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あなたらしく生きてほしい
~NECがヘルスケア・ライフサイエンス事業にかける想いと未来~

 2021年5月、NECは、2025年度を最終年度とする「2025中期経営計画」を策定。2030年の未来に目指す姿を定義した「NEC 2030VISION」を打ち出し、ヘルスケア・ライフサイエンス事業を成長戦略の柱の1つと位置付けた。NECはこの領域で、どのような未来を目指していくのか。そこにはどんな想いが込められているのか。同社でヘルスケア・ライフサイエンスのPMO(Project Management Office)を統括する北瀬 聖光に話を聞いた。

「live as you あなたを知り、あなたらしく選ぶ」が事業コンセプト

 NECにおけるヘルスケア・ライフサイエンス事業の歴史は、50年以上前にさかのぼる。1966年に日本で初めてレセプトシステムを開発して以来、オーダリングシステムや看護支援システム、電子カルテシステムを提供。2019年には定款変更により、創薬事業に本格的に参入した。ここで注目したいのは、「単なるシステムの提供」から、「社会課題の解決への貢献」へとその軸を大きく変更している点だ。

 それは2030年に向けた、ヘルスケア・ライフサイエンス事業のコンセプトからも見て取れる。

 「『live as youあなたを知り、あなたらしく選ぶ』、これが我々の事業コンセプトです。これには、『あなたらしく生きてほしい。そのために、あなた自身が健康を管理し、あなた自身の状態を知り、あなた自身が治療の方法を選べる未来を実現したい』という想いが込められています」と北瀬 聖光は語る。

 このコンセプトに基づき、NECはどのような社会を築こうとしているのか。そこには3つのポイントがあるという。

NEC
コーポレート・エグゼクティブ
北瀬 聖光

 「1つ目は、『意識せずに健康でいられる』こと。健康状態にかかわるデータが、日常的・長期的に収集・一元管理され、病気の早期発見や予防医療に活かされることによって、健康寿命が延びていく。日常生活の中で特に意識せずとも、健康が保たれ、健やかに歳を重ねられる。このような社会を実現していきたいと考えています」

 2つ目は、「あなたのデータが誰かのためになる」こと。きちんと秘匿化された個人の有意義なデータが、本人から同意を得たうえで、セキュアに管理・共有され、病気・感染症の解明や、治療薬・ワクチンの開発、次の時代に活かされる。つまり、データが人々の間で共有され、新しい知見となっていくわけだ。

 3つ目が、「あなたに最適な医療が受けられる」こと。「いつ、どこにいても希望する医師の診察や最適な治療を選べる世界を実現したいと思っています。さらに、治療にかかわる意思やライフスタイルが医療機関に共有されれば、さまざまな選択の判断に活かすことが可能になります」

2030年に向けてNECが注力する3つの事業領域とは

 こうした社会の実現に向けて、NECは「Medical Care」「Lifestyle Support」「Life Science」という3つの事業領域に注力。必要な医療をデジタルで支え、一人ひとりの日常生活に寄り添い、個人に合わせた医療を科学で支えることにより、「ありたい姿」を目指していく考えだ。

 それでは3つの領域においてどのような取り組みを進めていくのだろうか。

 1つ目の「Medical Care」の分野では、遠隔診療により「いつでも診療が受けられる」世界の実現を目指す。遠隔診療や遠隔治療の技術を進化させれば、「どこにいても専門性の高い治療を受ける」ことが可能となる。そのためにも「遠隔手術なども視野に入れた世界観を実現していきたい」と北瀬は話す。

2030年にNECが実現したい世界~必要な医療をデジタルで支える

 次に「Lifestyle Support」の分野では、「一人ひとりが日常生活の中で、負担を感じることなく自分の健康を管理し、なりたい姿に近づくためのアドバイスが提供できるような事業展開をしていく。例えばリハビリの分野では、患者さんによっては難しいと考えられていたリハビリのメニューも、ロボットが患者さんに寄り添えば、楽しくリハビリしながら機能回復を目指すことが可能になるかもしれません」

