ここから本文です。

2017年01月05日

三宅秀道のイノベーター巡礼 新しい問いのつくりかた

マドルスルーの時代に必要な「問い」を立てる力

正解を探すのではなくて、「問い」を探す旅に出よう

三宅秀道氏の著書2冊。『新しい市場のつくりかた』(東洋経済新報社)、『なんにもないから知恵が出る 驚異の下町企業フットマーク社の挑戦』(磯部成文氏との共著、新潮社)

 結果としてブレイクスルーにたどり着く場合もあるけれど、大事なのはマドルスルー(muddle through 「泥の中、手探り状態で出口を探し求めて進んで行く」こと)のプロセスだと思っています。革新的な飛躍が突然起こるというよりは、泥の中を試行錯誤しながらもがいていく先に、現状を打ち破る打開策が見えてくるのです。受験勉強で養われるのは、苦手な問題では怒られない程度の及第点を取り、得意分野では最適解を出す力です。しかし、そこからはクリエイティビティは生まれません。なぜなら、「ひとつにまとまる最適解がある」という考え方自体が、すでに古いものになっているからです。

 日本よりも先に家電が普及し、自動車が普及し、インターネットが普及するといったようなモデル国家があるうちは、速く上手く盗むことが一番賢いやり方でした。それが正解だった。しかし、後発工業国から先進国となった現在の日本には、そうしたモデル国家がありません。真似するモデルがないならば、泥の中で葛藤し、もがきながら打開策を探っていくしか方法がないのです。

 そうした時代には、正解を探す力よりも、むしろ「問い」を立てる力のほうが求められます。たとえば、自著で取り上げさせてもらっているフットマーク株式会社は、学校のプールで誰もが被っている水泳帽子を開発しました。この水泳帽子は、技術的にはなんら新しいものはありません。既存の技術を使って開発しただけです。しかし、水泳帽子を被ることによって水質の衛生面が改善されるだけではなく、水泳指導カリキュラムを作って能力別の「泳力」を帽子に表示するようにしたり、帽子を色分けして名前を入れることで、教師が生徒を把握しやすいようにしたりといった取り組みをしたことによって、「プールでは水泳帽を被るもの」という新しい文化を開発しました。つまり、「プールでの指導上の困難」「衛生上の問題」といった、「問い」が最初にあり、その「問い」を発明したところから、すべてが始まっているのです。

 「物事には必ず一つ、最善最適の正解があるはず」と信じ込んでしまうと、事前決定論の呪いにかかってしまいます。「あらかじめ正解が一つあって、それがまだわかっていないだけだから見つけよう」という発想は、「仲間のみんなが納得する正解が見つかるまで動かない」という言い訳を作ってしまうのです。そうではなくて、「自分たちのやっていることがある水準以上の妥当性があれば、事業が続いていく」というリアルな認識に達したほうがよっぽどよい。そうでないと、そうこうしているうちに技術革新が起これば、また一から正解を探し直しといった不毛な事態に陥ってしまう恐れがあります。

 ですから、本質は自転車操業なんです。正解を導くデータが集まるまで待つのではなく、自分たちで動いて必要なデータを発生させたほうがよい。正解を探すのではなく、自分たちの仮説を正解の方向に近づけていく努力が必要なのです。問いを立てて動き出し、新規事業を作っていくプロセスを取材しモデル化していくのが、私が携わる学問の世界の使命だと思っています。

 私の著書は、読者からよく「具体的なハウツーが書いていない」とお叱りをうけることがあります。しかし、すでに述べた通り、唯一の正解を導くためのハウツーなんてものは、今の時代にはありません。低成長時代に入ったと言われて久しいですが、私は中小企業にも、大企業にもまだまだやれることはたくさんあると思っています。またまだ工夫次第では、人々の暮らしを一変させるような、新しい製品やサービスを開発できる。そのために、やり方のハウツーではなくて、世界の見方のハウツーを、新規事業に挑戦する方々のインタビューから抽出していきたい。

 泥の中で葛藤し、もがきながら打開策を探っていくマドルスルーの精神で、この連載を進めていきたいと思っています。新しい「問い」を探す旅を、皆さんとご一緒できれば幸いです。

関連キーワードで検索

さらに読む

この記事の評価


コメント


  • コメントへの返信は差し上げておりません。また、いただいたコメントはプロモーション等で活用させていただく場合がありますので、ご了承ください。
本文ここまで。
ページトップ