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金融DXを支えるデータセンター再定義 三井住友信託銀行の挑戦

 金融サービスは重要な社会インフラの1つである。顧客ニーズや社会の変化に対応すべく、多くの金融機関がデジタル化戦略を進めている。三井住友信託銀行はその一環として、既存データセンターの再構築に取り組んだ。新たに採用したのがNECのデータセンターだ。将来を見据えた戦略的移設である。どのようなビジョンのもとで移設を決断したのか。なぜNECのデータセンターを選択したのか。同社及びNECのキーパーソンに、移設プロジェクトの“舞台裏”について話を聞いた。

SPEAKER 話し手

三井住友信託銀行株式会社

金岡 仁 氏

IT基盤運営部長

荻原 尚也 氏

IT基盤運営部
ホスト技術チーム長

NEC

川崎 竜巳

第二金融ソリューション統括部
第二ソリューショングループ
ディレクター

片山 麦水

クラウド・マネージドサービス事業部門
サービスビジネス統括部

自前のデータセンターは維持・運用コストが膨大

――金融のデジタル化が加速しています。三井住友信託銀行では、どのような対応を進めていますか。

金岡氏(三井住友信託銀行):金融サービスや銀行業務を支えるIT環境は「攻め」と「守り」のバランスが大切です。まず、攻めの領域では戦略的にクラウドファーストを推進しています。既に情報系システムのほとんどは、オンプレミスからクラウドへ移行を完了しました。

 一方の守りの領域ではセキュリティや事業継続性を高いレベルで維持することを念頭においています。銀行システムは非常にミッションクリティカルなシステムなので、インフラ自体にも高い堅ろう性・信頼性が求められます。そのため、勘定系システムを支えるメインフレームは、固有の運用体制も鑑み、現時点ではクラウドに移行せず、自社データセンターで運用しています。

三井住友信託銀行株式会社
IT基盤運営部長
金岡 仁 氏

――データセンターは2拠点で運用していますね。

金岡氏:一方がメインサイト、もう一方が障害や災害対策用のBCPサイトです。メインサイトで障害や災害が発生すれば直ちにBCPサイトに切り替わり、稼働を継続する構成です。

荻原氏(三井住友信託銀行):ただし、既存のデータセンターには課題もありました。維持・運用には膨大なコストがかかる上、設備の更改やメンテナンスの手間も大きい。概ねのシステムがクラウド化されていたり、データセンターに対する要件も変化する中、このまま自前で持ち続けるべきなのか以前から検討を重ねていました。

三井住友信託銀行株式会社
IT基盤運営部
ホスト技術チーム長
荻原 尚也 氏

――移設にあたり、複数の事業者を比較検討したそうですね。どのような要件を重視したのでしょうか。

金岡氏:ファシリティとしての堅ろう性・信頼性、入退管理をはじめとする物理セキュリティ、低レイテンシーの高速ネットワーク環境の整備は必須条件です。事業者側のデータセンター事業の継続性やシステムの移行方法を含めた上流のプランニング力、現場人材を含めた体制、コストなども重要な評価ポイントです。これらを軸に国内、海外の事業者を複数検討しました。

 また、現行のメインフレームは今夏に更改時期を迎えます。このタイミングに合わせてデータセンターを移設したかったので、こちらのスケジュールに合わせた対応ができるかどうかも重視しました。

顧客ニーズに寄り添う柔軟な対応力が決め手に

――最終的にNECのデータセンターを選定されましたが、その理由について教えてください。

金岡氏:必須要件を満たしていることに加え、ニーズに対する対応の柔軟性が非常に高い。これが決め手になりました。

 東日本大震災などで学んだことを踏まえデータセンター要件をアップデートし続けていることは高く評価できます。日本固有の細かい要件にしっかりと対応しているなと感じました。

 当社要件に対しても柔軟に対応してくれました。重要システムを運用するので、誤って部外者が立ち入ることがあってはなりません。その点、NECは専用区画を設けた上で、周囲にはゲージを設置してくれました。障害に備えて予備機材などを保管するためのスペースも用意してくれました。

荻原氏:専用スペースを提供できるという事業者はほかにも存在しましたが、いずれも当社が必要と想定するフロア面積の場合は、フロア単位での固定的な提供モデルでした。クラウドファーストの推進により、オンプレミスのシステムは減少しているものの、業務要件などによってはオンプレミスが必要となるシステムもあり、自前で運用するシステム数の見通しについては、今後も変動する可能性があります。不確定要素が多い中で、フロア単位での提供モデルは、稼働率とコスト構造が乖離しやすく、投資対効果の観点でも最適解とはいえません。その点、NECの専用区画による提供モデルなら、今後の状況に応じて、最適なコストで柔軟にスペースを変えていくことが可能となります。

