第3回:5Gで加速する産業DX ~リモート化・自動化による業務革新を通じた企業価値向上~
NEC Smart Connectivity Day レポート
―過去2回にわたり、5G・ローカル5Gの可能性やそれがもたらすネットワークコネクティビティの進化、そしてNEC Smart Connectivityの果たす役割などについてご紹介してきた。ここからは、ユーザーやパートナー企業との共創を通じて、実際にNECがどのような価値を生み出してきたか、事例やユースケースを中心にひもといていきたい。シリーズ第3回は、産業領域において、5G・ローカル5Gが加速するデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みがテーマである。
ITとOTの融合を5G・ローカル5Gが推進
産業界では、労働力不足や技能継承などの従前の課題に加え、COVID-19の影響によって、非接触・非対面をはじめとする新たなニーズへの対応が求められている。このような環境下において、デジタルトランスフォーメーション(DX)が、あらゆる企業にとって必要不可欠なテーマとなった。そして、この産業DXを実践する上で重要となるのが、「ITとOT(オペレーショナルテクノロジー:制御・運用技術)が融合し、ともに進化していくこと」と、講演に立ったNEC新事業推進本部部長 藤村広祐は切り出した。
しかしながら現状では、ITとOTはバラバラに効率化が進んでいるという。その理由として、藤村は2つの要因を挙げる。ひとつは担当部門の違いで、ITに関しては情報システム部門が担当し、OTについては現場部門が対応する、この部門間の壁が、全体最適へと進まない第一の理由。2つ目は、実行するプロセスの考え方が、ITとOTでは異なることである。ITにおいては、情報を常にアップデートしていくという考えであるのに対して、OTでは現場のプロセスを止めてはいけないという観点に立っており、うまく動いているものを止めてまで新しいものを導入することには慎重である。このような違いが、ITとOTの効率化がシンクロしない原因ではないかと、藤村は指摘した。しかし、個別最適で進めていては単なるデジタル化にとどまってしまい、デジタルトランスフォーメーションつまり変革は実現できない。NECでは、5Gを軸にOTの高度化を進めるとともに、NECの強みであるIT部門との融合を図ることで、既存業務の変革、さらには新たな価値の創出といった産業DXの実現に取り組んでいこうとしている。
OTの高度化に向けたキードライバーとして藤村が掲げたのが、「リモートモニタリング」「リモートコントロール」「オートメーション」の3点。このうちリモートモニタリングやリモートコントロールは、当初は人手を介したものとなるため、省人化・効率化にあまり効果が無いのでは、という声もある。しかし、例えば建設領域においては、熟練したスキルを持つ現場監督が遠隔から複数の現場の進捗・品質管理を並行して行うことで、大きく省人化に貢献できるというのが、実証試験の中で見えてきている。さらに将来的には、AIを組み合わせた人手を介さないオートメーションにより更なる省人化・効率化などで進んで行くと予想される。このように、「リモート化」や「自動化」が、産業DXにおける重要なファクターとなっているのだ。
リモート化・自動化を考えたときに、OT領域で求められるのは、産業用ネットワークの無線化である。ではその要件とは、どのようなものだろうか。産業用ネットワークにおいては、「高信頼性」「高セキュリティ」「低遅延」といった、ミッションクリティカル性に関わる要求とともに、レイアウトフリーや設置工事の容易性、人や搬送機など移動体との通信など、運用性の高さも現場は重視する。無線LANでは、電波干渉や到達距離などに難点があり、こうしたニーズに十分応えられない面があったが、5G・ローカル5Gの登場により、ミッションクリティカル性・運用性を同時に満たせるようになった。これにより、多種多様なユースケースが一気に拡大し、OTの高度化が進展するものと期待されている。
NECの価値提供モデルとは
5G・ローカル5Gによって産業DXが進むといっても、ネットワークだけでは限界がある。NECは、社内外のアセットを組み合わせた垂直型&ワンストップなソリューション・オファリングこそが、ユーザーの課題解決に資すると考え、そのモデルの確立を目指している。それは、デバイス、ネットワーク、データアナリティクス、さらには業種ごとのサービスにいたるまで、NECだけでなく、パートナー企業が持つ強力なアセットを組み合わせる。このような共創によって提供価値を創造していく、というものである。その達成をリードするNECの技術的な強みについて、映像を活用した監視サービスである「リモートモニタリング」を例に、藤村は説明した。
