「変われない大企業」が変わる。
NECが挑む「変革のリーダーシップ」とは
Forbes JAPAN BrandVoice 2022年3月30日掲載記事より転載
パンデミックに不安定な国際情勢と、社会を取り巻く環境は激変している。不確実性が高まり続けており、変革しようとしない企業は、規模の大小を問わず淘汰される時代に突入したといえよう。
この局面で、果敢に変革に挑戦している企業、そして求められるリーダーシップとは、どのようなものなのか。Forbes JAPANが注目したのは、いわゆる大企業でありながら変革を進めているNEC。同社は、2022年4月から抜本的な組織改革に乗り出し、リーダー層へ若手を大胆に抜擢するとしている。果たしてどのような変革と、それを実現させるリーダーシップを目指すのか。若きリーダー2人と、日米でチームワークやリーダーシップの研究を進めてきた早稲田大学の村瀬俊朗准教授が語り合った。
(ファシリテーターはForbes JAPAN WEB編集長の谷本有香が務めた)
キーワードは「考えてトライする」
「失われた30年」とよくいわれる。日本経済の低迷を表す言葉だが、そこへ密接に紐付いている企業の組織や働き方はどうなのだろうか。20年にわたってアメリカにいた村瀬は、次のように語る。
「1997年に渡米して2017年に帰国したのですが、90年代に戻ってきたような気がしました。物質空間を超えてコミュニケーションやコラボレーションができるプラットフォームやテクノロジーがあるにもかかわらず、人のやりとりの仕方が全く変わっていないことに驚いたんです」(村瀬)
帰国当時、さまざまな企業に「リモートで話をしましょう」と声をかけても、ほとんど受け入れてもらえない。たとえウェブ会議のプラットフォームを導入済みでも、話をするときはお互いにオフィスを訪問するという考え方が揺るぎないものとして存在していた。
「数十年前からの働き方が固定化されてしまっているので、そこに合わない人は働きにくい。リモートワークに取り組んでいる企業もありましたが、ほんの一部に過ぎませんでした。この膠着した状況を一気に変えたのがコロナ禍です。働き方に対する意識を強制的に変えざるを得なくなりました」(村瀬)
この「変化」によって何が起きたか。村瀬は「考えてトライする」がキーワードになったと指摘する。
「いままでは、『働き方はこうだ』という答えが決まっていたので、誰もが考えることなくそこに合わせていけばよかったんです。しかし、もはや答えがなくなりましたので、どういう働き方がいいか自分たちで考えなくてはなりません。当然、各企業の業種・業態や文化によってそれぞれ違いますから、悩んで模索するというのが世界中で起こっています。つまり、考えてトライし続けることが重要となってきたわけです」(村瀬)
真の変革に必要なのはミドル層のリーダーシップ
NECを牽引する若きリーダーたちは、この村瀬の分析をどう受け止めたか。40歳という若さで、デジタルインテグレーション本部の本部長を務める岩田は、組織内の雰囲気が変わってきたと明かす。
「社会の変化はコロナ前から起こっていましたから、変化への対応を考えざるを得なくなったことは非常に良いことだと感じています。試行錯誤や変化しようとすることに対し、合意を取りやすくなってきました」(岩田)
岩田の言葉を正面から受け止めると、NECが変革に消極的な印象を受ける人もいるかもしれない。しかし、NECはむしろ早くから危機感を抱いてきた企業のひとつだ。2000年代後半からビジネスモデルの再構築に取り組み、2018年には構造改革を断行。2019年から過去最高益を記録している。
実際、変革への意気込みは社内に満ちているようだ。外資系企業で10年間キャリアを積み、2019年にNECに中途入社した新川は次のように話す。
「コロナ前の入社でしたが、いわゆる『大企業病』からの脱却を図ろうとしているのはすぐに伝わってきました。トップのメッセージが力強く、リモートワークや各種制度を含めた環境整備もしっかりなされていました。だからこそ、コロナ禍で急激に働き方が変わってもスムーズに移行できたと感じています」(新川)
変革の気運は高まり、働き方自体は柔軟になった。それでも、岩田がコロナ禍での変化を口にしたように、個々のメンバーのマインドセットや組織風土は変わり切っていない。
