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2022年03月07日

ウェルスマネジメントが実現する富の民主化
-DXを通じ金融業はいかに「信頼」をデザインするのか

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な流行により、あらゆる産業が変革を迫られている。デジタル・トランスフォーメーション(DX)も加速し人々のライフスタイルが多様化するなかで、金融業はどう変わろうとしているのだろうか。NEC Visionary Weekで行われたセッション「The wealth management industry: overcoming today's challenges, and preparing for tomorrow」は、「ウェルスマネジメント」の未来を考えることでこれからの金融業に「信頼」が求められることを明らかにした。

ウェルスマネジメントを変える4つのトレンド

 近年金融業界ではデジタル化に伴い新たなビジネスモデルが模索されているが、なかでも注目されている分野のひとつが富裕層を中心に資産運用を担うウェルスマネジメント産業だ。同分野においては、2020年にNEC傘下へ置かれたスイスの大手ソフトウェア企業「Avaloq Group AG」(以下、Avaloq)が世界トップクラスのシェアを誇ることで知られているが、果たして同社から金融業界の現在や未来はどう見えているのだろうか? まずCOVID-19による変化を尋ねられたAvaloq Co-CEO and Group Chief Product Officerのマーティン・グレヴェルディンガーは「単にビジネスを阻害するだけではなく、トレンドを加速させた側面もあるでしょう」と語り、4つのトレンドを指摘する。

 「まず経済的な面では、世界中の金融機関が低水準のマイナス金利を迎え利益率が下がっており、ビジネスモデルの変革を迫られています。2つ目は、次世代に多くの富が継承されていることでしょう。結果としてこれまで以上に多くのミレニアム世代や女性、若い起業家に富が継承されようとしています。3つ目は、パーパスドリブン投資です。常に多くの情報を通じて自分の投資判断について考える、新たなタイプの投資家が増えています。最後はクラウドへの移行によって富の民主化が起きていることでしょう。AIやブロックチェーンといった先端技術も、クラウドサービスと組み合わさることで導入コストは下がっています」

 グレヴェルディンガーが「民主化」という言葉を使うように、投資や資産運用はもはや限られた人々が行うものではなく、多くの人々に開かれようとしている。注目すべきは、技術や経済だけではなく「人」も変化していることだ。

 優れたサービスやプロダクトだけではなく社会への貢献が企業に求められる現在、投資や資産運用のあり方も根底から見直されていくのだろう。グレヴェルディンガーが指摘するように新たな世代へより多くの富が継承されていくのであれば、Z世代をはじめとする若い人々の価値観を無視することはできないはずだ。

シンギュラリティ時代の人間に求められる役割

 他方で、AIなどの活用によって省人化が進む時代にあっては、「人」を介さずともサービスは成立してしまうのかもしれない。しかしセッションのモデレーターを務めるForbes JAPAN Web編集長の谷本有香氏から「従来のアドバイザーのようにCOVID-19以前の“古い”形態のビジネスに関わっていた人は、どんな役割を担うことになるのでしょうか」と尋ねられたグレヴェルディンガーは、これからも人は重要な役割を果たすはずだと語る。

 「ウェルスマネジメントには、常に人が関わっています。ポートフォリオのチェックや日常的な市場の調査においてはAIを活用しつつ、非常に洗練されたサービスを提供するときや直接誰かへ相談したいときは人間が必要になってくるでしょう。家族の行動や財産の分配方法などを考えるうえでは家族やビジネスの性質を深く理解する必要があり、AIやロボットに解決してもらうことは難しいですから」

 とりわけ富裕層のように特殊な環境に置かれていることもある人々へのサービスを考えるうえでは、一人ひとりの性格や気質まで理解することが求められるのだろう。ただし現時点ではAIの活用範囲が限られているものの、シンギュラリティのようにAIが人を超える時代が来れば状況はさらに変わってしまう。これまで以上に多くの情報をAIが理解し分析できるようになったとすれば、人の役割も変わるはずだ。谷本氏から「シンギュラリティは来ると思いますか?」と問いかけられた同氏は次のように語り、人がいるからこそ信頼が強まる可能性を指摘する。

 「理論的には“YES”です。しかしウェルスマネジメントには最適なアドバイスだけではなく信頼関係が求められ、とくに超富裕層のお客様の場合はアドバイザーの異動に合わせて銀行も変えてしまうことが少なくない。今、銀行や金融機関は魅力的なプラットフォームをつくることが求められていますが、それはアドバイザーを取り巻くエコシステムをつくることだといえるでしょう」

