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2019年03月26日

顔認証を使って地域全体でおもてなし
南紀白浜で始まった最新の地域活性化

 リゾート地として世界的にも注目度が高まる和歌山県の紀南地域。同地域への空の玄関である南紀白浜空港では、地域と一体となって、地域活性化の取り組みを推進している。その一環としてNECと共に開始した実証実験が「IoTおもてなしサービス実証」である。本プロジェクトのキーパーソンに、背景や具体的な取り組みの内容を聞くとともに、おもてなしサービスを実際に体験してみた。

株式会社 南紀白浜エアポート
代表取締役社長
岡田 信一郎氏
株式会社 白浜館
代表取締役社長
中田 力文氏

リゾート地としてのポテンシャルをテクノロジーで引き出す

──南紀白浜空港が中心となって展開している地域活性化事業についてお聞かせください。

岡田氏:
 南紀白浜空港は2018年5月に「南紀白浜空港マスタープラン」を発表しました。20年後の2038年に、現在の約3倍に当たる年間30万人の旅客数を達成すること。それを1つの目標として、外部経済との接点である空港を軸に地域のホテルや商業・観光施設、そして、自治体や観光協会などとも連携しながら、紀南地域全体の経済の活性化を図りたいと考えています。

 もともとこの地域は、有馬温泉、道後温泉と並んで日本三古湯である白浜温泉や世界遺産・ミシュラン三ツ星でもある熊野古道など、観光資源が非常に豊富。観光地、リゾート地として世界的に高く評価されています。

南紀白浜の主要な観光資源である温泉(崎の湯)

 しかし、国内に目を移すと、関西では知られているものの、東京をはじめ、それ以外の地方からの注目度は決して高いとはいえない。このギャップに着目し、私たちはむしろ大きなポテンシャルを秘めていると考えました。

 そのポテンシャルを最大限引き出したいと考えたことが空港起点の地域活性化に取り組んだきっかけ。そして、この地域でカギになると考えているのがピッカピカの最新のテクノロジーです。

──具体的には、どのような取り組みを進めているのでしょうか。

岡田氏:
 大きな目玉にしたいと考えているのが「おもてなし」サービスの拡充による顧客満足度の向上です。その一環としてNECと協力して「IoTおもてなしサービス実証」に取り組んでいます。

 これは顔認証技術を使って、「手ぶら」「顔パス」「キャッシュレス」で南紀白浜地区の様々なサービスを利用できるようにする仕組み。スマートフォンなどを通じて自分の「顔」とクレジットカード情報を一度登録しておけば、空港やホテルで特別なおもてなしを受けたり、食事やショッピングの際に顔認証による決済が可能になります。
生体認証とは?

 例えば、テーマパークの中には、腕に巻き付けるタイプのウェアラブルパスなどで、施設内のアトラクションはもちろん、ホテルの利用なども行えるようになっているものもありますよね。私たちは、そのパスさえなくし、この地域全体を、快適なVIP体験を提供する1つのアミューズメントパークのようにすることを構想しています。

本実証実験のサービスイメージ
*顔情報:顔の骨格や、目、鼻、口その他の顔の部位の位置や形状から抽出した特徴情報を指します。
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「顔認証&手ぶら」が実現するホスピタリティと利便性、安全・安心

──1つの施設だけでなく、空港やホテル、商業施設など、地域一丸となって旅行者をおもてなしするとは、非常に画期的です。地域の方の反響はいかがですか。

岡田氏:
 大きな関心を集めています。今回の実証実験には、ホテルとして「SHIRAHAMA KEY TERRACE HOTEL SEAMORE(以下、HOTEL SEAMORE)」、漁港内の商業施設で土産・海産物を販売している「フィッシャーマンズ・ワーフ白浜」、レストラン「いけす円座」「すし八咫」が参加してくれました。

──HOTEL SEAMOREを経営する白浜館は、なぜこの実証実験への参加を決めたのでしょうか。

中田氏:
 長くここで旅館・ホテル事業を営んでいますが、岡田さんがお話ししたとおり、南紀白浜は観光地として非常にたくさんの魅力を持っています。その魅力に気付いてもらうには、地域全体でいかに高品質な旅行体験を提供できるかが重要。IoTおもてなしサービスは、そのためのホスピタリティと利便性、そして、安全・安心を実現できると感じ、参加を決めました。

 例えば、私たちのホテルでは、フロントにお越し頂いた際、顔認証後、すぐにお客様をお名前でお呼びすることができます。「伝える前に名前で呼ばれる」、まさに常連様のようなVIP体験です。しかも、従業員の誰がフロントに立っていても同じおもてなしが行えます。

 お部屋へも顔認証で入ることができる上、ホテルの外のレストランやショップでは顔認証で決済ができるため、カギや財布を持たず、手ぶらで外出していただけます。

 南紀白浜は温泉やビーチが人気なのですが、落とし物や置き引きなどの不安もありますし、浴衣や水着姿の時に貴重品はあまり持ち歩きたくないものですよね。外国からいらっしゃったお客様の中には、キャッシュレス決済が進んでいる国の方も多く、現金払いのみでの対応では不便だという声もあります。今回の取り組みが進めば、地域全体でこのような問題も解消できます。

