イベントレポート
「ピープル・ファースト」
市民のための交通システムソリューション
アジア開発銀行(ADB: Asian Development Bank:以下ADB)は、アジア・太平洋における経済成長および経済協力を促進し、開発途上加盟国の経済発展に貢献することを目的に設立された国際開発金融機関です。その目標は地域加盟国の貧困をなくし、生活の質向上を支援することです。主な事業として、ADBは加盟国の社会的および経済的発展を促進するため、資金の貸付、技術支援、補助金交付、株式投資を行っています。ADBは1966年に発足し、現在は域内(アジア・太平洋)48、域外(ヨーロッパ・北米など)19、合計67が構成メンバーとなっています。日本はアメリカと並ぶ最大の出資国です。
ここ数年、アジア・太平洋地域は急激に変化しています。ADBは2020年に向けて果たすべき役割を明確にした「ストラテジー2020」の支援規模を拡大し、「より強く、より効果的に、より迅速に」課題解決の効率を上げています。
「ストラテジー2020」は、すでに優れた成果をあげています。
- 電気を使える300万の家屋を建築
- 840万の家屋に対して水道システムを新設・改修
- 92,000kmもの道路を新設・改修
※アジア開発銀行:年次報告2016より(ADB. 2017. 50 Years of ADB: Improving Lives for a Better Future)
「ともにひらく、アジアの未来 ~Building Together the Prosperity of Asia」のテーマの下、第50回アジア開発銀行年次総会-横浜開催2017が5月4日から7日まで開催されました。その会期中に実施されたパネルディスカッション「持続可能な都市公共交通におけるイノベーションの役割」を紹介します。
SUMMARY サマリー
NEC – 社会価値創造とスマートシティ
パネルディスカッションでは、NECの主席技師長である久木田 信哉氏が司会を務め、冒頭、NECが推進している社会価値創造についての説明を行い、社会価値創造とは、スマートシティにおけるさまざまな仕組みを効果的に融合させるソーシャルソリューションを見つけることだと述べました。
「人口増加が顕著である都市部においては、持続可能性と包括的開発が重要な課題となっています。それらの都市では、単に通信だけでなく、エネルギー、あらゆる物や資材、さらには人々など、さまざまなネットワークを統合する必要があります。
世界にはさまざまな地域、さまざまなタイプの都市があり、すべて異なる発展段階にあります。しかし、どのような状態であっても共通した問題と言えるのが交通渋滞です。特にアジア・太平洋地域では交通渋滞が大きな問題になっています。
今までの考え方では、交通渋滞を解決するのは公共交通機関であると言えました。しかし、現実的には公共交通機関は問題や課題を多く抱えており、解決はそう簡単ではありません。このパネルディスカッションでは、4人の専門家を迎え、公共交通がもたらす恩恵、課題、そして、IT技術による革新について議論します」と述べ、パネル・ディスカッションが始まりました。
人々の問題を解決する政策変更、革新的なテクノロジーによるソリューション
Anne Dowling氏は交通機関専門のコンサルタントです。公共交通の技術に関して、世界中でプロジェクトに携わり、ソリューションを設計しています。
公共交通は、主に欧州や北米の中心部で発展してきました。Dowling氏は「これらの地域には、過去数十年にわたって膨大な資金が投入されてきたのに比べ、アジアにおける投資は限られていました。しかし今後は、香港やシンガポールのような都市以外のアジアの地域も、西欧諸国の経験やノウハウから多くの恩恵を受けられるようになるでしょう」と言います。
我々は、日々の生活の中で、常にどのような交通手段を使うかを考えています。したがって、都市計画の担当者は、交通手段がどのように選ばれているのか理解する必要があります。人々は、交通状況や時間のロス、あるいは大気汚染などの要因を総合的に考え、どの交通手段を使うかを判断します。その要因とは、例えば、“ここには公共交通機関がない””満員電車は嫌だ””目的地から周辺への移動はどうしようか”といったことなど。特に女性は“安全・安心”面に強い懸念を持っていますし、“公共交通機関であれば遅れず、必ず間に合うだろうか”などとも考えています。
公共交通の問題に対する解決策は、政策の変更と革新的で高度な技術から生み出されます。政策の変更には、技術を活用する必要があり、効果を高めるためのサポートも重要です。これらの点に関して、Dowling氏は、自動車税、通行規制、有料道路の料金、サービスレベルの問題などを具体的に説明しました。さらに、これらの問題は、すべて政府レベルでの対応が必要であり、その対応があって初めて、テクノロジーを有効に使うことができるだろうと述べています。
同氏は、ロンドン、香港、シンガポールで成功した公共交通機関を例に挙げました。ロンドンでは「通行料制度」を導入しました。これは自家用車で市内に行く場合に料金がかかる制度です。この制度によって、人々は今まで以上に公共交通機関を使うようになりました。シンガポールでは、バス運転手がバス運行に責任を持ち、「KPI(重要業績評価指標)達成」が求められるようになりました。バスが時間通りに運行されているか、乗客への情報提供は正しいかなど、運転手が責任をもって業務にあたるようになりました。また、香港ではMTR(Mass Transit Railway:大量輸送鉄道)が乗り継ぎ志向型の路線開発を行っています。
Dowling氏によれば、これらのイノベーションは成功を収めているが、それらをそっくりコピーすることはできないとしています。その理由は、なぜ成功したのか、また、どうしてうまく機能したのかを詳細に分析する必要があるからです。特徴のある技術を利用するには、それぞれの都市や地域が持つ固有の状況を必ず検証する必要があります。