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2021年11月30日

地銀初のオールクラウド化を実現した北國銀行のDX
――「顧客主義」の理念はいかにシステムを変えたのか

 あらゆる産業においてDX(デジタル・トランスフォーメーション)は重要視されているが、ひとくちに「デジタル」を活用するといっても簡単に既存の仕組みや慣習を変えられるとは限らない。とりわけ高度なセキュリティが求められ独自のシステムを築き上げてきた「金融」のDXは困難を伴うといえるだろう。そんな中、金沢に拠点を置く北國銀行は近年数多くの先進的な取り組みを進めていることで話題を呼んでいる。その変革はいかに進められたのだろうか。10月14日に行われたFIT2021(金融国際情報技術展 主催:日本金融通信社)では、その実践の背景と理念が明かされた。

DXは組織のマインドを変えることから始まる

 金沢に本店を置く地方銀行、北國銀行は今最も先進的な銀行の一つとして知られる。同行はDXという言葉が注目される以前から行内ITの改革を推進し、今年5月には国内初となる勘定系システムのクラウド化を実現した。2020年からはDX人材の採用にも力を入れるなど、システムのみならずさまざまな観点から新たな銀行のあり方を追求しつづけており、地方銀行のみならず金融業界へ大きな衝撃を与えている。同行のシステム部基盤・運用グループ長 新谷直樹氏によれば、この変革は一朝一夕で実現したものではなく、長い時間をかけて進められてきたものだという。

北國銀行 システム部基盤・運用グループ長 新谷 直樹氏

 「人口減少やマイナス金利政策、コロナ禍による景気後退など、日本の金融界は収益環境の悪化や収益構造の変化、ITの加速度的な進化に直面しています。当行は以前からシステムをトリガーとした経営戦略の実行と、顧客向けシステムへのIT投資を進めたいと考えていました。銀行の中に閉じたシステムから地域を巻き込んだエコシステムの構築を進めながら、BaaS(Banking as a Service)の提供による利便性の高い新たなサービスの創造を目標に掲げ、15年前から変革のベースをつくってきたのです」

 北國銀行のシステム変革は、2007年のシステム部創設から始まった。以降、戦略的なシステム投資を進め、2011年にはグループウェアを刷新した。その後2013年にIT基盤を再構築しMicrosoftのSurfaceを導入、2015年には勘定系システムの更新を敢行するなど、2010年代前半に変革の土台を築き上げてきた。

 「2015年までは内なるDXを進め、2015年以降はお客様に向けたDXの施策を進めてまいりました。2019年には現在に至る勘定系クラウド化プロジェクトを発表し、2020年には業務端末のFAT化を行うなどIT基盤の全面更改を進めてきました」

 新谷氏によれば、同行は今後もさらにクラウド化を展開していく予定だという。クラウドバンキングの観点では、2022年に法人ネットバンキングをリリース。勘定系においては今年5月にシステムをIaaS(Infrastructure as a Service)化しこれまでオンプレミスで構築してきた環境の仮想化を進めており、2024年にはPaaS(Platform as a Service)化によりクラウドにデータを集約しデータの活用を進めていく予定だ。さらにはサブシステムについても昨年から新CRMをベースに内製化を進めており、保守コストやシステム更改投資の削減に取り組んでいる。

2000年代から北國銀行はシステム変革を進めてきた
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2000年代から北國銀行はシステム変革を進めてきた

 こうした取り組みはシステムやテクノロジーを変えればよいわけではなく、まずは組織のマインドを変えなければいけないだろう。新谷氏はマインドの変革について次のように語り、「顧客」を中心にあらゆる業務を再設計していくことが重要だと主張する。

 「これまでは人事は人事でシステムはシステムといったように縦割りの考え方から戦略がつくられていましたが、『顧客主義経営』を掲げ、お客様目線で様々な部署がつながりながら一貫性のある設計を目指していくようになりました。なかなか実現は難しいですが、経営企画もIT企画も業務部門も同じスキルを持ち、同じレベルで議論できる組織を目指していきたいと考えています」

DXにおいては部署ごとの縦割りではなく全員が同じ理念を共有することが重要だ
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DXにおいては部署ごとの縦割りではなく全員が同じ理念を共有することが重要だ

開かれたコミュニケーションの場をつくる

 そもそもこれまで銀行のIT基盤はどのようにつくられていたのだろうか。新谷氏によれば、北國銀行をはじめ多くの銀行では行内とインターネット環境が分離しており、インターネット環境はVDI接続により利用することが通例になっていたという。金融機関には厳格なセキュリティが求められることは事実だが、VDI環境だけでは解決できない問題も数多く発生していた。

 「VDI環境はインターネット接続に時間がかかりますし、動画を見ることすら難しい状態でした。行内ではインターネット上のサービスを利用できず、オンライン会議を行うこともできません。コロナ禍ではどこの銀行でもリモート面談が増えていると思いますが、オンライン会議ツールを使うためには専用のPCを使わなければいけませんでした」

従来のシステムでは行内とインターネット環境が分離していた
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従来のシステムでは行内とインターネット環境が分離していた

 そこで北國銀行はMicrosoft365を導入することで、コミュニケーション環境を刷新した。その結果、これまでは添付ファイルを送る際に必要だった上長の承認を自動暗号化によって省略した他、外部サイトへのアクセスも可能にしたという。多要素認証や異常な動きを検知するMicrosoft Defender for Endpointの導入など、ただスピーディな環境を構築するだけではなく、同時にセキュリティも強化。新谷氏によれば、なかでも大きな変化を生んだのはコミュニケーションツール「Teams」の導入だった。

