実践企業に聞く!
データを介した異業種連携で未来のまち/まちづくりはどう変わる
AIやビッグデータを利用して、生活や社会のあり方を根本から変える都市づくり「スーパーシティ」構想が動き出した。これは10年先のより良い生活を先行的に実現する「まるごと未来都市」を目指すもの。カギを握るのはデータを介した異業種連携だ。そこで異業種連携を既に始めている三井住友海上火災保険、東京電力パワーグリッド、NECのキーパーソンが異分野のデータを連携させることで創出される新しい価値について語り合った。
SPEAKER 話し手
三井住友海上火災保険株式会社
本山 智之 氏
執行役員 デジタル戦略部長
東京電力パワーグリッド株式会社
田中 正博 氏
事業開発室 副室長
NEC
受川 裕
執行役員 クロスインダストリーユニット ユニット長
株式会社スイングバイクリエーション
内田 裕子 氏
(モデレーター)
代表
10年先の「まるごと未来都市」をデータ連携で実現する
内田氏:まずは、本日のテーマとなるスーパーシティとはどのようなものなのか、簡単にご説明いただけますか。
受川:スーパーシティとは、従来のスマートシティの特別版という位置付けで、生活全般にまたがる先端的サービスの提供や、産官学民におけるデータ連携、大規模な規制改革を実行する取り組みです。2020年5月に可決された国家戦略特別区域法、いわゆる「スーパーシティ法」に基づいた国家プロジェクトで、2025年度までに100都市で実現する目標が掲げられています。
スーパーシティでは何よりも複数分野間にまたがるデータ連携が重要です。異なる事業者のサービスやソフトウェア間で必要なデータを迅速に連携・共有するためには、オープンAPIによる「データ連携基盤」つまり「都市OS」の整備が欠かせません。これを軸に、地域住民の皆様や自治体、企業、大学などに多様なサービスを提供し、都市課題の解決と利便性向上を図ることがスーパーシティの重要なテーマとなっています(図1)。
NECはこれまで国内13の地域でスマートシティの取り組みに参画してきました。現在はスーパーシティの公募に応募した全国31自治体のうち17自治体に事業者として参画、うち4自治体には全体取りまとめとして参画しています。
データを介した異業種連携の方向性
内田氏:さまざまな自治体や企業・組織が持つデータを分野横断的に連携させることで、都市機能の全体最適化や新たな価値の創出を目指しているわけですね。では、異業種連携の先行事例として三井住友海上火災保険、東京電力パワーグリッドはそれぞれどのような取り組みを行っているのでしょうか。
本山氏:三井住友海上では2019年からRisTech(リステック)というデータサービス事業を展開しています。RisTechはRiskとTechnologyを掛け合わせた造語で、当社が長年蓄積してきたリスクに関する知見や知識、ノウハウを基に、データを活用して企業の課題だけでなく社会課題の解決を図ることをコンセプトとしています。
当社には、ご契約者の保険請求に関連して、さまざまな事故発生情報の記録があります。住宅や自動車などの所有資産に関する情報も必然的に集まってきます。もちろん、これらのデータを活用する際は個人が特定できないように「統計データ」として匿名化しますが、そうした当社が保有するお客様データや契約データ、事故データ、コールセンター入電などのデータアセットを、お客様企業にお役立ていただくことで、リスク軽減やコスト削減、生産性およびトップラインの向上といった課題を解決するのがRisTechのコンセプトです。
RisTechの価値提供パターンは三つあります。一つ目は、当社が保有するデータをお客様企業に統計データとして提供し、お客様企業のサービスに活用するかたちです。二つ目は、お客様企業が持つデータを当社のデータサイエンティストが分析し、その結果をお返しするサービスです。三つ目が、お客様企業のデータと当社のデータを掛け合わせて分析し、その結果をコンサルティングとともにお返しするサービスです。
RisTechは既に300社を超えるお客様企業にご利用いただいています。今後はさらに精度を高め、スーパーシティでもお役立ていただけるようにしていきたいと考えています。
田中氏:東京電力パワーグリッドは、首都圏エリアで送配電ネットワークを活用し、電力の供給などを行う送配電事業会社です。近年は水力、火力、原子力だけでなく、太陽光やバイオマスなど、さまざまな発電事業者様がいらっしゃいます。当社は、そうした発電事業者様が発電した電気を、送電線、変電所、配電線などを通してお客様にお届けする、電力安定供給のプラットフォーム的な役割を担っております。
当社は2020年度末までに、首都圏の供給エリアにおけるすべての世帯・事業所に約2840万台のスマートメーターを設置しました。現在は30分ごとの電力使用量を計測・集約できるかたちとなっており、このデータを電力小売業様などの電力料金請求用だけでなく、異業種データと掛け合わせ、さまざまな社会課題の解決に貢献する道筋を探っています。
その実証プロジェクトの一つとして、NEC様らと一緒に進めているのが、東京都の「都民の健康増進のための産官学データ活用ウェルネスサービス実証」です。各家庭の分電盤などに電力センサーを設置すると、その電力使用量の波長の違いから、テレビ・洗濯機・電子レンジ・エアコンといった電気機器を、居住者様がいつ・どのように使っていたかを細かく分析できます。例えば、今は外出中だな、眠っておられるな、といった1日の生活パターンを可視化することが可能となるわけです。
