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2020年08月24日

これからの企業に必要な成長と持続性の両立をめぐって ──ICTによる全体最適は、いかに社会を“共鳴”させるのか
~NEC未来創造会議 2020年度プレ有識者会議レポート~

 2050年の社会を見据えて目指すべき未来像を構想するプロジェクト「NEC未来創造会議」が、今年も始動する。2017年度にNECが開始した本プロジェクトは、毎年国内外からさまざまな有識者を招聘し議論を重ねてきた。2018年度には分断を克服し人が豊かに生きる社会のビジョンとして「意志共鳴型社会」と名付けたモデルを提唱したほか、昨年度からは多くのステークホルダーとともに共創プロジェクトに取り組むなど、議論だけでなく社会実装のフェーズへとプロジェクトは移行しつつある。

 今年度のNEC未来創造会議は、いまなお世界中で感染が拡大しているCOVID-19の影響を受け、従来とは異なったアプローチが強いられている。言わずもがなCOVID-19はわたしたちの社会に大打撃を与え、既存のシステムが大幅な見直しを迫られている。人が豊かに生きる社会の実現を目指すNEC未来創造会議もまた、いまこそICTの活用やプラットフォームのあり方を見直し、その新たな可能性を提示しようとしている。

 キックオフとなるプレ有識者会議には、NEC 取締役 会長の遠藤信博とNECフェローの江村克己が参加。昨年に引き続き『WIRED』日本版編集長の松島倫明がモデレーターを務め、未来創造プロジェクトメンバーが考案した4つの問いをめぐって、これまでのNEC未来創造会議を振り返りながら、これからの企業がすべきことを議論した。

持続的な成長、自律的な分散

 いまなお世界で感染拡大が続いているCOVID-19は、人々の生活を大きく変えた。既存のシステムは揺らぎ、交通ネットワークや経済システム、企業の体制にいたるまで、これまで盤石なものと信じられてきたものが壊れてしまった。この変化に適応すべく、企業のみならず行政機関や国家までもが苦闘している。

 果たして、COVID-19によってこれからの世界はどう変わっていくのだろうか? そんな問いから、今年度のNEC未来創造会議は出発した。本年度のキックオフとして開催されたプレ有識者会議のテーマは、「COVID-19が社会に本質的に示したものは何か? 2050年に社会や企業、人はどう変わるか?」。グローバルな感染拡大以降の世界が「New Normal」と言われるほどわたしたちにとっての日常が変わっていくなかで、NEC未来創造会議の議論を活性化させるために結成された未来創造プロジェクトはまず、2050年の社会のエコシステムパレットを構想した。

 このエコシステムパレットは4つの象限にわけられ、縦軸には「変化・自律」と「安定・統制」、横軸には「成長重視」と「持続性重視」が配されている。成長と安定を追求するのが従来の営利企業、成長と変化ならベンチャー企業、持続性と変化は環境保護団体、持続性と安定なら政府や医療法人、というように、各象限ごとに、割り振られる組織の性質が異なっているというわけだ。

 今回の有識者会議は、この価値軸をベースにしながら4つの問いをめぐって議論が進行していった。まず第1の問いは「地球の持続性と豊かな生活との両立を実現するためには、どのような社会であるべきか」。経済成長によって豊かな生活の追求が続く一方で、年々環境問題が深刻化してゆく現在、NEC未来創造会議はどのような社会を目指していくべきなのだろうか。

 「このパレットで対置されている概念のどちらかを選ぶのではなくて、両者をどちらも達成することで初めて大きな価値が生まれるのだと思います。持続性をもった成長こそが重要だし、自律しながら分散的に制御できるほうが望ましいですからね」

 NEC 取締役 会長の遠藤信博はそう語り、4象限に引きずられず二者択一を乗り越える重要性を提示する。たしかにSDGsのような目標を達成すべく多くの企業が心血を注いでいる現在、持続性をもった成長こそが重視されているのは間違いない。NECフェローの江村も遠藤の発言を受け、次のように語る。

 「この両端が設定されていることで、問題設定がより明確になるのかなと。そもそも『成長』や『持続性』が一体どんなものを想定していたのか議論がしやすくなるように思うんです」

 ひとくちに「成長」といっても、その評価基準はさまざまだ。NEC未来創造会議では、かねてより従来の成長が専ら数値や経済合理性のみによって測られてきたことが問題視されてきた。豊かな社会をつくるためには、成功の評価軸もまた多様でなければいけない。今回のCOVID-19によって、成長のあり方もさらに多様化していると遠藤は語る。とくに教育のリモート化によって、学生の成長は従来と異なるものになってきた。

 「リモート化によって授業が分散化した結果、これまでは教室に人を集める講師が価値の主体となっていたけれど、いまは主体性の高い学生ほどより多くの価値を生み出せる。価値の主体が学生へと移ってきているんです」

 遠藤は、こうした変化が企業においても生じるだろうと続ける。これまでは企業が主体性をもってすべてを管理していたが、今後は働き方だけでなく組織づくりもより分散的になっていくのかもしれない。

