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データドリブン経営を企業文化として根付かせる方法とは?SMBCとNECの社内でデータ利活用を推進している部署の視点から、実際の取り組み事例を基に深堀します。
データを分析して、それを基に意思決定を行う。経営者から現場まで、ビジネスの判断はデータ主導にシフトしようとしている。そのために、多くの企業がデータ環境の整備、データ活用基盤の構築に取り組んでいるが、その途上でさまざまな課題に直面。場合によっては、プロジェクトが頓挫してしまっている。データドリブン経営を実践し、成功させるには、どのようなポイントを意識すべきか。
SPEAKER 話し手
NEC
棈木 琢己
DX戦略コンサルティング事業部
エグゼクティブコンサルタントリード
船越 祐哉
デジタルビジネスオファリング事業部
シニアマネージャー
山川 聡
デジタルビジネスオファリング事業部
シニアマネージャー
データドリブン経営を阻む4つの課題
──データドリブン経営に関する貴重な調査データがあると聞きました。ご紹介ください。
棈木:勘と経験に頼るのではなく、データを分析して、それを意思決定の根拠とする「データドリブン経営」が注目されています。データドリブン経営に取り組んでいる企業は、そうではない企業に比べて、より速いスピードで成長しているともいわれています。
実際、多くの企業がデータドリブン経営を実践しているようですが、NECの調査によると、その多くは部署や部門単位での実践にとどまっているようです。具体的には、図1に示したとおり。全社的に体制を整備している企業は、約30%しかありません。
──なぜデータドリブン経営が進まないのでしょうか。
棈木:私は四つのカテゴリの課題があると考えています。
一つ目はデータマネジメントの課題です。要因はデータのサイロ化です。部署や部門など、各組織がそれぞれデータを保有しており、それらを統合できていないため、似通ったデータしか活用できず、分析してもあまりよいインサイトが得られないのです。
二つ目は組織文化と人財の課題です。実践的な教育が提供できない。その結果、データを起点に意思決定をする文化が根付かないという状況が考えられます。
三つ目は技術の課題です。よく聞くのが、既存システムを改修してデータ活用に取り組むのだが、なかなか成果につながらない。改修費用だけがかさんで投資対効果が悪化しているという事象です。先に述べたとおり、データドリブン経営が注目される背景には技術の進化があり、それらを最適に活用していかなくてはなりません。しかし、データ活用の目的が定まっていないことなどから、大きな戦略に沿った予算化が行えない。結果、小出しに費用をかけて既存システムの改修を繰り返すも成果が出ない、という悪循環に陥っているのです。
四つ目は組織間連携の課題。例えば、データ活用の目的ははっきりしているのだが、それが組織を超えて伝わる間に要約されて、重要な細部や本質が抜け落ちてしまっている。それにより、経営と現場、ビジネスとITなどの部門間でコミュニケーションのロスが発生。データから、どんなに優れたインサイトを得ても、その価値が伝わらないなど、連携の不具合、せっかくの取り組みを台無しにしているのです(図2)。
サイロ化は物理的な場所だけではない。シチズン時計の気づき
──船越さんと山川さんは、お客さまのデータ活用を支援しているそうですね。棈木さんの指摘を受けてデータドリブン経営に向けた取り組みの現状をどのように見ていますか。
船越:私はデータエンジニアとして、データの整理や管理のためのサポートをしています。日々、お客さまと共にデータのサイロ化など、データマネジメントの課題解決に取り組んでいます。
営業チームごとに顧客情報を持っている、グループ会社で生産管理システムが別々など、事情はさまざまですが、棈木が指摘したとおり、多くのお客さまがデータのサイロ化に悩んでいます。
別々のシステムで管理をしていても顧客番号を同じにするなど、共通する「キー」があれば統合をしやすいのですが、それができていないことも少なくありません。マスタ統合のような大規模な改修を行うには、全社の足並みをそろえなければならず、データ統合は難易度の高い取り組みです。
私が担当した事例では、シチズン時計さまの取り組みが印象的でした。もともとシチズン時計さまは、販売データを分析するための環境をお持ちでした。そのシステムを、さらに有効活用するために、全グループの基幹システムからデータを集めてDWHを作成し、それを基にさまざまな切り口の分析を行おうと考えたのがプロジェクトのきっかけです。
