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2018年09月27日

地方創生現場を徹底取材「IT風土記」

新潟発 舗装道路の損傷をAIで判定 点検コストを大幅削減

 全国津々浦々に張り巡らされた道路網。高速道路や国道、都道府県道、市町村道を合わせるとその延長は実に約120万キロにも上る。地球30周分に当たる距離だ。その8割以上を市町村が管理しているが、人員や予算不足で十分なメンテナンスが進んでいないのが実情だ。そんな中、新潟市に本社がある道路舗装工事大手、福田道路がAI(人工知能)によって低費用で効率的に舗装道路の点検ができるシステムの運用を始めた。システムの運用が広がれば、自治体がなかなか着手できなかった舗装道路の修繕・改修が効率的に進むことが期待される。

AI(ディープラーニング)で学習

 新潟県は日本一の米どころだ。水稲の作付面積は約12万ヘクタールに上り、年間約65万トンの収穫量がある。新潟県南東部の魚沼地域で生産される魚沼産コシヒカリは日本で最も知名度が高く、人気のブランド米だ。政令指定都市となった新潟市もちょっと中心地を外れれば田園風景がどこまでも続く。実りの秋を迎え、頭を垂れた稲穂が地平線の先まで広がっている。都会のイメージが強い政令市ながら、全国の市町村の中で農業産出額が1位というのも、この風景を眺めていると「なるほど」とうなずける。

 そんな田んぼに囲まれた新潟市西蒲(にしかん)区の工業団地の一角に、福田道路の技術研究所がある。市の中心部にある本社からは車でわずか20分ほどの距離だ。福田道路は1976年に技術研究所を設け、排水性の高い舗装や凍結抑制舗装をはじめとする新たな技術の開発を手掛けてきた。ITの導入にも積極的に力を入れ、先進的なAI技術を持つNECと共同で開発したのが舗装損傷診断システム「マルチファインアイ」だ。

 「走行する車から撮影した路面の映像をAIで解析して、ひび割れやわだち掘れなどの道路の損傷をチェックします。このシステムでは、低費用で短期間に点検できるのが特長です」と福田道路技術研究所の田口 仁所長は説明する。

マルチファインアイ(舗装損傷診断システム)について説明する田口 仁技術研究所長

 市販のカメラをフロントガラスに取り付け、時速70キロ以下のスピードで走行し、路面を撮影する。撮影した動画はNECの最先端AI技術群「NEC the WISE」の1つである、ディープラーニング(深層学習)技術を搭載した「NEC Advanced Analytics - RAPID機械学習」で解析し、ひび割れの比率、わだち掘れの深さを評価する。カメラに搭載されたGPS(衛星利用測位システム)と画像データを同期することで、解析したデータは地図上に反映できる。パソコン画面上では、動画や地図、グラフとして判定結果が反映されるため、どの道路から修復したらいいかが一目で分かる。道路を管理する自治体などが修繕計画を立てる際の策定ツールとして利用しやすくなっている。

フロントガラスに取り付けたGPS搭載カメラで路面を撮影し、ひび割れやわだち掘れを検知する
AIで解析したデータは地図や動画、グラフでパソコン上に表示される

 損傷の評価は三段階に区分され、ひび割れ率が0~20%なら「Ⅰ」、20~40%なら「Ⅱ」、40%以上なら「Ⅲ」といった具合だ。国土交通省が2016年に策定した舗装道路の修繕指針「舗装点検要領」の診断区分に準拠している。

 ひび割れやわだち掘れのAIへの学習には「ディープラーニング(深層学習)」という技術が活用されている。人間の脳神経細胞(ニューロン)の仕組みを模したニューラルネットワークというシステムを多層的に用いることによって、コンピューターがより高度な学習をできるようにした技術だ。

 初期のAIへの学習では、画像を認識するための特徴をあらかじめ抽出する必要があったが、ディープラーニングは、事前にお手本となる画像などのデータを学習させるだけで、自ら判断モデルを生成するので、短期間に高精度で判断ができる。