映像を活用したリモートモニタリングは、5Gのユースケースとしてもっとも多いもので、現場の人やものの動きを検知しての「異常判断」や「状況把握」、無線化することによる設置容易性の向上、5Gによる広帯域化などに大きな関心が集まっている。これらのユースケースを実現するために、5Gネットワークや映像分析基盤に加えて、NECならではの技術を組み合わせ、さらなる高度化を進めており、それをいくつか見ていきたい。
まずは、「エッジコンピューティングである」。これまでもキーワードとしては目にするものであったが、5G・ローカル5Gを機に、本格的な導入がはじまろうとしている。映像解析や映像を活用する上では、AIによる分析を考慮して、低遅延性やセキュリティが重要となってくる。エッジ処理に関してはこれまでデバイスやクラウドのみで行われていたが、そこにユーザーサイトのカスタマーエッジやネットワークエッジが加わるなど、処理ポイントが多様化しているが現状だ。NECでは、処理の最適化やセキュアな管理がカギと考え、デバイス、エッジ、ネットワーク、クラウドなどを一元管理するオーケストレーション機能を提供。他社にない強みとなっている。
このようなソフトウェア的な強みに加え、アクセラレータ機能を持つデバイスやサーバーなど、ハードウェア的な強みをあわせ持つ「エッジコンピューティングにおける総合力が、NECの強み」と、藤村は強調。「エッジコンピューティングのユースケースや最適な配置ポイントなどについて、正確な答えが定まっているわけではないが、ユーザー、パートナー企業との議論や実証を積み重ねる中で、メニュー化・最適化を図っていきたい」とした。
次に取り上げたのが、第2回でも紹介した、「アプリケーション通信を高度化するAI技術」。5Gといえども無線ネットワークである以上、外部環境の影響を受ける。通信が不安定になっても、AIがそれを予測・コントロールすることで、アプリケーションを安定的に動作させる適応技術をNECは有している。たとえば、無線ネットワークを使ってリモートで現場の映像を見る場合、画面が停止したり、そのために作業が止まって効率性が落ちるといった課題がある。NECの適応映像配信技術を利用すれば、スループットの低下を予測し、映像のビットレート/フレームレートを下げることで、多少品質は落ちても映像がストップすることなくモニタリングを継続できる。これは映像制御だけでなく、建機の制御コマンドなど機器に対しても適用できるもので、これらにより現場の作業効率が格段にアップすることが、実際の事例の中でも確認されている。
最後は、産業用途においては特に重要となる「セキュリティ」である。NECでは、改ざん検知技術やブロックチェーン技術を使いながら、ソリューションとして提供するネットワーク機器の生産から運用、廃棄まで、ライフサイクル全般において、正しくつくられているか、あるいは正しく使われているかを管理し、セキュリティを担保する活動を行っている。これはNEC1社だけでなく、パートナー企業との戦略的協業によって進められており、特に重要インフラを持つユーザーに対して、ネットワークの安心安全を提供するものとなる。
数々の共創事例に見る5G・ローカル5Gのユースケース
5G・ローカル5Gは導入がスタートしたばかりの技術であることから、どんなメリットがあるのかよくわからない、という向きもあるかも知れない。そのヒントを提供するべく、製造・建設をはじめとしたユーザー企業との共創事例から、具体的な利用シーンや用途を考えてみたい。
製造業は、他の業種と比べても、IoTなどデジタル化が特に進んでいる領域である。ここに5Gの特性を活かし、エッジコンピューティング、セキュリティ、AIなどを組み合わせることで、スマートファクトリーの取り組みがさらに高度化することが予想される。センサーデータに加え、映像データが送れることによって品質検査の精度が上がる。AGV(自動搬送ロボット)などを使って、工場内の人員を削減し、リモート化・自動化を進める。生産ラインをレイアウトフリーにすることで、マスカスタマイゼーションを可能にする。さらには、ITとOTの融合によって、製造業全体のバリューチェーンのスマート化を進める。このようなステップを踏むことで、スマートファクトリー化を加速し、製造業のDXを実現することがNECの目指す姿である。
その実例として、SA型ローカル5Gによる製造業務のリモート化・自動化に向けたリコーとの取り組み、コニカミノルタ・KDDIとのパートナーシップによるローカル5G/キャリア5G両方の開発環境を備えた「ハイブリッド5Gオープンラボ」、NECプラットフォームズの工場におけるロボットの遠隔操作・遠隔作業支援の実証実験を藤村は紹介し、NECの考えるスマートファクトリーへの道のりが着々と進んでいることを示した。
