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「交通」「流通」「建設」の領域で、5Gの「共創」から生まれる新しいビジネス

 5G時代を見据え、多くの企業がオープンイノベーション・共創活動を加速させている。なかでもNECは、業界や業種にとらわれず、多種多様な企業と課題やニーズ、技術を共有し、新たなビジネスモデルを共に作り上げる場が重要と考え、2018年12月「5G Co-Creation Working」を立ち上げた。「交通」「流通」「建設」の3つの領域にテーマを定め、各グループでワーキングを行い、19年3月に中間報告会を開催した。そこで、Solace Corporation カントリーマネージャー山口 智之氏(交通WG)、クレセント 代表取締役社長の氏原 亮介氏(流通WG)CIJネクスト ビジネスインフラ事業部基盤・運用サービス課課長代行の板垣 真之氏(建設WG)の3人のリーダーに、各グループの取り組みとビジネスモデル作りに向けての課題を聞き、事務局兼コーディネーターを務めるNECデジタルサービスソリューション事業部松田 尚久事業部長代理が「5G Co-Creation Working」を立ち上げた想いとビジョンを語った。

 ──5G Co-Creation Workingが目指すゴールとは。

松田:5GやIoTの時代になると、様々なものが「繋がる」ようになり、NECだけでは実現できないことも増えるため、パートナーとの「共創」が鍵になると考えました。「コトづくり」が重要な時代に、NECは「プラットフォーマー」としての位置づけに注力し、アプリケーションや端末は強いパートナーと組み、強いビジネスを目指す。そこで、このワーキンググループは課題やニーズ、技術やソリューションを共有する「共創の場」をつくることを心がけ、パートナーを集めてきました。今後はPoC(Proof of Concept、概念実証)などを経て、事業モデルを作り、新たなビジネスを立ち上げたいです。そのためにも各グループには従来型のエコシステムとは異なり、自由な発想とオープンなスタイルで話し合ってもらっています。

SPEAKER 話し手

NEC

松田 尚久

デジタルサービスソリューション事業部 事業部長代理

Solace Corporation

山口 智之 氏

カントリーマネージャー

クレセント

氏原 亮介 氏

代表取締役社長

CIJネクスト

板垣 真之 氏

ビジネスインフラ事業部基盤・運用サービス課課長代行

「歩きスマホ」防止へ。イヤホンの乗客に割り込みアナウンス

 ──各ワーキンググループでどのようなビジネステーマが俎上にあがっているのか。

山口氏:交通は誰もが日々使う身近な手段の一つでで、課題認識も千差万別・多種多様なので、議論の的を絞るのが一苦労でした。そこで、コンシューマー目線で課題を探るという考え方から、交通事業者目線の課題をコンシューマーにも広げていくという考え方に切り替えたところ、「乗客の歩きスマホによるトラブルの防止」という鉄道事業者の抱える課題が見えてきました。
現状は、駅員によるアナウンスで歩きスマホの危険性を告知していますが、イヤホンで耳をふさいでいる乗客にはそのアナウンスが届かないという課題があります。また違う場面では、例えば電車が事故などの事情により長く停車していると、イヤホンをしているが故に車内アナウンスが聞こえず、なぜ停まっているのかわからずクレームが出たりします。しかし他方では、せっかくイヤホンにより隔離されているプライベートなスペースを邪魔されたくないという乗客の要望もあると思います。こうしたジレンマの解決の糸口として、ワーキンググループでは、スマホを利用している乗客に対して、まずは駅構内や車内のアナウンスをイヤホン経由で届けるようにする仕組みを実証することでその効果の可能性を見ていくことを検討しています。

遠隔地をつなぐ!ライブの臨場感を共有、先生の働き方改革を支援

氏原氏:「流通」の領域を幅広くとらえ、モノやサービスを作った人から、享受する人に届けるまでと考えました。次にテーマ選定ですが、4グループに分かれて意見を出し合った結果、エンタテインメント系と教育系の2つのテーマで、5Gを使って企業の力を結集するサービスをテーマにしようと決めました。
エンタテインメント系は、音楽ライブなどを5Gで中継し、離れた場所で楽しむことができるサービスをイメージしています。ライブ会場の収容には限りがあるので、別の場所で集まっている観客にも、ライブ会場で起こっていることを同じように体感できたらいいなと。
もう一つの教育系には、教員の「働き方改革」という発想からです。主に、公立小学校の先生をターゲットに考えています。小学校の先生は、国語、算数、理科、社会などの教科を全て1人で教えるケースが多く、全ての教科を生徒に教えられるように準備して臨むのは大変ですし、得意教科に絞って授業したほうが効果も高いはず。そこで、5Gを使って、各教室をライブで繋ぎ、1人の先生の国語授業を共有したら効率は上がるのではと考えました。その負担が減った分、授業についていけない子どもたちをサポートしたり、自分が教える授業の準備をする時間にあてたりできるようになるのではないかと期待しています。