しかし、構想の段階で大きな課題に直面しました。全データを集めてDWHを構築すれば、一見、データのサイロ化は解消されたように見えますが、すべてのデータを集めたDWHは活用する度に用途に応じた準備が必要。つまり、データの置き場所としてはサイロが解消されましたが、活用面では分散したデータを集めて準備を行っていたころとほとんど工数が変わらなかったのです。
──どのように解決したのでしょうか。
船越:単にデータを集約するのではなく、どんな分析ニーズがあるのかを洗い出して、それぞれに応じたデータモデル、およびそれをまとめたルールブックを作成。それに従ってDWHにデータを格納することで、分析に向けたデータ準備の工数を最小化しています。
システムで人をフォローしてプロジェクトを軌道に乗せる
──山川さんは、データドリブン経営の課題と解決のポイントをどのように見ていますか。
山川:私はシステムアーキテクトとして、データを利活用するためのインフラの設計と構築を担当しています。
IoTデバイスからのデータや業務システムのデータ、社内文書のようなデータ、さらには外部から得られるオープンデータなど、現在の企業は実に多くの種類のデータを扱っています。データ活用基盤は、これらのデータを収集して、それぞれのユーザに渡すハブのような役割を果たすわけですが、目的を定めないまま、単にデータを収集してもデータ活用を支えることはできません。冒頭で目的が定まっていないことが投資対効果の悪循環を招くと棈木が指摘し、先ほど船越もシチズン時計さまが目的を定めて課題を解決したと紹介したように、やはり最初にあるのは目的。どんな目的があり、そのためにはどんなデータを収集すべきか。そもそも求めるデータは社内にあるのか──。インフラ整備もまた、全社視点で課題を把握し、目的やゴールを定めることが成功の要因となります。
──データ活用基盤が備えておくべき機能としては、どのようなものがありますか。
山川:プロジェクトを頓挫させないためには、現場がデータ分析のために使っているツールとの連携機能、データが決められたルールに沿って格納されているかをチェックする機能が挙げられます。
前者はいうまでもありません。現場が使えないと判断してしまうとプロジェクトは一気に停滞します。
後者はデータの発生源となる人たちと協力関係をつくるためです。データ活用基盤を構築すると、データの発生源の人は「活用しやすいように加工してデータを入れる」という新しい仕事が発生します。その作業をシステム的に補助して、負担を軽減しながら、協力を仰ぐのです。もちろん、入力補助など、システム的なサポートにはさまざまな方法が考えられます。
──トップダウンの大規模プロジェクト、現場主導のスモールスタート。成功事例などを見るとどちらのアプローチもあります。どちらがよいのでしょうか。
山川:どちらも正解です。自社の状況に応じて選択すればよいと思います。ただし、どちらの場合も実行方針をきちんと描いておくことが重要です。トップダウンなら、役割分担や作業定義、実行体制をどう整備するか。スモールスタートなら、将来の全社適用を見据えてわかりやすく成果を定義しておくこと、インフラの拡張性を考慮しておくことなどがあります。
船越:技術的には、クラウドの普及によって、以前よりスモールスタートは行いやすくなっていると思います。最適な選択をしながら、ぜひチャレンジしていただきたいですね。
──どのように取り組みを進めるかは企業ごとに異なってもよいのですね。
棈木:はい。ただし、目的とゴールが重要なこと。加えて冒頭で提示した四つの課題に直面しやすいことは、どの企業も共通です。ぜひ、それを意識していただきたいですね。最後に四つの課題に沿って、今日のポイントを整理します。
一つ目のデータマネジメントのポイントは、サイロ化を克服して、必要な人が必要なデータにアクセスできる環境を実現すること。
二つ目の組織文化と人財は、データは貯めるものではなく、使うものという認識を広く持つこと。つまり目的の共有です。
三つ目の技術は、文化と技術はコインの裏表。山川が紹介したような頓挫しない工夫を凝らしながら、成功体験を積み上げていく。そうすることで投資対効果が明らかになり、新しい技術も価値を発揮しやすくなります。
四つ目の組織間連携については、私からポイントを付け加えます。組織間連携の強化は、細部の「神」を見逃さないためです。データドリブン経営を実践し、ビジネスの些細な変化も見落とさずに捉え、即座に経営に反映していくには、部門の足並みがそろわず、ある部門のデータが抜け落ちていたりするようでは難しい。横串のニュートラルな組織を構築することが十分なデータ活用、データドリブン経営のベースとなります。
これら四つのポイントを、ぜひデータドリブン経営の実践に役立ててください(図3)。