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世界のフロント・プレイヤーが集結したFIN/SUM WEEK 2017

 2016年、2017年と2年連続で銀行法が改正された。先の法改正では銀行による緊急関連IT企業への出資を容易にするために5パーセントルールが緩和され、来春、施行される改正法案では銀行などにオープンAPI公開の努力義務が課された。いずれも金融機関とフィンテックの協業を促すためのものである。9月21日には、FIN/SUM WEEK 2017(フィンテック・サミット2017)において、フィンテック技術の実用化に向けた実証実験に対して、コンプライアンス上の論点整備を中心とした支援を継続的に行う「フィンテック実証実験ハブ」の設置も発表された。日本をフィンテック後進国にしてはならじという日本政府の決意と焦りが見て取れるが、果たして世界は日本のフィンテック状況をどう見ているのか。スタートアップや学生たちが、ピッチランやアイデアキャンプによって、ビッグプレイヤーたちによるディスカッションと同様の存在感を見せたフィンテック・サミット2017は、そのひとつの指標になるかもしれない。チャンスとアイデアの洪水となったFIN/SUM 2017を歩いてきた。

学生によるアイデア・キャンプ

フィンテック・フロンティア、イギリスからの提言

 FIN/SUM 2017からは、少なくとも、世界が日本のフィンテックがグローバルに発展する可能性があるのかに注視していることが見て取れる。先進国・イギリスからBarclays(バークレイズ)のマイケル・ハート グループ・イノベーションヘッド、マシュー・ハンコック英デジタル経済担当大臣が「オープン・イノベーション」のパネルディスカッションに参加。大臣は、革新的な事業を育成する際に、「レギュラトリー・サンドボックス」(現行法による規制を政府が一時的に停止する規制緩和策)を例に、消費者保護とイノベーション促進という両立の難しい環境を実現させていることを喧伝した。対照的に、日本側からは、日本でイノベーションが遅れる最大要因として、現在の金融システムの利便性の高さが挙げられた。ユーザーの多くが現状に満足しているガラパゴス的な安定現状の中でイノベーションを行うには、ユーザー側のカルチャーを変える必要があるというわけだが、これに対し、ハンコック大臣はNOと明言。ユーザーの行動に基づいてテクノロジーを設計すべきで、逆であってはならないと主張した。

 カルチャー。この言葉は数多くのディスカッションに登場した。

左:マシュー・ハンコック(Matt Hancock 英デジタル経済担当大臣)、右:マイケル・ハート(Michael Harte Barclaysグループイノベーション・ヘッド)

マーケットのペイン・ポイントを見つけたものがゲーム・チェンジャーになり得る

 金融環境において、日本と対照的なカルチャーにあったのが中国である。世界時価総額第8位、アジア企業では第2位の Tencent (テンセント)のダニエル・ホング ファイナンシャルテクノロジー次長が登壇。ウィーチャット(微信)が、数年前まで多くの人が現金を使っていた中国で、都心部を中心に「数週間、自分の財布を見ていない」という急速なキャッシュレス化を推進しえたのは、第一に金融インフラが整っていなかったことを挙げた。クレジットカードすらポピュラーではないというペイン・ポイントを持ったマーケットだったからこそ新たなプレイヤーが参入しやすく、大きなイノベーションが可能であったというわけだ。

左:河合 祐子(日本銀行 決済機構局審議役 FinTechセンター長)、右:Daniel Hong(Tencent ファイナンシャルテクノロジー次長)

 「他のアプリケーションすべてを飲み込む可能性を持った危険なアプリ」(ヨビー・ベンジャミンTOKEN CTO)と言われるほど大きな成功を遂げているウィーチャットだが、現行モデルの世界展開については、すでにライセンスを保持している香港を挙げるにとどまった。他国についてはローカル企業への投資という形での協業を想定。ベトナム、インドネシアですでに展開中であるという。他国の展開に積極的でない理由として挙げられたのがカルチャーである。「僕らは彼らの文化をほとんど理解できていない」。

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