 成長のあり方が変わることは、そこから生まれる価値のかたちが再定義されることを意味する。「いままで信じていた安定や成長という概念が崩れたことで、いま本質が問いなおされているのだと思います」と松島が語ると、遠藤は人間の本質にアプローチできるような新たなプラットフォームが必要なのだと応答した。

 「COVID-19によって分散的な価値が促進されたことで、マズローの欲求段階説で言うところの上位欲求、自己実現欲求のようなものが叶えやすくなるでしょうね。衣食住など生理的な欲求しか満たせないプラットフォームでは人々の意志が共鳴しづらかったけれども、自己実現を促進できるプラットフォームがあれば地球全体に共鳴を引き起こせるんじゃないかと思っています」

遠藤 信博(NEC 取締役 会長) 1981年にNECへ入社。2006年執行役員、2009年取締役、2010年代表取締役社長、2016年代表取締役会長。2019年6月より現職
遠藤 信博(NEC 取締役 会長)
1981年にNECへ入社。2006年執行役員、2009年取締役、2010年代表取締役社長、2016年代表取締役会長。2019年6月より現職

いま企業がすべきこととは?

 議論は、次の問い「NECはどのように社会に貢献すべきか」へと移っていく。遠藤が述べたようなプラットフォームが今後可能になるとすれば、社会のなかでNECのような大企業はどのような役目を果たしていくべきなのか。江村は、ICTの発展によってこれまでもその役目は変わってきたと述べる。

 「かつてNECはものづくりの会社で、先ほどの4象限でいえば安定と成長を追い求めていた。しかしICTの発展にともなってわたしたちのもつ力を応用できる範囲も急速に広がっていった。結果的に、自社だけで事業を行なうのではなく、外部の方々とコラボレーションすることが増えてきた。大企業だからできるコラボレーションを探るのがこれからの役目かもしれません」

 新たな成長と持続性を追求していくうえでは、さまざまな企業や組織とコラボレーションしてつながりを広げていくことが重要なのかもしれない。遠藤はかねてよりSDGsをNECの文化にすると述べており、一企業として社会へ価値を提供することを重視してきた。遠藤によれば、ロングタームな活動こそがいまの企業にとって重要なことだという。

 「これからの企業は持続性に貢献できないかぎり社会からの支持を得られないので、結果的に利益も生み出せない。とくにいまは政治がポピュリズムに走っていて短期的な成果を上げることに注力しているので、その分経済はよりロングタームで答えを出していくことで価値を生み出していくべきだと思っています」

 加えて、遠藤は世界が情報社会からデータ社会へと移行することでプラットフォームのあり方自体が問いなおされていると続ける。これまで限られたデータを使うことで局所的なソリューションを提供していたのに対し、データ社会では膨大な量の情報を扱うことで社会全体の変化をも起こせるようになる。それは部分最適の時代から全体最適の時代への移行を表してもいる。

 「全体最適によって社会を大きく変えていくためには、コンセンサスをつくることが重要ですね。だからこそ、意志共鳴がこれまで以上に大きな価値をもつ」と江村が語るように、新たなプラットフォームの重要性はNEC未来創造会議が導出した意志共鳴型社会というビジョンともつながっている。

 とりわけICTによって生まれるサイバー空間は閉鎖的な環境を生みがちであり、きちんと外部に開かれた共鳴の空間をつくっていくことが重要となる。江村は仕組みのデザインこそが企業に求められることだと続ける。

 「自分の好きなところに閉じこもってしまった結果、昨今のエッセンシャルワーカー軽視のような状況が生まれてしまったわけです。だからこそ、技術的に環境を整えるだけではなくて、教育がその考え方を根本から更新したように、人々の社会に対するリテラシーを上げていくような仕組みをつくっていかなければいけないなと思っています」

江村克己(NECフェロー) 1982年、光通信技術の研究者としてNECへ入社。以降、中央研究所長や執行役員、CTOを経て現職
江村克己(NECフェロー)
1982年、光通信技術の研究者としてNECへ入社。以降、中央研究所長や執行役員、CTOを経て現職

「場」としての企業の重要性

 続く問いは、「個々人は社会とどのような形でつながり、どのように豊かさを実現するのか」。リテラシーを高める必要が強まる一方で、アメリカの政治状況やBREXITのように社会の分断も強まりつつある。そんな状況だからこそ、個人と社会をいかにつないでいくのかが問われているともいえるだろう。

 「技術の使い方を変えないといけないでしょうね。人間のできることを代替して便利な生活をつくるのではなく、人間の能力を引き出してエンハンスするような使い方を考えなければ人は豊かに生きていけないと思うんです」

 そう語る江村に対し、遠藤もエンハンスの重要性に同調する。

 「最近はとくに若い方々が高い能力をもっているのに、その能力を支えられるプラットフォームが不足している。だからこそ全体最適を行なっていく過程で一人ひとりをエンハンスさせていかなければなりません。従来の教育や産業の領域に囚われず、一人ひとりのちからを引き出していくプラットフォームをICTによってつくっていけるといいのではないかと」