 「オンライン会議のために利用するのはもちろんのこと、行内の情報をTeamsに登録することで部署を問わずあらゆる情報にアクセスできる環境をつくりました。知りたい情報はチームに参加すれば知ることができ、人事制度や組織変更など行内の変化について部署や序列に関係なく発言できるようにしています。オープンな場をつくり、いろいろな意見を言ってもらうことで、行内のコミュニケーションのさらなる活性化を図りました」

 こうした新たなツールの活用は組織の一部に留まってしまうことも少なくないが、北國銀行は頭取自ら毎週全行員に対してメッセージを発信するなど、組織全体の文化を積極的に変えようとしている。さらには役員会議もTeamsで開催しており、本部・営業店の管理職社員はその様子を視聴することも可能だという。「役員会議」というとクローズで秘匿性の高い場が想像されがちだが、北國銀行は一貫してオープンかつフラットな場をつくるためにテクノロジーを活用しているといえるだろう。災害やシステム障害が発生した際もTeamsを通じた状況の共有を行うことで、リモートでも迅速な対応が可能になるなど、リスク管理の点からもTeamsの活用は大きな成果を挙げているようだ。

 また、今年からは同行内部だけではなく保証協会とのコミュニケーションにおいてもTeamsを活用し、これまで紙ベースで行われていた作業のデジタル化を進めている。「現在開発している次世代CRMの稼働以降は、融資・保証申込みの電子化も進め、お客様、保証協会、当行すべての生産性を上げることで地域の支援に貢献できたらと考えています」。北國銀行はただデジタルツールを導入するのではなく、「顧客主義」という同行の理念を前提にデジタルの活用を行うことで行内の文化そのものを変革することに成功しているのかもしれない。

行内のみならず地域全体の変革に向けて北國銀行は動いている
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行内のみならず地域全体の変革に向けて北國銀行は動いている

クラウド化しなければイノベーションは起こせない

 新谷氏は、こうした変革の前提として同行が「クラウドファースト」の考え方をとっていることを明かす。これまで銀行のシステムはオンプレミス環境でつくられることが一般的だったが、社会のデジタル化や環境の変化を受け、もはやそんな考え方は通用しなくなりつつあるのだろう。

 「開発スピードやコスト、拡張性など多くの面においてオンプレミスよりクラウドの方が優れていると私たちは考えています。これまでと同じことを続けるならオンプレミスでも問題ないかもしれませんが、破壊的なイノベーションを実現するためには、クラウド活用が必要不可欠でしょう」

 さらに新谷氏は、北國銀行はクラウドの活用レベルを0から5の6段階に分け、現在の同行は「クラウド3.0」のフェーズにあるのだと続ける。すでに行内システムのIaaS化やPaaS化は進んでいるが、今後は4.0、5.0とさらなる変革が実現する予定だ。クラウド5.0においては勘定系のBaaS化や双方向API接続導入、内製・アジャイル化など、行内のみならず地域や顧客のDXを推進していくことが目標となるのだという。

北國銀行はクラウド5.0へ向けて今後もDXを推進していく
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北國銀行はクラウド5.0へ向けて今後もDXを推進していく

 クラウド化においては今なおセキュリティを不安視する声も少なくないが、新谷氏は「使い方さえ間違えなければオンプレミスよりも安全で便利な環境がつくれるはずです」と語る。オープンな環境にデータを置くよりも金融機関内の閉じた環境を使う方が安全だと思えるかもしれないが、クラウドベンダーはセキュリティ対策に大規模なコストをかけており、常に最新のセキュリティ対策を実現している。ハイブリッド型のシステム構成や多要素認証などユーザー側がリスクに応じた対策を加えることで、さらに安全な環境を構築することも可能だ。さらに新谷氏は今後テレワーク化が進み守るべき情報資産が広がっていくことも考慮すると、従来型のセキュリティでは対応に限界が生じると続ける。「これからは行内という境界の内側を守る考え方ではなく、ゼロトラストの考え方を取り入れた対策の導入や運用が重要になっていくはずです」

 最後に新谷氏は、システムのクラウド化という一大変革のパートナーとしてNECを選んだ理由を明かした。

 「NECには2011年からオンプレミスの環境をつくってもらっていたこともあり、既存の環境を熟知されていたことがまず重要な点でした。セキュリティにも精通されているので専門部署へ相談できる環境があることも大きな理由の一つです。ただ最も重要なのは、当行の『顧客主義』という考え方を理解してくださっていたことでした。単にベンダーの理論や銀行の理念を押し付け合うだけではなく、同じ目標を共有しお互いに協力し合いながら問題を解決できるからこそNECをパートナーとして選んだのです」

 どれだけ先進的なテクノロジーを持っていたとしても、ただそれだけではDXもイノベーションも実現できないのかもしれない。真に重要なのは、なぜテクノロジーを活用しDXを行うのかという、理念が確立されていることなのだろう。常にユーザーの立場からサービスのあり方を問い直していく「顧客主義」という理念を実践に落とし込こもうとする強い意志があったからこそ、北國銀行は地方銀行、ひいては金融業界全体に大きな変革を起こせるのだ。

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