2016年10月28日
wisdomイベント アフターレポート
本間浩輔氏×中原淳氏と考える「会社の中のジレンマとこれからの働き方」
「現場の人事力」を高めることが重要
中原氏:
本書の第2章では、産休や時短勤務などについても語りました。
本間氏:
働き方が多様化するなかで、現場のマネジャーが部下をどのように評価するか。プレイングマネジャーが多くなってきた現在では、特に難しい問題です。ある会社では、会社規模がかなりの人数を超えるまでは人事部を置かなかったという話を聞いたことがあります。人事部を作ると、現場は評価や給料設定を人事部に任せるようになり、どんどん現場の人事力がなくなる。しかし、残念ながら人事部は現場を見ていません。いろいろな働き方をする人がいるなかで、その人それぞれを細かく評価することは、人事部には十分にできない。ですから、本書を人事部ではなくて、「現場の人事力」をあげる本にしたいと思いました。
中原氏:
少し視点が変わりますが、最近では副業についての議論も活発になってきました。ヤフーでは、どのように対応していますか?
本間氏:
通常の業務に支障がない形の副業ならば、原則的に認めています。
中原氏:
今後、副業を認める企業は増えていくのでしょうか?
本間氏:
増えていくと思います。1つには、職業選択の自由という観点からすると、副業をどこまで規制できるのか。2つ目は、外でビジネスすることが、本業にも良い影響をあたえることがある、ということです。MBAを取得するのが勉強になって、副業がならないなんてことはない。2つがどう違うのかと突き詰めて考えていくと、差を説明できなくなるんですよね。

これからは、副業しなければ生きていけない?
中原氏:
空いた時間に時給を稼ごうとするアルバイトのような副業と、自分の専門性を高め、本業とのシナジーを生み出すことのできる副業とでは、まったく違うような気がします。
本間氏:
その通りです。あとは、こんなことも想定されます。新卒社員がそれぞれ2つの部署に配属されたとします。Aの部署は流行の仕事をやっている部署で、Bは時代遅れの部署だった。当然、Aの市場価値は上がるけど、Bはそうなりません。これは、自己責任と言えるでしょうか。言えないと思うんです。日本の場合は、新卒の配属はほとんど会社の都合で行われますので、自分の意思では選ぶことができませんから。
中原氏:
いわゆる「配属リスク」というものですね。右肩上がりに業績が上がっていくならば、不利な配属をされた社員にも「今は、ちょっと待ってくれ」と言うことができる。しかし、現在はそうではない。そんな状況で、副業を止めることができるのか確かに疑問です。
本間氏:
株価と天気の話をしていれば、営業が取れたという時代があったそうです。しかも、高度成長期だったら、40歳にもなれば、オフィスで新聞を読んでいても、爪を切っていても生きていけて、55歳に定年を迎えていた。そういった時期に作った人事制度が、いまだに残っている会社があります。しかし、今は定年70歳超が議論されています。中原さんは、本書で「下山のマネジメント」という言葉を使いましたが、そこに副業の問題も絡んでくる。個人的には、しっかり評価する仕組みがあれば、定年なんていらないと私は思っています。「働かないおじさん」の給料は、稼いだ以上に出さなければいいんですから。副業なり兼業なりも含めて、長い寿命を全うしていくモデルにしていかないと。
中原氏:
そもそも、「1つの組織だけに所属して、生計を立てなければならない」という考えは思い込みだと思います。昔の人は、食べていくためには、なんだってやったんですよ。財布がいくつあっても構わなかった。たまたま高度成長期に1つの会社だけに勤めることが美徳であり、当たり前だという考えが生まれ、その考えを強化するように人事制度が整えられていった。今は、そのへんの「当たり前」が崩れてきているのだと思います。
本間氏:
ヤフーはIT企業なので、その歪みが他の企業より10年早く生じている気がしています。会社はチームです。しかし、昔は、ファミリーでした。長期雇用のファミリーの中には、いろいろな人がいて、「働かないおじさん」が1人や2人いてもいいじゃないかという考えがあった。ですが、若い人のなかには、「そういう人がいる会社なら辞めて転職しよう」、「新たに起業しよう」と思う人が増えてきているのかもしれない。それでは企業は存続できません。「会社を存続させることが、1人ひとりの社員のためになるんだ」ということを、肝を据えて考えなければいけない時代になっている。ですから、場合によっては給料を下げるという決断を、どこかでしなければいけない。これはキツい仕事ではあります。しかし、人事部が「人事の理想」を語らなくて、誰が語るのでしょうか。人事部が「働く人はこうあるべきだ。そして、それは働く人、組織の両者のためでもあるんだ」ということを自ら語らなければ、現場はいつまで経っても変わらないと思っています。
(取材・文=宮崎智之)