第4回:データ活用で変わる!もう1つの「つなぐ」で実現する、人・くらし・まちの価値創造
NEC Smart Connectivity Day レポート
―シリーズでお届けしてきたNEC Smart Connectivity Dayレポートも、今回が最終回。前回は産業DXと5G・ローカル5Gの可能性について、ユーザー企業における事例をひもときながらご紹介した。第4回ではデータの活用に着目し、人の暮らしや街など生活領域における価値を、データの力によってどのように生み出していくか。前回同様、実際の事例を踏まえながら、明らかにしていきたい。
デジタル化の急進とNECが目指す世界
これまでのレポートでも繰り返し述べられたように、これからの世界は、デジタルが社会のあらゆるシーンに存在し、その恩恵をそれと気づかないぐらい当たり前に享受できる、いわばデジタルが常態化した世界になっていくと、NECは考えている。その中で、「テクノロジーを駆使してデータを活用し、企業の生産性向上やイノベーションを創出。人々にとってウェルビーイングな状態をつくり、社会全体が持つ力を引き出す。それがNECの想い」。NECデジタルサービスソリューション事業部部長 高木 健樹は、セッションをはじめるにあたり、データを中心とした社会変革のイメージをこのように描いて見せた。
たとえば、医療・ヘルスケア領域においては、病院・薬局・製薬会社・保険会社など、さまざまな事業者が、それぞれに異なる価値を提供している。しかしながら個人の側から見てみると、その価値はまだまだ個々のサービス内にとどまっているのではないか。本人の同意が前提だが、もしもパーソナライズされたデータが、サービス間で流通するようになるとしたら。食生活の情報や健康診断の結果を加味した上で、保険の割引をリアルタイムで行える。あるいは、医療機関が持つ患者データを安全安心に流通させることによって、旅先でもかかりつけ医と同等の診療を受けられるなど、デジタルが普通に存在し、人々がその価値を十二分に利用することができる、そのような世界が生まれるのではないだろうか。そう、高木は考える。
DXに向けたステップとNECの主要サービス
NECでは、こうしたデジタル化からDX(デジタルトランスフォーメーション)へといたる道筋を、「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「DX」の3ステップで定義している。最初は、リアルとデジタルをつなぐ「デジタイゼーション」。これまでアナログで行っていたものをデジタル化することで、価値として利用できる状態にする。たとえば、フィルムカメラからデジタルカメラへの転換がそれにあたるだろう。次に、データ同士をつなぐ「デジタライゼーション」。デジタル化されたデータを活用して価値を生み出す。デジタルカメラの例で言えば、撮影した画像をアルバム化して公開するクラウドサービスなどが思い浮かぶ。そして最後が、データとサービスをつなぐ「DX」である。データがサイバー空間上にある状態でそれらを組み合わせ、いままでにないような新しいサービスや、これまでと全く異なる業務のやり方を生み出す。こうしたブレークスルーを果たすことが、DXである。
NECは、これらを推進するためのサービスとして、「オンライン本人確認サービス」「パスワードレス多要素認証サービス」「請求書デジタル化サービス」「パーソナルデータ流通サービス」「IDコネクトサービス」「データコネクトサービス」の6つをはじめ、さまざまなサービスをNEC Smart Connectivityのラインナップとして提供している。その中から、「オンライン本人確認サービス」「パーソナルデータ流通サービス」「データコネクトサービス」について、詳しく述べたい。
【オンライン本人確認サービス】
これまで対面で行っていた本人確認業務をオンラインで行うことで、業務の効率化・スピードアップを図り、ユーザーの利便性を向上させるサービス。たとえば新規に通信回線を申し込む際には、規約の同意や個人情報など申し込み情報の入力を行った上で、本人確認を行う必要がある。NEC Digital KYCでは、OCRにより、撮影された本人確認書類の券面(ex. 自動車免許証)から自動で文字情報を抽出→NECの顔認証技術を用いて、券面の顔情報と実際の本人の顔情報を照合させることによって一致度を確認、という流れで、本人確認をオンライン上で完結させることが可能だ。
【パーソナルデータ流通サービス】
数多くのサービスにおいて、それぞれ別個に存在するIDをエンドユーザー自身で紐づけしていき、本人の許諾の元でデータを流通する仕組み。ひとつのIDで複数のサービスを利用できるシングルサインオンなど、使い勝手やサービスの向上に効果を発揮する。NECのサービスはさまざまな認証・認可に対応し、またAPIベースであるため、サービス間連携をスムーズに行え、認証・許諾からデータ連携までをトータルにサポートできる点に特徴がある。
【データコネクトサービス】