「私自身、NECの変革は道半ばだと思っています。経営層は変革にコミットして随時メッセージも発していますので、次は私のようなミドル層が役割を果たさなくてはならないと感じています」(岩田)
経営層のメッセージを受け止め、現場とのギャップを的確に見極めつつ、現場が納得できるようなコミュニケーションをとる。そして、現場のチームが自律的に考えやすく、自由に意見を出せるような場づくりをしていく。そうしたことがミドル層、中間管理職により一層求められるということだ。新川も、現場のメンバーの視点から、岩田の指摘の重要性を説明する。
「日々、ビジネス環境の変化を肌で感じる中で、だれもが『変わらなければならない』と理解しています。一方で、『どう変わればいいのかわからない』と感じているメンバーも多数いるはずです。だからこそ、トップと現場の間に立つミドル層のリーダーシップが今後は肝になっていくと感じています」(新川)
制度は不可欠。しかし、重要なのは「目的」
トップと現場をつなぐミドル層のリーダーシップ。「答え」が決まっていた同質性の高い時代ならば、そのあり方もある程度は定まっていただろう。
しかし、多様性が高まり「考えてトライし続ける」ことが重要なキーワードとなってきたいま、リーダーにはどのようなマインドセットが求められるのか。村瀬は、前提として組織の属性を見極めなければならないと説いた。
「多様な価値観や考え方を持っている人の集団は、『こうしましょう』と説得していかなければまとまりません。わかりやすいのが、アメリカの評価項目です。ジョブ型雇用が中心で業績重視といわれますが、実は『チームをしっかりつくれているか』『コラボレーションしやすい環境づくりができているか』が重要視されています。多様な人たちがいるからこそ、リーダーシップが求められるわけです」(村瀬)
逆にいえば、インセンティブがあるからこそ、いかにリーダーシップを発揮できるかリーダーが「考えてトライ」できるということだ。
「リーダーが言葉だけで語るのではなく、制度設計や人事のルールづくりが重要となってきます。とりわけ大企業の場合は、本社の一部だけがチームをまとめる重要性を理解していて、他には伝わっていないということがありえます。ただし、“仏作って魂入れず”ではありませんが、ルールだけを決めても魂のこもった組織づくりにはつながりません。まずは、経営層が語る言葉をミドル層のリーダーが自分なりに解釈できるまで何度も語り合うことが重要となるでしょう」(村瀬)
NECはまさにこのプロセスを実行しようとしている。2021年11月から新たな働き方改革として『Smart Work 2.0』を本格的に展開。“働きやすさ”だけでなく、“働きがい”を向上するためオフィスも最適化。2022年4月からは「週休3日選択制」や「兼業・副業の拡充」を導入するとともに、抜本的な組織変革を開始。こうした“外形的”な施策にとどまることなく、社内にきっちりとメッセージを発信していると岩田は説明する。
「社内でよくいわれているのは、『制度やルールは定めた時点で古くなる』ということです。重要なのは制度の目的に立ち返ることです。『目的にそっていかに魂を込めて運用していくかを考え実行していこう』と言い続け行動を促すことが大切だと考えています」(岩田)
決められたことを実行すればいいのではない。自ら考えて、新しいトライに一歩踏み出すことを後押しするのも、リーダーの役割ではないかと新川も言及する。
「たとえば1on1など人との対話は重要ですが、すればいいものでもないと思うのです。お互いの多様な考え・価値観をぶつけ合い、目的や課題などの共通認識を形成しながら、方法のオプションを考えていく。1つ正しい方法を追い求めるのではなく、状況に合わせて柔軟に対応できる“引き出し”を増やしていくことが必要でしょうし、そういったオプションが増えていくチームづくりが私たちミドル層に求められるのではないかと思います」(新川)
アジャイルだけでなく伝統の強みも生かす「器用さ」を
新川が口にした「オプションを増やす」は、イノベーションを生み出す組織であり続けるうえでも重要な視点だと村瀬は指摘する。
「イノベーションはラディカルな取り組みとして語られることが多いですが、本当は長期間かけて少しずつ改善を重ねていくインクリメンタル(次第に増加する)な取り組みのほうが重要なのです。アメリカはメガヒットをいくつも飛ばしていますが、実はどうしようもない製品やサービスも山のようにあります。その意味で、常に80点以上を取り続ける日本のインクリメンタルな姿勢もしっかり評価しなければなりません」(村瀬)