建設現場の墜落・転落事故防止へ安全帯をセンサーで遠隔監視

板垣氏:建設は、業界で大きな問題となっている墜落・転落事故防止をテーマに据えました。建設業界全体の死亡事故のうち、墜落・転落事故が占める割合は約4割にも上ります。作業者の人命と安全確保は最重要課題であることは言うまでもありませんし、死亡事故が起きてしまうと、元請け会社は多額の損害賠償負担と次の案件が受注できないなどペナルティが発生し、経営面でも大きな影響を受けます。
2月より転落防止措置として「フルハーネス安全帯」の着用が義務付けられましたが、フックの掛け替え作業が多い現場では、ランヤード(命綱)が構造物に掛かっていない状態(無胴綱状態)を無くすため、2本のランヤードを備えたダブルランヤード式安全帯の使用が推奨されています。この2本の命綱の着脱の順番を間違えることが墜落・転落事故の原因となることが多いのが現状です。そこで、センサーで遠隔監視できる仕組みが実現できないかと考えました。
既にスマートフルハーネスは製品化されていますが、まだ高価なため、我々のグループでは、既存の製品にセンサーを後付けして、スマートフルハーネス化が出来ないかと議論を進めています

異業種が提供するローカル5Gでビジネスが変わる

 ──5Gを活用し、ビジネスとしてどう実現可能性を高めるのか。

山口氏:歩きスマホ防止については、今の技術でも十分に実現可能です。言い換えると、技術面とは別の面で実現できてないことがたくさんあると言えます。今回、議論の中で最も重要視したのは、いかに鉄道事業者の現場の負荷をかけずに、サービスを実現できるかということです。5G活用よりも、安全第一の現場だけに、ボタン一つ押すようなことであっても駅員に負荷をかけるべきではない。今まで通りにアナウンスするだけで、自動的に乗客のイヤホンへ割り込みアナウンスする。その先にやりたいことはあるが、まずは入り口として、このサービスを現場の「負荷ゼロ」で実現したいですね。

氏原氏:流通のエンタテインメントと教育の2つのサービスも、今の技術で実現しようと思えば可能です。実現できるかどうかは、取り組む人たちの情熱に帰着するのではないかと私は考えます。それに3Gから4Gになった時、我々ユーザーにとって自覚がないままいつの間にか変わっていた、というのが現実ではないでしょうか。2つのサービスをまずは形にして、その後、世の中のニーズが新たに加わったり、変わったりした時に、5Gでないと実現できないという事態が出てくるでしょうし、5Gのインフラが整った時に、「こういうこともできるよね」という新たな価値を生み出すアイデアも必ず出てくると思います。

板垣氏:建設現場は、山の中や海の上、都心部でも超高層ビルなど様々な環境が想定され、常に十分な電波を捉え続けることは難しく、5G環境をどう維持し続けられるかも課題です。仮に5G環境が整備されたとしても、既存のフルハーネス安全帯に対して、オプションを付ける際に、強度に影響を与えないようにする工夫が必要になるというのもあります。
後者についてはテクニカルな解決が求められるため、時間がかかるかもしれませんが前者については、携帯大手以外に5G向け周波数を開放し、地域限定で5Gを活用できる「ローカル5G」が実現すれば実現は近いのではないかと期待しています。

松田:そうですね。5Gというと「超高速・大容量」「超低遅延」「多数同時接続」と3つのネットワークの進化と、その特徴を活用したサービスの開発が話題になりがちですが、私はむしろビジネスのあり方に注目すべきだと考えています。もし「ローカル5G」の周波数が解放され、一般事業者もサービスが提供できるようになれば、例えばあるエリアにだけ基地局を設置し、そのエリアに来訪すれば体感できる新サービスが始まるかもしれません。