金岡氏:ネットワークの構築も柔軟に対応してくれました。銀行のネットワークは全銀システム、CAFIS(キャフィス:日本最大級のキャッシュレス決済プラットフォーム)、統合ATMスイッチングサービスなど対外接続が多い。しかもデータセンターは行内ネットワークのハブの役割も担っています。これらを踏まえて、NECは最適なネットワーク構成を考えてくれました。多様な通信プロトコルに対応し、耐障害性を高めつつ、構成はシンプルです。何があってもダウンタイムなく、つながり続けることが可能です。

 NECのデータセンターへの入館申請はWeb経由で行いますが、申請者の制限に加え、銀行側での承認作業を追加できるよう運用上の最適なプロセスを提案していただきました。こうした対応もさすがだなと感じました。また、NECのデータセンターの増棟・増床を計画するなど、データセンター事業に対ししっかりと投資し続ける企業方針であることが確認できたことも大きいです。

設備をオフバランス化しセキュリティや可用性は向上

――今回の移設にあたって、NECとして特に配慮したポイントは何でしょうか。

川崎(NEC):三井住友信託銀行ではデータセンターを新しくすることが目的ではなく、DXを支えるインフラやシステム、その運用も含めた最適化を目指されています。その要件は将来を見据えた、非常にレベルの高いものでした。SI事業やデータセンター事業で培った知見やノウハウを活かし、上流から支援しました。

NEC
第二金融ソリューション統括部
第二ソリューショングループ
ディレクター
川崎 竜巳

片山(NEC):NECはビジネス変革の知見・経験を体系化した「BluStellar」をDX事業の中核に据え、社会課題や経営課題の解決を支援しています。現行資産やBCPを含めた運用の包括アセスメントを実施し、段階的な移設計画、さらに災害対策を織り込んだ冗長設計、セキュアかつ低遅延接続のネットワークを見据えたデータセンターの提案をしました。

NEC
クラウド・マネージドサービス事業部門
サービスビジネス統括部
片山 麦水

――移設プロジェクトの現在の状況と稼働後の利用形態について教えてください。

荻原氏:全体の移設計画は策定が完了し、移設の先行プロジェクトとなるメインフレームの更改に向けて、今夏から新データセンターの利用を開始すべく、その環境構築をNECが進めているところです。その後、勘定系システムの移行や検証を行い、旧データセンターから切り替えて本格稼働を開始する予定です。

図1 データセンター移設前後のイメージ
両データセンターは銀行業務の拠点であり、マルチクラウドのハブでもある。今回、BCPサイトをNECデータセンターに移設。最新設備で可用性とセキュリティが向上し、NECのネットワークサービスも活用できるのでクラウド接続環境の柔軟性も高まる

金岡氏:当社は自前の運用チームを持っています。システムの稼働監視、障害のリカバリなどはこのチームが担いますが、設備の保守や入退館管理などの物理セキュリティはNECにお願いすることができます。自前とNECのサポートを組み合わせたハイブリッド運用で対応していく考えです。その中で、外部に任せた方がメリットの大きい領域は今後、NECに任せていくことも考えています。

川崎:NECはデータセンター事業と併せて、移設後の運用を幅広く支援する「マネージド運用サービス」を提供しています。お客様のインフラ運用・保守を効率化し、コストの最適化も可能になります。BluStellar事業の一環として、このマネージド運用サービスの拡充に力を入れています。多様なお客様の運用業務を深く理解した上で、何が必要で、NECとして何ができるかを考え、サービスの改善やラインアップの増強に努めています。三井住友信託銀行のニーズにも柔軟に対応可能です。

――本格稼働はこれからですが、それによってどのような成果が期待できますか。

金岡氏:電源や空調、入退館管理など設備をオフバランス化したことで、その保守が不要になります。マルチクラウド接続の経路や帯域もしっかり整備されており、自前で構築する必要もありません。当社の戦略であるクラウドファーストの取り組みを加速していけます。入退館管理は高精度なNECの顔認証システムで行い、ファシリティや設備の可用性も向上しているので、データセンター全体としてのレベルは、自社でデータセンターを維持し続けるよりも数段アップしていると感じています。