 ある種の“越境”をICTによってサポートすることが、これからは求められるのかもしれない。越境というコンセプト自体はこれまでも重視されていたが、ICTの発展によっていよいよその実践が可能になっているともいえる。とくに教育においては、リモート化によってどこでも最先端な教育が受けられるようになり、従来の「大学」や「学部」に囚われない学習が実現している。領域横断的な人材が増えていくことは、多様な意志を共鳴させる社会の実現にも近づいていくだろう。遠藤はこうした状況をして、これからの企業は「場」になっていくはずだと語る。

 「わたし自身は、NECは社会価値創造の場だと思っているんです。一緒に働く人々に対して、場を提供している。だからこそ、一人ひとりが自分の力を発揮したくなるような場にしていきたいと思っています」

 江村も、「会社というプラットフォームも変革を求められている」と述べる。「一人ひとりが異なっていながらも集団全体がよりよいものになっていくようなプラットフォームをつくりたいですよね。これまでの日本ではみんなが均一に育っていくことが重視されていましたが、意識改革を起こさなければいけない。NECとしてもこうした変革を後押ししていきたいですね」

 個々人と社会がつながるための接点として企業はある。従来は経済活動の主体とみなされていた企業は、今後むしろ一種の媒介として機能していくようになるのかもしれない。

松島倫明(『WIRED』日本版編集長) NHK出版で数々の話題書を手掛けたのち、2018年よりテックやビジネス、カルチャーを横断するメディア『WIRED』日本版編集長を務めている
松島倫明(『WIRED』日本版編集長)
NHK出版で数々の話題書を手掛けたのち、2018年よりテックやビジネス、カルチャーを横断するメディア『WIRED』日本版編集長を務めている

利他と自利のバランス

 これまで3つの問いを経て、COVID-19によってこれまで徐々に進んできた企業や社会のあり方の変化が加速したことが明らかとなった。そのうえでNEC未来創造会議として問わねばならないのが、最後の問いである「意志共鳴型社会実現のために、どのような要素が重要となるか」だ。

 2018年に「意志共鳴型社会」というビジョンを考案して以降、NEC未来創造会議はこのビジョンを実現するために各種ステークホルダーとの共創プロジェクトも進めてきた。そしてその重要性は、COVID-19が起こした変化によってますます高まっている。

 「全体最適によって社会を変えていくためには、まず人間や社会の本質ときちんと向き合う努力が重要なのかなと思っています。これまでは多様な人々の違いを“受け入れる”と言っていましたが、本当は違いを“楽しむ”ことが必要なのかなと。結局人間は楽しくなければ仕事もできないわけで、多様性についてもそれを楽しめるようにならなければ真に人間の認識は変わっていかないですよね」

 遠藤はそう語り、教条主義的な「多様性」の評価ではなく、他者との差異を素朴に楽しめるような環境をつくっていくことが社会をより豊かにしていくのではと主張する。江村も遠藤に同調し、きちんと目標を明確にすることが大事なのではと語る。

 「ゴールを明確にして、きちんとコンセンサスをつくらないといけませんね。これまで単に多様性や意志の共鳴の重要性を説いていましたが、それだけだとゴールがあまり明確ではなかった。きちんと多様なステークホルダーを巻き込みながら社会のなかでコンセンサスをつくっていくことで、初めて本当の価値を生み出していける。成長という概念ひとつとっても、単に自分の成長だけを念頭におくのではなく、よりオルタナティブな成長のかたちをつねに模索していかなければならないなと」

 ここまでの議論を受け、松島が「未来をつくるうえで象徴的なツールはどんなものなのでしょうか?」と問うと、遠藤は「資本主義」というキーワードをあげる。

 「もちろん問題含みではあるけれど、資本主義というツールはある程度優れていたと思うんです。人間社会に進化を生むうえで資本主義が大きな役割を果たしたことは間違いない。だからこそ持続性を重視しながら資本主義的な豊かさを定義しなおすことが重要なのではと」

 江村も遠藤の発言にうなずき、「資本主義を金儲けのためではないツールにする必要がありますね」と述べる。重要なのは、資本主義や教育制度など、従来のシステムを完全に捨てることではなく、有意義な点を活かしながら現代に即してアップデートしていくことなのだろう。遠藤は従来自利的に機能してきたシステムを利他に転換していくことの重要性を説いてこの会議を締めくくった。

 「人間は基本的に自分の利益のために動くけれど、自利のために動くだけでは世界が成り立たなくなっていく。利他がないと自利もありえないことに人は気づいていくわけですね。バランスが重要なんです。テクノロジーによってそのバランスをカスタマイズすることもできるはずで、アートやデザインといったさまざまな観点からテクノロジーができることを再考する必要もある。価値観をアップデートし利他と自利のバランスを見極めていくための倫理観をつくりあげていくことが、これからの社会にとって重要なことなのだと思います」

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