NECはなぜ働き方を変えられたのか
クライアントゼロで磨いたAI時代の働き方
デジタル化やAI活用が進む中、多くの企業が働き方改革に取り組んでいる。しかし、ツールを導入しただけでは組織は変わらない。部門を超えたコラボレーションをどう生み出すか。従業員の主体性をどう引き出すか。そして、変化を継続する仕組みをどう定着させるか。これらはNEC自身が直面し、乗り越えてきた課題でもある。NECはデジタルワークプレイスを基盤に働き方を変革し、コミュニケーションの活性化やAI活用の定着を実現してきた。その実践知は「クライアントゼロ」の考え方のもと体系化され、現在は顧客企業の変革支援にも活かされている。NECはどのようにして組織変革を実現し、その知見を価値へと昇華したのか。その舞台裏を追った。
SPEAKER 話し手
NEC

小口 和弘
コーポレートIT・AIイノベーション部門
デジタルワークプレイス統括部
シニア主幹

佐藤 亮
コーポレートIT・AIイノベーション部門
デジタルワークプレイス統括部
プロフェッショナル

横山 恵志郎
コンサルティングサービス事業部門
ビジネスアプリケーションサービス統括部
プロフェッショナル

湯本 京
グローバル・マネージドサービス事業部門
マネージドサービスビジネス統括部
プロフェッショナル
従業員主導で働き方を考え、3つの軸でDWPをデザイン
コロナ禍を経てリモートワークが広く普及した。しかし、働く場所の自由度が高まっただけでは、生産性や企業価値は向上しない。意思決定や情報共有の仕組みが従来のままであれば、仕事の進め方は変わらず、組織としての力も十分に発揮できないからだ。個の力を結集し、組織の力へと高めるためには、働き方そのものを見直し、それを支える環境を整備する必要がある。
NECがこの重要性に気付いたのは、自身の苦い経験からだった。2010年代後半、業績が大きく落ち込んだ当時の働き方は縦割り型で、仕事もメンバーも所属部署に閉じた形だった。コミュニケーション手段はメールが中心だったため、情報の伝達や共有、意思決定にも時間がかかっていたのだ。
「当時は、自分たちの組織の中でどう解決するかという考え方が中心でした。他部門を巻き込んで大きな成果につなげるという発想はまだ十分ではなかったと思います」とコーポレートIT・AIイノベーション部門に所属する小口 和弘は振り返る。
コーポレートIT・AIイノベーション部門
デジタルワークプレイス統括部
シニア主幹
小口 和弘
こうした状況を変えるために構想したのが「デジタルワークプレイス」(以下、DWP)である。DWPとは、社内外の多様な人材がコミュニケーションとコラボレーションを通じて価値を生み出すためのデジタル上の共創空間だ。
ただし、NECが目指したのは、単なるIT環境の刷新ではない。従業員一人ひとりの働き方を変え、組織全体の実行力を高めることだった。「NECでは、DWPの取り組みを単なるツール導入ではなく、働き方そのものを進化させる全社的な変革として位置付けました」(小口)。
特徴的なのは、IT部門主導で理想像を描くのではなく、実際に業務を行う従業員自身が構想策定に参画したことだ。具体的には、各部門からキーパーソンを集め「どのような働き方を実現したいか」を議論。その内容を映像化しながら社内に共有し、実現に必要な制度やIT環境を検討していった。
その結果、NECではDWPを「ITの力を開放する」「ガバナンスを守る」「従業員リテラシーを高める」という3つの軸で整理している。
「従業員が必要なツールや機能を活用できる環境を整えつつ、新しいサービスやAI機能を安全に使えるよう統制し、さらにツールを使いこなすための意識改革とスキル向上も支援することにしました」と小口は語る。
こうした考え方を実践する基盤として採用したのがMicrosoft 365である。「Microsoft 365はグローバルスタンダードなオフィスツールです。国内だけでなく海外パートナーとも連携しやすく、これまで利用していたOffice製品との親和性も高かったため、移行の障壁を抑えることができました」と小口は続ける。
利便性とガバナンスを両立し、現場主導の活用を広げる
NECは3つの軸に沿って、さまざまな施策を実施した。まず重視したのが、従業員が必要とするデジタルツールやサービスを迅速に利用できる環境づくりである。
当初はIT部門がDX推進の観点から必要なツールや機能を選定して展開していたが、取り組みを進める中で従業員の声を意思決定に取り入れる仕組みへと進化させた。
