イベントレポート
「ピープル・ファースト」
市民のための交通システムソリューション
持続可能な交通機関の複雑さを理解することが重要
Daniel A. Levine氏は、日本政府と世界銀行のパートナーシップについて「重要なのは、日本から学ぶことであり、日本の交通機関のプロジェクト運営の専門知識やノウハウを総動員する必要がある」と述べました。
注目すべき点の一つは、エコ・センターとの関わり合いです。これは持続可能な都市交通にとって、特に重要な意味を持っています。なぜなら、都市と直接協業することになるからです。
日本におけるパートナー都市は、横浜、富山、北九州、神戸です。各都市では、交通と都市開発を取り巻く制約を十分に理解した上で、異なる各部門が、どのように協業できるかが総合的に検証されています。我々の相談者は日本に来て、これらの都市の経験を直接学ぶことができます。Levine氏は、持続可能な都市交通を取り巻く課題の複雑さを理解する上で、こうした学び方は必要不可欠であるとしています。
スマートシティソリューションと都市交通ソリューションには、世界銀行と日本政府が提唱したインフラ投資構造の有効性で、いくつかの類似点が見られます。どんなBRT(Bus Rapid Transit:高速バス輸送システム)プロジェクトでも、真に持続可能であるためには、いくつかのキーとなる要素があります。それは、特にライフサイクルコスト、環境と社会的持続可能性を含む経済効率性という要素です。
Levine氏は、誰もがアクセスできるユニバーサルデザインに対応しているかどうかも重要であると言います。どのような交通手段であっても、地域貢献と社会貢献こそ、交通ソリューション推進のための重要な要素だからです。職場へのアクセスも非常に重要です。それは、人々の携わる仕事の質や種類という点で、通勤時間が根本的な要素だからです。また、交通管制システムや他のインテリジェントソリューションも、安全に関わる重要な要素です。例えば、地震や台風の多い地域では、過去の事例や経験から得たノウハウに基づく対策、自然災害による早期復旧も非常に重視されます。
中国では各地で多くのBRTプロジェクトが成功を収めています。その結果、多くのバス路線網が整備され、大量のデータを処理できる新しい統合管理システムが導入されました。こうしたプロジェクトからは、どのように金融機関と提携するのが最良の方法なのかが学べます。
また、フィリピンのプロジェクトでは、移動時間が短縮され、事故件数も激減。さらに汚染排出量も減少しました。ホー・チ・ミン市では、BRTシステムが新しく構築され、代替エネルギーとして圧縮天然ガスを使うバスが多く運行されています。日本では、BRTプログラムにおいて、ICT、交通・情報管理システム、優先システム、スマートカード、発券・改札システム、そして、セキュリティシステムで革新的な技術が導入されています。セキュリティに関しては、顔認証改札システムが重要になっています。スマートカードは開発途上国にとって大きなチャレンジとなるかもしれませんが、実際にソリューションとして導入するには包括的な取り組みが必要になってきます。
Levine氏によると、都市周辺含む全体のエコ・システムを考えると難しいので、結果的に都市交通のコスト面を見ることになると言っています。日本の都市交通では、鉄道と関連システムに関わる強力な民間企業がありますが、企業のパートナーシップも分析可能な、システム全体で見ることが重要です。
ITMSを使ってインドにおける膨大な交通問題を解決
藤井俊平氏はインドのNEC交通事業部を率いています。2014年以来、NECは、高速バス路線網に関連した4種類のプロジェクトに関わり、さらに、市営バス、合計で4,000台ものバス、そして、ICTシステムにも関与しています。
インドは非常に多くの現実的な問題に直面しています。インドには全国で100もの公営バス機関があり、毎日150,000便もの公共バスが運行されており、その利用者は一日当たり9,000万人にも及びます。これは、グローバル経済の観点から見ると驚くべき数字です。また、7都市を結ぶ多くの高速バス路線は一日当たり340,000人もの人が利用しています。世界銀行とインド政府の政策により、新たに12もの高速バス路線が計画されており、それと共に、現在多くの高速バス路線にはICTが導入されつつあります。
しかし、利用者はまだまだ多くの問題に直面しており、これが政府やバス運営機関の大きな課題になっています。例えば、計画の失敗、乗客の感じる乗り心地の悪さ、運行の遅延、ニーズに合わない路線、過度の混雑、混雑のために起こる乗車料金の支払いの煩わしさ、特に女性の乗客の安全の問題などがあります。
