本文へ移動

「重厚長大な組織かと思ったら……」NEC内スタートアップで切り開く新キャリア

 日本の伝統的な大企業といえば……。

 やりたい仕事に就けない。責任ある役職をなかなか担えない。そんなイメージが根強い。

 最近では過度の働き方改革で、仕事は楽だがやりがいがない、あるいは地力がつかないといった“ゆるブラック化”問題も挙がっている。

 そんな中、大企業に在籍しつつも自身が望む仕事に就き、事業の意思決定にも関わりながら主体的にキャリアを築く新しい働き方も生まれつつある。

 いわば、大企業のリソースに、スタートアップ的な自律心や挑戦心を掛け合わせた働き方だ。

 そうした働き方を実現しているのが、NECにある。AIフィナンシャル・アドバイザー事業を展開するグループ企業Painterだ。

 実際にSEとしてNECに入社しながら、キャリア転向を経て自身の望むキャリアを描いていった同社のUXデザイナーを通し、なぜそうした働き方が可能なのかをひもといていく。

“社内公募”でデザイナーへのキャリアチェンジを実現

──朝比奈さんは現在、どんな業務に携わっていますか。

朝比奈:PainterというNECのグループ会社で、AIフィナンシャル・アドバイザーサービス「Shines」のUI/UXデザインを担当しています。

「Shines」に関してはこちらの記事をチェック

 ユーザーからのフィードバックをもとにしたサービスの改修や新機能の開発をエンジニアと連携しながら進めています。

──どんなキャリアを経て、現在のポジションに至ったのでしょう。

 もともと大学では情報システム学を専攻しており、NECには自動車領域のSEとして入社しました。入社後は、自動車業界の業務アプリ開発や、車両関連のPoC案件などを担当しました。

 SEからキャリアを始めたのですが、その後ビジネスデザイン職にキャリアチェンジし、そこから新規事業のUX設計やUI・プロダクト開発に携わるようになったんです。

──大きなキャリアチェンジですね。どうしてそんな決断を?

 SE時代は、決められた要件に忠実に作ることを求められるウォーターフォール型の開発体制(決められた工程を、上流から下流へ順番に遂行するシステム開発モデル)でした。

 新入社員というのもあって、SEとして基礎的なスキルを学べた貴重な期間となりましたが、できればプロダクトの上流の設計から関われたらなと。

  また、学生時代にWebアプリやWebページを実装するアルバイトで、ユーザーが触れる画面側を作っていて、そこからゆくゆくはデザインもちゃんとやってみたいと思っていました。

 そうしたところ、当時の上司がそうした経験や思いを汲んでくださり、ある検証作業で小さなプロダクトの設計からデザイン、実装まで任せてくださって。

  社内の方にインタラクションについても意見を求めたり、レビューをしてもらったりしながら、設計から実装をすべて自分で担当して完成した時に、ユーザーの声を聞きながら改良できるデジタルプロダクトを自分たちで創っていきたいと強く思いました。

──そこから実際に、どうキャリアチェンジを実現したのですか。

 社内には、SEからUXデザイナーに転向したロールモデルが見当たらなかったので、まずは社外のいろいろな方に話を聞いたり、あとは知人経由でスタートアップ企業にて副業をしてみたりしました。

 あわせて、それまで本格的なデザインの勉強をしたことがなかったので、デザイン系の学校に9カ月間程度通いました。

 そして、学校の修了タイミングで、現在携わっているShinesの前身となる新規事業のUI/UXデザイン職の社内公募を見つけたんです。

──その公募に応募して、社内転職を果たしたと。

 そうなります。NECには「NEC Growth Careers」という社内人材公募制度があって、求人募集を社内プラットフォームに公開し、意欲と経験のある社員とマッチングすることができるんです。

 その公募内容には、“デザイン未経験であっても学ぶ意欲があれば良い”とあったので、当時の上司に相談したところ、いいじゃないと背中を押してもらえたので、そちらに応募して採用され、今に至ります。

──朝比奈さんのようなキャリアは、NECの中でもかなり珍しいように感じます。

 社員全体で見ればまだ大多数ではないかもしれませんが、NECにはキャリアを自身で主体的につくっていく文化や自身の可能性に挑戦していく文化が根付きつつあって、会社としてもそれを全力でバックアップするようになっています。

 たとえば、キャリアデザインのための研修と面談を組み合わせた独自プログラムもあり、社員が自分らしいキャリアを歩むことを支援しています。

 その背景には、組織の中でその人の真価を発揮できないのは、本人にとっても会社にとっても不幸であるという考え方があります。

 実際、若手を中心にかなりの数の社員が、同制度を活用していますね。

──そのように、社員が望むキャリアに就けるように後押しする流れは、いつ頃から起こったのでしょう?

 転機の大きな1つが、2018年に発表した2020中期経営計画の中で掲げられた「実行力の改革」です。

 NECが今後も会社として成長するには実行力を高めることが不可欠で、それには一人ひとりが自律的に仕事に向き合い、個人が持つ力を最大限に発揮する文化が必要であると。それを実現するためにカルチャー変革本部が立ち上げられ、人事改革と文化改革が行われてきました。

 こうした経緯もあり、「キャリアは会社から与えられるものではなく、自分で作っていくもの」といった意識が、社内にだいぶ広まってきたように感じます。NECは、変革の真っただ中にあり、新しいチャレンジをしたい人にはうってつけの環境だと思います。

 実際、他社からNECに転職してきた社員からは「NECといえば重厚長大で、組織が硬直化しているイメージだったけど、いざ入ってみたら思いのほか変化に対して柔軟で、むしろ変わらないとダメだと思っている社員が多いことに驚いた」といった話をよく聞きます。

