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顔認証の利活用
~人権に配慮したNECの取り組み~

 顔で本人確認を行い、ゲートを通過したり、買い物を行ったりできる。生活のさまざまな場面で顔認証を使う場面が増えている。今後も顔認証技術を広く活用し、その価値を引き出すには、顔画像の安全な保護など人権・プライバシーへの対応が必要だ。 NECは顔認証技術の適正な実装と利活用に向け、技術開発を含めて人権・プライバシーに配慮したさまざまな取り組みを実施している。

さまざまな分野で進む顔認証技術の活用

 航空業界で新しい取り組みが始まっている。顔認証を使った新しいスマートな搭乗手続きだ。自動チェックイン機でパスポートを照合すると同時に顔画像を登録。その後は搭乗券やパスポートを提示せずとも保安検査場などを通過できるという。

 この航空業界の事例だけでなく、観光、スポーツやコンサートなどのイベント会場での本人確認、そしてオフィスのセキュリティなど、社会のさまざまな場面で顔認証の導入が進んでいる。

 物理的な鍵やチケット、ICカードなどと違い、顔画像は紛失や盗難、なりすましのリスクが基本的にはない。携行を忘れたりする心配もなく、安全性と利便性の両方を高めることができる。指紋による生体認証でも同じような効果が期待できるが、デバイスに接触する必要がある指紋に対し、顔は非接触で認証できる。コロナ禍の環境変化も顔認証の活用促進につながっている。

安全・安心・公平・効率という社会価値の創造を目指す

 生体認証が社会の安全性や効率を高めることは間違いない。だからこそ正しく使って、そのメリットを享受すべき。今、欧米や日本などでは、政府が主導してガイドラインを策定したり、法律による規制を定めたりする動きが進んでいる。

 NECも企業の立場から、生活者が技術を安心して利用できるように生体認証の価値を引き出すさまざまな取り組みを進めている。

 「顔認証で使用する顔画像は、当然、適切に保護されるべき個人情報です。顔認証の価値を正しく引き出すには、情報保護やプライバシーを無視することはできません」とNECの徳島 大介は話す。

 広く知られている通りNECの顔認証技術は、世界ナンバー1の精度を誇る(※)。自他共に認める顔認証業界のリーダーだ。その自覚のもと、顔認証の適切な利用を促す環境整備においても積極的にリーダーの役割を務めようとしているのである。

  • (※) 米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証ベンチマークテストでこれまでにNo.1を複数回獲得
     NISTによる評価結果は米国政府による特定のシステム、製品、サービス、企業を推奨するものではありません

 具体的にNECはプライバシーや公平性といった人権尊重の考え方をバリューチェーンの各プロセスに組み込む取り組みを進めている。2018年には、その推進役として「デジタルトラスト推進本部」という専門組織を設置。翌2019年には同本部が中心となって、人権の尊重を最優先して事業活動を推進するための指針である「NECグループ AIと人権に関するポリシー」を策定するなど、既にさまざまな取り組みを進めてきた(図1)。

図1 7つの分野からなるNECグループ AIと人権に関するポリシー
図1 7つの分野からなるNECグループ AIと人権に関するポリシー
公平性やプライバシー、透明性など、7つの項目でポリシーは構成されている

 「社会価値創造企業としてNECが目指すのは、安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会を実現すること。そのためには、技術、製品、サービスの開発、提案、インテグレーション、稼働後の運用など、あらゆる段階で性能や機能を高めるだけでなく、人権・プライバシーリスクを低減し、不安を解消するための仕組みを整えなければなりません。NECは、そのために幅広い活動を行っています」と徳島は語る。

NEC
デジタルトラスト推進本部
シニアマネージャー
徳島 大介

ルールづくりから社外有識者との意見交換まで幅広い取り組みを実施

 人権・プライバシーリスクの低減のために、全社的なルールづくりや社員教育を行ったり、積極的に外部の有識者と意見交換を図ったり、自身の経験や知見をお客様に提供したり、NECの取り組みは多岐にわたる。代表的な取り組みをいくつか紹介しよう(図2)。

 まずNECは、商品・サービスの営業、開発、運用プロセスの中に人権・プライバシーリスクを低減するためのチェックを組み込み、プロジェクト単位でリスクの点検を行っている。製品開発時の品質チェックと同じように、その製品が人権やプライバシーを侵害してしまうリスクがないかを点検するのである。「個人情報保護法などの法律に沿った項目だけでなく、NECの経験や知見を反映して独自に定めた項目もあります」と徳島は説明する。

 過去に例のないプロジェクトにチャレンジする場合は、デジタルトラスト推進本部のメンバーがプロジェクトに直接参加しながら、人権・プライバシーの観点に目を配り、最適な社会実装を目指す。

