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地方創生現場を徹底取材「IT風土記」

岐阜発 目指すは「お金の地産地消」 飛騨信組が取り組む地域通貨「さるぼぼコイン」

2018年05月30日

 岐阜県高山市の飛騨信用組合(以下飛騨信組)が、昨年12月からスマートフォンアプリを活用した電子地域通貨「さるぼぼコイン」の運用をスタートさせた。店頭に掲示した二次元コードにスマホをかざすだけで簡単に決済ができるシステムだ。利用できるのは、高山市・飛騨市・白川村という外国人観光客にも人気のエリアで、地元のお金を地元で消費する「お金の地産地消」による地元経済の活性化を目指している。

二次元コードで簡単決済

 目や鼻、口がない、のっぺらぼうの丸い顔に黒い腹掛け、とがった手足を大きく広げた姿がなんとなくキモかわいい―。高山市の古い町並みを歩いていると、そんな不思議な人形をよくみかける。飛騨高山エリアで古くから作られてきた郷土人形「さるぼぼ」だ。「ぼぼ」は飛騨の言葉で「赤ちゃん」のことで、「さるぼぼ」は「サルの赤ちゃん」という意味。この地域では、「猿(さる・えん)」に懸けて、「災いが去る」「縁を結ぶ」「子宝を授かる」といった祈願をこめた「お守り」として大切に伝承されてきた。

高山市内にある「さるぼぼ」専門店には、色とりどりの「さるぼぼ」の人形がそろう

 土産物品として人気で、30センチほどの大きなぬいぐるみから、手のひらに収まる大きさのストラップやキーホルダーまでバリエーションも豊富だ。赤や青、緑や紫と色とりどり。色によってさまざまなご利益が”設定”されているそうで、観光客たちはそれぞれの願いを込めた縁起物として「さるぼぼ」を買い求めている。

 そんな郷土に愛された人形をキャラクターにした「さるぼぼコイン」。飛騨信組が金融機関として初めて運用する二次元コード決済の電子地域通貨だ。

さるぼぼコインをスタートさせた飛騨信用組合本店

 「地元の100事業者が参加してスタートしましたが、今年4月時点で約670の事業者から加盟の申し込みがあり、作業が追い付かない状態です。現在は約450事業者で利用できるようになっています」と、飛騨信用組合ブランド戦略部の水口 昌己部長は頬を緩めている。

飛騨信用組合ブランド戦略部の水口 昌己部長

 「さるぼぼコイン」は東京のITベンチャー、アイリッジが開発した「MoneyEasy(マネーイージー)」という電子地域通貨プラットホームを採用。専用二次元コードを店内に掲示し、アプリを立ち上げたスマートフォンで二次元コードを読み込み、金額をスマホに打ち込むだけで決済が完了する。クレジットカードや電子マネー対応の専用読み取り端末を必要とせず、導入コストをかけずにキャッシュレス決済が実現できるシステムだ。

「さるぼぼコイン」は、加盟店に掲げられたポスターの二次元コードをスマートフォンに読み込ませ決済する

 利用する際は、スマホに「さるぼぼコイン」のアプリをダウンロード。飛騨信組の本支店で、1円=1コインとしてチャージができる。加盟店は支払いに使われたコインを預金口座に換金して入金できるほか、他の加盟店への送金にも利用することができる。アプリには、加盟店の店舗情報やGPS機能を活用した地図案内も掲載。お得なキャンペーンなど利用者向けの誘客にも活用することができる。

 さるぼぼコインは電子「地域」通貨なので飛騨信組の営業エリアである高山市、飛騨市、白川村の加盟店に限られ、利用者も現在のところ、このエリアの住民が中心だ。「地元においしい寿司店があるのに、地元の人はわざわざ富山や石川まで食べに出かけてしまう。高速道路をはじめとする交通網が発達して、エリア外で消費をするようになり、地元にはシャッター商店街が増えてしまいました。このままでは先細るばかり。地元にお金を回す仕組みを模索する中で、電子地域通貨にチャレンジすることにしました」と、水口部長は、「さるぼぼコイン」を導入した背景を話してくれた。

地元のお金を地元で消費

 飛騨信組の営業エリアは高山市だけで年間460万人もの観光客が訪れる人気観光エリアだが、他の自治体同様、先行きは厳しさが増している。2005年の市町村合併で東京に匹敵するほどの日本一面積の広い市になった高山市だが、人口は9万人を割り込み、合併当初目標としていた10万都市がどんどん遠のいている。かつて神岡鉱山で栄えた飛騨市も人口減に歯止めがかからず、1970年代には4万人あった人口が2万4000人余りに縮小。地域経済の地盤沈下が危惧されている。