本実証の場の一つであるHOTEL SEAMOREのフロント。ここでチェックイン時のおもてなしが行われる

NECからは共にチャレンジしてくれる熱意を感じた

──実証実験の反響はいかがでしょうか。

中田氏:
 まず身近なところでは、ホテルの従業員たちが非常に興味を持っています。最新技術で自分たちのサービス品質を高め、お客様により快適に過ごしていただけるということを実感しているからです。同時に日本でも例のない先進的なプロジェクトに参加しているということが大きなモチベーションにつながっているようです。

岡田氏:
 今回の実証実験では、すぐにご賛同いただいた施設を中心に検証を開始して、その成果を示しながら、地域でのさらなる展開を図っていきたいと考えました。実際、私たちの取り組みを見て、実証実験に参加していないほかのホテルや商業施設、レストラン、アミューズメント施設、さらにはタクシーなどの運輸サービスの事業者から「話を聞きたい」「ぜひ参加したい」という声が集まっています。

──なぜNECをパートナーに選んだのでしょうか。

岡田氏:
 優れた顔認証技術を持っていることもありますが、地域活性化への想いを共有できたことが大きな理由です。また、NECグループは、この南紀白浜にテレワーク拠点を設けて新たなワークスタイルの研究に取り組んでおり、この地域に根ざしたビジネス展開を目指しています。東京から技術を提供してくれるだけでなく、パートナーとして、共に現地、南紀白浜で地方創生にチャレンジしてくれる。そう感じて手を組むことを決めました。実証実験を開始した後も様々な提案を行ってくれ、本気で南紀白浜の地方創生に貢献したいという熱意を感じています。

南紀白浜エリアを世界的な「IoTの聖地」にしたい

──今後の展望についてお聞かせください。

岡田氏:
 テクノロジーは、人の暮らしを快適にし、笑顔、かけがえのない体験、幸せを演出してくれるものです。私たちは、その力を借りてお客様に特別な体験を提供したい。古き良きリゾートである南紀白浜と新しいテクノロジーの融合で、さらにこの地を盛り上げたいと考えています。そのためにも、今回の実証で得たものを、しっかりと実用へとつなげていく考えです。

中田氏:
 顔認証の仕組みが導入されれば、旅行客だけでなく、地域住民にとっても大きなメリットがあると考えています。現金が中心の決済文化が変わり、買い物をはじめ、日々の暮らしに快適さと安全性をもたらしてくれるからです。街全体にIoTインフラを定着させ、スイスの山間の小さな村であるダボスが世界経済フォーラムの開催地として世界的に名を知られているように、南紀白浜地区を世界的な「IoTの聖地」にしたいですね。

岡田氏:
 実証実験は施設を限定して行いましたが、既に旅館共同組合や漁業組合、観光協会、このエリアでビジネスを行っている様々な事業者、そして、白浜町、和歌山県などの行政にも協力してもらい、紀南地域全体への展開を見据えた取り組みを加速させています。将来的には、羽田空港を出発する時から同じ快適さを提供できるよう、さらに構想を拡大していきたいと考えています。南紀白浜エリアから新しい旅行体験と地方創生モデルが提案・発信されるのをぜひ楽しみにしてください。

パンダで全国的にも有名なアドベンチャーワールドも、実証参加が決まった。地域活性化の輪が着実に広がっている

取材後記 最先端のおもてなしを体験!予想以上の快適さにおどろき

ホテルの部屋は顔認証で解錠できる

 お風呂上がりに飲み物を買う分だけの硬貨を握りしめて大浴場に向かう。脱衣所では、部屋のカギをちゃんとロッカーに入れるべきかどうかを一通り悩んで、面倒だからとバスタオルにくるんで、隠したつもりになってお風呂に入る。夫婦やカップルの場合はさらに工夫が必要。当然、どちらかしか部屋のカギを持っていないので、あらかじめお風呂を上がる時間を決めて、待ち合わせしてから部屋に戻る。

 今はまだ一部の施設での実証実験ですが、この仕組みが広まれば、これまで当たり前だと思っていたことを、全く気にする必要がなくなる。お店やレストランではカメラに顔をかざして、タブレットをタッチするだけで支払い完了、ホテルの部屋に入る時も顔だけで解錠できる。実証実験が行われている各施設での体験は、予想以上に快適な、おどろきのVIP体験でした。

ドアの脇にある小さいカメラで認証します

 実はホテルに着く前、空港に到着した時にもおどろきがありました。到着してロビーに出たら、大きなモニターに名前付きで「ようこそ」と出迎えてくれたんです。もちろん、こんな方法で歓迎されたことはこれまで一度もありません。「さぁ、旅行を楽しむぞ!」と、将来、ここを訪れる多くの観光客の気持ちも盛り上がるでしょう。

 ちょっと気になっていた顔認証のスピードですが、ほとんどストレスなし。さすが世界No.1のNECの技術です()。

お店やレストランにはタブレット型の顔認証用の端末が

 「手ぶら」はとにかく便利で、旅行中、わずらわしさから解放されるのは、なんとも快適。出かける時にお金を持ち歩かなくてよいので、余計な心配もせずにすみます。そして、何より強く感じたのが実証実験に参加しているみなさんの意気込み。ぜひ、このモデルを成功させて、南紀白浜エリア発の社会インフラとして、日本中に広げて欲しいですね。

※米国国立機関による動画顔認証の性能評価で第1位を獲得

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