 2つ目に紹介するのは社内教育だ。NECはグループの全社員に向けて、生体認証関連事業における人権・プライバシーに関する年1回のWeb 研修を義務化。毎年約5万人が受講している。ほかにも生体認証事業に携わる社員向けに、社外から有識者を招いたセミナーを実施して、社員の人権・プライバシーに対する理解を深めている。

 3つ目の取り組みは外部有識者との対話だ。NECだけであるべき姿を模索するのではなく、弁護士、法学者、消費者団体代表など、外部の有識者から多様な意見を取り入れるべく「デジタルトラスト諮問会議」を年2回開催。国内外の動向を踏まえ、規制や社会受容性などの今後の動向、強化すべき取り組みの内容などについて議論している。

 また、外部の意見を取り入れるだけでなく、NECの経験や知見をオープンにし、広く社会に役立てる取り組みも行っている。

図2 NECの取り組み
図2 NECの取り組み
人権・プライバシーリスクの低減のために、全社的なルールづくり、社員教育を行ったり、外部有識者との意見交換などに取り組んでいる

技術開発でもプライバシー保護に要請に応える

 人権・プライバシーに配慮するために開発された技術もある。

 ある調査の結果を見て欲しい(図3)。役職、年齢ともに幅広い層のビジネスパーソンに「今後、生体認証を活用するにあたって、注視する心配事項をお教えください」と問いを投げた。すると「なりすましや情報漏えいによる悪用」を心配する声が多く寄せられた。

図3 顔認証の悪用・誤認を心配する意見
図3 顔認証の悪用・誤認を心配する意見
※「生体認証」に関するアンケート ITmediaとNEC調べ 2021/3/10-3/31
「今後、生体認証を活用するにあたって、注視する心配事項を教えてください」の問いに対して、回答の約半数が悪用や誤認についての意見だった。

 それに対してNECは先進的な技術を開発した。

 顔認証では、顔画像から顔の特徴を圧縮した「特徴量」を使用して認証を行う。特徴量から元の顔画像を復元することはほぼ不可能ではあるが、当然、プライバシー保護の対象になる。国際標準化機構(ISO)は、その取り扱いについて、元の状態に戻せない「不可逆性」、異なるシステム間で特徴量を流用できないようにする「リンク不可逆性」、そして必要に応じて差し替えることができる「取り換え可能性」を確保することを原則として掲げている。

 この原則を満たすためにNECが開発したのが「キャンセラブル生体認証」と「秘匿生体認証」である。

 具体的にキャンセラブル生体認証技術は、登録画像から生成した特徴量を基に「鍵」を用いて「不可逆に変換した特徴量」を照合に使う。

 また顔認証システムごとに鍵を変えれば、ある顔認証システムで利用している特徴量をほかのシステムでは利用できないようにする「リンク不可逆性」も満たす。さらに特徴量が漏えいしたとしても、新しい鍵を用いて別の特徴量を生成することで、既存の特徴量をキャンセルすることができ「取り換え可能性の確保」も満たすことができる。

図4 キャンセラブル生体認証技術イメージ
図4 キャンセラブル生体認証技術イメージ
仮に情報が漏えいしてしまった後も暗号鍵を変更することで、照合用生体認証情報の更新や無効化が可能になる

 もう1つの秘匿生体認証技術は、特徴量を暗号化したまま照合を行う技術である。キャンセラブル生体認証技術同様に、万が一特徴量が漏えいしても強固に保護され、リンク不可逆性と取り換え可能性の確保の要件も満たすことができる。いずれも、まさに安全・安心に顔認証を活用していくために開発された技術だ。

図5 秘匿生体認証技術イメージ
図5 秘匿生体認証技術イメージ
顔画像や指紋などの登録時から処理の実行まで、一貫して生体特徴量を暗号化し、管理者であっても生体特徴量を入手できない

 「人権・プライバシーリスクへの対応は、単にルールを守るためだけの取り組みでも、事業にブレーキを踏ませる制限でもありません。NECがこれらのリスクと向き合い、低減することで、お客様が正しく顔認証を活用し、その価値をしっかりと享受できる。いわば価値を引き出すための取り組みなのです」と徳島は強調する。

 安全・安心という社会価値を創造するために、どのような技術を開発し、どうやって社会に実装していくか。これからも全社を挙げて人権・プライバシーリスクの低減に取り組みながら、NECは顔認証技術の価値を高めていく。誰もが安心して顔をかざし、さまざまなサービスを受けられる。そんな未来を当たり前にするために、NECに寄せられる期待は大きい。