本文へ移動

ハウス食品グループの挑戦
~AIを活用した需要予測で「市場変動への迅速な対応」と「食品ロス削減」の二兎を追え!

 市場変動に柔軟・迅速に対応しつつ、いかに食品ロスを極小化するか。これはすべての食品製造業や食品卸売業にとって、重要な課題となっている。こうした課題に対して、新しいアプローチで挑戦しているのが大手食品メーカーのハウス食品グループだ。同社では、これまでも食品ロスの削減に取り組んできたが、その活動をより強化すべく、NECのAIを実装した「需給最適化プラットフォーム」を導入し、需要予測の高度化を図った。さらにその情報を生産管理まで一気通貫でシームレスな連携が可能になる運用を実現。AIの活用により、生産・在庫の適正化と食品ロス削減の取り組みが新たなフェーズに進展しつつある。

食品ロスの削減は循環型モデルの実現に不可欠のテーマ

 世界の食料廃棄量は年間約13億トン。生産された食料の実に3分の1は廃棄されている計算だ。日本だけでもその量は年間約600万トンにおよぶ。そのうち、食品製造業、卸売業、外食・小売業からなる事業系廃棄量は半数以上の324万トンを占める。

 こうした課題の解消に向け、さまざまな取り組みを行う企業が増えている。その代表例ともいえるのがハウス食品グループだ。同グループでは、「食を通じて人とつながり、笑顔ある暮らしを共につくるグッドパートナーをめざします。」を企業理念に、バーモントカレーに代表されるカレールウやスパイス、シチューの素、スナック菓子などの製造・販売のほか、全国展開する「カレーハウスCoCo壱番屋」などの外食事業も展開している。「食」の一翼を担う企業グループとして、食品ロスの削減も社会への責任を果たす上で欠かせない取り組みなのだという。

ハウス食品株式会社
取締役 生産・SCM本部長
小堀 伴之 氏

 「第七次中期計画では、CO2排出量や食品ロスの削減を重点経営課題に据え、人・地球にやさしい循環型モデルの構築を推進しています。特に食品ロスの削減は、食品メーカーとしての責務であり、重要な経営課題です」とハウス食品 取締役 生産・SCM本部長の小堀 伴之氏は話す。

 この取り組みは今に始まったものではない。以前から需給・生産管理を支えるサプライチェーンマネジメントシステムを構築し、品薄や欠品の解消、在庫の適正化、食品ロス削減の取り組みを実践してきた。

「食」のパラダイムシフトにより先を読むことが困難に

 ただし、その実現は容易なものではないという。特に、近年は消費者ニーズの多様化や健康志向の高まり、ライフスタイルの変化を背景に「食」のパラダイムシフトが加速しているからだ。おいしさ、安全、健康だけでなく、効率性や価格に向けられる目も厳しくなった。またテレビだけでなく、SNSなどの普及により、評判は即座に拡散されていく。

 同グループが扱う商品数はおよそ1800品目。「すべての商品に対して、需要や販売量の変化をとらえ、素早く生産計画に反映するのは至難の業。先を読むことが難しくなる中、生産と販売のギャップが生じることが多くなっていたのです」と小堀氏は振り返る。当然、在庫や食材のロスもコントロールが難しくなる。

 需給・生産業務の人への依存度が高いことも問題だった。例えば、営業部門は消費者や販売店に近く、品薄や欠品はできるだけ避けたいと考える。商品の企画・開発部門は積極的に打って出たいと考える。新商品の販売時は特にこの傾向が強い。それに対し、生産計画を担うSCM部はこれまでの実績や傾向から慎重な姿勢を取ることもある。「部門間のせめぎ合いが、需給・生産計画を左右することもありました」と小堀氏は打ち明ける。

ハウスビジネスパートナーズ株式会社
システムソリューション事業部次長
川崎 輝彦 氏

 しかも従来はグループ中核の「ハウス食品」、健康食品・飲料メーカーの「ハウスウェルネスフーズ」、レトルト食品を製造する「サンハウス食品」の3社が個別に需給・生産管理システムを運用していた。「需給システムのデータに基づく需要予測はハウス食品、ハウスウェルネスフーズ各々のSCM部が行い、それをサンハウス食品含む各工場の担当者に引き渡し、これまでの経験と知見を加味して生産計画を立てる形でした」とハウスビジネスパートナーズ システムソリューション事業部次長の川崎 輝彦氏は説明する。

 しかし、需要計画策定から生産計画反映までに時間がかかる。「これを各社が行っていたため、市場変化への気付きと、それに対応した生産調整の初動が遅れてしまうことがあったのです」と川崎氏は続ける。

AIを活用し、サプライチェーン全体の需要と供給の最適化を実現へ

 需給・生産業務の課題解決に向け、ハウス食品グループは各社で運用していた需給・生産管理システムを統合し、AIを活用した需要予測の高度化を目指すという。グループ統合のサプライチェーンマネジメントシステムを実現し、需給計画や発注業務を効率化することで、多様化・複雑化する市場ニーズに機敏に対応するためだ(図)。

図 ハウス食品グループが目指すサプライチェーンマネジメントシステム
営業、販売・物流からの情報をグループの共通基盤に集約し、AIによる需要予測結果を生産計画や在庫管理に活用

