2017年02月27日
地方創生現場を徹底取材「IT風土記」
大分発 営農の見える化を実現 農業再生の道開く原価管理
生産原価の評価を「定性」から「定量」に

農業従事者に現場でデータを入力してもらえれば、スーパー側が期待している作物の収穫情報を得ることができる。しかし、日々の忙しい農作業の合間を縫って、データ入力をしてもらうには、農業生産法人にとってもメリットがある仕組みにしなければならないことは明らかだった。くしふるの大地を訪れ、農業の現場が生産原価の把握という経営課題に直面していることを知り、農業のICT化に貢献できる可能性を感じることができた。
今までNECが取り組んできた農業ICTは環境センシングによる見える化など、栽培の支援をするものが中心であった。しかし生産原価を把握するといった違った切り口から農業を支援をするICTの仕組みが必要なのではと開発したのが「生産原価データ活用サービス」だ。現場のスタッフが、日々の作業実績をスマートフォンで入力し、管理者と即座に情報共有できる手軽さが特徴で、利益を生む農業の実現を支援する。
リアルタイムに原価や月締原価などの農作業の再生産価格を可視化できる。具体的には、農作業ごとに、人件費や使用資材、農機具の減価償却や諸経費などを含めた栽培計画を作成したり、資材は種類、容量、購入金額など納入時の情報を登録することで、作業実績から在庫情報をいつでも把握できるほか、納品資材の棚卸管理までをサポートする。


NECと協力し、生産原価のデータ活用に道を開いた力の源カンパニーの清宮俊之社長は「今まで定性評価していた生産原価を定量評価することができるようになった。農業界のデータを統合すれば、日本の農業再興に貢献できる」と自信を示す。NECは、大分県でのトライアルをベースに農業経営のICT支援を全国展開する一方、食物の安定供給や安全性の確保などを可能にするなど流通業界も活用しやすい仕組みへと進化させる方針だ。
力強い担い手の育成 夢を託せる仕事に
日本の農業を取り巻く環境は深刻化しており、高齢化や新規就業者の不足により、担い手の減少に歯止めをかけることが喫緊の課題だ。大分県農林水産部がまとめた「Theおおいた」によると、県内の新規就農者は、年間152人(7年間平均)増加しているものの、年間942人(20年間平均)が営農をやめている状態だという。つまり、約790人の就農者が減少している状況で、大分県の高齢化率は九州で上位を占める。
大分県の農業を取り巻く環境の改善は簡単ではない。くしふるの大地重政農場は、三重農業高校跡地にあり、同校は2008年に閉校し、豊後大野市唯一の高等学校である三重総合高校に統合された。しかし、三重総合高校は入試受験者数が減少傾向にあり、当初4学科6クラスで出発した学年規模が、3学科4クラスにまで縮小しているという。
玉田輝義大分県議は「地元の豊後大野市には大分県立農業大学校があり、県内外の優秀な学生が集まる。しかし、三重総合高校で農業を学ぶ生物環境科には農業をやりたくて受験する学生は多くないし、卒業後に就農するケースも少ない」と指摘する。地元の若者たちが農業を志すようになるためには、農業従事者の職業が魅力のあるものでなければならない。

大分県も、次代を担う力強い経営体づくりに力を入れており、農業企業者の育成や新しい人材の確保・育成に取り組んでいる。とりわけ、農林水産業の新たな担い手確保策としての企業参入の促進は成果を上げ始めている。会社訪問やセミナーの開催などの誘致活動を行い、2007年からの8年間で193社が参入した。農業産出額の増大や雇用創出などの効果に加え、合理的な農業経営、先進的技術の活用、独自の流通経路を活用した地域農産物の販路拡大の可能性など、地域農業全体への波及効果が期待されている。
その中でも、くしふるの大地の活動は注目を集めている。玉田県議は「若者たちが高いモチベーションを持って、胸を張って働ける農業を実現してほしい」と話す。1月下旬に広瀬勝貞知事が重政農場を視察に訪れた際も、地域住民と農業生産法人の交流が、農業を核とした活性化につながることに強い期待を寄せていたという。
力の源カンパニーの清宮社長は「ICTを活用したデータ活用サービスを導入したことで、若手従業員の意識が変わった」と目を細める。従業員たちが自ら問題を提起し、改善方法を検討するなど自主性が高まり、経営目線で農業を考えるようになったのだという。清宮社長は「本業のラーメン店で実践しているのれん分け制度を、将来、農業にも導入したい」と話し、農業を志す若者たちの夢を支援する構想の実現に意欲を燃やしている。