強固かつレジリエントなプラットフォームに向かって

 さまざまなものがデジタル化されていくからこそ、翻って「信頼」のようにこれまで人と人の間に成り立っていたものの重要となるのだろう。もっとも、同氏が「AIやクラウドのようなトレンドはこれまで想像もつかなかったものですし、この20年でゼロから大きく成長した企業もあるでしょう」と補足するようにデジタル技術が新たなビジネスを生むことも確かだ。技術のポテンシャルを最大限に発揮するためにも、人の理解は欠かせないものになっていくのだろう。技術と人、社会の変化すべてに応答していくことで、未来の銀行は一体どんなプラットフォームになるのだろうか。グレヴェルディンガーはふたつの要素が重要になるはずだと続ける。

 「すべてのプラットフォームは、強固であると同時にレジリエントでなければいけません。そのためには事業全域に渡ってさまざまなデータをコントロールするためのオブジェクトモデルと、オープンなアーキテクチャが必要になります。特に後者はイギリスにおけるオープン・バンキングの動きや欧州におけるPSD2[編注:Payment Service Directive2/欧州の決済サービス指令]など、すでにさまざまな取組が進んでいますが、アジアでも同じことが起こるでしょう」

 APIの活用をはじめとする銀行のオープン化によって、銀行の概念も変わろうとしている。新たなサービスをつくり、一人ひとりに寄り添ったアドバイスやインターフェイスを提供していくためにも、銀行はより柔軟に変わっていかなければ生き残れないのだ。

 「生き残るために必要なことを考えることは、必要でないものを考えることにもつながります。銀行にとってのUSP[編注:Unique Selling Proposition/差別化されたサービス]は適切な方法でお客様と接し適切なアドバイスを行うことですから、それ以外のバックオフィス業務のようなプロセスをより効率化しコストを削減していく必要があるはずです」

 グレヴェルディンガーがそう語るように、銀行のもつ強みが最大化されるからこそ、効率化やコスト削減は重要になっていくのだろう。テクノロジーの活用はあくまでもツールであって、顧客を深く理解するために使われるからこそ価値があるのだ。

顧客中心主義が金融業を変える

 グレヴェルディンガーの発言を受け、NEC グローバルビジネスユニットでデジタルファイナンスの責任者を務める久保知樹はこれからの時代のウェルスマネジメントにおいて「顧客中心主義」が必要不可欠となるはずだと語る。NECやAvaloqの立場からすれば銀行がクライアントかもしれないが、さらにその先にいる一人ひとりの顧客を起点としてサービスを考えなければいけないのだ、と。

 「NECは空港や小売店に生体認証ソリューションを提供していますが、旅行者や消費者の好みを深く理解しなければソリューションも機能しません。同じように、投資家の価値観や目的も多様化する時代にあっては、ウェルスマネジメントにおけるアドバイスも広範なリサーチの上で行わなければいけないでしょう。そのためには顧客の個人的な興味や文化的背景を知る必要もありますし、自分たちの技術がエンドユーザへどう作用するか考えなければいけません」

 顧客の理解を深めるうえでは、金融領域のみならず製造やロジスティクス、エンタメなど幅広い領域の産業をカバーするNECの知見も役立っていくのかもしれない。谷本氏がNECはどのようにAvaloqをサポートしていくのか尋ねると、久保は次のように語った。

 「ブロックチェーンやバイオメトリクスなどNECがもつさまざまな技術にAvaloqはアクセスできますし、NECの技術を活用する分、UX/UIなどほかの分野への投資も進められます。同時にNECのもつグローバルなネットワークを活用することで、Avaloqのさらなる成長へ貢献できると考えています」

 久保の発言を受け、グレヴェルディンガーも「パートナーのエコシステムを活用してより長期的な戦略を立てることが重要ですね」と頷く。最後に久保は、Avaloqとの共創によってNECはこれまで以上に社会価値の創造へ取り組めるはずだと語り、セッションを締めくくった。

 「NECは安全・安心・公正・効率という社会価値を創造していきたいと考えています。そのためにわたしたちは近年デジタルガバメントに関わる取り組みを積極的に進めていましたが、デジタルファイナンス領域への進出も必要不可欠だと考えるようになりました。デジタル化された社会は、ネットワークもIDもデータ管理も信頼に支えられていなければいけません。デジタルガバナンスとデジタルファイナンスは強く結びついており、Avaloqとともにいるからこそ、より多くの人々によりよいサービスを提供できるようになると感じています」

 デジタルファイナンス抜きのデジタルガバメントはありえず、デジタルガバメントを前提とすることでデジタルファイナンスはさらに広がっていくのだろう。すべてがデジタル化されつながりあう時代にあっては、従来の産業区分でビジネスを捉えることは難しくなっていくのだ。ただ個別の課題を解決するサービスやプロダクトをつくることだけではなく、グレヴェルディンガーや久保が述べたような「信頼」の形をデザインしなおすことこそが、金融業の未来を切り開いていくのかもしれない。

本抄訳内容のフルセッション動画はこちら(NEC Visionary Week 2021より)

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