ものづくりの未来を切り拓く、製造業におけるDXとは
――データドリブン型ものづくり実現のためのポイント
あらゆる領域でDX(デジタル・トランスフォーメーション)の重要性が叫ばれる中で、常にモノや人の動きを伴う「ものづくり」はどのように変わっていくのだろうか。NECは製造業におけるDXの可能性を問うべく、9月14日に実施したNEC Visionary Weekのセッション「ものづくりの未来を切り拓く、製造業におけるDXとは」において、ものづくりDXの目指す方向性についてコンセプトを提示した。そのコンセプトは、これからのものづくりが大きく変わっていくことを予見するものだった。
製造業を取り巻く環境と方向性
製造業を取り巻く環境は、近年ますます複雑化している。気候変動による天災の増加や地政学的なリスクの高まりによってグローバルサプライチェーンの分断が生じる他、COVID-19のような新型感染症の登場により人々のライフスタイルが変わることで、急激な顧客ニーズの変化にも対応しなければならない。さらには、5GやAI、量子コンピューティングなど先進テクノロジーが発展することで、産業のDXも加速するだろう。
「数ある技術の中でも、ネットワーク技術とAI技術の進化は産業のDXに欠かせないものになるはずです。既にNECグループの工場ではローカル5Gを活用しマルチベンダAGVの集中制御を行っています。他にも量子アニーリング技術を採用し、品種や部品調達など複雑な組み合わせからなる生産条件を最適化することでサプライチェーン全体の生産性を高めようとしています。特にコロナ禍によって市場や生産環境が変わりやすい現在、リアルタイムのシミュレーションはますます重要になっていくでしょう」
そう語るのは、NECスマートインダストリー本部 本部長 豊嶋慎一だ。豊嶋によれば、社会の不確実性や地球環境へ対応するために、リアルタイムに状況を把握して最適な状態へ継続的に変化すること、変動対応力の向上、企業変革力の向上が一層求められてきており、 これからの製造業はものづくりDX、つまり「データドリブン型ものづくり」を実現する必要があるという。
ものづくり領域のDXを実現するにあたっては、変化に追従しながら高効率なものづくりを実現する「Smart Factory」と、どのような状況にも迅速に対応しものづくりを持続していける仕組みによる「ものづくりサステナビリティ」の二つを実現することが重要だと豊嶋は説く。
「ものづくりサステナビリティには、大きく二つの要素・背景があります。一つは、ダイナミックケイパビリティ/レジリエンスによる、様々な環境変化への対応です。グローバルレベルでの外部環境変化、例えば感染症、天災、レギュレーション変更などへの対応が必要です。また、労働力不足や技術伝承といった人的課題などもあります。もう一つは SDGsなど新たな社会要請の対応です。これらに対応するために重要なことは、データドリブン意思決定の『マインド』『プロセス』、そしてそれを実現する『仕組み』であると考えています」
続く「Smart Factory」は、過去・現在のデータから生産性や変動対応力が高い未来のものづくりを迅速に創り出す仕組みだ。
「Smart Factoryは『自動化』や『リモート化』はもちろんのこと、デジタルデータを活用して生産ラインの『自律改善』を行い、サプライチェーンとエンジニアリングチェーンを『つなぎ』、生産性や変動対応力の高いものづくりを実現するための、人が活き活きと働ける環境を創り出す仕組みと定義しています。また、ものづくり領域のサステナビリティを実現していくための基盤がSmart Factoryとも言えるでしょう」
常に変化し続ける環境や社会に対応するためには、データドリブンな仕組みを通じて、小さな変化に気づき、意思決定することが重要と豊嶋は続ける。
ものづくりの変革に必要な3つの要素
もっとも、ただ5GネットワークやAGVを取り入れたところでものづくりDXが成功するわけではないだろう。豊嶋は、データドリブン型ものづくりへシフトするためには「マインド」「活用プロセス」「仕組み」の3つを変えていくことが重要になるのだと主張する。
「一つ目の『マインド』とは、データ活用に対する姿勢です。好業績企業がデータを積極的に活用していることは経済産業省の調査結果からも明らかであり、データを経営管理に活用していくことが重要だと言われています。二つ目の『活用プロセス』については、PDCAサイクルとOODAループを組み合わせたプロセス定義が重要です。PDCAは目指している目標に向かうために、計画と実践の乖離を防ぐプロセスです。OODAループは、乖離が生じた時、すぐに解消するためのプロセス。たとえばKPIを設定して実績をモニタリングするとともに、乖離が生じたらドリルダウンしOODAループによって解決策を導き出す。さらにはKPIの再設定を行うなど、データを利活用する流れを生み出すことが重要です」
こうした「マインド」と「プロセス」は確かに重要だが、この二つをきちんと機能させるためにも三つ目の「仕組み」として良質なデータを生み出しハンドリングするIT基盤が必要になるのだという。「これまでは現場の熟練した匠に支えられながら個別最適による現場最適型での仕組みを強みにしてきたケースが多くみられましたが、今後はより全社や業務横断且つ経営視点で利用できる良質なデータを生み出し管理していく仕組みへ移行しなければいけません」と豊嶋は語る。これまでバラバラに扱われることも多かった業務やモノと情報を一致させ、拠点ごとにバラバラだった業務や情報の粒度を統一することで、より良質なデータが現場から生まれるようになるのだ。良質なデータをAIや量子コンピューティングにより高度かつ高速に分析していくことで、これまでは不可能だった自律的な改善や品質の作り込みが実現していくのである。
