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フィリップ・コトラーが語る、これからのマーケティング

2018年01月17日

 フィリップ・コトラー教授は、「マーケティングの神様」、「近代マーケティングの父」などと呼ばれるマーケティング界の第一人者である。彼の本は、世界中の大学や企業などマーケティングを学ぶ人たちに読まれ、大学教授、企業のエグゼクティブでも、フィリップ・コトラーの『マーケティング・マネジメント』がバイブルという人は多い。今でも講演で世界中を飛び回っており、今回もバーレーンから日本へ直接来られた。バーレーンで食当たりになり、今回は椅子に座ってのご講演だったが、座っていることを除けば、歯切れ良い雄弁な話しぶりは昨年と変わらない。

 フィリップ・コトラー(Philip Kotler):1931年米国生まれ。シカゴ大学の経済学部を卒業し、マサチューセッツ工科大学(MIT)で経済学博士号を取得。現在、ノースウェスタン大学大学院(ケロッグスクール)教授。86歳ながら、今でも教壇に立ち、マーケティングの最前線にいる。

マーケティングは企業の成長エンジン

 コトラー教授は、今、マーケティングが劇的に変わってきているという。今回、日本に来て、1番強調したかったこと、それは、「マーケティングは企業の成長エンジン」ということだ。

 本コラムは、コトラー教授が提唱し、ネスレ日本代表取締役社長兼CEO高岡浩三がカウンシル代表を務める、World Marketing Summit Tokyo 2017(2017年12月8日 笹川記念会館国際ホール)での講演内容を紹介する。本サミットは、新しいマーケティングパラダイムを共有し、マーケティングを単なる企業経営のツールというレベルから、社会的責任に優れた企業戦略へ進化させるというビジョンを持っており、2012年に設立後、2014年から3回東京で開催、今年は東京をメイン会場にカナダ、バーレーン、韓国など複数国のサテライトで開催された。

 コトラー教授はまず、「What is Marketing? (マーケティングとは何か?)」から話し始めた。

 「古いマーケティングは、セールス、広告、プロモーションなどをテーマとしてきた。マーケティングのスキルセットで、もちろん、依然間違いではないが、今ではもっと広い意味で捉え直すべきだ。新しいマーケティングは、ターゲット顧客に対してより優れた価値を創造し、コミュニケーションし、届けること。そして、マーケティングは今、大きく変わろうとしている。最新のマーケティングは、マーケティングを企業の成長エンジンと捉える。」

 「作ったものをどう売るか。これは昔のマーケティング。新しいマーケティングは、自分たちが何を作るべきかを決める。そして今は、自分たちは相応しいものを作っているか、だけでなく、それが新しいかも重要。」 新しい、ということがこれまでより重要になっており、講演でも『New Marketing(新しいマーケティング)』と『Latest Marketing(最新のマーケティング)』を区別して使われていた。

 マーケティング・ミックスの4P(Product, Price, Place, Promotion)も拡張が必要とのことだ。

 Product、Price、Service、Brand、Incentives、Communication、Delivery

 この7つが4Pの拡大版。「良いプロダクトには良いサービスがなければならない。プライスからはインセンティブを取り出した。インセンティブとは、高い価格で買った人をいい気分にさせるということだ」。
 「ブランドは、コミュニティーの構築が重要になっており、そこでは、顧客の最も高いステージであるアドボカシーがブランドを左右する。ある企業の商品を2度、3度買ってくれる、買い続けてくれる。これはアドボカシーではなく、ロイヤリティーだ。アドボカシーとは、コミュニティーでお互い繋がり合い、この企業の商品を賞賛し、人に伝えてくれる存在だ。」

 「どうやったら、このステージに来てくれるのか。それを計る指標が、NPS (Net Promoter Score)だ。」 NPSは顧客推奨度、正味推奨者比率とも言われ、顧客満足度に並ぶ新たな指標として注目されている。「企業は誰が自分たちに代わって広告してくれるのか、企業のNatural Agencyを正確に把握しなければならない」、とコトラー教授は付け加えた。

ディスラプティブ・チェンジ

 今回のサミットを通じて、disruptive(破壊的) change、paradigm changeという言葉がよく聞かれた。disruptive changeについて、1971社 CEO ハワード・トゥルマン(Howard Tullman)氏は、多くの事例を引用しつつ、今、起こっていること、変化していくことの重要性について説明された。最初に挙げたのは、民泊サービスのAirbnbだ。

