になる。IoT化といえども、最後に必要になるのは人のサービスだと野城教授は言うのだ。

 「例えばガス会社、警備会社、もしかしたら町の電気屋さんを含めたローカルインテグレータが、日本には生きています。IoTやAIで人の仕事がなくなると言われていますが、『人の暮らし』の分野でのIoT化では、むしろ人の温もりのあるサービスが必要になってくるはずです」

 生活の中で使われるIoTサービスは、個々の製品の意味を変える大きな可能性を秘めている。ロボット掃除機は「移動できる空間環境認知移動体」、自動車は「モビリティー・サービスの一コンポーネント」、トイレは「毎日使う健康管理センター」、冷蔵庫は「食材在庫管理手段」──といった具合だ。さらに個々の機能だけでなく、その先の異業種とつながることで新たなサービスを生み出し、ビジネスチャンスにもなる。

 「日本企業は遅れているという危機意識を持つべきです。しかし、決して試合に負けたわけではありません。野球でいえば、3回裏10-2でリードを許しているにすぎません。まだまだゲームは続きます。まずは異なるサイロを越えてモノ(Things)が繋がるユニバーサルな仕組みづくり、そしてリスクシナリオへの取り組みや、ローカルインテグレーションの仕組みなどを構築できれば、世界で日本の企業が存在感を示し、発展していく可能性があると考えています」

 経済産業省でも「平成 28 年新産業構造ビジョン中間整理」の中で、スマートハウスが産業構造の大変革を引き起こす分野としている。野城教授が語ったような枠組みづくりが実現すれば、日本の住まいはITのパワーと、温かな人のサービスが共存する空間となるのではないだろうか。

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