「マインド、活用プロセス、仕組みの3つを変えることで、情報の一元管理が可能になります。迅速な状態把握や意思決定の支援、データを駆使した仮説検証が行えるようになると、データドリブン型ものづくりが進んでいくはずです」
そう豊嶋が語るように、ものづくりにおいてDXを実践していくためには、テクノロジーを導入するだけでなくマインド醸成や活用プロセスを含めて変えていかねばならないというわけだ。広範囲に及ぶものづくりの現場をデータの観点から捉え直していくことがDXにおいては重要となっていくのだろう。
ものづくりDXコンセプトは共創から実現する
このようなデータドリブン型ものづくりの実現ポイントについて紹介した後に、今回NECは本セッションを通じてNECの「ものづくりDXコンセプト」を発表した。豊嶋によれば、NECの「ものづくりDXコンセプト」は、NECのみならず顧客やパートナーとの共創を通じて実現するものだという。
「私たちはSmart Factoryとものづくりサステナビリティの実現に向け、マインド・活用プロセス・仕組みそれぞれを変えるためのサービスやソリューションを提供していきます。単に仕組みを提供するだけではなく、マインドの醸成や活用プロセスの定着化支援も行うことが重要です。お客様に寄り添うことで、ものづくりDXを促進していけたらと考えています」
マインド醸成と活用プロセスの定着化を支援するために、コンサルティングメニューと分析支援ツールの2種類が用意されている。前者は「ものづくりDX改善アプローチ」と「ものづくりDX人財育成プログラム」であり、顧客の現場のデータを取得し分析することで課題の定量化や改善方向の策定、システム導入方針を検討するとともに、データ分析の基礎を学び顧客自身が実践できるような育成も進めていくという。
後者は顧客自身の分析力を強化するために、分析ノウハウを提供する「ものづくり改善ガイド」だ。この改善ガイドでは7大ロスなどの改善方向性について、材料、手順、コツが課題ごとにレシピ化されている。料理と同様にレシピ化することで、お客様におけるデータドリブン改善活動の定着化、改善PDCAサイクルを高速化できる、というわけだ。
近年、企業間の共創を謳う取り組みはあらゆる領域で増えているが、単に役割を分担して一つのことに取り組むだけでは共創になりえない。あくまでも最終的には顧客自身が自らのDXを推進していくことで、NECはものづくりのエコシステムそのものを変えていくような共創を可能にしているのだ。
ものづくりから社会全体を変えていく
言うまでもなく、NECのものづくりDXコンセプトが先進テクノロジーやソリューションを用いた仕組みの変革を前提としていることも忘れてはならないだろう。豊嶋は「NEC Industrial IoT Platform」と題されたプラットフォームがDXの基盤となってラインレベルや工場レベルを超えて全社レベルでの自律改善を促していくのだと語る。同時に、異種混合学習技術やインバリアント分析技術をもつAIや、マルチロボットコントローラ、リモートのコミュニケーションを可能にする5Gネットワークやセキュリティ技術など、様々なテクノロジーやソリューションがこのコンセプトを支えているのだ。
「私たちは上流のITシステムから下流にある製造現場の設備まで、さまざまなデータを統合的にハンドリングする基盤を作っていきます。設計から製造現場までをシームレスに繋げることで、データドリブンな意思決定を実現していきたいと考えています」
そしてこのコンセプトは、すでに実践が始まっている。豊嶋は住友ベークライトとの取り組みを紹介し、ここまで語ってきた共創が現実のものになっていることを明らかにする。住友ベークライトの副社長である稲垣昌幸氏は本セッションに動画でコメントを寄せ「NECには会社の垣根を超えて企画構想段階から関わってもらうことで、将来の変化にも対応できるものづくりが実現している」と語った。
さらに稲垣氏が「NECとの共創を通じてDX人材の育成も進め、SDGsも両立させる次世代型ものづくりを推進したい」と語るように、NECの「ものづくりDXコンセプト」が変えようとしているのは一つの企業の生産性や効率性ではないのだろう。豊嶋も「ものづくりサステナビリティに留まらず、事業サステナビリティを実現していきます」と語り、製造業のDXが業種を超え産業全体をも変えていく可能性を語る。
「急激な需要変動や顧客ニーズの変化に対応するためには、研究開発から製品の企画、デリバリー形態も変わっていかなければいけません。さらには製造業以外の企業間連携や、お客様まで含めたサプライチェーンの改革も実現していく必要があります。サーキュラーエコノミーが注目されているように、産業全体のサステナビリティの中核となっていけるよう『ものづくりDXコンセプト』の実践を進めていきたいと思っています」
DXとは、本来一つの業種や産業の中で完結するものではない。データの活用を筆頭に、これまでバラバラになっていた企業や産業をつないでいくこと、さらにはつなぐことで社会全体のサステナビリティを実現していくことこそが、DXなのだ。
デジタルトランスフォーメーションが変える「ものづくりの未来」
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