2030年にNECが実現したい世界~一人ひとりの日常生活に寄り添う

 最後に3つ目の、「Life Science」の分野では、科学の力を応用して、少ない負担で疾病リスクが予測できる世界を目指していくという。

 「今、血液や唾液を使い、患者さんの負担が少ない方法で、疾病リスクが予測できるようなサービス・技術開発が進められています。ゲノムデータを活用した技術が進歩すれば、自分の症状に合った治療が受けられるようになる。グローバルな最新の研究動向を踏まえて、医師の診断を補助するサービスをどんどん高度化し、セキュアにデータを管理・活用しながら、新しい知見が即、現場にフィードバックできる社会を実現していきたい」

2030年にNECが実現したい世界~個人に合わせた医療を科学で支える

多様なパートナーと連携して新たな社会価値を創出したい

 既に具体的な取り組みもはじまっている。例えば「Medical Care」分野の代表例として挙げられるのが、NECが誇る世界No.1の顔認証技術(※1)を応用して、がんの診断支援をする「内視鏡画像解析AI」だ。これは、内視鏡検査時に撮影される画像から内視鏡検査中にAIで病変が疑われる部位を自動検知し、病変の診断を支援するシステムだ。

  • (※1) 2009年以来、米国国立標準技術研究所(NIST)による顔認証精度評価で第1位を獲得

 「2021年には、日本と欧州で、大腸がんを対象とした内視鏡画像解析AIの販売を開始しました。また、バレット食道については、世界で初めてCEマーク(※2)の適合要件をクリア。今後ともAIの精度向上に努め、対象となるがん種や販売地域を拡大していきます」

  • (※2) CEマーク:製品をEU加盟国へ輸出する際に、安全性能基準を満たすことで、付けられる基準適合マーク

 一方、「Lifestyle Support」の分野では、社外パートナーとの連携による新たな価値創造を進めている。その1つが、スタートアップ企業のFiNC Technologiesと共同開発した「歩行センシングインソール」だ。これは、歩行分析センサを取り付けた専用インソールを普段履いている靴に入れるだけで、日常の歩容(≒歩行の質)を簡単に計測、蓄積した歩容データを専用アプリで確認できるほか、歩行姿勢に関するアドバイスやトレーニング動画を通じて健康改善のきっかけを得る仕組み。2019年末にクラウドファンディングを活用してサポーター445人を獲得し、2020年に個人向けサービスをリリース。2021年10月には帝京大学医学部附属溝口病院と共に歩容分析の研究を開始するなど法人用途へと活用領域を広げている。

 今後もリハビリ事業者や靴メーカーと連携し、患者さんにリハビリ効果をわかりやすく伝えたり、退院した患者さんの日常歩行状態を普段履いている靴を通して遠隔で見守る新しいサービスを行うなど、さまざまな可能性を探っていく計画だ。

 「Life Science」の分野では、AI創薬事業において、戦略的協業やM&Aにより事業を強化している。2018年にはフランスのTransgene社との協業により、個別化がんワクチンの共同開発に合意し、現在、海外3カ国で治験が進められている。これは最先端のAIを用いてがん患者さん一人ひとりの遺伝子を解析し、各患者さん専用の治療用ワクチン開発を行うもの。さらに2019年にはノルウェーのOncoImmunity社を買収し、個別化がんワクチン、感染症ワクチンの開発を加速させている。

 「今後、AI創薬事業については欧州を拠点とし、創薬領域での挑戦をさらに重ねていきたい。個別化がんワクチン、感染症ワクチンともに事業を強化し、発展させていきます」と北瀬は力を込める。

 さらにNECでは各領域のみならず「Medical Care」「Lifestyle Support」「Life Science」の連携を強化。データの蓄積と活用を進め、新たなサービス開発につなげる考えだ。

 こうした横断的な事業開発を加速させるべく、ヘルスケア・ライフサイエンスPMOを設立。各プロジェクトを俯瞰し、事業価値の向上に向けて並走しながら、マーケットとのコミュニケーションを強化し、発信力を高めつつある。

 「ただし、NECが掲げる2030年ビジョンの達成は、当社だけで成し遂げることはできません。今後は、大学・研究機関やベンチャー、医療機関、民間企業、省庁・自治体など、多様なパートナーとの連携を深め、投資家の協力も得ながら、業界・業種の垣根を越えた価値をつくっていきたいと考えています」と北瀬は先を見据える。2021年11月には、「ヘルスケア・ライフサイエンス有識者会議」を発足させる。このように多様な専門家の知見も採り入れながら、「ありたい将来像」の社会実装を着実に前進させていく考えだ。