「従業員から『こういう機能を使いたい』という声が上がった際には、その内容を検証し、安全性や使い方に問題がないことを確認した上で利用できるようにしています」(小口)。
コミュニケーション/コラボレーション基盤としてMicrosoft Teamsの活用も推進してきた。当初は少人数のグループチャットで利用されるケースが中心だったが、それだけでは組織横断の連携にはつながらない。
そこでTeamsのチームやチャネルを活用し、部門を超えた情報共有や協業を促進する環境を整備した。一方で、利便性を追求するだけではDWPは成り立たない。クラウドサービスやAIを安全に活用するためには、セキュリティやガバナンスとの両立が不可欠だからだ。
「利便性を高めようとすると、セキュリティとのバランスを取ることが難しくなります。そこで私たちは、セキュリティとガバナンスを担保しながら価値を生み出せる仕組みづくりに取り組んできました」と小口と同じく、コーポレートIT・AIイノベーション部門に所属する佐藤 亮は振り返る。
コーポレートIT・AIイノベーション部門
デジタルワークプレイス統括部
プロフェッショナル
佐藤 亮
具体的には、セキュリティチームを編成し、運用体制を整備。複数のクラウドサービスを相互接続させる際の審査プロセスを設け、新しいツールやサービスを安全に導入できる仕組みを構築したという。
特にAIについては、生成された内容を鵜呑みにしないことや著作権への配慮などをルール化したほか、アクセス権限の管理を徹底している。
「AIの活用にあたっては、権限設定やアクセス制御が重要になります。再学習による情報の二次利用なども考慮し、安全性を確認した機能のみを導入しています」(佐藤)。
さらに、ツールを導入するだけでは活用は進まないという考えから、従業員リテラシーの向上にも力を入れている。AI変革セミナーをはじめとする全社に向けた教育・啓発施策を継続的に実施するほか、Teams上には利用者コミュニティを開設。実践的なノウハウや成功事例を共有する場として活用している。
Microsoft 365やAIの利用状況を可視化するダッシュボードも整備した。「利用状況を分析し、活用が進んでいる部門やユーザにはヒアリングを実施します。そこで得られた知見をアンバサダーとして発信してもらい、従業員同士で利用価値を広げていく仕組みをつくっています」(小口)。
実際の業務現場で生まれたユースケースを展開する取り組みも進めている。営業、SE、知財、経理など各部門の活用事例を収集し、DWPのポータルサイトやTeamsコミュニティで公開。議事録作成やレポート作成といった汎用業務から、専門業務向けの高度な活用例まで共有することで、現場主導の利活用を後押ししている。
「IT部門から一方的に発信するだけでは十分ではありません。従業員同士が『この機能は便利だった』『こう使うと効果がある』と伝え合うことで、利用の輪が広がっていくのです」(佐藤)。
AI活用の先にある、AIネイティブカンパニーへの進化
こうした取り組みの結果、NECの働き方は大きく変化した。とりわけ変化が大きかったのはコミュニケーションのあり方だ。メール中心だった情報共有はTeams中心へと移行し、部門を超えたコミュニケーションやコラボレーションが日常的に行われるようになった。
「Teams主体のコミュニケーションに変わったことで、情報共有のスピードだけでなく、コミュニケーションの量や質も向上しました。今ではチームで仕事を進めることが当たり前になっています」(小口)。
AI活用も急速に広がっている。NECグループでは約11万人の従業員のうち、約7万人が日常的にAIを活用している。さらに、その半数にあたる2026年8月時点で約3万5000人が有償版Copilotを利用し、自身の業務データを活用した高度な業務支援を受けている。「Copilotだけでなく、Gemini、Google Notebook LM、Claudeなど10種類以上のAIを提供しています。従業員が業務内容に応じて適切なAIを選択できる環境を整備し、AI活用を日常業務の中に組み込んでいます」(佐藤)。
NECはこうした取り組みを通じて、AIを後付けで活用するのではなく、AIを前提に業務や組織を再構築する「AIネイティブカンパニー」への変革を進めている。
成果は業務効率の面にも表れている。例えば報告書作成業務だ。従来は複数の関係者から情報を収集し、資料や過去文書を参照しながらまとめる必要があり、完成までに10時間程度を要するケースも少なくなかった。「現在はクラウド上のデータをAIが収集して整理してくれるため、報告書の作成から上長への提出まで1時間未満で完了できます」(佐藤)。