外国人観光客に人気が高い高山市の古い町並み

 地域経済の低迷は地域の金融機関である飛騨信組にとっては、死活問題になりかねない重要な課題だ。そこで、地元にお金が落ちる仕組みを作ろうと、2012年に取引先の組合員やその家族を対象にした会員組織「さるぼぼ倶楽部」を設立。取引先の地元事業者と連携して、会員向けにさまざまな割引・優待サービスを展開したところ、3万人以上の会員が集まり、400を超す店舗が参加するまでに拡大した。「サービスを利用する会員が多く、参加企業の売り上げ増につながりました」と水口部長。この取り組みの結果、信組の預金や貸金の増加にもつながったという。そんな取り組みの中で、新たな施策として着目したのが、二次元コードを活用した電子地域通貨の導入だった。

 「飛騨高山エリアでは、クレジットカードや電子マネーといったキャッシュレス端末の導入が進んでいませんでした。零細な店舗も多く、導入したくても端末の導入コストやクレジット会社に支払う手数料を考えると、しり込みしてしまう。一方で、この地域には、キャッシュレスに慣れた観光客がたくさん訪れているのですが、カードが使えないことが不評だったんです」(水口部長)

 このシステムは、飛騨信組が加盟店ごとに発行したさるぼぼコイン用二次元コードを配布。加盟店はその二次元コードを、店内の壁やテーブルにステッカーや卓上ポップなどにして掲示しておくだけでいいので、導入コストがほとんどかからずに済む。飛騨信組では、顧客からの支払いの際にかかる決済手数料も無料に設定し、地元の店舗が導入しやすい環境を整え、本格運用をスタートさせた。

 高山市内のうどん専門店「吉田製麺所?」の吉田 穂高さんは「飛騨信組の水口さんから話を聞いて真っ先に導入しました。国道沿いには高山市外の資本の店が進出しており、小さな店が淘汰されかねません。そういったことを防ぐ上でも、地元だけで使える通貨があっていいと思いました」と話す。香川で食べた讃岐うどんに感銘を受け、趣味でうどん打ちを始めた吉田さんは、本業の傍ら5年前に本格的なうどん専門店を出したという。店名の「?」は、「未完成」という思いを込めたそうだが、その味は本場に匹敵するほどで、地元の人気を呼んでいる。吉田さんによると、コインの利用はまだ1日1~2人程度だが、今後の利用の拡大に大きな期待を寄せている。

高山市のうどん専門店「吉田製麺所?」の店主、吉田 穂高さん
飛騨市の都竹 淳也市長

 一方、飛騨市も「さるぼぼコイン」の取り組みを注視する。都竹 淳也(つづく・じゅんや)飛騨市長は「導入当初から面白い取り組みだと直感的に感じていました。職員に指示して、試しにさるぼぼコインを使ってみてもらったりしています。例えば、さるぼぼコインのアプリを活用して、市の情報を発信できるような市としてのメリットがほしい。市と飛騨信組、市民でwin-winの関係ができるような取り組みを進めたい」と、住民票の交付手数料の支払いへの活用といったことも期待しているという。

 4月現在のさるぼぼコインの利用者数は約3500人、販売額は約3億円に上る。加盟店の期待は大きい半面、飛騨信組が設定した利用者数1万人、コイン販売額20億円という目標にはまだ届いていない。普及に向けて飛騨信組ではチャージ額に1%のプレミアムを付与。3月にはチャージ額の上限を10万円から200万円にアップし、BtoB(企業間取引)にも利用しやすいようにするなど利便性の向上に努めている。

 地元の利用者に加え、飛騨信組が期待を寄せているのは、外国人観光客向けの利用だ。昨年、高山市には過去最高の460万人の観光客が訪れ、51万人の外国人観光客が宿泊した。キャッシュレス文化が日本以上に浸透している外国人観光客との親和性は高いとみられており、外国語版のアプリの作成を進めている。水口部長は「加盟店と連携して、割引や優待といったお得な情報を増やしたり、ゆくゆくはクレジットカードでコインのチャージができるようにしたりするなど、段階を踏みながらサービスを充実させ、利便性の高い電子地域通貨に育て上げていきたい」と意気込んでいる。

