これまで解決できなかった遠隔施工時の課題を、5Gによって乗り越える
~KDDI、大林組、NECの3社共同による5Gを活用した建設機械の遠隔施工システムの実証実験を実施~
202X年、ゲリラ豪雨によって発生した大規模土砂災害。その現場では大型のショベルカーが、力強いエンジン音を響かせながら、崩れた土砂の撤去を効率よく行っている。しかし、そのショベルカーのオペレータ座席に、作業員の姿はない。ショベルカーを操作している作業員がいるのは、現場からはるか遠く離れた都心ビル内の遠隔制御室だった。
こんな次世代の遠隔施工システムの実現に向けた実証実験が、KDDI、大林組、NECの3社共同で、進められている。
遠隔施工システムにおける課題は、通信の遅延解消。
地震や台風、大雨などによって災害が発生した直後の現場は、人が入りにくいだけでなく、2次災害の恐れもある危険と隣り合わせの場所だ。こうした現場では、まず作業員の安全・安心を確保しながら迅速な作業が求められる。そこで、力を発揮するのが建設機械の遠隔操作による作業だ。
ショベルカーやブルドーザーなどの建設機械を用いた遠隔施工は、現在でもさまざまな災害現場などで活用されている。遠隔制御室にいる作業員は建設機械に設置された複数のカメラから送られてくる現場状況や操作状況の映像をモニター画面で確認しながら、建設機械を遠隔操作して作業を行う。
現在行われている遠隔施工システムでは、建設機械から遠隔制御室に映像配信する無線ネットワークとして、主にWi-Fiが利用されている。しかし、Wi-Fiによる遠隔操作には、課題がある。Wi-Fiは低出力であるため距離が長くなるほど、送信容量が減ってしまい、映像送信が遅延したり、映像の解像度が落ちてしまう。そのため、現在のWi-Fi環境では、建設機械と遠隔制御室の間隔は2km程の距離が限界だ。また、他のWi-Fiネットワークとの間で、干渉が起こりやすく、送られてくる映像が乱れたり、途切れたりして作業効率が低下するという問題も生じやすい。
作業現場の高精細映像を、リアルタイムで超高速伝送
こうした課題解決の鍵を握るのが、次世代移動通信システム「5G」だ。現在主流である4Gと比較して10倍以上のデータ伝送速度である、10~20Gbpsという「超高速通信」のほかに、5Gには「低遅延」「多数接続」などのすぐれた特長がある。
この5Gを活用した、建設機械による遠隔施工に向けた実証試験が現在、KDDI、大林組、NECの3社共同で進められている。実証試験は、現行の建設機械遠隔操作システムに、5Gの無線ネットワーク機器を組み合わせて行う。具体的には、建設機械に4Kの高精細カメラを装着。撮影した映像を、高周波数帯での長距離かつ大容量通信を可能にするアンテナシステムを活用して、遠隔操作側に伝送する。離れた制御室にいるオペレータは、モニターで送信される高精細映像をリアルタイムで確認しながら、作業を行うというものだ。
実証試験プロジェクトで大林組は、同社が開発した無人化遠隔施工システムと実際の建設土木現場で活用し得られた知見・ノウハウを提供。NECは5G対応の無線ネットワーク機器と4K映像をリアルタイムに圧縮するコーデックを提供している。そして、総務省が主導する技術試験事務としてさまざまな5Gの実証試験に取り組むKDDIは、今回の遠隔施工の実証試験取りまとめと、電波特性や効果の測定・評価などを担う。
3社それぞれの技術とノウハウを融合した取り組みの検証のため、2018年2月に5G対応の無線ネットワーク機器を使って、実際に建設機械を遠隔操作する実証試験が、大林組の敷地内で取り行われた。
今後は、実証試験を施工現場に移して行うなど試験を繰り返し、遅延解消や画像精度、オペレータの作業効率といった、さまざまな角度から検証を重ねていく。課題の発見やシステムの改善など、実用化に向けた実証試験は、2020年3月まで続けられる。
