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2017年12月15日

「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2017」特別セミナーレポート

経営戦略としてのワークライフバランス

 10年以上前から日本企業の働き方の問題を指摘し、ワークライフバランスの重要性を説いてきたのが株式会社ワーク・ライフバランス代表取締役社長の小室淑恵氏です。なぜ今ワークライフバランスが必要とされているのか。ワークライフバランスは企業の成長とどう関係するのか──。「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2017」での小室淑恵氏の講演をレポートします。

株式会社ワーク・ライフバランス
代表取締役社長
小室淑恵 氏

「人口オーナス期」を迎えた日本

 「ワークライフバランス」という言葉がまだ日本社会に普及していなかった2006年に起業し、企業のコンサルティングや講演、著書などを通じて働き方改革の必要性を広く訴えてきた小室淑恵氏。2014年から安倍内閣産業競争力会議の民間議員も務めながら、現在も年間200回に上る講演をこなしています。

 「ワークライフバランス」と「ワークファミリーバランス」は異なる。そんな話から、小室氏のこの日の講演は始まりました。小室氏によれば、育児や介護といった「家族の事情」と仕事の両立を目指すのがワークファミリーバランスであり、その対象は育児者、介護者にとどまります。一方、ワークライフバランスは独身者を含むすべての従業員を対象とすべきものであり、家庭生活、自己研鑽、健康のための運動といったすべての人にとっての「ライフ」と仕事を両立させようというものです。

 では、なぜワークライフバランスの実現が目指されなければならないのでしょうか。それは「人口ボーナス期」と「人口オーナス期」という言葉によって説明されます。生産年齢人口の比率が高く、人口構造が経済にプラスになる時期が人口ボーナス期で、日本ではその時期が1960年代から90年代半ばまで続いたと考えられています。その時期を終えた日本は、現在、人口構造が経済の重荷(オーナス)になる人口オーナス期に入っています。「一つの国家において人口ボーナス期が来るのは、歴史の中で一度だけです。日本にボーナス期が来ることは二度とありません」と小室氏は言います。

人口ボーナス期について(ハーバード大学 デービットブルーム教授 98年提唱) ©Work Life Balance Co.,Ltd.

 人口オーナス期には、「働く人」よりも「支えられる人」が多くなり、社会制度の維持が困難になります。そんな時期に日本はすでに入っているばかりでなく、主要国の中で最も速く少子高齢化が進行しているため、オーナス期の課題が最も顕著に表れているのです。

少子化を是正し、介護時間を確保する方法

 小室氏は、人口オーナス期に経済成長期を続けるポイントは2つあると言います。まず、女性、障がい者、介護者など、これまで労働参画ができていなかった層が働きやすくする仕組みづくりです。これが「短期的労働力確保」であるとすれば、少子化対策によって将来の人口減少に歯止めをかけるのが「長期的労働力確保」です。

 「少子化対策に必要なのは、女性が“産みやすい環境”をつくることだと考えられていますが、実は本当に必要なのは“男性の働き方改革”です。一人目の子どもがいる家庭で、夫の労働時間が長いと、妻がひとりで家事・育児をこなさなければならなくなり、育児がトラウマになって第二子をもう産みたくないと考える。そんなケースが非常に多いのです。社会全体で労働時間の上限を設定し、男性を含めたすべての人が長時間労働をしなくなる仕組みをつくらなければ、出生率は向上しないのです」

 人口ボーナス期と人口オーナス期では、働き方のルールも異なります。モノの大量生産が経済発展につながるボーナス期には、筋力が強い「男性」が、「長時間」働き、労働者の質を「均一」にすることが有効でした。それに対して、労働力が不足し、それにともなって人件費も高くなり、さらに市場の多様化も進んでいる人口オーナス期の社会では、「男女」がともに、できるだけ「短時間」で働き、「多様な」人材が活躍できる環境をつくる必要があります。

 一方、要介護者が今後激増していくという別の課題もあります。団塊世代が70代に入って要介護者が増えることで、介護で会社を休む男性の数が育児で休む女性の数を上回っている企業もすでに出てきていると小室氏は言います。この傾向に今後拍車がかかっていくことは間違いなく、高度人材も仕事に時間的な制約を受けることになります。その対策として必要なのは、仕事のやり方を属人化させずにチームで成果を出す手法を確立することです。

「評価方法の見直し」が最重要課題

 「男性」「長時間」「同質性」といった要素によって構成される「人口ボーナス山」は現在確実に沈下しつつあり、「男女」「効率性」「多様性」といった要素からなる「人口オーナス山」が日々隆起しています。いかに古い山から新しい山に飛び移ることができるか。そう小室氏は問いかけます。

「人口ボーナス山」と「人口オーナス山」 ©Work Life Balance Co.,Ltd.

 「日本社会全体で山を飛び移る必要があります。期限は2年しかありません。団塊女性ジュニアの出産期があと2年でおおむね終わってしまうからです。そのあとは、子どもを産める人がどんどん少なくなっていくのです」

 では個々の企業はどのような取り組みを進めていけばいいのでしょうか。やらなければならないことは4つ、つまり「1.女性の積極採用」「2.休業・時短勤務を経て継続就業できる制度整備」「3.長時間残業の是正」「4.評価方法の見直し」です。重要なのは、これを4から1の順で進めていくことです。どれだけ時間をかけてもいいから一定期間に成果を出せばいい──。そんな「期間あたりの生産性」での評価から「時間当たりの生産性」に評価の基準を変え、残業ありきの業務を是正することから始めなければ、継続就業も、女性活用も実現しない。そう小室氏は力説します。さらにマネジメントの方法について、小室氏はこう指摘します。

 「業務を取捨選択し、やらなくてもいい仕事をやめること、仕事の時間や場所を柔軟に捉えること、自分自身がワークライフバランスを実践し自己研鑽に励むこと。これからの大多様化時代には、その3つをマネジメントクラスが実行することが必須となるでしょう」

 具体的な働き方の見直しの方法は、4つのステップを何度も繰り返すことです。1つめは「現在の働き方を確認すること」、2つめは「業務の課題を抽出すること」、3つめは「会議で働き方の見直しをすること」、そして4つめは「見直し施策を実施すること」です。

働き方の見直し 4つのステップ ©Work Life Balance Co.,Ltd.

 もちろん、これはベーシックな方法論で、ここから生まれる具体的な施策は、100社あれば100通りの方法があると小室氏は言います。講演の最後に、小室氏は独自の施策を実行している企業の事例をいくつか取り上げ、そのポイントについても解説してくれました。

 「ワークライフバランスは、本質的にワークとライフの相乗効果、つまり“ワークライフシナジー”であると私は考えています。家庭や私生活に充てる時間が増えれば、心も身体も健康になり、外部との交流で人脈も広がります。また、自己研鑽を積むこともできます。それが仕事のアイデアやスキルアップにつながり、効率性や企画力の向上につながります。つまり、ライフが充実すれば、ワークの質が上がるのです。ワークライフバランスの実現に積極的に取り組んで、勝てる組織をつくり、一人ひとりの充実した人生を実現していっていただきたい。そう願っています」

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