全国に広がるチャレンジ

 一方、飛騨信組のチャレンジは全国にも広がり始めている。

 アイリッジの小田 健太郎社長によると、愛媛県松山市では、伊予銀行が2月から電子地域通貨「IYOGIN Co-in(いよぎんコイン)」の実証実験をスタートさせたほか、長崎県佐世保市のリゾート施設、ハウステンボスでも施設内での電子通貨の活用を模索中。千葉県木更津市では、君津信組が市や木更津商工会議所と連携し、3月下旬から「アクアコイン」の運用に向けた実証実験を始めている。「地域振興は日本中のすべての地域の課題ですが、一つのウルトラCで解決できるものではなく、いろいろな取り組みをしなくてはなりません。電子地域通貨は、その一つに十分なりうるツールです」と小田社長は強調する。

 「さるぼぼコイン」で運営主体の飛騨信組が収益を上げる仕組みは、加盟店などがコインを現金に換金したり送金したりする際の手数料のみだ。利用者がコインを購入する際のプレミアムの付与などで、いまのところはまだ「持ち出し」の方が多いという。

電子地域通貨の可能性について語る
アイリッジの小田 健太郎社長

 電子地域通貨普及の成否は、加盟店などと連携してさまざまなサービスを提案し、現金よりも電子地域通貨の方にメリットがあることを消費者に気づかせること。そして、加盟店に来店客を誘引し、売り上げ増につなげること。さらに、そうすることによって、電子地域通貨の発行体も収益を上げ、利用者、加盟店、発行体の三者がそれぞれメリットを享受できる「三方よし」の好循環を生み出すことができるかにかかっている。

 経済の活性化は地域の人々の大きな願いだ。古くから飛騨高山の人々の願いを受け止めてきた「さるぼぼ」のように、「さるぼぼコイン」が地元に福を招くことができるか。電子地域通貨に取り組む多くの自治体も、飛騨信組の今後の取り組みに視線を向けている。

(産経デジタル SankeiBiz編集部)

IT風土記 おすすめITソリューション|岐阜篇

 取材先のひとつ、飛騨古川は、2016年に公開されて大ヒットしたアニメ映画『君の名は。』の舞台となったところ。作品のファンが街を訪れる、いわゆる”聖地巡礼“は今も続いています。国内だけではなく、そのために来日する外国人観光客も多いのだとか。今回は、そうした観光地でのコミュニケーションを円滑にするサービスをご紹介しましょう。

 ひとつめは、NEC「多言語音声翻訳サービス」です。アプリをインストールしたスマートフォンなどの端末に話しかけると、翻訳結果を音声で読み上げ、画面にテキスト表示します。その翻訳結果をもう一度「逆翻訳」したテキストも同時表示されるので、翻訳がうまくいったかどうかを逐次確認できて安心です。日本語→英中韓/英中韓→日本語を簡単操作で切替えられるので、様々な業種業態で、外国人のお客さまとのやりとりに大活躍します。さらに、それらのやりとりを「生の声」として集積する機能を備えていますから、テキスト解析によって、外国人の困りごとの「見える化」を実現することも。新たな手間をかけることなく、貴重なデータを集められます。

●多言語音声翻訳サービス記事
https://wisdom.nec.com/ja/collaboration/2018042601/index.html
以前の記事で、広島銀行様が訪日外国人向けに展開されている「観光案内所」で活用されている様子を取材しています。そちらもあわせてご覧ください。

 ふたつめは、NECソリューションイノベータのWeb会議サービス「spontania(スポンタニア※)」。音声および映像、そしてデータによるリアルタイムなコミュニケーションサービスを簡単にスマートに提供します。同時に最大10箇所のビデオ表示が可能(11箇所目以上も音声参加可能)なので、例えば、域内にある多地点の観光スポットを結んだ会議を手軽に開催できます。現場の最新情報を迅速に共有し、戦略を常にアップデートしていくことは、観光地の魅力をさらに高めていく有効な手立てになるでしょう。あるいは、旅行先の風景や体験を、家族や友達にシェアしたり……というような活用方法も考えられそうですね。※spontania(スポンタニア)は、ClearOne.Incの登録商標です。

 日本の各地には、まだたくさんの観光資源が眠っているはず。地方をもっともっと盛り上げていくお役に立てれば、と思っています。取材の帰り、飛騨のおみやげに、小さなさるぼぼを買いました。これって男の子なのかな、それとも女の子? ちょっと気になってます。

映画『きみの名は。』の聖地となったJR飛騨古川駅。映画のワンシーンを撮影しようと、今も多くのファンが訪れているという

(By NEC IT風土記編纂室 R)

産経デジタル SankeiBiz編集部
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