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wisdom共創セミナー レポート 新しい働き方×ICT

人材不足解消のカギは
「労働力シェアリング」の実現

 wisdom共創セミナー「新しい働き方×ICTの活用~人材派遣のプロに聞く、人手不足とコスト増に対応するワークシェアリングの具体策」が9月21日に開催された。物流業界では近年、人材不足と人材に関するコスト増が深刻化している。こうした課題を克服するための取り組みとして注目されているのが、"新しい働き方"と"ICTの活用"。どうすればコスト増を抑え、必要な人材を確保することができるのか。パーソルテンプスタッフの正木慎二氏と、プロロジスの内山直彦氏を講師に迎え、物流業界の人事戦略に関する最新動向と具体的な取り組みについて聞いた。その様子をレポートする。

ワークシェアは人材確保の有望な手段

 近年、物流業界では、少子高齢化に伴う人手不足が深刻化している。EC市場の急成長で多頻度・小口配送のニーズが高まり、宅配個数が増加。それに対応するための労働力を確保できない、という問題が顕在化しつつある。

 では、どうすればコストを抑え、必要な人材を確保することができるのか。セミナーでは、まず人材派遣大手パーソルテンプスタッフで取締役執行役員を務める正木 慎二氏が登壇し、人材の確保やコスト削減に向けた最新の動きについて語った。

パーソルテンプスタッフ株式会社
取締役執行役員
営業推進本部 本部長
正木 慎二 氏

 正木氏によれば、近年、人材派遣の世界では求職者のニーズが大きく変化しつつあるという。

 「最近の求職者の方々は、年齢を問わず、ワークライフバランスを重視する傾向にあります。求職者の最大の関心事は"勤務時間帯"、次いで"残業時間"です。こうした点をしっかりアピールしていかないと、人はなかなか集まらないのが現状です」

 良質な人材を集めるため、新しい働き方を導入する動きも目立つ。佐川急便やファーストリテイリングは、1日10時間勤務と週休3日制を導入。ヤマト運輸やヤフーも週休3日制の導入を検討するなど、フレキシブルな働き方を採用することで、人材確保に乗り出す企業が増えているという。

 では、人材確保につながる新しい働き方とはどのようなものか。その有力な施策の1つと期待されているのが、「ワークシェアリング」だ。ワークシェアリングとは、仕事を時間や日数で区切り、複数の人が1つの仕事をシェアしながら業務を行うこと。これには「時間シェアリング」と「日数シェアリング」の2つの方法があると正木氏は言う。

「時間シェアリング」と「日数シェアリング」

 時間シェアリングは、1日の時間帯を9時~13時と14時~18時など時間で区切り、1日2交代制にするなど"時間でワークシェア"する方法。一方の日数シェアリングは、月を前半15日と後半15日などに分け、1カ月を2人で分担するなど"日数でワークシェア"する方法だ。

 「ワークシェアリングのメリットの1つは、コスト削減です。週の勤務時間が20時間未満の人には、社会保険料の加入資格がありません。このため、短時間勤務の方を複数名採用してワークシェアリングすれば、フルタイム勤務を1人採用した場合と比べて、実に年間50万円近くの社会保険料が削減できることになります」と正木氏は説明する。

 求職者の中には、子育て中の女性などパート勤務を希望する人も多い。このため、ワークシェアリングを導入すれば、「限られた時間だけ働きたい」という求職者を採用しやすくなるという効果もあるという。

 講演の最後では、時間シェアリングと日数シェアリングの活用事例も紹介された。

 ある集中事務センターでは、朝夕のピークタイムに合わせてフルタイム勤務2人の採用を希望していたが、ヒアリングの結果、昼間は手すきの時間が発生していることが判明。パートタイマー3人を採用して、複雑なタスクを社員に、シングルタスクをパートタイマーに振り分け、かつ昼間の人余りを改善するため、9時~13時と13時半~18時の時間シェアリングを提案した。

 「昼間に30分の空き時間を設けて、その分の人件費を削減。また、夕方からダブルワークをしたい人の勤務終了を30分繰り上げ、17時半には退社してもらうことにしました。その結果、1日あたり1時間分、月間平均に換算して1人あたり約20時間の人件費が節約でき、コスト削減につなげることができたのです」と正木氏は述べる。

 また、ある損保会社の事務サポート部門では、当初フルタイムでのスタッフ採用を希望していた。だが、業務が複雑でミスも許されないところから、3カ月間の研修期間中に7割が脱落してしまうという悩みを抱えていた。そこで正木氏は、2人のスタッフに月10日ずつ勤務してもらう、日数シェアリングを提案。その結果、日数シェアリングにすることで負担が軽減され、就業を希望する候補者も増えて人員補充の可能性が広がり、社会保険料の削減にもつながった。

 「今後、ICTを活用して仕事の引き継ぎなどがスムーズに行えるようになれば、効率化も一層進むでしょう。人材の確保やコスト削減を目指す企業にとって、ワークシェアリングは大変有望な手段だと考えています」(正木氏)

テナント間で倉庫をシェアする仕組みを構築

 続いて登壇したのは、物流不動産のリーディング・グローバル・プロバイダーとして世界19カ国3300棟の物流施設の開発を手がけるプロロジスのバイスプレジデントを務める内山 直彦氏だ。

株式会社プロロジス
バイスプレジデント
開発部長 兼 営業推進室長
内山 直彦 氏

 内山氏によれば、EC市場の拡大とともに、大型物流センターの面積も拡大の一途をたどり、テナント企業は人海戦術でのサービス対応に追われているという。一方、人手不足も深刻化しており、物流施設のオーナーサイドでも、テナントのパート雇用問題を考慮しなければ、物流施設の運営自体が立ち行かなくなりつつある。

