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メガバンクと地銀の垣根を超えた、新たなビジネスマッチングとは

 社会の変化にともない各産業が変革を迫られるなかで、三井住友銀行は「ビジネスマッチング」に可能性を見出している。2019年5月に同行がNECとともに始動したマッチングプラットフォーム「Biz-Create」はオンライン上で企業と企業がつながる場をつくりだし、去る2020年11月には三重銀行と第三銀行も参画した。銀行がもつ信頼性の高い情報をベースに全国へと広がっていくこの新たなプラットフォームは、地域や産業の壁をなくすことで銀行のみならず日本のビジネスのあり方を大きく変えようとしている。

銀行が加速させるビジネスマッチング

 デジタルトランスフォーメーション(DX)の加速や新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大によって社会が変わりゆくなかで、あらゆる産業は変革が求められている。それは銀行も例外ではない。なかでも三井住友銀行が新たな可能性を見出しているのが、「ビジネスマッチング」だ。

 「お客さまの商品やサービスが日々多様化し高度化していくなかで、銀行員がお客さまのニーズを聞いて新たなビジネスパートナーをご紹介するビジネスマッチングのニーズが高まっています。そこで当行がもつ顧客基盤やネットワーキング力をベースにNECさんのもつ最先端のデジタル技術を活用して立ち上げたのがBiz-Createというマッチングプラットフォームです」

 三井住友銀行 の高瀬 優梨江氏がそう語るように、同行はこれまで主に個々の銀行員の知識やつながりを軸に行なってきたビジネスマッチングをデジタル化することでさらにその可能性を広げようとしている。2019年5月に三井住友銀行とNECが立ち上げた「Biz-Create」はオンライン上で自由にビジネスニーズの発信・閲覧ができる商談の場を提供しており、2021年2月末時点で9,000社の企業が参加する巨大なプラットフォームへと成長しつつある。現在、月間商談件数は約1,300にのぼり、銀行員が入らずとも活発なマッチングが進められているという。

 COVID-19の感染拡大によるリモート化がオンラインマッチング需要を高めたことは言うまでもないだろう。昨年の緊急事態宣言発令を受けて利用企業やニーズの掲載件数も増えたほか、さまざまな企業がプラットフォームへ参入している。「参加企業の約4割は年商100億を超える大企業ですが、地方の中小企業やベンチャー企業も多く参加していますし、最近は自治体や学校法人の参加も増えています」と高瀬氏が語るように、金融機関のもつ信頼性の高い情報がベースとなっているためプラットフォームの間口は広く、リモート化の後押しを受け参加企業はますます増えているという。

 注目すべきは、2020年11月から新たに地方銀行の三重銀行と第三銀行がこのプラットフォームとの連携を始めたことだ。銀行の垣根を超えたつながりが生まれることでマッチングの機会が増え、そのネットワークは首都圏のみならず全国へと広がろうとしている。

三井住友銀行 法人戦略部 部長代理 高瀬 優梨江 氏

銀行の壁を超えたコラボレーション

 「金利競争の激化やCOVID-19によるリモート化など社会が変わるなかで金融機関に求められるものが変わってきていると感じていました。なかでも営業の現場ではお客さまの本業支援を強化していたため、三井住友銀行のネットワークをお借りしながら地方の力を全国に広げていけるBiz-Createはすばらしいツールだと感じました」

 そう語るのは、三重銀行 の高橋 晴邦氏だ。三重銀行もかねてよりビジネスマッチングに取り組んでいたが、他方では銀行員の知識にも限界があるため自社のネットワークを活かしきれていないと感じていたという。第三銀行の高木 久年氏も高橋氏の発言を聞いてつぎのように語る。

 「地域金融機関は情報やネットワークが地域に限定されてしまいやすい。Biz-Createがあれば、いいものをつくっているお客さまの全国展開をサポートできるはずです。コロナ禍を経て事業拡大や新規事業の創出を検討するお客さまも増えているので、三井住友銀行のネットワークとうまくつなげられるといいなと思います」

三重銀行 営業企画部 部付部長 兼 営業企画課長 中尾 淳 氏(左)
三重銀行 営業推進部 法人推進課 上席部長代理 高橋 晴邦 氏(右)※

 Biz-Createは単に新たなチャンスをつくるのみならず両行が現在直面していた課題を解決するものでもあったというわけだ。高橋氏は「これまでは銀行員は企業の実権者と話せるので豊かな情報を得られる一方で、現場のニーズを掴みきれない部分もありました」と語り、同行の中尾氏も「本来は銀行員も工場を見学するなどいろいろな人に会ってニーズを探らなければいけないのですがコロナ禍だとそれも難しく、現場との温度差が生まれやすい状況にありました」と続ける。Biz-Createが広がっていくことで、銀行内の部署間や顧客との温度差も解消していくだろう。

 メガバンクと地方銀行の連携という異例の取り組みは、三行が同じ方向を向いていたからこそ実現したものだ。高瀬氏も「金融機関によって考え方も文化も違いますが、共通しているのはお客さまに新たな価値を届けたいという思いです。銀行ごとの特長を生かしつつ、今後もひとつのチームとして課題を解決していきたいです」と続ける。東海地区に拠点を求めていた三井住友銀行にとっても今回の連携は武器となる。垣根を超えた連携はどの銀行にとっても大きなメリットをもたらすようだ。

