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2020年03月27日

進化する六本木、スマート街路灯から始まる新時代のまちづくり

 街や人々を照らす街路灯がいま、大きく進化を遂げ始めている。日本を代表する繁華街の一つ、東京都港区の六本木商店街エリアで、デジタルテクノロジーを装備した「スマート街路灯」が、2020年3月から6月にかけて20本が設置される予定だ。六本木のスマート街路灯設置事業は、街を愛する人々による新しい時代のまちづくりへの挑戦となった。

 スマート街路灯の特長は、(1)IoT機器による情報の収集・提供によるまちの賑わい創出、(2)防犯・避難誘導などによる安全・安心の確保、(3)5G時代・⾃動運転社会を支える未来のインフラ、が挙げられる。具体的には、カメラやスピーカー、各種センサー、デジタルサイネージ(電子看板)などを搭載し、街や来訪者のデータを収集・利活用できる。カメラ映像をAIに活用して通行量の計測、災害時の警告発信・情報提供などの役割を担う。

きっかけは「アートのまちづくり」と「人の流れの把握」

 六本木のスマート街路灯設置事業は、六本木商店街振興組合が手掛けている。同振興組合は、六本木交差点を中心としたエリア内に約230の飲食店や小売業店舗などの組合員を有する。「アート&デザイン」をテーマにしたまちづくりを掲げ、多くのイベントを主催。中でも、毎年実施している「六本木アートナイト」や、「六本木デザイナーズフラッグ・ コンテスト」などのイベントが有名だ。

 「六本木ヒルズや国立新美術館や東京ミッドタウンなどができ『六本木を昼間ももっと楽しめるまちにしたい』という思いがありました。それには“アート”や“デザイン”をテーマとしたまちづくりが適していると考えたのです」と、同振興組合理事長の臼井 浩之氏は振り返る。

六本木商店街振興組合 理事長 臼井 浩之氏

 “アート&デザインのまちづくり”という戦略の一方で、日本中の大規模商店街が共通して抱える課題が六本木商店街にも顕在化していた。それは、どういう人がいつ、どれだけ街に来ているのか? 曜日や日時によって来街者層がどう変化しているのか? などの来街者の情報を把握できていないという点だ。

 「各店舗が“肌感覚”でつかんでいる部分はありましたが、商店街全体として定量的に把握できない状況でした。何か手段はないかと考えていたとき新聞紙面で『人流』という概念を知り、『これをカメラなどで計測・分析できないか』と考えました」と臼井氏は語る。

 そして、臼井氏の構想を後押しする機会が巡ってきた。東京都が国際的なスポーツ大会に向けた電柱地中化・歩道拡張工事をすることになり、工事に伴う街路灯の移設が必要となった。「それならば安易に既存街路灯を移動させるのではなく、これを機に“アートのまち・六本木”にふさわしい街路灯を新設しようと決めました」と臼井氏。

 しかし、カメラを設置して「人流」を観測できる機能を持つ街路灯となると、プライバシーへの配慮が最優先の整備事項のため、臼井氏は個人情報の取扱いに詳しい弁護士に相談。構想を伝えると、弁護士からNECを紹介されたという。「最新テクノロジーの実績もあり、プライバシーへのガイドラインなど街づくりにおけるスマート化の情報も豊富で、われわれの事業をリードしてもらえると確信しました」と臼井氏は明かす。

まちとの調和と六本木への思いがこもったデザイン

 また、街路灯は街の印象を決める要素の一つになる。六本木のスマート街路灯には、“アートのまちづくり”にふさわしいデザインが求められた。そこで、臼井氏が迷うことなく依頼したのは、六本木交差点を通る首都高速道路の桁下のデザイン照明を手掛けた、世界的な照明デザイナーの石井幹子氏だ。

 さらに石井氏の長女で、パリを拠点にヨーロッパを中心として活躍する照明デザイナー・石井リーサ明理氏も協力してデザインを担当した。「住まいも近く、初めて独立して事務所を構えたのも六本木界隈でした。なじみ深い街で、素敵な街に発展して欲しいといつも思っていました。娘はまさに六本木育ちで、2人とも『わが街のため』という思いで参加しました」と石井氏は熱く語る。

株式会社石井幹子デザイン事務所 代表取締役/照明デザイナー 石井 幹子氏
東京芸術大学美術学部卒業。都市のライトアップから建築照明まで幅広い光の領域を開拓する、日本の照明デザイナーの第一人者。日本のみならず世界各地で活躍。日本国際照明デザイナー協会会員名誉理事、アジア照明デザイナー協会名誉会長、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問などに就任。2000年に紫綬褒章受章、2019年に文化功労者顕彰、また照明界で権威のある国際的な受賞多数

 しかし、多機能を備えるスマート街路灯のデザインには、カメラやデジタルサイネージなど各機能の位置関係、熱の問題などさまざま制約があった。「(制約は)かなりありましたが、デザインはいつも制約の中で作るものです。複合機能を持つポールという考え方はヨーロッパでは以前からあります。将来的にはスマート街路灯はさらなる多機能を統合したものになるはずで、六本木が日本の商店街での第一例になったのは素晴らしいことです」と石井氏。直方体を縦に重ねた、これまでの街路灯にないデザインとなり、2019年8月に試作機1本が設置された。