大企業のアセット×スタートアップのスピード感

 自分のビジョンから、キャリアチェンジを果たした朝比奈氏。現在所属しているグループ会社Painterは、NECらしさとはまた違った文化が醸成されているそうだ。ここからは、Painterの設立に携わった北方秀典氏も話に加わり、詳しく話を聞いていく。

──PainterはNECの中から生まれたグループ会社です。改めて、現在の業務の独自性を教えてください。

北方:Painterは、大企業とスタートアップの懸け橋になってデジタル金融事業を展開していくために設立しました。実際にJapan Asset Managementというスタートアップと資本業務提携していることもあり、メンバーがスピーディに裁量権を持ってチャレンジできる文化を大切にしています。

北方:また、専門領域にとらわれず、事業経営にまで携わることが特徴的ですね。たとえエンジニアでもプロダクトを制作するだけではなく、プロダクトの展開を見据えたKPIの設計やPDCAサイクルの実行など、ビジネスサイドの広い業務も担うことになります。

 ビジネスサイドも理解していくことを通して、自分たちのプロダクトや意思決定が事業計画にどのように反映されるかを身近に感じることができます。 さらに、実行するための優先課題についても当事者として深く考えることができるので、キャリアとしても非常に面白い体験ができると思います。

朝比奈:プロダクトの問題に対して様々な解決策がある中で、エンジニアにはエンジニアならではの解決策が見えると思います。

 日頃から事業責任者と近い関係にあるので、エンジニア視点での最善策を提言できる点が、NECのエンジニアとはまた別の面白さなのかなと。

──なるほど。ただ、そういった裁量権の大きさを求めるなら、スタートアップに転職する、という選択肢もあるのではないでしょうか。

朝比奈:私は学生時代に従業員が20人規模のスタートアップで働いたことがあるのですが、やはりその規模だと、何か改善したいことが出た時に自分たちのみではできることが限られたり、社外と連携するにしても時間がかかってしまったりすることがあります。

 対してPainterの場合、欲しい技術や知識を持つ専門人材がたいていNECにいるので、すぐにディスカッションができたり、連携して2~3日くらいのスピード感でアイデアをグッと前に進めたりします。

 実際、プロダクトにLLM(大規模言語モデル)を導入する際も、NECのAIエンジニアとすぐに連携を図れ、いろいろ相談しながらアイデアをどんどん固めていき、速やかに実装に向けての議論を進めることができました。

北方:こんなふうに、AIをはじめとするトップレベルの技術アセットを活用できるのは、NECのグループ会社だからこそ。大企業のリソースをフルに使い倒しつつ、スタートアップのスピード感も持ち合わせているのがPainterの特長です。

朝比奈:NECの技術者は担当の専門技術が好きな方が多く、実現したい話を共有すると「いいですね」「面白いですね」と興味津々に聞いてくださいます。そんなエンジニアの力を借りることができるのもPainterの仕事の楽しいところです。

北方:またNECのグループ企業なので、NECの経営陣に対して経営の説明責任があり、定期的な経営陣との対話の場に現場メンバーも参加しています

 実際に朝比奈には、事業立ち上げの時からNECの社長やCxOとの事業報告を行う場に同席してもらっていますが、若手の時から大手企業のトップと直接対話できるのは、今後のキャリアで非常に貴重な経験になるはずです。

──朝比奈さんはこのPainterで、今後どのようなキャリアを築いていく予定なのでしょうか。

朝比奈:3~5年後くらい先のビジョンでいうと、デザインもできるプロダクトマネージャー(PdM)になりたいです。私はチームでプロダクトの問題点や解決策をディスカッションすることがすごく好きで、最近はそれを仕組みとして採り入れようとしています。

 もう少し先のビジョンでいえば、Painterは1つのプロダクトでは収まりきらなくなってくると思うので、その時にPdMとして2つ目、3つ目のプロダクトも並行して担えるようになっていたいですね。

──最後に、どんな人にPainterで働くことをおすすめしますか。

北方:まずは、変化を楽しめる方ですね。Painterは、これまでのNECにない新しいことに挑戦する会社です。

 つまり、NECが変化していく中での先駆けとなる事業に携わることになります。答えがない状態で、止まるのではなく、仮説を立てながら自らの意思で動いていくことが必要です。

 トップに近い立場でスピーディかつ裁量権のある業務を遂行していくためには、変化を受け入れて楽しむ、なんなら自分で変化を起こすくらいの気持ちを持つことが重要だと思っています。

 2つ目は、強い当事者意識を持って、周りを巻き込んでいける方です。NEC単体でも約2万2000人の社員がおり、巻き込むにはコミュニケーション力や主体性も求められます。

 ただ、その2万2000人の力を活用すれば、大きなことを実現できるし、Painterにはその素地があります。これまでに社内・社外を含めてチームを巻き込んで何か成し遂げた経験のある方や意思決定をした経験がある方にはおすすめの環境だと思っています。

 Painterは、金融とテクノロジーの力で人々の生活を豊かにし、人生をカラフルに彩れるような世界を目指しています。そして、その実現のために様々なバックグラウンドを持つメンバーが集まり、それぞれが強みを発揮しあっています。そんな彼らの新しいキャリアをつくる場として、Painterが存在しているとも思っています。

 自分自身の未来をもっとワクワクさせたい、新しい可能性を模索したい、という方とぜひ一緒に働いていきたいですね。

執筆:田嶋章博
撮影:吉田和生
デザイン:堀田一樹[zukku]
編集:福田啄也