プロジェクト推進のスピードも大きく向上した。「以前は企画からリリースまで半年ほどかかるケースもありましたが、現在は1カ月程度で立ち上げられることもあります。パートナー企業やベンダーとも素早くコミュニケーションが取れるため、検討や意思決定のスピードが大きく上がりました」(小口)。
AI活用の浸透は、情報システム部門の役割そのものにも変革をもたらしている。従来の運用中心の役割から、事業や働き方の変革を支える戦略的な存在へと変わりつつある。
「もはやシステムが安定して動いているだけでは十分ではありません。IT部門自らが新しい働き方を提案し、従業員の生産性向上を支援することが重要になっています」と佐藤は話す。
DWPの実践知をBluStellarの変革シナリオとして提供
DWPの実践を通じて見えてきたのが、「最新のツールを従業員に早く届けること」「従業員が主体的にリテラシーを高めること」「セキュリティやコンプライアンスのリスクを適切にコントロールすること」の重要性だ。
「NECの取り組みは、単に働き方を変えることではありません。経営の立て直しを進める中で、従業員が力を発揮できる環境を整え、実行力を強化することが重要でした」とコンサルティングサービス事業部門の横山 恵志郎は話す。
「新しいツールを一部の人だけが使いこなしていても組織の力は変わりません。まず経営層が変革の意思を示し、従業員は新しい技術を主体的に学んで実践知を組織の垣根を越えて共有する。そのような空気をつくることが重要だとわかりました」(横山)。
コンサルティングサービス事業部門
ビジネスアプリケーションサービス統括部
プロフェッショナル
横山 恵志郎
こうした実践知は現在、NECの価値創造モデル「BluStellar」の1つとして体系化され、「組織の力を高めるデジタルワークプレイスへのモダナイゼーション」として企業へ提供されている。
支援の柱の1つが伴走型コンサルティングだ。企業・組織ごとにDXや働き方改革の進捗状況は異なり、業種や業態によって直面する課題も変わる。そのため、一律の方法論を当てはめるのではなく、現状を把握しながら優先順位を整理し、次に進むべき道筋を描いていく。
「現在どこまで進んでいて、次に何をすべきなのか。お客様と一緒に考えながら、NECが培った実践知を活かしてスピーディーに課題解決を支援します」(横山)。
もう1つの柱が構想策定支援である。DWPの実現では、コラボレーション基盤だけでなく、ゼロトラストをはじめとするセキュリティ基盤や運用体制の見直しも必要になる。複数の施策が同時並行で進むため、全体を見渡したロードマップの策定が欠かせない。「例えば生成AIの活用、市民開発の推進、端末管理の高度化など、個々のテーマは異なります。私たちは全体最適の観点で課題を整理し、ロードマップ策定を支援しています」(横山)。
さらに、NECが自社で培った知見を活かし、投資対効果の最大化を目的とした「アプリケーションポートフォリオの合理化」も支援している。「お客様からは『導入したツールが十分に活用されない』『類似機能を持つツールが乱立している』『どのツールを残すべきかわからない』といったご相談をよくいただきます」とグローバル・マネージドサービス事業部門の湯本 京は言う。
グローバル・マネージドサービス事業部門
マネージドサービスビジネス統括部
プロフェッショナル
湯本 京
その際は、利用状況や業務特性、セキュリティ要件などを評価した上で、残すべきツールと置き換えるべきツールを整理する。重要なのは、単純なコスト削減ではなく、価値創出につながる環境を構築することだ。
「全社で共通利用すべきツールは統一し、一方で業務ごとの特性に応じて複数の選択肢を認める。そうしたメリハリのあるポートフォリオ設計が重要です。投資対効果を最大化するとは、単なるコスト最適化ではなく、価値創出を最大化することだと考えています」(湯本)。
今後は、AIを「業務を支える存在」から「共に働く同僚」へと進化させるAIネイティブカンパニーへの変革をさらに加速していく。「AIネイティブカンパニーへの変革で得た知見を、人・業務・ガバナンスを含めた実践知として磨き、お客様の変革に還元していきます」(湯本)。
NECはこれからも、自らを変革し続けることで得た実践知を社会へ還元し、お客様と共に新たな価値創造に挑んでいく。