パーソナルデータ流通サービスが個人のIDを紐づけているのに対し、データコネクトサービスでは、「もの」やシステムのデータ内にあるIDを軸につないでいく。これからの社会では、複数のデータに対して複数のサービスがN対Nで結びつき、提供されるようになっていくと考えられる。あらゆるデバイスや既存システムとの接続を容易にし、必要な人と必要なデータをつなぐことで企業のサービス価値を向上しようとするのが、このサービスである。複数の交通機関のデータを組み合わせて、最適なルートや交通手段を提案する「MaaS」のようなサービスをイメージすると、わかりやすいかも知れない。
データ同士を接続するための”データアダプタ“、どのようなデータが格納されているかを把握するための”データカタログ“、どのような開示範囲が定められているかを踏まえた上でデータを流通させる”データガバナンス“など、データコネクトサービスは複数の機能によって構成されており、これらを組み合わせることで、システム間・企業間のデータ流通を安全かつ効率的に行うことができる。
従来型のバリューチェーンでは、製品を販売した時点など一時的な価値提供にとどまっていたが、IDをキーにシステムやサービスを連携させることで、顧客の体験価値を波及的に増幅させる。これが、NEC Smart Connectivityにおけるデータ活用の基本的なコンセプトとなっている。
このように、さまざまな領域で、さまざまなビジネスやサービスが連携するにあたっては、網羅的かつ実践的なアプローチが欠かせない。また、ユーザーのステージも、デジタイゼーションからデジタライゼーション、DXへと進化をしていくため、将来の変化を見据えた戦略や設計が重要である。そのためNECでは、技術やソリューションだけでなく、どのようにDXを実現していくかを顧客と一緒に考えるビジネスコンサルティングにも力を入れている。「デジタルビジネスアーキテクチャー」に基づき、戦略・ルールづくり、組織やサービスのデザイン、オペレーションおよびデータマネジメント、そしてプラットフォーム構築にいたるまで、一気通貫型のサービスを提供。「アジャイル型でプロジェクトを進めながら、価値検証を繰り返し、ステップを確実に踏みつつ次のフェーズに進むスタイルを取ることで、早期に結果を出す」。NECならではのコンサルティング・アプローチを、高木はこう定義づけた。
なぜ、NECにはそれが可能なのか。その理由として高木は、「フレームワーク」「経験のフィードバック」「データに関する知見」の3つを挙げる。「フレームワーク」は、先ほどのデジタルビジネスアーキテクチャーにより、論理的・網羅的で、メリハリのついた検討が可能であることを指す。「経験のフィードバック」とは、NEC自身が、実際にこのフレームワークを活用して自社の新規事業開発・ビジネスモデル検討に取り組んでおり、その経験を顧客ビジネスにフィードバックできること。そして「データに関する知見」は、個人情報などクリティカルなデータに関するレギュレーション策定や管理・運用において、NECが培ってきた業界屈指の知見を生かすことが可能、といった点である。これらの特長により、データを活用した新事業開発を「よりスムーズに、より確実にサポートすることができる」と、高木は胸を張る。
ユーザー事例に見るデータ活用と価値創造
ユーザーとの共創の元、個人を対象としたものから企業や街・暮らしに関わるものまで、NEC Smart Connectivityを活用したさまざまな価値創造が、既にはじまっている。その中から、高木がまず取り上げたのが、GMOペイメントゲートウェイにおける「SMSを活用した新たな決済サービス」である。請求処理に際して、これまでは紙媒体で通知を送っていたが、SMSにより請求書をデジタル化。エンドユーザーは、SMSから通知された情報をベースとしてスムーズに収納サービスへと連携でき、利便性が飛躍的に高まる。また、通知発送にかかっていたコストや環境負荷の低減にも、同時に貢献するものだ。
次は、NTTドコモの「リモートによる本人確認」。同社の「d払い」アプリで送金や出金などを行う場合に必要となる本人確認手続きを、すべてオンライン上で完結するもので、利用者のプライバシーや利便性に配慮したセキュアな本人確認を可能とした。非対面・リモートが前提となるニューノーマルの時代にあって、オンライン本人確認は必須のサービス要件となっていく。さまざまな領域での応用が期待されるサービスである。
自治体における事例としては、東京都の「次世代ウェルネスソリューションの構築事業(モデルプロジェクト)」に採択され、ウェルネスサービス事業化に向けた実証実験を行っている。複数の事業者が参画する産学官連携により、各プレイヤーが保有するデータの統合・分析を通じて、ウェルネスに関する地域課題の見える化や、データを活用したサービスの有効性検証、データ活用プラットフォームの実装に向けた課題整理などに取り組んでいるところだ。
このほか、第3回でも紹介した、日通総合研究所との「医療機器物流におけるトレーサビリティ実証実験」においては、輸送コストとして最大50%、リードタイムも最大30%という大きな削減効果があがっていることなどを取り上げ、既存システムの抜本的な見直しや、これまでにない事業の創造におけるデータの可能性が、共創の中から見えてきていると、高木は報告した。
最後に、50社以上・約100名が参加する5G Co-Creation Workingの活動にふれ、社会変革における共創の意義と重要性をあらためて強調した後で、高木はセッションを次のように締めくくった。「『できたらすごい』を、ぜひ一緒につくっていきましょう」。