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2017年01月27日

地方創生現場を徹底取材「IT風土記」

福島発 スマートシティ技術が結集、地方再生のモデルケース目指す

産学連携推進にかける思い

会津若松市のシンボル「鶴ヶ城」。このお城のそばにICT関連企業の誘致の受け皿となるオフィスを整備する計画もある

 また、同市はアナリティクス産業のクラスター化を目指すため、企業集積のためのオフィス整備プロジェクトも本格化させている。

 現状では、会津大学で育てたICT人材のほとんどが首都圏に吸い上げられており、岩瀬理事は「福島県以外からの入学生が約7割で、卒業生の8割が首都圏へ就職する。少なくとも4割の卒業生が地元に残るように、首都圏並みの働き甲斐と待遇を提供できる環境をつくれるかが課題だ」と話しており、産業クラスター化の先導役となるオフィス整備への期待は大きい。

 会津大学ではAOI(あおい)会議(*2)と名付けた産学連携のオープンイノベーションも展開しており、研究と産業ニーズを早い段階ですり合わせ、事業化提案や応用につなげている。地域に根差した企業の経営支援や福島県警と連携したサイバーセキュリティーの研究など、街全体が大掛かりな実証実験の舞台となっているのだ。

 ICT関連企業の誘致の受け皿となる500人規模のオフィスを、会津若松市のシンボル、鶴ヶ城のそばに整備する計画で、来年度に着工、2018年度末の完成を目指している。室井市長は「市役所の職員でも700人弱の規模であり、仮に500人が一か所で働くと街のニーズが変わり、活性化につながるのは間違いない」と期待を込める。

*2 Aizu Open Innovation meetingの略称

ヘルスケアIoT活用し、医療・介護費用抑制へ

 「少子高齢化や社会保障費の拡大、エネルギー問題など、日本が抱える課題を解決するには、ICTを最大限に活用したスマートシティは有効な方法で、会津若松市がそのモデルケースになれる」。アクセンチュアの中村センター長は、震災復興から地方創生へ向けた戦略を描く。その戦略の手本となるのは、デンマークのメディコン・バレーの成功例だ。デンマーク・スウェーデンでは、患者の生涯にわたる電子医療情報(EHR)を共有するオープンデータと規制緩和の政策が、デンマーク・スウェーデン両国の国内総生産(GDP)の2割を占める産業クラスターの構築を可能にした。

 会津若松市が進めるIoTヘルスケアプロジェクトも、スマートシティの先導役を期待されている。病気になる前に手を打つ「予防サービス」を実現し、市民の健康を維持することにより、医療費や介護費用の抑制を目指している。市民はウェアラブル端末を腕に着け、脈拍などの健康データをビッグデータとして収集する。室井市長自身も率先して端末を身に着け、参加を呼びかける。室井市長は「データ分析の実証を会津若松市が担うことで、日本が抱える医療費の問題解決にも貢献できる」と強調する。医療機関などとも連携し、データに大きな変化があった場合に、参加者にアドバイスを送るような仕組みも検討中で、市民の健康管理への貢献も両立させることが可能だ。

脈拍などの健康データを蓄積するためのウェアラブル端末。室井市長も率先して身につけている

壮大なスマートシティの実装フィールド

会津若松市の地域情報ポータルサイト「会津若松+(プラス)」

 健康福祉・医療の他にも「スマートシティ会津若松」と名付けた取り組みが、さまざまな分野で芽を出し始めている。地域情報ポータル「会津若松+(プラス)」は、市民とのコミュニケーションを高めることで、データに基づく政策決定の実現を目指す。日本郵便と協力し、ネット上に自分専用の郵便受け「My Post」を設置。市政だよりなどさまざまな情報を受け取れる。また、作業中の除雪車の位置を確認できるサービスを開始し、除雪車の通過後に雪かき作業が必要な雪国ならではの問題解決に大きく寄与することが期待されている。子供の学校別、学年別、クラス別の情報を配信する学校情報サービスや、母子健康手帳を電子化し、ワクチン接種履歴をウェブで閲覧できる仕組みなどを構築中だ。

 中村センター長は「会津若松市が目指すのは、健康福祉・医療だけではなく、農業やエネルギー、都市再生・観光など幅広い領域のスマートシティ」と話す。「多種多様なデータを収集・蓄積するビッグデータのプラットフォーム構築がその土台となる。さらに、さまざまな国のプロジェクトを誘致することで、データ分析を担うアナリティクス産業の関心を集め、大企業の機能移転や地元採用を促せるのではないか」と展望を語る。

 このように、会津若松市では、スマートシティが“実証”ではなく、“実装”として始まっており、またICTの先進的な取り組みを生きたデータで試すことができるため、多くの企業が会津若松市に熱い視線を注ぐ。市内のビジネスホテルの稼働率は高く、インバウンド(訪日外国人客)の数も大きく伸びている。室井市長は「スマートシティといえば会津若松市という認識が定着してきた。同じ悩みを抱える地方の都市にも応用してもらえるモデルケースを目指していきたい」と熱を込めて話している。

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