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5G / Beyond 5Gは社会をどう変えるか
KDDIとNECがめざす新しい未来

 2020年3月に日本で5Gの商用サービスが開始されてから、およそ1年半が過ぎた。5Gという言葉は社会にも浸透し、産業や個人の生活にも少しずつ広がりつつあるように見える。

 社会を大きく変革し、AIやIoTの活用を加速させるといわれる5Gの最前線ではいま、どのようなことが実現され、どのような社会価値を提供しているのか。さらにはBeyond 5G(5Gの次の世代)に向け、2030年代の未来はどのように変わるのか。「NEC Visionary Week 2021」で実施されたセッション「5G / Beyond 5Gへ向けたネットワークが切り拓く未来」では、KDDI執行役員の佐藤 達生氏とNECで5Gを中心とした次世代ネットワークサービス事業を推進する渡辺 望が5G / Beyond 5Gの未来のビジョンや実現に向けた要素技術、普及に向けた共創の取り組みを語った。

5G / Beyond 5GでSociety 5.0を加速させる

 340万台超。2021年6月時点でKDDIにおいて使用されている5G端末の数だ。サービス開始から約1年半の間で、デバイスは着実に浸透していることがわかる。5G対応エリアも着実に拡大しており、山手線や大阪環状線では既に全駅ホームへの導入が完了しているという。そんなKDDIが現在提示するビジョンが「KDDI Accelerate 5.0」だ。KDDI 執行役員の佐藤氏は「Society 5.0に向けて、社会を加速させる」と語る。

 「サイバー空間とフィジカル空間の間でデータが循環する社会、Society 5.0の実現をめざします。そのために、いま私たちはNetwork、Security、IoT、Platform、AI、XR(注1)、Roboticsの七つのテクノロジーに注力しています。各テクノロジーは、決して独立したものではありません。それぞれが密接に連携し、調和することによって価値を生み出していきます。」(佐藤氏)

 実際、KDDIではこれらの技術を活用したさまざまなサービス提供を始めている。佐藤氏が強調するのは「ユーザセントリックアーキテクチャ」というキーワードだ。ユーザーがシステムに合わせるのではなく、システムがユーザーの置かれた状況に応じて、最適化されたサービスを提供していく。たとえば、Network技術においては「ユーザセントリックRAN」という技術を開発している。従来、無線通信は基地局でセル化していたため基地局から離れたセル境界では品質劣化が生じていたが、本技術では無線基地局間での連携を実現して品質劣化を防止する。ユーザーは特に何も操作をする必要はなく、最適化された通信を享受できる。

KDDI株式会社
執行役員 技術統括本部 技術企画本部長
佐藤 達生 氏
KDDIが推進するユーザセントリックアーキテクチャ

 「重要視しているのは、ユーザーが意識せずに使うことのできるシステムづくりです。面倒な設定や動作があっては、普及も発展も難しくなります。そのためには、ユーザーがいる場所や環境に応じて最適なネットワークをダイナミックに提供することが必要です。ユーザーの利便性が向上するのはもちろん、効率が高まるのでエネルギー消費の削減にもつながります。」(佐藤氏)

 XR技術においても「ユーザセントリックアーキテクチャ」の考え方は通底している。

 「ユーザーの皆様に3Dのデータを現実のように感じていただくためには、さまざまな方向から違和感なく見られることが重要になります。しかし、データをたくさん流し過ぎてしまうとデータ量が膨大になり遅延が起きてしまいます。そこで、処理を簡潔化するために3Dのデータを点群として捉え、データを圧縮するこという取り組みを行っております。これによって、よりリアルな体験を瞬時に送信することができます。」(佐藤氏)

 一方で、KDDIはネットワークエリアの拡大というミッションにも取り組んでいる。それは地域エリアの拡大というだけにとどまらない。

 「水中での通信も実現しています。青色LEDの光無線通信を使った約100Mbpsの大容量ワイヤレス通信です。陸上と水中のダイバーとのコミュニケーションも円滑になりますし、水中のライブ映像もリアルタイムに送信することが可能になります。無人探査船や水中データのセンシングにも活用ができると期待しています。」(佐藤氏)

 最後に、セキュリティにも言及した。

 「今後、量子コンピュータに代表されるようなより高度な処理ができるようになると、ネットワークへの攻撃も高度になっていきますから、これに対しての防御も必要です。KDDIではプライバシー管理技術の標準化や量子暗号の安全性向上にも取り組んでいます。」(佐藤氏)

  • 注1: クロスリアリティ。VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)の総称。

NetworkとAIの技術の共進化でめざす「テレX社会」

 一方、NECでは「テレX社会」という概念を掲げる。NECのネットワークサービスビジネスユニットでコーポレート・エグゼクティブを務める渡辺は、そのビジョンに込めた思いについて次のように語る。

 「Beyond 5Gによる新しいコミュニケーションによって、未来の世界ではさまざまな制約を超えて活動ができるようになると考えています。時間や空間、あるいは人間の知覚や運動能力も超えたコミュニケーションも可能になるでしょう。そのなかには、かつてテレポーテーションやテレキネシス、テレパシーと呼ばれていたようなものさえも含まれます。そうした意味合いを込めて『テレX社会』と名付けました。」(渡辺)

NECが考える「テレX社会」

 人やモノに関するあらゆる情報、過去のデータや将来の予測、あるいは人間の五感に関する情報をネットワーク経由で瞬時に共有することで、時間や空間の違いといった障壁を取り除くことができるようになる。5G / Beyond 5Gにはそのような従来の現実感を超えるような新しい未来を促進する力がある。では、NECは、具体的にどのような技術を開発しようとしているのか。