 そこで、同社が力を入れているのが、雇用を考えた物流施設のロケーション戦略だ。昨年竣工したプロロジスパーク千葉ニュータウンは巨大住宅地に近接しており、2018年竣工予定のプロロジスパーク京田辺も最寄りの駅から徒歩圏内。いずれも、雇用の確保しやすさを重視した立地となっている。

 「いまや物流拠点の開発・運営は、雇用というキーワードを抜きにしては語れなくなりつつあります。従来倉庫は"商品の保管場所"というイメージでしたが、今は倉庫内では様々な物流加工が行われており、工場用途や商品の撮影スタジオなど特殊なマルチユース化も進み多くの人が働いております。人手不足を解消するためにも、快適に働ける環境をいかに作るかが重要なのです」と内山氏は説明する。

 同社では物流施設のパート従業員1000人を対象にアンケートを実施。「物流施設に欲しい設備」を調査したところ、「Wi-Fi」「カフェ」「送迎バス」などの要望が多く寄せられた。そこで、新規開発の物流施設のみならず、既存の施設にもカフェを新設。さらに、カーシェアリングやATM、売店の交通系ICカード対応などのサービスも導入し、雇用の安定化・定着化を図っている。また、休日の施設を開放して、フリーマーケットや子供向けのイベントも実施、地域全体を意識した取り組みも数年前から始めている。

 同社が注力しているのは、当面の雇用対策だけではない。将来を見据えた次世代物流施設の構築に向けて、様々な取り組みを進めているという。その1つが、「小口・短期の倉庫スペース貸し」を行うための新システム構築だ。

 「お客様が借りている倉庫は、1年を通じてスペースがフル活用されているわけではありません。そこで、テナント同士が協力して空きスペースをシェアする動きが、業界全体で広がりつつあります」と内山氏。同社では株式会社 souco と提携して、「必要な時に必要なだけ倉庫を借りられるマッチングサービス」に向けて、50坪の倉庫スペースを1カ月単位で提供するシステムの構築を目指すという。

 さらに同社では、ロボットを活用した倉庫自動化も検証中。「労働環境としての付加価値向上と、AIやロボティクスといった最新テクノロジー活用との両面で、次世代の物流施設のあるべき姿を模索していきたい」と内山氏は講演を締めくくった。

人材配置を最適化するプラットフォームを構築

 セミナー後半では、参加者が付箋に書き出した関心事や悩みを基に、課題の抽出が行われた。

 やはり、人材確保の難しさを訴える声は多く、「交通の便がよくないと、なかなか人を確保できない」「人手不足が発生してから補充するまでに時間がかかり、スタッフの労働負荷が増えてさらに人が減ってしまう」など、様々な悩みが寄せられた。

 また、「新人を採用してから戦力になるまでに時間がかかる」「コスト削減で従業員の少人数化を進めているが、残業増加などの負荷が増え、逆にコストアップにつながっている」など、人材補充・人材削減の両面でコスト増を懸念する声も多かった。

 人手不足解消の対策としては、「シニア世代の活用が課題」という意見がある一方で、「女性や高齢者、短時間労働の方をマネジメントした経験に乏しく、せっかく採用しても辞めてしまう」と、離職率の高さを憂える参加者も少なくなかった。

 さらに「週2日勤務の外部人材とフルタイム社員との業務分担やコミュニケーションの構築が容易ではなく、人材の融合が難しい」と、短時間勤務者の受け入れに伴う現場の混乱を指摘する声もあった。様々な勤務形態を定着させるためには、マネジメント面での工夫が必要となる。人手不足解消の手段としての「新しい働き方」の導入が、一筋縄ではいかないことをうかがわせる結果となった。

 参加者から寄せられた課題をNEC 卸売・サービス業ソリューション事業部の松下 泰男が総括。「物流業界の人手不足は大変根深い問題ですが、それを解決するために、私たちもぜひ皆様と共創していきたい。この機会を変革のチャンスと前向きに捉え、情報交換させていただければと思います」と呼びかけた。

 現在NECは、一つの施設に複数の企業が入居するマルチテナント型物流倉庫に向けに、必要な時だけ必要な人が働きに来てくれる「労働力シェアリングプラットフォーム」の開発に取り組んでいる。作業量の変動により業務の繁閑が発生しやすい庫内業務では、往々にして作業量と労働力とのアンマッチが生じがちだ。そこで、業務量のデータ分析を行い、人員の補充が必要な日や時間帯を"見える化"。テナント間で人材をシェアすることで、作業量の変動に応じて人材配置を調整する。労働力とコストの最適化を図るのが狙いだという。また、"見える化"によって、これまで時間的な制約によって働きたくても働けなかった人々などに新たな短時間の雇用機会を創出し、働き手にとっても人手不足に悩む企業にとっても魅力あるプラットフォームの実現を目指す。

開発中の「労働力シェアリングプラットフォーム」を活用したイメージ

 こうしたシェアリングのプラットフォームができれば、求職者も自分の都合に合わせてフレキシブルな働き方ができるだけでなく、自分の適性や趣味・嗜好に合った仕事を効率的に探すことも可能となる。

 「今後は、AIを使って求人企業と求職者の特徴・ニーズを分析し、人員配置の最適化を図ると同時に、マッチングの結果を企業と働き手の両サイドから定量的・定性的に評価。PDCAのサイクルを回すことによって、企業と働き手をつなぐプラットフォームを実現していきたい。我々の取り組みが、皆様が抱える問題を解決していくための一助となればと考えております」と松下氏。プラットフォームとしての完成度を高めると同時に、物流倉庫に特化したサービスも提供していきたいと抱負を語った。