バス運営機関は、運行スケジュールの混乱に対応する必要があります。バスが続けて来たり、次のバスが大幅に遅れたり、さらには、ドライバーがバス停を通過したりする問題です。バスは手動で運行されていて、バス運行計画は非効率、路線の重複や、運賃回収の詐欺行為、ドライバーによる運賃着服といった不正行為も日常化しているようです。また、バスの整備、路線計画、人員配置などの問題もあります。そのほかにも、何千、何万人という人が地面に座り込んでバスを待っています。同氏は、これらの問題に対処するには、国土の視覚化と、それに合わせた運行の最適化が必要であると述べています。
ITMS(Integrated Transportation Management System:統合交通管制システム)は、例えば、運賃収集、バスの追跡や異常事象の追跡、あるいは人員配置計画のデータ収集のために利用されています。これは、バスシステムに装置を組み込むことによって可能になります。重要なのは、収集され、分析されるデータが理論的に実際のソリューションにフィードバックされること。ソリューションの目的は、経験から得た知識を蓄積し、運賃収入を増加させ、スケジュールを最適化し、KPIを視覚化することによって、最終的に改善策の立案に貢献できるようにすることだからです。
例えば、モバイルアプリは乗客にバスの到着を知らせたり、乗客の位置や目的地を表示したりします。また、アプリで切符を購入し、車掌にその切符を見せることもできます。これによって、現金のやり取りをなくすことができます。NECは、データ分析やキャッシュレスシステムなどのテクノロジーを提供しています。路線の効率化や移動時間の効率化による増収を図るため、ビッグデータテクノロジーも利用しています。これらはインド政府にとって重要なKPIになっています。ほとんどのバス運行業務は民営化されており、日々のバス運行における事故や、バス運営会社の違法行為などのデータを視覚化する必要があるからです。このような分析によって増収が図れ、乗員数を減らすことによってコストを圧縮できます。増収とコスト削減の両面で効率性を高めて車両の回転率を上げ、運行回数を最適化することができるのです。
暮らしやすい都市を目指して - 環境にやさしい交通
Amy S. P. Leung氏は、アジア開発銀行の持続的開発・気候変動局の局次長およびチーフ・テーマ・オフィサーです。開発途上国を支援する戦略は、経済・環境の持続的な成長と地域統合を促進するものとして、アジア開発銀行が提唱する「Strategy 2020」によって主導されています。
アジア開発銀行の交通事業は、2010年から「持続可能な交通イニシアチブ(STI)」によって主導されてきました。このイニシアチブでは、交通事業全体の観点から「持続可能な交通」を“アクセス可能で、手頃な料金で利用できる、環境にやさしく、安全な交通”と定義しています。Leung氏によると、アジア開発銀行は、2010年から2020年までの期間に、より持続可能なタイプの交通事業を構築すると約束しています。その焦点は、都市交通、気候変動、国境を越える交通や物流、道路の安全性や社会的持続可能性に関し、緊急な対応を要する新しい分野に当てられています。
また、Leung氏は、「持続可能な交通イニシアチィブ」を実施するには、分野を越えたソリューションが必要であるとしています。例えば、アジアにおける最大かつ最も緊急性の高いニーズは、急激に成長する都市に対して持続可能な交通ソリューションを提供することです。しかし、都市交通を改善する取り組みは、都市計画と統合して考える必要があります。同氏が指摘するように、交通と都市計画を統合する包括的なソリューションは、都市の発達をより効果的に管理でき、最終的には、より多くの都市に適用できるものでなければなりません。
この点に関して、Leung氏は、都市空間計画と都市交通を統合することのできるいくつかの手段や方法を挙げました。その一つの例が、乗り換えをスムーズにできるような交通基盤の開発です。例えば、都市空間計画と都市交通を統合することによって、密集した住宅地と商業地域を多目的開発事業に組み込み、「大量輸送回廊地帯」を形成。それと共に、歩道やと自転車用道路も構築することもできる例を示しました。
日本企業がアジア開発銀行を支援
第50回アジア開発銀行年次総会-横浜開催2017-では、アジアの発展を支援している多数の日本企業がさまざまなテクノロジーを展示しました。前述のNECによる「顔認証システム」、「顔認証入場ゲートシステム」の展示&デモ、IoTやAIのセミナーを開催していました。