取材は三重銀行・第三銀行と遠隔でつなぎながら行なわれた

全国をつなぐ巨大なプラットフォーム

 高瀬氏によれば、三重銀行と第三銀行のみならず、今後はその連携を全国に広げていく予定だという。その先に見えてくるのは、全国の企業が自由に商談を交わせる新たなプラットフォームだ。

 「ビジネスマッチングという切り口で全国の企業を元気にしていきたい。限られた地域だけでなく全国にネットワークを広げることで、新しいビジネスを生み出せる場を提供していけたらなと。そのためには連携いただく金融機関へのメリットもつくり出していかなければいけないと考えています」

 そう言って高瀬氏は金融機関同士の連携に2つのメリットを挙げる。まずは銀行本業の拡大だ。従来銀行員は顧客の財務部とやりとりすることがほとんどであったが、Biz-Createを通じて営業部や海外事業部とつながることでこれまで以上に顧客のニーズを理解できるようになり、新たな提案を行えるようになる。ふたつめは、顧客への新たな営業スタイルの提供。Biz-Createでは顧客同士が直接やりとりできるうえに、顧客自身の言葉でプロモーションできるため、従来の営業スタイルとは異なる新しいコミュニケーションツールを顧客へ提供することにつながっていく。

 もっとも、三重銀行と第三銀行から見ればすでに現状のプラットフォームで十分大きなメリットはある。第三銀行の上林 直樹氏は「今年1月に実施したオンライン商談会など、コロナ禍で商談ができない状態で活発にやりとりできるだけでも十分魅力的だと感じます」と語る。「お客さまからすると営業の効率化にもつながりますし、お客さまの事業発展はわたしたちにとっての喜びでもあります」

 三重銀行の高橋氏も「お客さまからは経営の効率化につながったとフィードバックをいただいています」と語る。「お客さまと販路拡大について話すときにBiz-Createを紹介できるだけでもわたしたちの強みになります。今後は各地域の地方銀行に参画いただくことで、地域と地域をつなぐツールになるといいなと。先駆けて当行にご相談いただけたことはとても嬉しかったです」

第三銀行 営業推進部 法人営業課 課長 高木 久年 氏(右)
第三銀行 営業推進部 法人営業課 推進役 上林 直樹 氏(左)※

「地方」という言葉がなくなる日に向かって

 Biz-Createの拡大は、銀行業の変革だけでなく日本のビジネス全体が変わっていくことを示唆しているだろう。まず変化が生じていくのは地方経済だ。

 「Biz-Create上でのマッチングは単に売上につながるだけでなく、企業の情報発信や雇用の創出、地域のブランディングなどにつながっていくはずです。マッチングが増えていくことによって地方に人が集まって発展し、地域活性のための循環が継続的に起きていくような環境をつくっていきたいと考えています」

 高瀬氏の発言に、第三銀行と三重銀行も賛同する。第三銀行の高木氏は「Biz-Createの広がりによってこれまで関わり合えなかった人々がつながれるようになっていく。これまで地域の企業が届かなかったところまで影響力を発揮できるようになり、雇用に繋がっていくことは地域活性化になるはずです」と語った。

3行の連携にあたっては今回参加したメンバーが日々熱心にディスカッションを重ねたという

 高木氏の発言を受け、三重銀行の中尾氏は「地方創生から地方という言葉がなくなるのが理想です」と語る。「生産と消費のサイクルが活発に回っていくことで商流が活性化され、地域格差もなくなっていく。地域経済や地方創生というような言い方ではなく、日本全体のビジネスが継続的に活発化するような環境をつくっていくことが重要なのだと感じます」

 「お客さま自身が業務のトランスフォーメーションに動かれているなかで、より一層、お客さまからのご要望に耳を傾け、お客さまにご満足いただけるマッチングプラットフォームをチームで目指していきたいと思っています。ビジネスマッチングといえばBiz-Createといわれるようなデファクト・スタンダードになればいいなと。金融機関や地域の垣根を越えて日本全国のビジネスを盛り上げていきたい、その思いに賛同いただける地域金融機関のみなさまとBiz-Createの仲間の輪を拡げていきたいと考えています」

 そう高瀬氏が語るように、Biz-Createはさらに拡大する可能性を秘めている。テクノロジーの発展により離れていても自由にコミュニケーションがとれるようになって久しいが、だからといって日本中の企業が自由にコラボレーションできるような環境はまだ生まれていないのも事実だ。金融機関がもつ圧倒的な情報量によって初めて成立したBiz-Createという新たなプラットフォームは、NECがもつAI等のデジタル技術をさらに活用することで、本当の意味で地域や産業の壁を越えて自由に企業がつながれる環境を実現しようとしているのかもしれない。

  • 所属・役職は取材時の情報です。
    2021年5月1日に三重銀行と第三銀行が合併され三十三銀行となりました。