地方創生現場を徹底取材「IT風土記」
石川発 IoTが市民と温泉街を救う クラウド技術で水道管の漏水を監視
2017年08月30日
温泉街特有の見つけられない事情
一般的な水道管の漏水の探索は結構アナログだ。舗装された道路に聴診器のような機器を当てて漏水の音を耳で探りあてる。住宅街やオフィス街では、寝静まった深夜から早朝にかけて作業が行われる。しかし、和倉温泉は、この方法では漏水をうまく探し当てられない特有の事情があった。
「旅館やホテルでは、営業が深夜に及びます。旅館に温泉をくみ上げるポンプが深夜まで稼働していたり、深夜まで人の動きがあります。そういった音があると、音だけで漏水を見つけるのが難しいのです」と市上下水道課の西本義光課長。「一方で、和倉温泉周辺の土壌は、藻類の一種である『珪藻(けいそう)』が堆積してできた『珪藻土』でできていて、どうもこれが水道管と水道管をつなぐボルトを浸食し、老朽化を早めているようだ、ということがわかってきました。和倉温泉地域は市内の他の地域よりも漏水が起きるリスクが高く、対策が求められていました」

高性能のセンサーを活用したこのサービスは、水道管に伝わる漏水の微妙な振動をキャッチするため、発見の精度が高い。さらにセンサーは強力磁石なので着脱も容易である。漏水音を耳で聴く従来の方法では、漏水がある場所のめどをつけて、道路を掘り返したものの見つからず、別の場所を掘り返すといったことも少なくなかったが、このサービスでは、ほぼピンポイントで漏水地点を探し当てることができ、工事の効率化やコストダウンにもつながったという。
こうした市の対応に和倉温泉観光協会の宮西直樹事務局長は「七尾市の人口は約5万人ですが、和倉温泉には年間約100万人もの観光客が訪れます。水道水はどこにでもある当たり前のものというイメージがありますが、安全・安心という点では重要なインフラで、管理に力を入れていただいているのは大変ありがたい」と市の対応を評価している。

現在、七尾市には約682キロの水道管が設置されているが、1990年以降に敷設された水道管が多い。今後、2040年以降、本格的な水道管の更新時期が訪れる。市の試算によると、今後40年間で必要となる更新費用は約320億円に上るという。それでも、他の自治体に比べれば、まだそれほど老朽化は進んでいない方だ。
自治体を襲う深刻な「水道クライシス」
全国の水道の総延長は60万キロにも及び、普及率は98%近くに達するが、1980年に普及率は9割を超えており、大半は高度成長期の1970年代に整備が進められたものだ。常に圧力がかかった状態で送水する水道管は地方公営事業法の施行規則で耐用年数が定められているが、その年数は40年。1970年代に上水道の整備を進めた多くの自治体が水道管の大量更新期を迎えているのだ。
しかし、厚生労働省の調査によると、耐用年数を超えた水道管の更新率は2014年度の全国平均で0.76%と1%にも満たない。この更新率で全国のすべての水道管を更新するには約130年かかる計算だという。耐用年数を超えて利用している水道管は全体の12.1%に上り、2年前の9.5%からじわじわと上昇している。全国で発生している漏水などのトラブルの件数は2万2000件に上ったが、今後、この数字が増加するのは避けられない状況といえる。
新しい水道管に更新すれば、漏水などのトラブルを回避できるが、少子高齢化に伴う人口減などで、多くの自治体で水道料金収入や税収が減少。財政的な負担が大きく、大規模な更新には多くの自治体が二の足を踏んでいる。大規模な更新を行えば、水道料金の大幅な値上げという形で市民生活に跳ね返る可能性もある。水道管の相次ぐ破裂に水道料金の大幅な値上げ…そんな将来予想を「水道クライシス(危機)」と指摘する専門家もいる。
まだ老朽化のピークに達していない七尾市では、将来の”危機”に備え、更新のピークを平準化するために重要度の高い水道管の更新を前倒ししたり、更新のための費用を事前に確保するため内部留保を手厚くしたりと計画的な対応を進めているが、七尾市上下水道課の西本課長は「40年ですべて更新するということではなく、60年以上も長持ちする水道管もあります。水道管の監視をしっかりすることで、更新が必要な水道管はしっかりと更新し、長持ちする水道管を大切に使うなども必要です」とも話す。

七尾市はNECの漏水監視サービスのセンサーを七尾市全地域に定常的に設置するのではなく、エリアを区切ってセンサーを設置しては漏水を調べ、また次のエリアにセンサーを移動させるといったポータブルな形で利用しているが、市全体にセンサーを張り巡らせ、常時、全地域の水道管の情報を把握する利用法が従来の使い方である。将来的には、漏水の監視以外にも水道管の劣化度合いや材質、地盤などのデータもインプットし、水道管の更新に優先順位を決めやすくするなどのサービスの提供も検討中だ。水道管の抜本的な更新という対策が絶望的な中で、最新のIT技術を活用し、耐用年数を超えた水道管を監視しながら大切に使っていくという手法は自治体にとって避けられない選択肢になっているようだ。