 「5Gの無線技術は、二つの方向に伸ばしていこうとしています。一つは超高周波数を使いこなすことによって、超広帯域通信を実現しようというものです。この技術は、さまざまなデバイスを高度に制御するために必要不可欠です。もう一つは、空や宇宙までも含めたあらゆる場所でサービスを提供できるようにカバレッジ強化を進めていきます。

 また、このような通信技術の進化は、サービスやアプリケーションの基盤技術の進化をも後押ししていくものです。NECではBeyond 5Gを単にネットワークの進化と捉えるのではなく、AIなどのデータ処理基盤を融合した社会インフラ基盤の進化と捉えて取り組みつづけています。」(渡辺)

 古くからComputers & Communicationsを掲げてきたNECらしい切り口だ。

 「サービスやアプリケーションの基盤技術としては、大阪大学と協働して『確率的デジタルツイン』というテクノロジーの研究を進めています。これは、現実世界で起きる誤差や不確実性を踏まえて、より柔軟な環境適応制御を実現しようとするものです。一つの計算結果に基づいて制御するのではなく、確率分布をもとにさまざまな結果を推定し、リアルタイムに最適な判断をしていきます。たとえば、工場や倉庫における運搬ロボットを考えると、現在では衝突リスク回避のために動線分離などの措置が取られています。しかし、ここに本技術を適用すれば、ロボットが自律的かつ高精度に衝突を回避していきますから、エリアの区別も必要なくなるでしょう。延いては、我々が普段生活しているような生活環境の中でも、ロボットと安全に共存できるようになると考えています。今後、実世界と仮想世界の融合を広い範囲で展開していくための一つの鍵になるものだと考えています。」(渡辺)

NEC
ネットワークサービスビジネスユニット コーポレート・エグゼクティブ
渡辺 望

オープンイノベーションで加速させる社会実装

 5G / Beyond 5Gは、社会を変革するほどのインパクトを持った技術だ。しかし、いかに優れた技術であっても上手く社会に役立てられる価値を創り出せなければ意味がない。

 モデレーターを務めたForbes JAPAN Web編集部編集長の谷本 有香氏も「5Gというと技術論に終始しがちだが、いかに顧客や生活者を豊かにできるかという価値提供が重要」と指摘する。

 「5GやBeyond 5Gは、産業界のみならず社会全体の重要なインフラになっていくと思います。生活者を含んだ多くのステークホルダーを生み出し、さまざまなユースケースをつくりだすものになるはずです。そうなると、5Gの時代は多数のステークホルダーが関わり合って、コラボレーティブにサービスをつくり上げる時代になってくると思います。そのような共創の取り組みは進められているのでしょうか。」(谷本氏)

 これを受けて、佐藤氏は「私たちも生活者目線でのサービス開発が大切だと考えています」と語り、自社の取り組みを紹介した。

Forbes JAPAN Web編集部
編集長
谷本 有香 氏

 「私たちは、虎ノ門に三つの拠点を持っています。一つは法人新規事業のビジネス開発の拠点です。もう一つは『KDDI DIGITAL GATE』というもので、デザイン思考やアジャイル開発の手法を使って企業の課題を解決し、新しい価値を創出しようとする施設です。2018年9月に設立して以来、現在までに400社以上の企業様にご利用をいただきました。
 そして、昨年12月には『KDDI research atelier』を設立しました。ここでは、生活者の目線でライフスタイルやユースケースの発掘をするという活動をしています。『アトリエ』という名が示す通り、KDDIだけではなく、さまざまな分野のパートナーが実際に開発や実験を行う作業場としての機能を有しています。この作業場から、パートナーとともに人々の暮らしを豊かにするサービスができあがる。そのようなことを期待しています。」(佐藤氏)

KDDIのオープンイノベーション拠点

 オープンイノベーションによって新しいアイデアを生み出し、すばやく事業化へつなげていく。多様な可能性を持ち、スピーディーな開発が求められる5Gにおいては、とりわけ重要なアプローチだ。渡辺もこれに応じ、NECでも同様の取り組みを行っていると述べる。

 「私たちNECでも各種テクノロジーを検証し、お客様と価値創造するための共創活動の場は不可欠だと感じ、用意してきました。一つは『5G Co-Creation Working』です。これは参加企業様と課題、ニーズ、技術を共有して、新たな取り組みやサービスを共に作り上げようとするコミュニティです。
 また、『ローカル5Gラボ』は気軽に実証実験ができる施設です。ローカル5Gの有効性を試してみたいというお客様やパートナー企業様に実際の機器やソリューションをお持ち込みいただき、コンパクトにユースケース実証を行うことができる施設になっています。開設以来、非常に多くのお客様にご利用いただいている施設です。
 そして今年の9月には『我孫子実証フィールド』を新設しました。NECの我孫子事業場に、建設現場を想定した屋外検証施設を設立したものです。建設現場での5GやAIを活用したソリューションの実証実験が行えるようになっています。」(渡辺)

NECの共創環境のご紹介

 また、こうしたオープンイノベーションの流れは、日本の中だけに閉じてしまっては意味がない。佐藤氏は「世界に仲間を増やし、世界で幅広く使われる方法と技術を広げていくことが重要」と強調した。 世界を視野に入れながら、幅広く多様な人材の組織と連携し、新しい未来を切り拓いていく。谷本氏は、次のように述べてセッションを締めくくった。

 「これから本格的に始まる5G / Beyond 5Gという時代においては、さまざまな制約がなくなっていくのだと思います。私たちもそれに見合う想像力と創造力を発揮しながら、アジャイルに対応していくということが必要なのではないでしょうか。1社でこの時代を乗り切るのではなく、さまざまな方たちが集まってアライアンスそしてコンソーシアムを組んで、共に乗り越えていく。仲間作りをしていく。それが次世代の社会のあり方なのではないかと思います。」(谷本氏)

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