  時価総額 従業員数
MARRIOTT 34 billion 226,500
AIR BNB 31 billion 3,100
HILTON 20 billion 169,000

 株式の時価総額では拮抗している大手ホテルチェーンMARRIOTTとAirbnbだが、従業員数に大きな開きがある。Airbnbは、必要としている人に空室を貸し出すビジネスモデルで、Uberと並ぶシェアリングエコノミーの代表格だが、Airtbnbは既存ホテル業界への大きな脅威となっており、Disruptive innovation(破壊的イノベーション)の筆頭に挙げられる。

 その他、「Googleの新イヤホンは、40ヶ国語に同時翻訳できる」、「ID認証では、人より顔認証AIの方が精度が高い」、「モバイルからの音声による検索は20%を越えた」、「JPモルガンのソフトウェアは弁護士が36万時間かかる仕事を数秒でできる」など、最新事例を立て続けに挙げた。不可逆なスピードで変化が進んでいる。

 Amazonは昨年6月に米食品スーパーのWHOLE FOODSを買収したが、 すでにAmazonは、WHOLE FOODSの顧客62%と、Amazonプライム会員の紐づけができており、この顧客のサイトへの来訪数は17%UPしている。
 クレジットカード会社は、これまでも顧客の購買データをマーケティングに活用してきたが、最近は特にAIで予測精度が上がっているという。結婚してすぐ離婚したカップルはクレジットの支払いがデフォルトになる確率が高い。クレジットカード会社は、「自宅と同地域内のホテル利用」、「自宅以外への花の送付」、「自己投資」、「独身者向けバーの利用」などから、近い将来の離婚が正確にわかるとのことだ。

 すでに、全クレジットカード/デビッドカード利用者の7割が、オンラインでの行動と紐づけられている。その他、保険、不動産、食品などの業種についても触れていた。データを持つ者の優位性は、これからますます大きくなっていくのだろう。

パラダイム・チェンジ

 ケロッグイノベーションネットワーク共同創立者で常任理事のロバート・ウォルコット (Rob Walcott)氏は、パラダイム・チェンジについて電気自動車を例に次のように説明した。

 「電気自動車は、普通の自動車のガソリンスタンドに相当する『バッテリーチャージングステーション』がまだ全国に少ない、だから普及が遅れているという話をよく聞く。途中でエンストしたら困る、砂漠の真ん中でエンストしたら死ぬ、などだ。」
 「しかし、これは、ガソリン自動車のパラダイムだということに気づいて欲しい。皆さんは、ドラム缶を車庫に置いて、車に注油している家を見たことがあるだろうか? 電気自動車は自宅で充電する。テスラ は、2025年に1回の充電で数千マイル走る車を出す。この時、ガソリンスタンドのようなものがいるだろうか? 自動車だからガソリンスタンドが必要、という古いパラダイムに縛られてないか。」

 これからの電気自動車社会を見据え、世界中の企業、投資家が、チャージングステーションのインフラ事業に数十億ドルの投資をしているが、それに対して、ウォルコット氏は、「They all lose their money. I can guarantee it. (彼らは投資した金を失うだろう。保証する。)」と付け加えた。

社会的責任のある企業の役割

 最後のパネルディスカッションで、コトラー教授は再度登壇し、世界をより良い場所にすることが我々のミッションであることをあらためて強調した。
 「優れた会社は、自分たちの目的は金を儲けることだ、とは言わない。より高い目的があるはずだ。それは、世界中の人々の生活を良くする、生活環境を発展させることだ。日本だけでなく、他の地域も。」

 社会をより良くし、生活を豊かにする企業にとってマーケティングは、成長エンジンでなければならない、という日本企業に対する強いメッセージだった。地理的制限なく、学生などが参加できるオンラインマーケティングプログラムにも力を入れたいとのこと。「我々が提供できる価値も進化している。世界をより良い場所にすること。それが私たちの原動力だ」と力強く締め括った。

(コラム内のデータはすべて各講演者資料より引用。文中リンク先はすべて英文サイト)

(文:川崎幸臣、写真:伊藤瞳、他)

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