 このシステムを構築するのに福田道路が集めたひび割れやわだち掘れの画像は約6万枚。試作のシステムで道路を点検し、判定ランクのズレや判定する必要があるのに判定できない損傷があれば、NECの技術陣とやりとりしながらAIに学習させた。

左:AIが解析した画像では、ひび割れ部分が黄色い枠で囲まれている(福田道路提供)
右:舗装損傷診断システムの画面イメージ(福田道路提供)

 「実際に使用されている道路から、学習させるひび割れやわだち掘れ箇所を探すわけですが、損傷の大きい箇所は、多くの路線で点在しています。AIにさまざまな事例を学習させる必要があるため、お手本となるひび割れやわだち掘れを探して撮影したこともありました。そのような手法で精度を高め実用化にこぎつけました」と田口所長は語る。

待ったなしの老朽化対策

 福田道路がこのシステムを開発した背景には、国が道路の老朽化対策に本格的に乗り出したことがある。

 2012年に起きた中央自動車道笹子トンネルの天井板落下事故をきっかけに、道路を管理する自治体などにトンネルや橋梁の点検を5年ごとに実施するよう義務付けた。さらに舗装道路にも対策を広げ、舗装点検要領を策定。自治体などに舗装道路の適切な管理を促すようになった。

 「舗装点検要領」では、損傷の進行が早い道路と損傷の進行が緩やかな道路に分け、適切に点検するよう求めている。損傷の進行が早い道路に関しては5年に1度をめどに目視や機器などを使った点検を行うよう求めている。

 アスファルト舗装の場合、通常10年の寿命を基本に設計されているが、大型車の通行が多いほど舗装の損傷の進行が早い。20トンの大型車が舗装に与えるダメージは乗用車の16万倍にも上るためだ。また、風雨や積雪、気温の変化なども損傷の原因となる。一方で、アスファルト舗装でも20年、30年と長持ちする道路もある。点検を促すことで、修復に必要な道路に優先順位をつけ、道路管理者がより有効な対策を打てるようにしている。

 損傷を放置すると、ひび割れなどから道路の下地となる路盤にまで雨水が浸透し、舗装構造全体の損傷につながってしまう。路盤を含めた修繕は、表面のアスファルト舗装の部分だけを修繕する場合に比べ、費用が3倍かかるだけでなく、工事期間は4倍も要することになるという。国が舗装道路の点検を自治体などに促すのは、舗装道路に予防的な修繕を行うことで道路の寿命を延ばし、全体的な道路管理のコストを削減させることを狙いにしている。

 「舗装点検要領」策定当時の国土交通省の資料をみると、舗装道路の点検を実施している自治体の割合は都道府県で8割に上る一方、日本の道路全体の8割以上を管理する市町村の割合はわずか約2割に過ぎなかった。その理由について、福田道路の対馬 英夫事業本部技術部長は「市町村の多くは財政状況が厳しく、道路修繕の費用を捻出できなくなっています。また、高齢化を背景に熟練した技術者もリタイアするなどして、点検などの人員を投入できなくなっているのです」と指摘する。

対馬 英夫技術部長は、自治体の予算や人員の不足で舗装道路の修復が後回しにされている現状を語った

 1990年代に比べ道路が延伸する一方で、舗装の維持修繕費はバブル崩壊を境に急減し、道路全体でピーク時には全体で5000億円を超えていた修繕費は、3000億円程度にとどまっている。比較的予算が潤沢な自治体は、専門業者などに点検調査を委託できるが、予算が少ない多くの自治体は道路管理の担当者が点検作業を担っている。しかし、自治体の技術者は削減され、他の業務に忙殺される中、点検・補修は後回しにされてきたのだ。

道路点検加速のきっかけに

 舗装道路の点検では主に2つの手法がある。一つは目視による点検、もう一つはレーザー機器などを搭載した「路面性状測定車」による点検だ。目視での点検は、熟練の技術者が道路を見て回り、国が策定した「舗装点検要領」に対応して修復が必要かどうかを判定する。一方、路面性状測定車はレーザー機器などによって非常に正確な損傷程度を測定する。

