ここから本文です。

2023年11月21日

地域活性化を“自走”させるために必要な官民連携の秘訣

 近年、さまざまな領域で官民連携の重要性が叫ばれている。たしかに官民どちらかだけでは複雑な社会課題を解決しづらいことは事実だ。地域課題を解決するには持続的に対応する必要があり、単年度予算が主体となる自治体だけでは解決できない課題が多いとも言われる。官民連携を通じてさまざまな課題を解決すべく、NECも「API Economy Initiative」と題したコンソーシアムを運営しており、政府や自治体、民間企業を巻き込みながらエコシステムを創りだそうとしている。

 もっとも、単にコンソーシアムをつくるだけでは意味がない。社会実装を促し、地域や企業が自走できるような環境がつくられなければ、社会課題の解決は進まないはずだ。そこでNECは今回、和歌山県や白浜町、延岡市、NICT(情報通信研究機構)と立場が異なる官民組織が集まる場を設け、どうすれば企業が自走可能な社会基盤を実装できるのか、地域活性化やレジリエンスの観点から議論を行った。実際に南紀白浜へ集まって行われたディスカッションでは、レジリエントな分散ネットワークコンピューティング技術を地域基盤として活用し、地域課題を解決する企業のエコシステムづくりの可能性が見えてきた。

目次 表示する
ディスカッションはNECグループが南紀白浜に構えるオフィスで行われた

災害に強いネットワークを整備する重要性

 「本日は『自走する地域活性化』をテーマにディスカッションを行っていきます。どうすれば日本各地の活性化を進められるか考える上で、地域分散ネットワーク基盤『NerveNet』を利活用した住民向けサービスの可能性を論じるべく、実際に取り組みを進められている白浜町や自治体のみなさま、NerveNetを提供するNICTさまにお集まりいただきました」

 NECで「API Economy Initiative」をリードし、今回のパネルディスカッションの発起人でモデレータを務めるNECの酒井良之がそう語るように、今回のディスカッションは白浜町が実際に導入を進めているNerveNetに着目したものだ。酒井は大手民間企業を担当するビジネスユニットで戦略事業を推進しており、今回複数の自治体と国立研究開発法人を巻き込んだ初の試みを企画した。

 今回のテーマを担うNerveNetとは、NICTが研究開発を進めている安全・安心を担保した地域分散ネットワーク基盤だ。基地局同士が自動的に相互接続する機能をもち、災害時に一部のルートで障害が発生してもすぐに別のルートに切り替えられること、データを蓄積・同期する機能が各基地局内に備えられていることから、平時だけでなく災害のような非常時にも安定していることで注目されている。あらゆる産業のDXにおいては通信のレジリエンスは必要不可欠であり、NerveNetは単なるネットワークインフラを超えて社会へインパクトを与えるものだろう。果たして白浜町ではどのようにこのインフラが活用されているのだろうか?

NEC エンタープライズ企画統括部 ディレクター 酒井良之

 まず、どうすれば平常時の地域・住民サービスと非常時の通信継続性を両立させられるのか考えるべく、白浜町総務課情報推進係 係長の尾﨑しのぶ氏が現在の取り組みを紹介した。

 尾﨑氏によれば、白浜町はNerveNetの実装環境の整備を行うとともに平時利用を促進することで、BCP(事業継続計画)に強い街として企業誘致やワーケーションの推進を行っているという。災害時でも普段と同じサービスやアプリケーションを利用できる環境をつくり情報弱者を減らすのはもちろんのこと、住民や観光客、ワーケーション利用者などの関係人口のデータを適切に取得・活用している。地域の観光産業がデータに基づいたマーケティング活動を行うとともに、企業誘致やワーケーション利用の促進、保育園留学といった新たな町の施策に効果的にエンゲージメントできる基盤をつくろうとしている。

白浜町総務課情報推進係 係長 尾﨑しのぶ氏

 NerveNetは通信機能と情報処理機能を兼ねた基地局を相互にメッシュ状に接続することで構成されており、基地局が分散しているため災害や障害に強いことが特長だ。白浜町では15の基地局と3基の衛星通信機器を活用し、平時はフリーWi-Fiの提供やライブカメラの運用を行っている。ただ災害に強いだけでなく、運用・保守の面においても自治体にとってのメリットは非常に大きいと尾﨑氏は続ける。