スマートファクトリーにおいてはさまざまなユースケースが考えられるが、NECが特に注力しているのが「インテリジェントAGV」である。これまでも、工場や倉庫内においてAGVは利用されてきたが、移動範囲が狭い・制御できる項目が少ないといった制限があった。5G・ローカル5Gによってモビリティの向上や低遅延化が図られることで、こうした課題を解決するだけでなく、多数のAGVが協調して動くといった、より高度な自動搬送システムへと生まれ変わる。実際に、令和2年度の総務省「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」において、NECのマルチロボットコントローラとAGVを組み合わせた実証実験を実施し、インテリジェントAGVの可能性検証や工場×5Gにおける課題の洗い出しを行っている。
次に藤村が挙げたのが、建設業における事例である。建設業界においては、熟練工などを中心に人手不足の影響が深刻で、国交省で進められる「i-Construction」など、DXへの取り組みが積極的に進められている。ここでも、製造業と同様、5G・ローカル5Gとエッジ・AIを組み合わせて、現場の3Dデータ取得~建機の遠隔制御・自動化~デジタルツインによる建設現場全体の最適化といった流れにより、ICT施工の高度化を加速。建設業全体のDXが推進されている。
中でも、建機の遠隔操縦・自律運転は、もっとも重要なテーマと言えるだろう。というのも、人手不足がもっとも顕著なのは、施工段階であるからだ。バックホウやクレーンなど、建機の操縦には熟練の技が必要となるため、複数の拠点にある建機の操縦を熟練者がリモートで行う、さらには人を介さない自動化といったことが現実のものとなれば、省人化による人手不足解消に向けて大きな効果が期待できる。リモート操縦においては高精細な映像が重要になり、複数建機が協調して動く場合には低遅延性も必須となることから、5G・ローカル5Gとの親和性も高い。
実現に向けた実証も開始している。大林組・大裕とはバックホウ/ショベルカーの自律運転実証を行っている(第1回参照)。熊谷組との遠隔操縦の実証では、NECのローカル5Gラボに熊谷組が保有する遠隔運転システムを持ち込み、無人化施工に向けたローカル5Gの実用性を検証した。4Kの高精細映像を伝送するだけでなく、建機模型の傾きや振動をリアルタイムで操縦者にフィードバックすることで、実際の操縦と同じ感覚でVR遠隔操作を行うことに成功した。また、雲仙普賢岳で行われた国土交通省の実証では、前述したNECの適応技術の活用により、作業効率が2倍以上高まるなどの具体的な成果が得られている。
企業・業種を超えた取り組みの必要性
このようにユースケースが広がりつつある5G・ローカル5Gであるが、製造工程から物流にいたるまで、究極の業務プロセス改革に向けては、「企業・業種を超えたバリューチェーン改革が、必要となってくる」と、藤村は語る。そのためには、目的や環境に応じたネットワークの組み合わせだけでなく、データを連係・流通させる仕組みがあわせて必要で、ネットワークとデータ両方のコネクティビティを最適化するNEC Smart Connectivityが、そのプラットフォームとなる。
たとえば、日通総合研究所との医療機器物流におけるケースでは、センシティブであるがゆえにトレーサビリティが難しかった医療機器の物流データを、データコネクティビティによってひも付け、一元化。流通過程を可視化することでトレーサビリティを確保した。複数の事業者が関与する共同倉庫・共同配送によって輸送効率化や在庫最適化が進展したことにより、輸送コストは最大50%、リードタイムは最大30%の削減効果が見込めるとされている。
このほか、社会全体への貢献という観点から、石坂産業・インテルとの間で行っている、資源リサイクルのデジタル化によるSDGs推進も紹介された。廃棄物の自動測量の実証を開始しており、今後は重機の自動化などを進め、産業廃棄物のモデルケースとなるべく、協業に取り組んでいる。
イノベーションの創出を目指す共創環境
ローカル5Gを実際に体感し、検証できる場。それが、NEC玉川事業場に昨年開設された「ローカル5Gラボ」である。ここでは、ローカル5Gの実証に必要な免許や設備を整備し、ユーザー自身が実証したい機器を持ち込んで、ユースケース実証を行うことができる。前述したコニカミノルタや熊谷組の事例もここから生まれており、「NECだけでなく、各社が持つオープンラボと連携しつつ、5G・ローカル5G全体を盛り上げていきたい」と、藤村は意気込みを語った。
社会やユーザーにとっての5G・ローカル5G、そしてNEC Smart Connectivityの価値、それを本当に高めていくのは、「幅広いパートナー企業との共創をおいてほかにない」。セッションの最後に藤村が強調したように、NECはそれを基本的な姿勢として、今後もさまざまなコラボレーションに取り組んでいく。