日本のインクリメンタル・イノベーションの代表例として村瀬はトイレを挙げた。快適性を追求し続け、世界でも類を見ない進化を遂げたのは日本の気質によるところが大きいという。つまり、アメリカのような多様性に富む組織におけるリーダーシップのみが正解ではないということだ。
「チームでいろいろな意見を出し合って合意形成をしていくと、時間もかかりますし角が取れて丸くなる場合も当然あります。スピード感だけでいえば、同質性の高い組織のほうが高いですが、それが進みすぎると多面的な考え方ができなくなったり、心理的安全性が確保できなくなったりしてしまいます」(村瀬)
だからこそ、都度「考えてトライする」ことが重要になる。組織ごと、部署ごとにどのようなメンバーがいるかを踏まえ、それぞれのニーズに合わせてリーダーシップのあり方を選んでいくということだ。
岩田は、この村瀬の主張を「従来の同質性でも勝ち筋がある」と受け止めた。
「NECは、2021年5月に発表した2025年までの中期経営計画で、『NECのパーパスを実現する両輪は戦略と文化である』としました。戦略がアジャイルな組織運営であれば、文化はNECが持つ同質性だと思うのです。すなわち、実直な顧客対応と技術力で社会実装をしてきた強みを今後も大切にしつつ、多様な意見を取り入れる。状況に応じて同質性と多様性それぞれから生まれる強みを使い分けたり融合したりする器用さを身につけるべきだと思っています」(岩田)
大企業の変革は、社会のロールモデルとなる
インクリメンタルでありながらラディカルに。その器用さは、いわばグローバルとローカルの双方でパフォーマンスを発揮できるということだろう。デジタル化が進み、コミュニケーションのあり方や働き方のみならず社会全体が転換点を迎えているからこそ求められる稀有なケイパビリティだが、NECにはそれを磨ける土壌が備わっていると信じていると新川はいう。
「良い意味で個が強すぎない会社だと思うのです。規模が大きいだけに、アイデアが浮かんだときは他部門ですでに取り組んでいないか社内に確認するようにしていますが、『もうウチでやっているから手を出さないで』という感じではなく、『面白いからいっしょにやろう』となることもあります。私のような中途入社でも、壁を感じることはありませんでしたし、同質性がありながら、多様性を柔軟に受け入れるオープンな社風はこれからの時代に生かすべきだと思います」(新川)
良い意味で個が強すぎない―。これは長年にわたって社会インフラを安定稼働させてきたNECの強みでもあるだろう。NECの変革を牽引していくリーダー像として、岩田は新川を例に挙げて述べた。
「NECに欠けているのは“クリエイティビティ”です。これからの時代、目指す方向性を示す構想力を高めながら、色々な意見を取り込んで、創意工夫を重ねていく事が重要になっていきます。その実現には人材の多様化が不可欠です。しかし多様化に伴って仕事やライフスタイルに対する価値観もどんどん細分化しています。その一人ひとりに、丁寧に共感できて、寄り添いながら、チームワークを最大化していく。いつも新川さんを見て凄いなと思っていますが、そういった多様性を活かせるリーダーが重要だと思っています」(岩田)
NECの変革を目指し、組織風土改革をあきらめることなく、徹底的にやり続ける覚悟だと口をそろえる若き2人のリーダー。多様な人に共感し、寄り添いながらそれぞれの持ち味を引き出す――。120年以上培ってきた良い部分を生かすリーダーシップには村瀬も大きな期待を寄せる。
「経営層だけでなくミドル層を含めたあらゆるポジションのリーダーがしっかりと動くことで、組織全体の変化が起こってきます。大企業が変わると、社会全体が大きく変わりますので、NECさんにはぜひともロールモデルとなっていただきたいですね」(村瀬)
多様性と同質性を兼ね備え、あふれんばかりの変革への意欲を持つNEC。「変革のラストピース」であるミドル層のリーダーシップが機能したとき、日本社会はきっと大きく変貌を遂げている。加速度的に進むNECの取り組みを見ると、その日がやってくるのは思いのほか近いのかもしれない。