 「NerveNetは基地局の交換・復旧に専門知識がいらないため自治体の人々も運用に携わりやすく、ランニングコストが非常に低いことも特長だと感じます。低コストで運用できることは自治体にとっても嬉しく、より持続可能性の高いネットワークを構築できると考えています」

すべてのハードウェアが連携したインフラの構築

 続いてNICT レジリエントICT研究センター 協力研究員の島野繁弘氏は、NerveNetが生まれた背景やそのビジョンについて語る。日本では特に2011年の東日本大震災以降、ネットワーク機能分散による信頼性の向上や基地局のバッテリー運用など、通信の輻輳対策・耐災害性強化策が進められてきた。

 NerveNetも、その動きのなかから生まれたものだ。全国の道路が渋滞解消や事故・災害対策のために拡張しつづけているように、これからのネットワークも電話網だけに頼るのではなく多様なネットワークによる複数のアクセス網を構築する必要があるのだと島野氏は語る。

NICT レジリエントICT研究センター 協力研究員 島野繁弘氏

 「これはハードウェアの技術ではなく、ソフトウェアなのです。プラットフォーム技術をソフトウェア化することでハードウェア依存がなくなり、すべてのハードウェアが連携した社会インフラを構築できる。それこそが社会のデジタル化の大きな転換点なのだと思います」

 NerveNetはソフトウェアであるがゆえに可搬性が高く、白浜町だけでなくさまざまな自治体へ広げられるはずだと島野氏は続ける。すでに白浜町は隣接したすさみ町との情報共有を進めており、他自治体とのデータ連携やサービス連携も可能になるという。防災のみならず観光や医療など、さまざまな領域において、プライバシーやセキュリティに配慮しながら複数自治体をNerveNetはつないでくれるのだ。

直接会ってディスカッションを行ったことで、現場ではさまざまな意見が飛び交った

民間事業者による柔軟なサービス展開への期待

 こうした地域の減災ネットワークインフラの整備は、NECのような民間事業者によるさまざまなサービスやアプリケーションの展開にもつながっている。「私たちとしても地域インフラを使ってうまく事業をつくり、根づかせ、新たな雇用を生み出すサイクルをつくれないかと考えています」と酒井は語り、今回のディスカッションに向けてNECが自身の取り組みとも紐づくアイデアを検討してきたことを明かす。

 「行政による災害復旧活動における情報流通には3つの課題があると言われます。公衆網の停止に対する通信の継続性、重要情報の滞りの解消、復旧対策の意思決定支援が課題です。こうした課題に対し、たとえば白浜町が整備しているNerveNetの固定無線局に、どこにでも移動可能な『車両』による移動無線局を加えることで、更にレジリエントなネットワークが構築できると考えています」

NEC通信システム シニアエキスパート 溝口民行
NEC モビリティソリューション統括部 ディレクター 室田徹也

 そう語るのは、NEC通信システムのシニアエキスパート、溝口民行だ。NerveNetに「車両」による移動無線局を加えると、課題がどのように解決できるだろうか?

 「災害の発生箇所へ機動力のある車両を派遣することで、通信を継続し現場の情報収集が強化されます。重要情報の滞りに対し、緊急性の高いデータを優先的に伝送する制御を行います。復旧対策の意思決定に対し、集められたデータをもとに、たとえば最適な物資輸送ルートなどをAIが分析し、支援ができると考えています」

 NEC モビリティソリューション統括部 ディレクター 室田徹也も、人口減少や交通サービスの維持といった地域の課題解決に向けて同社がモビリティサービスプラットフォームをつくろうとしていることを明かす。

 「災害時のためだけに車両を用意するのではなく、平時は地域の移動に関する課題を解決するために車両を利用するのはひとつのアイデアです。NECは、自動運転車両の運行に必要な機能を地域交通事業者などのサービサーへ提供しようと考えています。ただの移動サービスに留まらず、このプラットフォームに集まってくる人やモノの移動データを活用することで、地域の事業者や自治体の方々とも連携できるはずです。それが地域活性化や自治体の魅力向上に活かせる状態を目指していきたいと思っています」

