進化するAI 実用化に挑む量子技術
2022年3月23日付日本経済新聞朝刊広告企画より転載※一部写真追加
2021年5月、NECは2030年を見据えたビジョンを発表。「未来の共感」を掲げ、目指す社会像から出発し様々な技術群を整理した。技術視点での柱はデジタルツイン、人が信頼・納得できる人工知能(AI)、環境性能と高信頼、高効率を実現するプラットフォームの3つ。領域において特に重要なAIと量子技術を中心に、先端技術の社会実装をけん引する2人のリーダーに話を聞いた。
SUMMARY サマリー
人権に関するポリシーを策定
――コロナ禍を受けて、デジタルの重要性への認識が大きく高まりました。デジタル金融の領域も広がりつつあります。
岩田:行政や産業、生活におけるデジタル化は喫緊の課題です。特に、金融は様々な社会活動のインフラであり、デジタル金融の生み出す価値は大きい。例えば、AIを活用することで、従来は融資が難しかった企業・個人への与信も可能になるでしょう。一方、AIにインプットされるデータの偏りにより、偏見に繋がる可能性があるという課題も指摘されています。法規制も重要ですが、それだけでは技術を安全・安心に活用することは難しい。テクノロジーのガバナンスを考慮しつつ社会的な合意を形成し、社会実装を進める必要があります。
西原:当社は昨年5月、暮らしと社会、環境について、私たちが目指す将来の社会像として「NEC 2030VISION」を発表しました。キーワードは「未来の共感」。これまで、テクノロジー進化の予測から将来の社会像を描いてきましたが、発想を転換。人々が共感しうる未来をNECの目指すべき社会像として設定し、これに資する3つの技術進化の方向性を策定しました。未来を共創・試行するデジタルツイン、人と協働し社会に浸透するAI、環境性能・高信頼・高効率を可能にするプラットフォームです。様々な企業にも参加してもらい、新たな社会価値づくりに取り組みます。
岩田:デジタル金融において、とりわけ信頼や納得は重要。AIの判断が人々に信頼され納得されることで、社会的な受容が進みます。
西原:アルゴリズムやセキュリティーなどの技術強化に取り組んでいますが、法律や人文知などを含めた社会実装の視点もそれ以上に重要であると考えています。NECは19年4月に「NECグループAIと人権に関するポリシー」を策定。人権やプライバシー、公平性などを踏まえてAIに取り組むことを明記し、事業活動の推進にあたってこの取り組みを最優先させることを約束しています。
社会受容には信頼と納得が不可欠
――信頼・納得を支える技術というのは非常に興味深いですね、具体的にはどのようなものでしょうか。
西原:AIが判断に至った論理のステップが分かれば、結果への納得感が高まる。NECは、このような論理推論を導き出す技術や、ものごとの因果関係を推論する技術、将来の変化を予測する技術、シミュレーションとAIを融合させる技術など、人が納得し信頼に至るための様々な技術を有しています。同時に、データサイエンティストでなくともAIを使いこなせる「AIの民主化」と呼ばれる取り組みも始まっています。業務部門でもAIを広く活用できれば、より大きな価値創出に繋がるはず。私たちはこうしたお客様の取り組みを、企画から運用までトータルでサポートできる体制を構築しています。
岩田:例えば、金融機関が顧客に提案するとき、なぜその商品が最適なのかを説明できるかどうか。単にAIのレコメンド通りに薦めるのと、AIが判断した理由を知った上で薦めるのとでは大きな違いがあります。後者によって顧客の信頼感を醸成することで、長期的にビジネス価値を高めることができるでしょう。
――プライバシーやデータ保護も、AI活用を進める上での大きなテーマです。
西原:AIにはデータが欠かせませんが、プライバシー保護も必須です。この矛盾を解くのも技術の役割。代表的な技術を2つ紹介します。まず、秘密計算。多数の企業が保有するデータをビッグデータとして共有しAI分析することで発見できる知見があります。一方、各企業は機微なデータをそのままでは社外に出せない。そんなとき、暗号化した各社のデータを集め、暗号を解かずに処理して知見だけ取り出せるのが秘密計算。すでに実用化例もでています。もう一つ、高秘匿連合学習。データは集めず、個々の企業で生成されたAIモデルを互いに共有し高精度のAIモデルに変換します。
岩田:AIモデルの提供が個人情報の流出につながらない研究開発は、金融ではマネーロンダリング対策などの分野で有効性が確かめられています。AIモデルのガバナンスについても多角的な検討を進めています。法規制が本来目指した目的にそうことでルールベース依存から脱却していくことや、複数関係者によるリスク共有など、これまでとは違うアプローチが重要です。
間近に迫った量子技術の実用化
――AIの活用については、海外諸国の動向も気になります。
西原:プライバシー保護で先行する欧州、最先端技術を生み出す米国、官民連携でスピーディーに社会実装するシンガポールなど、各国・地域それぞれにアプローチがあります。NECは、これらをはじめとするグローバルに研究拠点を置き、トップレベルの研究人材確保に努めています。海外の研究規模が国内に引けを取らず、多様性の中で密に連携して先端技術とその実用化に取り組んでいるのは当社の大きな特長でしょう。
岩田:当然、海外での最新動向も迅速にキャッチしています。グローバルな研究体制と連携し、目指すビジョンに向かって進んでいるところです。デジタルインフラの実装も重要なテーマで、キーワードは量子暗号と量子コンピューティング。量子技術は、経済安全保障の観点からも注目されています。
西原:国内では、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)を中心としてNECなどの民間企業が量子暗号技術をけん引してきました。当社は必要なデバイスやソフトウエアなどをすべてカバーしており、お客様が安心して利用できる体制を整えています。2022年度には量産・商用化の予定で、さらに、通常の通信網と共存でき大幅な低コスト化を可能にする技術にも取り組んでいます。近い将来、広範なネットワークに暗号技術を適用できるでしょう。
岩田:NECは20年以上にわたって、量子暗号の研究を進めてきました。長年取り組んだ先端技術が、この先数年のうちに花開こうとしています。
西原:様々な方式が提案されている量子コンピューティングの領域では、量子アニーリングが実用化に近く最適化問題に強い。配達のスケジューリングや経路探索、金融ポートフォリオの最適化など多くの領域で、ごく短時間に最適解が得られる。金融や物流、モビリティー、製薬など幅広い産業分野からの注目は高く、既存のコンピューターと組み合わせて部分的に処理を担う形で利用が進むでしょう。日本では昨年5月、「量子技術による新産業創出協議会(Q-STAR)」というコンソーシアムが発足。NECはその各部会で主要な役割を担っています。
岩田:量子技術の社会実装が進み、デジタル金融への適用も本格化するでしょう。他の産業分野とも知見を交換しながら、日本のデジタル金融をさらに進化させたい。それは、グローバルサプライチェーンにおける日本の存在感を高めることにもつながります。
西原:AIや量子技術など様々なテクノロジーが、いま実用化に向けた節目を迎えています。「未来の共感」の実現に向けて一層の貢献をしたいと考えています。