人を育て「攻め」と「守り」の戦略で金融DXを推進

――プロジェクトを振り返って、NECの対応をどのように評価していますか。

荻原氏:顧客に寄り添って、どうすればニーズを実現できるかを真摯に考えてくれる。当社が抱えていたデータセンターに関する課題に対しても、短期的な対処ではなく、中長期のインフラ戦略を視野に入れたアプローチを行うとともに、コスト最適化を含めた当社の要件を丁寧にヒアリング。複数の選択肢を提示しながら、最適解に導くための高い提案力と実現力を兼ね備えているというのが率直な印象です。

金岡氏:それは私も実感しますね。特にBluStellar事業を展開するようになってから、顧客に寄り添う姿勢が一層強くなったように思います。

 もう1つ強く感じたのが、NECはハード面への投資だけでなく、人材への投資も積極的に取り組んでいることです。特にデータセンター事業については、対応にあたる人材はベテランが多くなりがちですが、若手や女性も多い。データセンター事業を中核事業の1つに位置付け、次世代を担う人材を育てていくという強い決意と覚悟を感じました。

――さまざまな評価をいただきましたが、NEC自身が考えるデータセンター事業の強みを教えてください。

片山:強みは大きく3つあると考えています。1つ目は金岡様にご評価いただいたように設備にも人にも継続的に投資していること。長期的な視点で利用を考えているお客様も安心して利用いただけます。

 2つ目はBluStellarのフレームワークを活用し、さまざまな視点から最適な提案ができること。データセンターの移設を前提にお話を伺っても、実は移設せずにクラウドシフトを加速させた方がニーズにマッチしている場合もあります。移設ありきではなく、お客様の変革に資する最適な方法を提案します。

 3つ目は移設自体をまるごとサポートできること。データセンターの移設は数十年に一度あるかないかの希少なプロジェクトです。社内に経験者がいない場合もあり、ノウハウが貯まりづらい。NECは数多くの移設プロジェクトを経験しているので、そのノウハウと知見が豊富にあります。さらに移設後のシステム開発や改修、その後の運用・保守までトータルにサポートすることも可能です。

川崎:こうした3つの強みを活かし、三井住友信託銀行のIT戦略を今後も強力にご支援していくと同時に、現状のデータセンターに課題を抱えるお客様にも幅広く対応していきたいと考えています。特に最近多く引き合いをいただいているのは、1980~90年代に建設された自社データセンターが老朽化し、移設を検討されているケースです。設備・資産額も大きいため経営課題になっているお客様が多いので、長期運用を見据えたモダナイゼーションへ伴走支援したいと考えています。

図2 NECが提供するデータセンター全体のイメージ
全国に分散配置したデータセンター群を相互に連携させ、クラウド接続性、耐障害性、環境性能を兼ね備えた高度なIT基盤を提供している。印西をクラウドHubとし、神奈川・神戸・名古屋の環境配慮型データセンター、さらにAI時代に対応した水冷設備などを組み合わせることで、企業の多様なニーズに応える最適な運用環境を実現している

――新データセンターへの移設と本格稼働に向けて、今後の展望をお聞かせください。

金岡氏:今後はクラウドの活用を軸に、アプリケーションはサービス化し、インフラはPaaS化を進めていきます。これにより組織内のシステム間連携を高度化し、AIやデータの利活用を促進していきます。多様化するリスクに対応するため、レジリエンスやセキュリティもさらに強化していきます。

荻原氏:今回のプロジェクトはBCPサイト用データセンターの移設ですが、関東圏にはメインサイトの自社データセンターがあります。クラウドファーストを推進する中で、こちらも果たして自前のままでいいのか。将来構想における検討課題の1つとなっています。最適なデータセンターのあり方を考える上で、NECには今後も有意義な提案を期待しています。

金岡氏:ITもデジタルも、その取り組みを支える土台は「人」です。今年4月には情報システムグループ会社の三井住友トラスト・システム&サービスを当社に統合する予定です。新体制のもと、高度IT人材の育成を促進し、ITケイパビリティの向上を図っていきます。

 インフラ領域に目を向けますと、サーバー、ネットワークを含め多様なインフラに関するスキルを持ったインフラエンジニアはいま非常に貴重な存在です。当社はメインフレームを運用しつつ、クラウドファーストをIT戦略の柱としているため、幅広いインフラの知識とスキルを身につけることができます。ミッションクリティカルなシステムを支える優秀なインフラエンジニアの育成・確保に、これまで以上に力を入れていきます。

 こうしたリソースを強みに変え、守るべきところは守りつつ、金融のデジタル化を加速し攻めるべきところは攻め、信託銀行としての「信頼」と「期待」に応えていきます。