このデータとライフログデータなどを掛け合わせることで、要支援・要介護者様宅における生活リズムが見える化され、その実態に合った介護サービスの実現や、健康リスクのある方への生活習慣改善に向けた効果的なアドバイスなどを提供することができるようになります。これがウェルネスサービス実証で行っているテーマの一つです。
こうした分析データは、賃貸住宅のエネルギーマネジメントや防災などにも役立てることができます。また将来的には、各地域やご家庭の電力使用量、天候によって左右される太陽光などの再生可能エネルギーの発電量、その際の送電線・配電線の混雑度合いなどを統合的に分析し、地域全体のエネルギーミックスの最適化や予測の高度化などにもつなげていけると考えています。
受川:スーパーシティ/スマートシティを成功させるカギとなるのは、データ利活用のベースとなる、さまざまなステークホルダーの方々との強固なパートナーシップです。スーパーシティのエリア公募には約760社が参画しており、地域を介して300社と連携しています。
従来のスマートシティ事業では、どうしてもICTにかかわる事業者が中心でしたが、スーパーシティでは三井住友海上火災保険様を始めとする金融関係、東京電力パワーグリッド様を中心とした電力/エネルギー関係、さらに自動車/モビリティ、医療/ヘルスケア、交通/運輸、建設/不動産と、さまざまな事業者が参集されています。皆様、自社が保有するデータを外部でも役立てたい、新しいビジネスを創出したいと考えているので、その仲間づくりをいかに進めていくかが非常に重要なポイントになります。そうしたニーズを踏まえ、NECは今年度中にスーパーシティ/スマートシティの発展に必要なパートナーエコシステムの形成を支援するコンソーシアムを立ち上げたいと考えています。
スーパーシティ/スマートシティの社会実装を見据えて社内体制も強化しており、約100人からなる専門組織「スーパーシティ事業推進本部」も新設しました。
データ連携で実現する未来のまちの姿とは
内田氏:次に、異業種間でのデータ利活用によっての未来のまちやまちづくりはどう変わっていくのか、皆様にお聞きしたいと思います。
本山氏:スーパーシティの未来像としては、単にデータやデジタル技術を使って便利になるということだけではなく、もっとほかの新しい価値を生んでいくことが大切だと考えています。例えば、そのまちに住む方々の年齢・性別・職業・国籍といった違いに関係なく、すべての方々が安全・安心で暮らせるまち、子供たちが未来に希望を持てるまち、立場や世代を超えて共生していけるまち――そういうまちをつくっていくことが何よりも大切ではないかと思います。当社も、そこをしっかりと認識しながら、これからも自治体や異業種の方々と一緒に事業を進めていきたいと思っています。
田中氏:これからの未来では、レジリエンス(弾力性・回復力がある)でカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする)な社会を目指していくことが重要です。そこで当社がお手伝いできることは、スマートメーターを介した電力データや異業種データを活用し、各地域における再生可能エネルギーの需給バランスを最適化する予測を提供していくことです。それをベースに、サステナブルなエネルギーを推進するスマートシティづくり、魅力あるまちづくりへの参画など、多様な取り組みに積極的に挑戦してまいります。
受川:異業種連携によるデータ利活用は、持続可能な未来のまちづくりに欠かせない要素です。そうしたデータ連携によって、高度経済成長期につくられた道路や橋梁などの社会インフラの効率的な維持管理、災害に強いまちづくり、観光DXによる地域経済の活性化などにつなげていきます。
さらに重要なのが、市民中心のまちづくりであり、住民一人ひとりのデータも利活用することで、高齢者が暮らしやすいまちづくり、安全・安心なまちづくり、さまざまなサービスのパーソナル化などにフィードバックしていくことです。
NECではスーパーシティのビジョンとして「世界に誇れる『地域らしい』まちの進化」を掲げており、「経済基盤の活性化」「住む人・集まる人のQOL向上」「地域特有課題の解決」をビジョン実現のための3つの柱と捉えています。その社会実装のための重点施策は「効果検証に基づく都市経営サービス」「住民を中心とした共創プロセス」「暮らしに寄り添う分野間データ利活用」になると考えています(図2)。
そのため今後は、都市経営という観点で歳出削減・歳入拡大を実現できるかを念頭に、コンサルティングとサービス実装のトータルコーディネートを進めていきます。地域との共創も重視し、住民の皆様のご意見を聞くことはもちろん、地場のパートナー企業様とも連携し、複数分野にまたがる複雑な課題をデータ利活用によって解決していきたいと思います。
内田氏:本日は「データがつなぐ異業種連携による未来のまちづくり」というテーマでお話を伺ってきました。これまで企業各社が行ってきた取り組みが、このようなかたちで連携し、持続可能な未来につながっていく可能性をお聞きして、私自身も非常に心強く感じました。本日はどうもありがとうございました。