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一気通貫のサポートが加速させる金融機関のDX:AWS Summit Japan 2024レポート

 近年、多くの領域でDXが進んでいくなかで、もはやクラウドサービスの活用は一般的なものとなった。たとえばパブリッククラウドはコスト削減やシステム構築の効率化において大きなメリットを誇るため、IaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)などさまざまな形で多くの企業が導入を進めている。

 しかし、すべての企業が気軽にクラウド活用を進められるわけではない。なかでも金融機関は高度なセキュリティが求められるため、クラウドに不安が生じることもあればクラウドの利点を活かしきれないことも少なくない。

 そんななか、NECは長年にわたって多くの金融機関に伴走しながら金融のDXに取り組みつづけてきた。6月21日に幕張メッセで開催された「AWS Summit Japan 2024」にてNECが実施した講演「金融機関に最適なクラウド基盤とAWSの活用とは」では、NECだからこそ実現できるクラウド活用の可能性が明かされた。

AWS SummitのNEC特設ブースでもさまざまなクラウド活用が紹介された

包括的プログラムが金融DXの課題を解消

 「金融機関にとってクラウド活用は必要不可欠なものとなっていますが、課題が多いことも事実です。コストを削減するはずが、頻繁なアップデートへの対応が必要になったりクラウド専門知識をもつ人材を育成しなければいけなかったり、かえって負担を感じる方も少なくありません。結果として、銀行内にクラウド活用が広がりにくい状況も生まれてしまっています」

 NEC 金融システム統括部 エグゼクティブマネージャーの日高秀行はそう語り、多くの金融機関がクラウド化やモダナイゼーションの入口で立ち止まってしまいやすいことを指摘する。クラウドのメリットは大きいが、金融機関がそのメリットを享受するためには入念な準備と豊富な知見が必要になるのだろう。

 こうした課題に対応すべくNECが今年4月から提供しているのが「NEC Secure PaaS for Finance」だ。金融機関のためにセキュアかつ柔軟性の高いシステム基盤を実現するこのサービスは、NECが長年培ってきた知見があったからこそ実現したものでもある。日高によれば、本サービスの強みは包括性にあるという。

 「運用環境や監視環境、実行環境、評価環境など、個々の機能ではなくすべてを一括で提供できることがNEC Secure PaaS for Financeの強みです。一般的なPaaSは“部品”を提供するのでカスタマイズ性が高い一方で、設計に時間がかかってしまいます。金融業界に特化した「NEC Secure PaaS for Finance」は、業界特性として必要な要素を組込んだ状態で機能をまとめて提供することで構築までの期間も短縮できますし、包括的なセキュリティ対策も行えます。稼働後の運用についても、NECが伴走させていただきます」

 本サービスにおいては基盤構築・保守をNECが担うため、金融機関は差別化領域やサービス拡大へリソースを割けることもポイントとなる。いわば、金融機関はクラウドの存在を意識せずにクラウドのメリットを享受できるようになるのである。

NEC 金融システム統括部 エグゼクティブマネージャー 日高秀行

金融機関に求められるセキュリティを適切に担保

 続けて日高は、NEC Secure PaaS for Financeがもつ4つの特長を紹介する。ゼロからのセキュリティ対策が不要、小さく始めて大きく成長させられる基盤、最短1日の高速なシステム構築、AWS専門家によるサポート──こうした特長により、NECは金融機関のDXを包括的にサポートしていくという。

 「まずセキュリティ対策について、金融機関はさまざまなリスクに備える必要がありますが、安全基準に基づいたNECのセキュリティを盛り込むことで最適な形のテンプレートを提供しています。リスクはゼロにならないからこそ、適切な対応が重要になるのです」

 とりわけ金融システムにおいてはリスク対策のためにFISC(金融情報システムセンター)が定める安全対策基準に従う必要があるが、現在は設備基準や監査基準など300を超える基準が設定されており、適切な対応にはコストもかかる。日高が「どこまでリスクに対応するか判断するには実績や経験則も必要になります」と語るとおり、多くの金融機関をサポートしてきたNECだからこそ、予め最適なセキュリティ対策を整備できるはずだ。

 続く2つめの特長は、最小構成からシームレスにシステムを拡張できる点にある。パブリッククラウドを活用するためリソースサイズの拡張はもちろんのこと、社外環境の活用や必要に応じたセキュリティレベルの向上など、さまざまなニーズに応えられる基盤が整備されているという。注目すべきは、最小構成であっても金融機関に求められるセキュリティ機能が備わっていることだろう。どの程度・どのようにセキュリティを担保すればいいか熟知しているからこそ、金融業務に特化し速く・安くスモールスタートが可能になるのである。