5Gを活用した建設機械の遠隔施工システムが実用化されると、現場はどう変わるのか。まず、作業員の安全性が向上し、作業環境の改善を図ることができる。また、高精細な4K映像が遅延することなく作業員に伝達されるため、アームやバケット(先端部分)の位置や向きの微妙な操作も、まるで現場にいるような感覚で、正確にストレスなく行うことができるようになる。
「これまでは無線通信の制約によって、施工現場近くの約2km圏内に遠隔制御室を設置して作業を行ってきました。5Gを活用したシステムが実用化されれば、遠隔施工の基地局(制御室)を常設することも可能になり、稼働までの準備期間短縮による効率化や低コスト化が図れます。
また、5Gは多数同時接続が可能なため、一つの現場で複数の建設機械をコントロールするといったメリットも生まれます。無人化による遠隔施工は、災害現場だけでなく危険を伴う構造物の解体工事などへの応用も期待できます。」
5Gを活用した新たな遠隔施工システムは、作業効率を高めてスピーディな復旧を可能にするとともに、作業品質の向上にもつながる。そして何よりも、災害被害を受けた地域の人々に少しでも早く安堵と笑顔を届けることができるようになる。さらに、作業員が現場までいちいち時間をかけて移動して作業を行うといったタイムロスもなくなり、作業員の不足をICT技術でカバーするという成果も期待できる。
「通信ネットワークによる画像・映像の利用は根幹の技術で、まだまだ進化が見込まれます。5Gによりこれらが活用できるようになると、建設プロジェクトが変わる可能性を秘めています。今後、新しいビジネスモデルの創出などにおいて、NECのAIやネットワーク技術などに大きな期待を寄せています。」と大林組の古屋氏は語る。
5Gは建設分野以外でも、多彩な領域で活用が期待される
5Gの登場によって、これまで制限されていたネットワーク活用の可能性が拡大。いままで実現できなかったさまざまな価値を生み出すことができる。これは、建設や土木分野に限ったことではない。
例えば、都市部の医療機関にいる医師が離島の患者さんの手術を行う遠隔医療、車の自動走行システム、さらに映像によるインフラ監視や異常行動検知によるパブリックセーフティ、工場の製造機器の運用監視など、その活用はさまざま領域へと広がるだろう。
5Gは、IoT時代を支える通信基盤に
現在の4Gと比べて伝送速度が10倍以上速いといわれる5Gは、2時間のFullHD映像もわずか数秒でダウンロード完了。8K映像の伝送においても活用が期待されている。
5Gは、ヒトが介在する作業の改善の分野以外でも大きく注目されている。それが、今後大きな進展が予想されるIoT領域における活用だ。身のまわりのさまざまなモノがインターネットでつながるIoT活用では、接続するデバイスの数が劇的に拡大する。そこで大きな力を発揮するのが、5Gの「多数同時接続」の特性だ。
「多数同時接続が可能になることで、私たちの生活にはさまざまなメリットが生まれます。KDDIでは5Gの活用を通じて、安全・安心、便利な社会づくりへの貢献をはじめ、エンターテイメントにおけるさらなるわくわく感の実現、コミュニケーションのリッチ化という3つの価値を実現したいと考えています。こうした新たな価値を創出するうえで、両輪となるのが5GとIoTです。さまざまなデバイスや機器をインターネットでつなぐIoT時代では、5Gの多数同時接続が大きな役割を担います。今後は、NECのようなICTに強いパートナー企業との協業が今後ますます重要になってくると思います。」とKDDIの松永氏は語る。
「NECは、ICTとネットワークの双方の領域で、先進技術を持っています。また、世界初や独自技術など、AI分野においても多彩な実績を誇っています。こうした総合力をベースに、さまざまなパートナーと手を結び、いっしょにアイデアを出し合いながら、5Gの活用推進やIoTの普及などを通じて、新たな価値創造や社会課題の解決に貢献したいと考えています。」とNECの大橋は、5Gの特性を活かした新たなソリューションの提供について、その想いを語る。
202X年、5GやIoTは社会をどのように変革し、私たちにどんな新しい未来を見せてくれるのだろう。