

地方創生現場を徹底取材「IT風土記」
秋田発 ドローン、自動運転、IoT…「近未来技術」に懸ける仙北市の未来
秋田県東部にある仙北市が「国家戦略特区」に積極的に名乗りを上げ、地域の活性化に取り組んでいる。小型無人飛行機「ドローン」や無人運転バスなどの実証実験を積極的に展開。近未来技術を地域に根付かせ、新しい産業や若者を呼び込むことも目論んでいる。秋田県は4年連続で人口減少率ワースト1位を記録するなど人口減に悩まされており、いかに人口流出に歯止めをかけるのかは県全体の課題だ。近未来技術を活用し、解決の道を探る仙北市の取り組みを紹介する。
SUMMARY サマリー
実践的な活用法を模索
7月22、23日、仙北市の田沢湖スポーツセンターの体育館で、ユニークなドローンの操縦競技会「ドローンテクニカルチャレンジ in 仙北市」が開催された。体育館にさまざまな障害物を設置し、ドローンで障害物を避けながら遭難者を見つけ出す。山岳遭難救助をテーマにドローンの操縦技術を競うもので、全国から多くのドローンパイロットが競技に参加。学生部門も設けられ、青山学院大学など全国の大学の他、他県内高校なども併せて6校が競技に加わった。
仙北市がドローンの競技会を開催するのは昨年に続き2度目だ。昨年は海外からドローンパイロットを招き、モータースポーツ競技として人気が高まっている「ドローンレース」の国際競技会を国内で初めて開催したが、今回はより実践的な内容に衣替えした。
「すでにドローンは実用的な利用が進み、新たなステージに入っています。市内では山菜取りなどで山に入って遭難するケースは後を絶ちません。遭難者の人命救助にドローンはいかに貢献できるのか。そうした視点からの競技会を提案しました」と仙北市の門脇光浩市長は語る。

田沢湖町、角館町、西木村の旧3町村が2005年の「平成の大合併」で一つになり、誕生した仙北市は日本一深い湖として知られる田沢湖、湯治場として人気の高い乳頭温泉郷や玉川温泉、「みちのくの小京都」と呼ばれ、江戸時代の風情を残す街並みがある角館など豊かな観光資源に囲まれた市だ。2015年、市内の国有地を活用し、小型無人機ドローンの実証実験を行う「地方創生特区・近未来技術実証特区」の認定を受け、全国から大きな注目を集めた。

市内に広がる国有林野の広いエリアでドローンを飛ばし、実用化に向けた実験に取り組んでもらうというものだ。2016年4月には、国立研究開発法人情報通信研究機構などがドローンを使って学校図書を搬送する実証実験を実施。市内の小学校から中学校までの1.2キロの距離を飛ばし、3冊の本を運んだ。この際、ドローンを不正操縦者に乗っ取られないよう暗号技術を使った無線通信の実用性についての検証も行われた。また、日本初となるドローン競技国際大会を実現させるため、特区としての特定実験試験局制度を活用し、ドローン飛行のための免許申請から発給を短期に行えるようにした。
また、内閣府の国家戦略特区プロジェクトである「無人運転バス」の走行実証実験にも名乗りを上げ、昨年11月には田沢湖畔の県道38号で実際に無人運転バスを走行させた。実際の公道を無人運転バスが走るのは国内初の試みだ。実証実験では約400メートルを時速5~10キロのゆっくりとしたスピードで走行。一般公募で選ばれた市民も試乗し、最先端の技術を目の当たりにした市民からは「早く実用化してほしい」との声も聞かれた。


さらに市は、今年3月、経済産業省などが選定する「地方版IoT推進ラボ」の認定も受け、近未来技術を活用した新たなビジネスの掘り起こしや人材の発掘にも取り組んでいる。
地方こそ利活用の幅が広い近未来技術
緑に囲まれ、牧歌的な風景が広がる仙北市がなぜそんなに近未来技術にこだわるのか。門脇市長はこう語る。
「ドローンは都会よりも地方の方が利活用の幅が広い。無人走行運転もそう。人口が減れば、税収も減り、予算が縮小してしまう。でも、行政サービスは劣化させるわけにはいきません。人に頼れない部分は『技術』に頼らざるを得ないんです」
市の人口は現在約2万7000人。将来推計では2040年に1万6000人余りまで減少することが見込まれている。高齢化も進行し、2010年に人口の約33%だった65歳以上の老年人口の割合は40年には46%まで拡大する見込みだ。

「少子高齢化の中で、人口減は避けられないかもしれません。近未来技術を活用して市が抱える課題解決につながる可能性があります。そのためにも今のうちから、近未来技術を活用できる下地を作っておく狙いがあるんです」と仙北市総務部の小田野直光地方創生・総合戦略統括監は語る。
高齢化と人口減が進めば、社会的な共同生活の維持が難しい限界集落が増える。働き手が減り、市内の集落に物品の輸送手段を確保できなくなることも予想される。しかし、ドローンによる物品の輸送ができれば、限界集落などへの物品の輸送も容易になる。無人運転バスが実用化されれば、人件費をかけずに公共交通網を確保することも可能だ。低コストで住民や観光客の足を確保できる期待も高まる。人口減が進む地方にとって、ITやIoT、AIなどの近未来技術は欠かせないインフラなのだ。