高速な環境構築とAWS専門家の手厚いサポート

 「3つめの特長は、高速構築が可能な点です。AWS金融リファレンスアーキテクチャ日本版とNEC金融領域のベストプラクティスを組み合わせたアーキテクチャをテンプレートとして提供することで、アプリケーションの開発・運用を効率化し、柔軟で迅速な金融サービスを提供します。加えてAWS Cloud Development Kitによるコードでのクラウドインフラ定義手法を活用し、予め設計したインフラを利用するので最短1日でシステムを構築できるのです。さらに、私たちは構築だけでなく標準設計ドキュメントも提供しています」

 そう日高が語るように、高速な環境構築はもちろん重要だが、標準設計ドキュメントの提供もNEC Secure PaaS for Financeの強みといえる。金融機関のシステムはただシステムを構築して動かせればいいわけではなく、設計構築テストのドキュメントも求められるからだ。

 一般的なシステム開発においては数百ページに及ぶドキュメントが必要となるが、NECは標準設計ドキュメントを提供することで大幅なコスト削減を実現できるという。この点についても金融機関におけるシステム構築実績やデータベースの知見をもったNECが最適な解を導き出せるからこそ実現できたものだろう。金融に特化した知見を自動構築技術と掛け合わせることで、高速な構築や柔軟な変更、拡張、管理も可能となるのだ。

 さらにAWSを活用する点で重要となるのが、4つめの特長であるAWS専門家によるサポートだ。構築後の運用保守についてもAWSの専門家が徹底的に伴走しサポートすることで、技術者を採用するコストや人材育成コストも削減可能となる。NECでは数百名のAWSの専門家を擁しており、セキュリティ設定やアクセス制御、伸縮性、可用性の設計から、構築後も続いていくパブリッククラウドの膨大なアップデートに対しても、適切なアップデートを提案していくことが可能だ。

一気通貫で加速する金融機関のモダナイゼーション

 NEC Secure PaaS for Financeとは、今年2月からNECが提供を開始した「金融機関向けモダナイゼーションプログラム」のひとつでもある。金融業界に特化したモダナイゼーションを支援するサービス群を提供するこのプログラムは、「コンサルティング」「デリバリー」「マネージドサービス」「エコシステム」という4つの観点からさまざまなサービスを提供し、金融機関のビジネスモデル変革やサステナブルな成長、レジリエンシーの確保を実現していくものだ。

 「クラウドの利用で困りごとに直面するように、金融システムのモダナイゼーションで困りごとを抱えるお客様もたくさんいらっしゃいます。私たちのゴールはプロダクトやサービス提供ではなく、お客様の価値創造にあります。コンサルティングからデリバリー、マネージドサービスまで一気通貫でNECが担当することで、戦略に合わせたモダナイゼーションの最適解を見つけ出せるのです」

 今回の講演で紹介されたNEC Secure PaaS for Financeは、このプログラムのなかでもデリバリーの基盤を担うもの。デリバリーの領域ひとつとっても、アプリケーションや開発手法、通信プロトコル、データ、運用などさまざまな観点から数十にも及ぶサービスを提供している。

 こうしたモダナイゼーションに取り組むうえで、AWSの存在は必要不可欠と言えるだろう。NECはコーポレートで初となる戦略的協業契約をAWSと結んでおり、金融サービスコンピテンシーパートナーや政府機関コンピテンシーパートナー、移行コンピテンシーパートナー、Well-ArchitectedパートナーといったAWS認定プログラムを活用できるため、AWSのもつ技術や知見を最大限活用できる環境にある。

 金融をはじめかねてからさまざまな領域でDXのサポートを進めてきたNECは、今年5月にDXビジネスにおける新ブランド「BluStellar」を発表してもいる。金融機関向けモダナイゼーションプログラムもNEC Secure PaaS for Financeも、「未来へ導く、光となる。」をビジョンに掲げるこのブランドの思想と合致するものだ。今後は生成AIなどの活用も含め、ますます豊かなサービスが提供されていくことになるだろう。

 よりよい社会をつくっていくうえでも、金融領域のDXは必要不可欠なはずだ。AWSの活用によって加速するNEC Secure PaaS for Financeは、多くの金融機関に寄り添いながら、私たちをまだ見ぬ未来へと連れていってくれるだろう。