2017年4月25~27日、Las VegasのMandalay Bay Casino & Resort で、オラクル社主催『Modern Customer Experience 2017』が開催された。世界中からマーケターが集まるこのイベントの模様をwisdom編集部員川崎がレポートする。
Modern Customer Experience 2017は、米IT大手オラクルが主催するカスタマーエクスペリエンス(CX)に関するグローバルの先進事例、最新テクノロジーを集めたカンファレンスで、世界のCXの今がわかる場として知られている。
広い会場内に300近いセッションがあちこちで開かれているが、紙の案内は一切無く、情報はすべてアプリから。帰国後にセミナー資料のダウンロードのメールが届いていた。夜は有名ミュージシャンによるコンサートやクラブなどで大いに盛り上がる。これが、CXがテーマの「一分科会」と言うから驚く。
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CXの重要性
なぜ、CXなのか。Oracle Marketing Cloud担当の上級副社長Laura Ipsen氏は自身のセッションの中で、『マスマーケティングの時代は1:many。ブランド・広告の時代でした。今や1:1。モバイルなど様々なチャネルで消費者といつでもつながるようになり、パーソナライゼーションがさらに加速しています。そしてこれからは1:U(You)の時代。一人ひとりにユニークな体験を提供します。一時だけではなく、ライフタイムを通して親密なリレーションを図ります』と語っていた。ガートナーが過去3年実施したCEO向け調査でもCXが最重要の経営課題として挙げられている。顧客が企業と出会うすべての接点の集積がCXとなる。
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初日のキーノートスピーチはCEOのMark Hurd氏。冒頭で、『1990年のFortune 500企業で現存しているのはわずか10%。2000年の時点で既に半分しか残っていない。4割のCEOは18ヶ月以内に辞め、CEOの平均在任期間は18四半期』と、CEO職の過酷さと、どんどん短くなっていく在任期間でいかにコストを削減しながら、利益を出していくか、スライドを交えて説明した(下図)。
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また、自身の顧客体験について、次のようなエピソードを語った。
“夜遅い時間に空港を降りたら、予約していた車が無い。レンタカー会社に電話で問い合わせたら、ユーザー番号を聞かれた。わからないから名前で調べてくれと伝え、かれこれ15分くらいやり取りした後、彼女は「あなたの番号がわかりました。が、車はありません」と答えた。”
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Hurd氏はすぐ自分の会社に電話して2度とここから借りるなと指示したそうだ。14万3000人の社員が今後2度とこの会社から借りない。このレンタカー会社には大打撃だろう。ユーザーはひどい顧客体験を忘れない。CXの端的な例だ。
最後に、チャットで問い合わせたら、カスタマーセンターの画面に、その人の過去の購買履歴だけでなく、抱えている問題の予測、解決策の提示、文面から不満状態にある、Life Time Value(潜在的な影響力も含めた価値)などの情報が即座に表示される、というデモもあった。
縦割りの”サイロ”をつなげる4要素:エクスペリエンス、プロセス、ナレッジ、データ
なぜ、シームレスなCXは難しいのか。ガートナー副社長・アナリストのGene Phifer氏は2日目のパネルディスカッションでその難しさについて次のように述べていた。『部門毎、商品毎でデータがサイロになっている。さらに大きな課題は、データだけでなく、人もサイロになっている。』(下図)
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組織がバラバラで、データもつながっていない。データの統合、業務プロセスの統合、そして組織の統合。高いCXには、企業文化をも変える統合の大作業になる。
『サイロを繋げる要素は4つ。エクスペリエンス、プロセス、ナレッジ、データ。これらを繋げるとき、新しいチャネルとデバイスに対応でき、AIやIoTといった新しいテクノロジーを柔軟に採用できるプラットフォームにすべきだ。』(Phifer氏)
これまでもマーケティング情報はあったが、レポートが出ても次のアクションにつながらない場合が多かったのではないか。それを今後はAIがやる。顧客の選定や、どの案件に注力すべきか、といったことまで、AIが最も効率の良いアクションを指示するようになる。これからのマーケターの役割は調査や分析ではなく、顧客そのものへのフォーカス。ガートナーは、2020年までにB2B企業の30%が、営業活動にAIを導入すると予測している。