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創設15周年を迎えた「NEC社会起業塾」
社会の課題解決に挑む起業家たちを支援する

社会課題を解決し、新たな価値の創造に取り組む挑戦者たち

 パネルトークに続いては、社会起業塾を卒塾し、現在はさまざまな分野の社会課題の解決に取り組む卒塾生たちの活動報告を兼ねたプレゼンテーションが行われた。ここでは、そこから3名のプレゼンテーションを紹介しよう。

革新的な健診サービスで人々の健康維持に貢献
──ケアプロ株式会社

ケアプロ株式会社
代表取締役
川添 高志 氏(2008年度塾生)

 「血糖値」「中性脂肪」「骨密度・血圧・身長・体重・BMI」など、健康の指標となるさまざまな数値を、短時間かつ安価に検査できる「ワンコイン(500円)健康診断(現:セルフ健康チェック)」。これを提供するのが、川添 高志氏率いるケアプロだ。

 「日本の年間医療費総額は40兆円を超え、うち10兆円は生活習慣病に起因しています。約3600万人もの人が定期健診を受けていないという現状を知った私は、誰でも簡単にできる検査をつくり、生活習慣病の予防に貢献したいと考えました」(川添氏)

 しかし、医療業界にはさまざまな法規制が存在しており、外部企業が参入することは簡単ではない。そこで、多くの企業が同様のサービスを提供できる社会をつくるため、川添氏は規制緩和を政府に繰り返し訴えたという。その活動が奏功し、2014年には厚生労働省が、健診サービス事業化のハードルを下げるガイドラインを整備。多くのパートナーと組んでのサービス提供が進み、事業は軌道に乗っていった。

 「今後は健康データの管理システムなどで、NECの技術を活用できれば心強いですね」(川添氏)。ゆくゆくは日本品質の医療技術を海外輸出し、国際的な貢献度も高めていきたい考えだ。

学校や家庭とは違う視点から、未来へはばたく若者を支援
──認定NPO法人カタリバ

認定NPO法人カタリバ
代表理事
今村 久美 氏(2004年度塾生)

 自分の将来をイメージできない若者が増えている──。そんな、明日の社会を担う「ヒト」の課題に挑むのがカタリバだ。大学生が高校生と語り合うキャリア学習プログラム「カタリ場」を通じて、教師・生徒の関係ではなく、先輩・後輩という"ナナメの関係"の交流を推進。本音で話せる環境を全国の高校生たちに提供している。

 「初めはけんもほろろの状態でしたが、地道に活動を続けるにつれて、私たちのような第三者組織によるサポートが生徒の主体性を引き出す上で効果的だということを、国も理解してくれるようになりました」と今村 久美氏は言う。

 現在は、被災地の放課後学校「コラボ・スクール」、高校生自身が身の回りで課題だと感じることに自分なりのアイデアで解決に挑む「マイプロジェクト」、生活困窮世帯の子どもに居場所と学びを提供する「アダチベース」などの活動も展開している。

 「最近は、マイプロジェクトの活動を単位に認定してくれる高校も出始めています。若者の育成という日本の大きな課題に対し、学校や家族とは違った角度から解決案を提示していきたい」(今村氏)

 学習指導要領の改訂をはじめ、教育現場は今、大きな転換期にある。カタリバに寄せられる期待は、今後ますます大きくなりそうだ。

生まれに関係なく、誰もが"ワクワク"できる社会を
──株式会社 ワクワーク・イングリッシュ

株式会社 ワクワーク・イングリッシュ
代表取締役社長
山田 貴子 氏(2009年度塾生)

 山田氏の起業は、あるショッキングな出来事がきっかけだった。

 「私は学生時代からフィリピンに何度も渡航し、貧困層の子どもを支援する活動を行っていました。ところがあるとき、子どもの母親に『貴子と一緒にいたせいで、うちの子が仕事に行けず、今日の食べものを買えなくなった』と言われたんです。貧困にあえぐ人々を本当に助けたければ、彼・彼女らが自立できる環境こそが必要なのだと痛感しました」(山田氏)

 そこで山田氏は、フィリピンの若者が音声・チャットを使って日本人に英語を教えるビジネスを立ち上げ。それが、若者に多様なスキルを習得させる「ワクワークセンター」のひな型となった。

 現在、ワクワークセンターでは、貧困層の若者が夢を抱き、能動的に生きていけるようにするための支援をしている。新たな施設もセブ島に建設中で、保育園やカフェ、ラーニング/コワーキングスペースなどを用意し、人の出会いや新事業創出の場にしていく予定だ。「施設内のIT関連のラーニングスペースは、NECグループ企業との協業で構築を進めています」と山田氏は付け加える。

 生まれた環境に関係なく、誰もが夢を見られる社会をつくりたい――。山田氏の挑戦は、これからも続く。

 プレゼンテーションでは、ほかにも複数の卒塾生が、創意に富むそれぞれの事業を紹介した。

 例えば、一般社団法人i-oh-j(いおうじ)の良雪 雅(りょうせつ まさし)氏(2014年度塾生)は、医師である自身の経験を活かし、軽症患者の初期治療に特化した救急クリニックを立ち上げ。台数に限りのある地域の救急車を軽症者が占有してしまう事態を未然に防ぎ、本当に救急車が必要な患者への対応強化を支援している。

 またNPO法人 ADDSの竹内 弓乃氏(2009年度塾生)は、日本で遅れがちといわれる「自閉症児の早期支援」を事業化。独自の療育プログラムによって、IQ上昇、言語の理解・表出などの成果を上げているほか、育児に悩む保護者のサポートや研修なども行っているという。

 さらに、映像を使って、発展途上国の子どもたちに質の高い教育を届ける卒塾生もいる。それが、NPO法人e-Educationの三輪 開人氏(2014年度塾生)だ。三輪氏は、現地の有名予備校講師の授業を撮影し、映像授業として子どもたちに提供する事業を展開。これまでバングラディシュなど延べ14カ国で、難関大学への進学のサポートやドロップアウトしてしまった高校生の再チャレンジの支援などを行っている。

卒塾生のプレゼンテーションに耳を傾ける聴講者

パートナーや支援者と"連携"ではなく、"融合"する

 シニアメンターを務めてきたNPO法人ケア・センターやわらぎの石川 治江氏は、次のようにイベントを総括した。

 「社会起業家の取り組みは、今日紹介されたような成功事例ばかりではありません。事実、今この瞬間もさまざまな現役塾生が試行錯誤を続けています。私は、事業の成否を分けるのは、さまざまなパートナー企業や支援者・協力者と、いかに“融合”できるかだと考えています。これは、いわゆる企業間コラボレーションといった"連携"を超え、課題解決に向けた熱意や事業コンセプトの根幹までを深く共有しながら、取り組みを進めることです。塾生の皆さんは、ここに並ぶ卒塾生に続くよう、『べき論』で終わらず積極的に『行動』してほしいと思います」

NPO法人ケア・センターやわらぎ
代表理事
石川 治江 氏

 またETIC.の宮城氏も「いくつか例が出たNECと卒塾生のパートナーシップは、まさに“融合”のモデルケース」と評し、これからもNEC社会起業塾が橋渡し役となって、企業同士の"融合"を支援していくことを強調した。

 15周年を機に、さらなる強化を目指すNEC社会起業塾。NECも、塾の継続的な運営に尽力するとともに、自らのビジネスを通じて社会価値創造の取り組みを加速していく。