効果的な概念実証へ向け、さらなる企業の参加を求む

 ──ゴールへ向けた各グループの課題と、解決するためにどう取り組むのか。

山口氏:歩きスマホ防止のサービスの実現はゴールではなく、あくまでも、スマホを見ている人たちに情報発信するための入り口でしかありません。このサービスを実現できるプラットオームを使って、さらに何ができるかの議論を深めていきたいです。例えば、乗客が寝過ごさないように降車する駅の直前にアラートを発信したり、駅で電車を待っている時に、後続の電車を含めた混雑状況を把握できたりといった「あったら便利だな」というサービスを、参加者全員で描いていく。最終的には、マルチパーパスなプラットフォームにしていきたいと考えてます。

氏原氏:ライブ配信と教育支援の両方のビジネスモデルの検証が当面の課題でしょうか。このワーキングのために、皆さん業務外の時間を活用して参加されているので、なるべく早く効果的なアウトプットを生み出したいですね。今の流れでいけばゴールに到達できるまでそんなに時間はかからないと思います。教育支援に関しては、ターゲットとしている公立小学校にサービスを提供するには、地域の教育委員会の理解を得て、地方議会の了承を得て予算化するというステップを踏まなければならない。しかし、まずは私立小学校で実証実験を行い、必要なデータを収集してからでも良いと思います。また、このサービスモデルは語学授業などグローバル教育にも展開できます。例えば、5Gの特性を活かして、ニュージーランドと日本の教室を、高解像度で低遅延な環境で映像を双方向でつなぐことによって、臨場感のある外国語学習環境を提供できるでしょう

板垣氏:建設グループは、ユーザー企業である建設業界の参加が他のグループに比べて遅れましたが、建設会社に参加いただけたことで、墜落・転落事故を防止するための現状と課題を身近に感じることができました。今後は、フルハーネス安全帯が正しい手順で使われ、機能しているかどうかを遠隔でチェックするために、ビーコンを使う案があります。しかし、ビーコンの電波をキャッチするために命綱にアンテナを這わせることができるかどうかの検証が課題になっていて、アンテナに詳しい企業の方が参加していただけたれば、実現化に向けて加速するでしょう。

松田:事務局としては、さらなる企業の参加を促していきます。本ワーキングのアウトプット先となる交通、流通、建設領域の各ユーザー企業はもちろんのこと、必要な技術を保有されている対象企業には、ワーキンググループ参加のメリットを説明して勧誘していきます。そもそも保有されている技術にこだわらず、勧誘先を広げたいなと考えているので、一定の基準を満たす必要はありますが、活動に興味を持って、積極的に参画していただけるとうれしいです。一方で、実際にビジネス化する時に、中核となる企業とそうでない企業が出てきてしまう可能性はあります。参加企業が等しく利益を得る仕組みを構築するのは難しいかもしれませんが、この活動を継続させるためにも、例えば、別のビジネスへの転用を一緒に検討するなど、ベストな落としどころを見つけたいと考えています。

 ──今夏に予定されている最終発表の場に向けての意気込みを。

山口氏:最初に参加した時、ゴールをどこに設定するか見えずに、悩んだこともありました(笑)。でも今は、ゴールが見えていないからこそ、やりがいがあるという気持ちです。予定調和ではなく、自由に議論を広げることで、新たな発想を生み出していきたいです。

氏原氏:経営者として、様々な業種の参加者の意見をうかがうことで気づきを得られたり、勉強になることが多い。これからゴールを定め、ビジネスモデル作りを楽しもうと思っています。この先、ワーキンググループを活性化させるためには、今この場にいない企業の力を借りることが絶対に必要になってくるはずですし。「えっ、そんなソリューションがあるんだ」という驚きに出会いたいですね。

板垣氏:私は上長から「行ってきて」と言われて軽い気持ちで参加したので、まさか、リーダーを任されるとは思っていませんでした(笑)。最初はグループをまとめあげていく自信がなかったのですが、グループ参加者をはじめ、周囲の人たちに支えられて、実現性のある中間報告までたどり着くことができました。感謝の気持ちを持って、成果発表までとにかく走り切りたいです。

松田:リーダーのお三方には、多くの時間と労力を費やしていただいたおかげで、NECだけでは思いつかないような課題を見つけ、新たなアイデアが多く生まれています。大変感謝しています。実はこのワーキングを立ち上げる時に、敢えてNECはリーダーにならないことを選びました。それはNECのための「共創」ではなく、業界内外の参加者とのオープンイノベーションの場を提供することが目的だからです。今年の夏に予定されている成果発表が重要なマイルストーンになるので、実ビジネスにつなげていくために、事務局としてできる限りサポートして参りたいと考えています、この記事を読んだ方で、このワーキングに興味を持たれた方はぜひご連絡いただければと思います。