 顔認証をはじめとする生体認証技術やAIなど、NECが有する先端的なテクノロジーを活用するとともに、同社が育んできたさまざまな産業や地域とのつながりを活かすことで、地域インフラの可能性はさらに広がっていくのかもしれない。

NECからはNerveNetを活用したモビリティサービスの提案も行われた。

平時と災害時をどう両立させるか

 NerveNetのような地域インフラやAPI Economy Initiativeといったエコシステムは豊かな可能性を秘めているが、実際のプロジェクトにおいては困難に直面することも少なくないと島野氏は語る。

 「災害に強いインフラや災害対応サービスの重要性は多くの人々が認識しているものの、各論になると取り組みが止まってしまいがちです。平時も事業として機能するサービスをつくった上で、それが非常時にも機能する仕組みをつくらなければいけないのです。そうしなければ、官民連携は国が資金を提供しつづけなければ成立しなくなってしまいますから」

延岡市総務部危機管理課 主任主事 黒木慎吾氏
延岡市企画部スマートシティ推進室 室長補佐 渡部嘉教氏

 実際に、各自治体では平時と災害時のサービスを両立させるために苦労しているようだ。この日オブザーバーとして参加した和歌山県や延岡市の職員からも「予算が潤沢にあるとは限らないためすでに民間で機能しているサービスに行政が入っていく方がいいのかもしれません」「どこを民間がやり、どこを行政がやるか、責任分担をきちんと決める重要性を感じます」「フリーWi-Fiの整備などを進めている一方で、実用的なサービスとして活用できていない側面もあります」など、さまざまな現場の声が上がった。たとえば延岡市でも官民連携の取り組みが進んでいるが、そこでは通信インフラのみならず、災害時に救援物資を送る際にどんな物流インフラを構築できるかが問われていたという。

和歌山県企画部企画政策局デジタル社会推進課 主事 太田岳志氏
和歌山県企画部企画政策局デジタル社会推進課 班長 山中崇央氏

 その点、NerveNetの存在は導入コストを削減する上でも大きな意味をもつだろう。通信インフラを単独の企業や自治体だけで整備しようとすると多額のコストがかかるが、NerveNetがあれば平時のサービス導入の初期投資を押さえると同時に、災害時の通信インフラの整備にもつながっていく。災害時の安心・安全につながるインフラを整備することは、非財務の面でも大きな影響を与えていくはずだと島野氏は指摘する。参加者から上がったさまざまな意見を踏まえ、酒井は改めて各地域ときちんとコミュニケーションしていく重要性を説く。

 「地域が変われば文化も特性も事業者も変わりますし、私たちだけではなく地域の人々ときちんと連携しなければいけませんよね。実際に地域の企業の方々と議論しながら仕組みづくりを考えていくことが重要なのだと感じます」

 DXの議論においては自動化や汎用化が求められる機会が多いかもしれないが、ひとつのサービスをそのまま全国各地に横展開できるわけではない。地域ごとに文化も環境も人も異なるからこそ、個々の地域ときちんと向き合い、多様な課題に寄り添っていく必要がある。最後に酒井は「自走する官民共創には、自治体の特徴を活かし、自治体が住民を巻き込んだ実証を試み、民間事業者が事業をしっかりと根づかせられるかどうかがキーになっていくでしょう」と語ってこの場を締めくくった。実際に南紀白浜で顔を突き合わせながら行われたこのディスカッションは、酒井が語るようなDX時代に求められる官民共創の態度を提示するものになったと言えるだろう。

和歌山県・白浜町・延岡市という3つの自治体と国立法人のNICT、民間企業のNECグループという立場の異なるメンバーが集まり交流を深めた

関連キーワードで検索

さらに読む

この記事の評価


コメント


  • コメントへの返信は差し上げておりません。また、いただいたコメントはプロモーション等で活用させていただく場合がありますので、ご了承ください。
本文ここまで。
ページトップ