 「これまで以上に製品をタイムリーに提供できるようになり、品薄や欠品リスクを低減することで、販売機会のロス解消につながります。生産、在庫の適正化も進み、食品ロスのさらなる削減も見込めます」と小堀氏は狙いを語る。

 この実現を支えるパートナーに選定したのがNECである。かつて、グループの経営と事業を支える基幹システムにはNECのホストコンピュータを導入していた経緯もあり、40年来のサポート実績がある。生産管理システムにはNECのERPソリューション「FlexProcess」も活用している。グループの業務やIT環境を熟知しており、安心して任せられる点が評価された。

 システム面での理由に加え、食品ロス削減という同じ方向を指向する点もポイントとなった。NECは、社会価値創造企業としてSDGsの達成に向けた取り組みを推進し、社会課題の解決に貢献するソリューションを展開している。

 その1つがAI(異種混合学習技術)を活用した「需給最適化プラットフォーム」である。これはAIによる需要予測により、サプライチェーン全体での需要と供給の最適化を実現するソリューションだ。

 「グループ3社が利用する生産管理システムFlexProcessと需給最適化プラットフォームと組み合わせることで、高精度な需給・生産計画の策定が可能になると考えました。食品業界向けのテンプレートも豊富に用意されており、予測モデルの構築や価値創出までのリードタイムを短縮し、需給・生産計画業務の効率化も期待できます」と川崎氏は評価する。

 AIを本格的に活用するのは、同グループにとって初めての経験だったため、予測モデルを構築し、精度を上げていく作業に苦労したという。本格稼働までに何度もテスト運用を繰り返した。「試行錯誤しながらではありますが、NECの適切なアドバイスと具体的なサポートのおかげで、徐々に社内人材のスキルが向上し、運用の定着につながっています」と川崎氏は語る。

需給・生産管理業務の統合による変化

 サプライチェーンマネジメントシステムの統合に伴い、ハウス食品グループは従来の需給・生産管理業務の運用体制の見直しを図った。統合プラットフォームの実現により、各社で個別に需給・生産管理システムを運用する必要がなくなったからだ。各社個別の運用を見直すことで、グループシナジーも発揮しやすくなる。

 具体的には、ハウス食品のSCM部においてグループが製造・販売する製品の需給計画を一括して作成し、各社の工場の担当者はそれを基に生産計画を立てていく。「統合的なプラットフォーム上でグループ各社の需要予測から生産管理まで一貫して行えるため、業務のボトルネック解消を見込んでいます」(川崎氏)。

 NECのAIにより、人に依存しない需要予測が可能になったことも大きなメリットだ。異種混合学習技術は、多種多様なデータの中から精度の高い規則性を自動的に発見し、その規則に基づいて状況に応じた最適な予測モデルを構築する。そのため、見込みや期待を極力排除し、客観的なデータに基づく需要予測が可能となる。「販売動向に影響を与える販売実績や特売情報などのデータを組み合わせて多角的に解析しています。人の経験則に頼る以前の需要予測に比べ、精度の向上が期待できます」と小堀氏は評価する。

欠品件数50%、製品・資材廃棄ロス10%の削減を目指す

 現在は、商品特性にグループ共通の基準を設け、サプライチェーンへの影響度を基に優先順位をつけたかたちで需要予測を行っている。SCM部の一本化により、倉庫・店舗など社内外の組織間の情報を緊密に結合・連動しやすくなった。「例えば、倉庫の在庫量は足りているのか。販売動向に急激な変化はないか。対応が必要な状況が予測されれば、自動でアラートが上がる仕組みです」と川崎氏は説明する。

 以前はこれを人が分析・判断していたが、人が気付く前にAIがリスクを知らせてくれる。「生産調整などアラート発生後のアクションがこれまで以上に素早くなり、市場ニーズの変化に迅速に対応することができる。過剰在庫や欠品リスクの低減につながります」と小堀氏は話す。

 さらにその先に見据えるのが、生産計画の自動立案である。需要予測モデルを基に、原価管理まで含めた生産計画の自動化を図る。これを統合プラットフォーム上で一貫して行えるようにする。「暗黙知の形式知化が進み、需給変動に即応した生産と在庫の適正化、業務の効率化が一段と進展する」と小堀氏は期待を寄せる。

 その取り組みは既に始まっている。福岡工場で製造するインスタントラーメン商品では、需要予測から生産計画までの自動立案を先行運用し、成果を上げているという。成功要因を分析し、これをモデルケースとしてほかの商品への横展開も考えていく。

 今後もハウス食品グループは需給最適化プラットフォームを軸にしたグループ一体型の運用で、サプライチェーン全体の効率化・最適化を加速していく。「市場変動への素早い対応と食品ロスの削減に向けた活動を促進し、欠品件数50%、製品・資材廃棄ロス10%、管理業務工数60%の削減を目指します」と小堀氏は前を向く。

 こうした活動を通じ、収益力の向上とクオリティ企業への変革を加速し、「食」を支える企業グループとして、社会課題の解決に向けた活動をさらに強化していく考えだ。

    RELATED 関連記事