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地方創生現場を徹底取材「IT風土記」

岐阜発 聖地巡礼だけじゃない、消費呼ぶインバウンド戦略

2016年11月07日

小売店の免税手続き負担増を緩和

 政府の「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」は、インバウンド新時代に向けた戦略的取り組みとして、「色とりどりの魅力を持つ日本」の発信と地方への誘客の重要性を指摘する。その原動力となるのは、ビザ要件の戦略的緩和と、消費税免税制度の拡充を契機にした地方での消費拡大である。

 日本の免税制度の改善を目指し、関係各署への働きかけを展開する「外国人旅行者向け免税制度に関する協議会」の事務局長で、JTBとJCBの共同出資会社であるJ&J事業創造(東京)取締役でもある大本昌宏氏は「国際的なイベントをいくつも控え、今後、訪日外国人の増加に伴う免税販売件数が増加傾向になる中で、免税手続きの負担増が課題となる」と指摘する。

J&J事業創造の大本取締役

 J&J事業創造が販売する免税手続きシステム「J-TaxFreeシステム」は、免税書類作成をシステム化し、免税店の業務削減を支援するもの。パソコン・プリンタのほか、設置スペースを削減できるタブレット・ロール紙プリンタでの対応も可能。パスポートをリーダーで読み取り、商品情報などを選択・入植し、印刷ボタンをクリックすれば、必要書類が印刷される仕組みだ。

 免税手続き一括カウンター対応版もあり、ひとつの操作で複数店舗の購入記録票・購入者契約書の作成が可能になる。また、複数店舗の金額を合算した場合でも、免税条件の最低購入金額・上限金額を自動的にチェックする。建て替え消費税の清算のために、各店舗の売上集計票を出力することもできる。

 J&J事業創造の吉村啓一営業企画部長は「免税手続きの簡素化に役立つことはもちろんだが、免税購買データの集計機能もあり、効果的なマーケティングへの活用が可能になることも評価されている」と話す。アパレルなどのブランド品を買い求める首都圏のショッピングモールや大規模アウトレットなどでも採用されているという。

実際の登録画面を見ながら説明するJ&J事業創造の吉村部長

大規模店との競争にも効果

 高山市が周辺自治体と連携した積極的なプロモーション戦略は、インバウンドの取り込み数の増加という成果を引き出した。市町村合併があったため、単純比較はできないが、高山への訪日外国人客の数は、宿泊ベースで平成12(2000)年の約3万7000人から平成27(2015)年の約36万4000人へと増えている。

 次の課題は、地元経済の発展に寄与する消費の拡大だ。高山市は、周辺自治体と協力し、国・地域別の詳細な消費動向の調査に乗り出した。高山市ブランド・海外戦略部海外戦略課の葛井孝弘主査は「地場産品へのニーズを掘り下げ、事業者のマーケティングに役立つように情報をフィードバックしたい」と張り切る。

訪日外国人向けのパンフレットを手に説明する高山市の葛井主査

 将来的に期待されるのが、購買情報を一括して管理できるシステムの導入だ。「J-TaxFreeシステム」を展開するJ&J事業創造は、大規模店舗だけでなく、地方の商店街への販売拡大にも本腰を入れている。同社の吉村営業企画部長は「委託型免税制度の活用と、J-TaxFreeシステムの導入を加速することで、外国人客の嗜好に合わせた商品のマーケティングを後押しできる」と信じている。

 ただ、商店街への免税店の普及を促すため、委託型の免税店を勧めるにしても、誰が他店の手続きを代行する一括カウンターを引き受けてくれるかが課題だ。そんな中、他業種と手を組み、免税店網を整備しようという動きも出ている。広島県尾道市の「尾道本通り連合会」は今年5月、ヤマト運輸と連携し、尾道本通り商店街内の「ヤマト運輸」の直営店に一括免税手続きカウンターを設置した。商店街側は、免税手続きをヤマト運輸に委託できる一方で、ヤマト運輸も外国人観光客の荷物をホテルなどに運び、手ぶら旅行をサポートできるわけだ。

 J&J事業創造の吉村営業企画部長は言う。「高山本町三丁目商店街振興組合の場合は、自己犠牲を厭わない中田理事長の器の広さが、一括カウンター設置を実現させた。本町三丁目商店街が免税手続きカウンターの導入によって発展するかどうかを、高山市の他の商店街はもちろん、全国の商店街関係者が注目している」。

 今秋、高山本町三丁目商店街から約300メートル離れた場所に、大手ドラッグストアチェーンが開店した。インバウンドが増加する高山市での需要拡大を見込んでの進出だ。高山市の商店街では、何年も前から「神薬」と呼ばれる日本の医薬品を大量買いする動きはあったという。中田理事長は「正直驚いたが、頑張るしかない」と気を引き締める。

 一方、中田理事長は「高山市内の商店街が競い合い、サービスを充実させるべきだ」と考えている。高山本町三丁目商店街の免税店は、アパレルや仏壇仏具、文具店、玩具店など拡大しており、線香や位牌など想像もしなかったものが売れている。手続きカウンターを設置している中田中央薬品では、免税対応により、売り上げが10パーセント以上アップしたという。

 高山本町三丁目商店街はこれまで市民向けの生活用品に力を入れていたが、居住地が郊外へと広がり、ドーナツ化する中で、国内の観光客やインバウンドの取り込みは避けて通れない経営課題だ。中田理事長は高山本町三丁目商店街を「タックスフリーストリート」と名付け、人の集まる商店街へと進化させる戦略を描く。ストリートのキャラクターを若手のイラスト制作グループに依頼し、パンフレットや看板の作成を急ぐ。敷地内には「中心市街地活性化に関する法律」に基づき設立された「まちづくり飛騨高山」が、外国人観光客にも対応するフードコートを整備中だ。

 中田理事長は「大手に負けないように頑張りたい」と意欲を燃やしている。

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