2017年01月13日
フィンテックによる『社会イノベーション』
2016年は、日本とシンガポールそれぞれで金融監督局が初のフィンテックイベントを開催した年でした。9月に東京で金融庁と日本経済新聞社が「FinSum:フィンテック・サミット」を共催。11月にはシンガポールでMonetary Authority of Singapore(MAS)が中心となってSingapore FinTech Festival Weekを開催しました。FinSumのパネルディスカッションでは「シリコンバレーからFinTechは始まったが、5年後にはアジアが中心となる、(ソプネンデュ・モハンティ、Chief FinTech Officer, MAS)」との発言もありましたが、あらためて、アジアで行われた二つのイベントを振り返りたいと思います。
アジア・フィンテックハブ形成元年だった2016 - FinSumとSingapore FinTech Festival Week
FinSumでは2日間にわたり丸ビル周辺で学生によるアイデアコンテスト、国内外のベンチャーによるピッチ、シンポジウム等が開催されました。シンポジウムやワークショップが開催された9月21日は国内外のフィンテック関係者が東京・丸ビルに一堂に会しオープンイノベーションのための意見交換が活発に行われました。
一方、シンガポールでは11月14日から18日の5日間にわたりシンガポール各地で様々なイベントが開催されました。参加者は延べ50カ国以上からおよそ11,000人。シンガポール政府のフィンテック・アイデア集積地となる意気込みが強く感じられたイベントでした。シンガポールは自国を市場ではなく実験場として位置付け多くのフィンテック活動を誘致しており、規制当局であるMASも、規制はイノベーションに先んじるものではなく、実験的な枠組みの中で潜在的なリスクを評価、段階的に必要に応じてリスクをコントロールすべきと説明しています。
フィナンシャル・インクルージョン:すべての人に公平な金融サービスを
また、二つのイベントではフィナンシャル・インクルージョン(包摂)というテーマが共通して議論されていました。フィナンシャル・インクルージョンとは世界の成人人口の約半分が銀行口座を持っていないといわれている中で、公平な発展を実現すべく正規の金融サービスへのアクセスをすべての人に提供することを目指した言葉です。
Singapore FinTech Festival Weekのパネルディスカッション等では、アジアの経済・金融サービス発展のためには中小企業の取り込みが重要との意見が多くありました。一方、金融機関が中小企業と取引する上では、融資するために必要な企業財務情報の信頼性や、外国為替をする際の対象企業がテロリストと関連するような団体と取引がないかをどう確認するか等、課題が多いことも指摘されていました。規制当局、金融機関、テクノロジープロバイダーの連携による課題解決の必要な領域です。
FinSumで国内外のベンチャーがサービスアイデアを競ったコンテスト「ピッチ・ラン」ではフィナンシャル・インクルージョンを目指す欧州のベンチャーも登場しました。「Taqanu Bank(タカヌバンク)」は、難民などフォーマルなIDや住所を持たない人のための銀行を構想しています。欧州で大きな社会課題となっている難民は移民先で簡単に口座開設ができず、口座を持てない人達にとっては財産管理や送金といった行為にコストがかかってしまいます。Taqanuは身分証明や住居がない人に対してもブロックチェーンの取引履歴等を証明できる(公的機関等がなくても関係者間で信頼しあえる)特徴を活かし、口座開設や送金といったサービスを提供することを構想しています。
FinTech for Social Innovation
フィナンシャル・インクルージョン等の社会課題解決を目指すNECは、FinSumで『フィンテックによるソーシャル・イノベーション』というワークショップをスポンサーしました。アジアを中心とした参加者の人達とフィンテックで人々の生活をどう改善できるか、フィンテックがどう社会課題を解決できるか、というテーマで議論。銀行口座を持つことができない新興国の人々にとってモバイル端末は有効なツールであり、モバイル端末を活用し使いたい分だけ購入できる公共サービス(電気や水道)やブロックチェーンを用いた自己証明等、フィンテックで社会イノベーションをおこせる余地はまだまだたくさんある、との意見が多くありました。Singapore FinTech Festival Weekでは、当社の出展ブースに各国の金融機関やベンチャーの方が立ち寄っていただきましたが、モバイル金融サービスでのNECの生体認証技術やブロックチェーン技術の活用への期待が多くありました。
期待の声に応えるべく、2017年もNECは社会価値創造企業としてFinTech Social Innovationに取り組んでいきたいと思います。
NEC FinTech事業開発室 室長
株式会社ブリースコーポレーション 取締役
金融機関向け営業を経て2016年4月より新設したFinTech事業開発室にて、FinTech新規ビジネス開発に従事。情報処理学会2015年度喜安記念業績賞受賞。