 福田道路によると、目視による点検は1キロ当たり5万円、測定車による点検では同3万円程度の費用がかかるという。100キロの道路を点検すれば数百万円規模の費用がかかる計算で、予算の少ない自治体は、この費用を捻出するのが難しいのが実情だ。

 福田道路とNECが共同開発したこの技術は、「路面性状測定車」の精度を約9割とすると、約7割の精度に達しており、目視点検と同じ基準での評価を早期に行うことができ、人の知見による判断のムラもない。しかも、費用は1キロ当たり9千円と測定車で実施した点検の3分の1程度で、大幅に点検コストを削減できる。17年末からこのサービスをスタートして、県内2カ所の道路点検を受注。その2カ所目の道路の解析作業が行われているところだが、「発注者からは『通行止めの規制をする必要がないところはいい』といった評価を受けている」(対馬技術部長)という。

 低コストで道路の点検をできるこのシステムは、地元・新潟だけでなく、全国の自治体が抱える課題解決にもつながる。すでに問い合わせは全国から100件を超えているという。福田道路の海野 正美取締役常務執行役員は「予算の少ない自治体にとって道路の点検・修復は重くのしかかっていますが、費用面で非常に安く設定することができました。今のところ、実績としては多くありませんが、利用が広がり、自治体が道路の修繕に本格的に取り組むきっかけになってほしいですね」と期待を寄せている。

「舗装損傷診断システムの利用をきっかけに自治体が舗装道路の修繕に本格的にとりくむきっかけになってほしい」と語る海野 正美取締役

 「最後の警告―今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切れ」。2014年に国交省の社会資本整備審議会道路分科会はこんな厳しい表現で、道路の老朽化対策が急務であることを提言した。高度成長期に急拡大した道路インフラへの対策は待ったなしの状況に来ている。しかし、120万キロにも及ぶ道路の修繕には膨大な費用がかかるのは確実だ。将来重くのしかかる修繕負担をいかにして軽くするか。今回の舗装損傷診断システムのような土木分野でのAI技術活用が、その答えを導き出してくれるかもしれない。

(産経デジタル SankeiBiz編集部)

IT風土記|おススメITソリューション 新潟篇

道路や水道など、社会インフラの老朽化が社会問題になっています。
それらの多くは、日本が高度成長期にあった時代に建造されたものです。

インフラ保全にあたっては、多くの人手が必要とされてきました。少子高齢化で人口減少が進む中、これまでと同じようなやり方での維持管理を続けることには限界があると指摘されています。また、現場で活躍してきた匠たちの技術を、若い世代に継承していくことも喫緊の課題となっています。

本編で取材した事例のように、AIの利活用は、人手不足や技術継承の問題を解決する有効な手段のひとつとして注目されています。今回のNECのおススメITは、インフラ保全をさらに効率的に進めるためのソリューションをご紹介します。

漏水監視サービス

水道管の消火栓や止水栓にセンサを設置し、漏水をICTで効率的にモニタリングします。センサは、漏水検知の専業メーカとして世界トップクラスの技術と実績を有するスイスのGutermann社製のセンサを採用。NECとGutermann社は、漏水検知分野を中心としたスマートウォーターマネジメントにおいて、ソリューション・製品の開発、販売など広範な分野でグローバルに協業しています。

衛星搭載合成開口レーダによるインフラモニタリング

空港や橋、プラントなど大きな建造物の状態を把握するのは、人手による点検では難しいもの。NECは、人工衛星に搭載したレーダー(SAR)により、宇宙から地表の人工構造物の経年変位をミリ単位/年で計測するソリューションをご提供しています。点検順位づけなど、インフラ管理やゼネコン業者様による施工管理の高度化/高効率化に貢献します。

社会インフラは、世代をこえて使われる、かけがえのない宝です。高度成長期の先輩たちが築いてくださった素晴らしい資産を大事に保全して、次の世代に確実に受け渡していきたいものです。

信濃川から望む複合一体型コンベンション施設朱鷺メッセ。日本海側随一の高さを誇るという

(By NEC IT風土記編纂室 R)

産経デジタル SankeiBiz編集部
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