 臼井氏は「誰に聞いても『ほかで見たことない街路灯』『スタイリッシュで街路灯の概念を変えた』と好評で、狙い通りまちと調和しました。今後、複数のスマート街路灯が商店街を彩れば、“アートのまち”としての付加価値を高める大きな期待が持てました」と満足げに話す。そして2020年3月、スマート街路灯は外苑東通りに設置が開始され、臼井氏をはじめ同振興組合員、石井氏の思いが一歩踏み出された。

外苑東通りに設置されたスマート街路灯

プライバシー保護に配慮した新ガイドラインを作成

 一方、臼井氏の相談を快諾したNECもスマート街路灯設置事業の実現に向けて尽力した。「人とまちをつなぐ新たな役割」をテーマに、LED照明、通信機器、カメラ、スピーカー、デジタルサイネージを備えたバージョンの製品を用意。来街者への情報発信と安全・安心なまちづくりを支援するという実装の方針を決めた。さらに、懸念されるプライバシーの点についても、これまでの知見を生かして整備した。「プライバシー保護に関しては経済産業省・総務省・IoT推進コンソーシアムが定めたカメラ画像利活用のガイドラインがあります。個人情報保護法を遵守の上、カメラ画像利活用のガイドラインをベースに、関係各機関および有識者からの助言のもと、同振興組合向けに、簡潔にまとめたガイドラインを新たに作りました。実証実験でも同振興組合として、カメラ設置付近やホームページに『個人を特定可能なカメラ映像は即破棄し、通行状況の統計情報のみ保存』という内容を事前に同振興組合内のみならず、町会や自治体等の関係者への周知、そして実験中に告知いただいたので、クレーム等はありませんでした」と、同事業を担当したNECの東京オリンピック・パラリンピック推進本部主任の柳生良隆は強調する。

NEC 東京オリンピック・パラリンピック推進本部 主任 柳生 良隆

 試作機に先立ち、2017年10月から2018年11月まで、同振興組合と共に、スマート街路灯の機能に関連する実証実験を行った。AIを活用した画像解析技術を用い、六本木交差点付近に設置したカメラの映像から、来街者の移動方向、属性(性別・年代)、人数を24時間リアルタイムに推定。情報配信を最適化して、集客効果を高めるための基礎データとすることが狙いだ。「カメラ画像解析は、来街者状況の見える化が目的のため、人数と性別、年齢が推定可能な『性別・自動推定システム』を使用しています」(柳生)。

 実証実験で得られた来街者に関するデータは、「曜日・時間帯別の人数変化」「時間帯による年代別の人数変化」「前年との比較」「男女比の変化」「イベント時の人数変化」など多岐にわたった。「これまで感覚的にしかとらえられなかった来街者の通行量や属性を数値データとして把握することができました。今後、街づくりに関してわれわれが行政や交通事業者、工事関係者と交渉・調整が必要となる場面で、説得力のあるデータを提示しながら商店街側の意向や考え方を主張できるようになった意義は大きいです」と臼井氏は評価する。

魅力はそのままに、安全・安心な“大人のまち”づくりに寄与

 スマート街路灯が、効果的に六本木のまちの賑わいを創出するには、乗り越えなければならない壁があるという。それは、「収集データの利活用」や「デジタルサイネージによるお店の宣伝行為」に関する、国や東京都の規制だ。

 しかし、臼井氏は次の通り意欲を示す。「近年、ビッグデータの活用推進という社会的な機運もあるので、その壁を乗り越え事業を前進させたい。今回の設置は可能性を秘めた第一歩であって、これを基盤としてソフトを活用することで、歩行者の店舗への誘導だけでなく、街が抱える様々な課題も解決してくれるはずです」。

 街が抱える課題の一つが、多くの繁華街を悩ませる「客引き」の問題だ。「六本木をスピーカーが常時、警告をするような街にはしたくはないです。例えば、客引きをしている一番近いスマート街路灯からピンポイントで警告メッセージを流すようなイメージです」(臼井氏)。

 また石井氏は「六本木は昔からおしゃれで便利な“大人のまち”でした。そうした六本木の魅力はそのままに、スマート街路灯は、街を訪れる人たちがより安全・安心であるようなまちづくりに寄与できます」と力説した。

有事の際の自治体とリアルタイムに連携した情報発信、抑止効果も期待

 安全・安心は最も重要な街の魅力だろう。「観光客を含めて誰もが、いつ行っても安全・安心に買い物や飲食を楽しめる街というイメージが定着することで、イベント時に限らず、多くの人を呼び込むことが可能となります」と柳生も訴える。

 スマート街路灯は、防犯カメラを搭載することで、街を見守るインフラとなる。また、「カメラ作動中」の告知をすることで、抑止効果にもなる。デジタルサイネージなどは、台風や地震などの有事の際、自治体とリアルタイムに連携して緊急・安全情報を配信できる。多言語で表示も可能で、訪日外国人の安全・安心の確保にも役立てる。

照明デザイン:石井幹子&石井リーサ明理

 「今回、六本木に設置したものも含め、スマート街路灯は拡張性に優れています。例えば、今後5G通信システムの基地局としての機能を備えるなど、人と街を高度につなげることが可能となります。」と、柳生は未来を描く。

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 それぞれの街の良さを残しつつ、課題の解決や欠点の排除を促すことが、ICTの社会実装を考える上で重要なポイントだ。街や地域の課題に対して、安全・安心で効率・公平なエリアマネジメントの新たなネットワークインフラとなることを目指す、それがスマート街路灯といえる。

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