2014年02月10日
NECのイノベーターズたち
機械学習による予知・予測の若きリーダー
データと正面から向き合い、今後も新しい価値を創造していきたい
──異種混合学習技術開発における、苦労などを聞かせてください。
藤巻:
異種混合学習技術の研究がスタートした2011年当初は、メンバーわずか4人という小さなチームでした。当時は、何を研究したらいいのか、技術をどう育てていけばいいのか、自分がアメリカにいながら日本のメンバーや案件をどう引っ張っていったらいいのかなど、いろいろな苦労がありました。そして2012年に異種混合学習技術を発表したところ、それが社長の目に止まったのです。話題を呼んでいるビッグデータ活用の分析技術として異種混合技術が社内でも注目され、そこからプロジェクトが急激に大きくなっていきました。チームが拡大してメンバーが増えたのはいいのですが、自分を含め個性が強いメンバーが多いため、意見や主張の衝突などもありました。また、日本だけでなく北米研究所や中国研究院のメンバー、さらには海外現地法人の方々など、バックグラウンドの違うメンバーでチームを作るという大変さもあります。考え方の違いを楽しんだり、自分と違う考えとの出会いを成長のチャンスと捉えることも重要だということを、メンバーとのつき合いを通して実感しています。

──NECの分析技術の中で、異種混合学習技術の位置づけや役割は何ですか?
藤巻:
NECには分析のコア技術として、テキスト含意認識をはじめ世界に誇る4つのすぐれた技術があります。その中のひとつが異種混合学習技術です。これまで予知や予測を行う時、専門家しかできない、膨大な工数やさまざまな試行錯誤が必要、予測の精度が低いという課題がありました。異種混合学習技術は、そうしたこれまでの課題を解決するだけでなく、業種やデータの種類に縛られることなく、さまざまなデータ、幅広い領域に応用することができるのが、大きな特長です。
──異種混合学習技術は、どんな分野で活用が期待されているのでしょうか?
藤巻:
NECの注力事業である社会ソリューションにおいても、異種混合学習技術は力を発揮します。たとえば、街や公共交通などのパブリックセーフティや、エネルギーの需要予測による効率活用、水などの資源の最適化にも貢献できます。また、橋やトンネル、工場などにおけるシステムや設備の劣化予測などにも適用できます。劣化の状態を把握して崩落や崩壊などの事故が起こらないよう、事前の対策なども可能になります。さらに、センサを活用したさまざまなデータ収集によって収穫予測をするなど、農業分野にも役立ちます。特に、資源やインフラの問題は世界の人口増加やアジアを中心とする新興国の発展によって重要性が増していて、ビッグデータの活用を真剣に考えているところが多いですね。一方ビジネス分野でも、異種混合学習技術はその特性を活かして、通信や流通分野をはじめとする幅広い企業で活用が期待されています。

今後の研究は、予測の次の領域へ
──藤巻さんの現在の研究内容について、教えてください。

藤巻:
開発者として現在行っているのは、2つです。ひとつは、異種混合学習技術におけるコアの進化。もうひとつは、お客さまの課題に対して何を予測し、何を最適化するのかという、ソリューションの進化です。お客さまが実際に直面している問題を考えることが、コア技術のさらなる進化にもつながるため、コア技術とソリューションの進化を両立させていくことが重要です。
企業の研究者として特に大切なのは、お客さまが抱える問題と、そこにあるデータと、しっかり向き合うことです。そのデータを見ないでいくら数式をいじっても、それは机上の空論に過ぎません。実在するデータが、お客さまの問題を解くカギになるのです。理論だけではなく、実際のデータをもとに課題解決への最適化を考えるということを、仕事ではつねに心がけています。
──海外案件のリーダーとしての現在の仕事はいかがですか?
藤巻:
海外案件の担当としては、ソリューションコンセプトの構築と実証が仕事です。具体的には海外のさまざまなお客さまとお会いし、ディスカッションしながら個々の問題や課題を聞き出し、問題をクリアするためのソリューションコンセプトを考え、問題を解決する最適な解決手段を提案しています。さらに、お客さまからお借りしたデータにアルゴリズムを適用して分析を行い、具体的な業務改善効果としてコンセプトの価値実証を行っています。
──藤巻さんの今後の仕事の展望を、聞かせてください。
藤巻:
研究者の仕事としては、予測の次の技術の研究開発ですね。予測にもとづいて次は何をするかを、機械学習によってデータからお客さまの業務そのものを最適化するという、さらに踏み込んだ技術開発を進めていきます。現在、機械学習を使った予測の精度だけでは、他のベンダとの違いが出しにくくなってきています。これから重要なのは、その先の差別化や独自性の追求です。異種混合学習技術では、ブラックボックスと言われている機械学習アルゴリズムをホワイトボックス化し、お客さまが理解できるようにする取り組みも進めています。予測の理由を可視化することで、お客さまに納得して予測モデルを使っていただくことができるとともに、そこから得られる知見をお客さま自身がマーケティングなどの戦略づくりに活用できるといったメリットも生まれます。精度や速度の向上だけでなく、こうしたNECならではの独自性を強化していくことも私たちの重要なミッションのひとつなのです。
もう一つのミッションは、海外における分析案件の拡大です。それぞれの国や地域のローカルな課題などに対し、NECの現地法人、地元のベンダやパートナーと連携しながらNECとしての成功事例を、グローバルに拡げたいと考えています。そのためには、アルゴリズムだけではなく、分析事業に関わるさまざまな人材の育成が不可欠です。今後は、国内海外に関わらずチームの強化や人員教育にも、さらに力を注いで行こうと思っています。
夜8時から10時までは、子供とお遊びタイム
──研究者としての藤巻さん自身を、「分析」してください。
藤巻:
分析が仕事ですが、自分を分析するのは難しいですね(笑)。研究者としてデータをと向き合うのは、いまでも楽しいですよ。私に限らず、機械学習研究者にとってはデータがあるだけで幸せを感じるんじゃないですか。数式をいじって、論文を書いて研究成果を上げるのは大学でもできます。研究者として私が大切にしているのは、現場の問題に出会ってワクワクすること。技術はいつでも問題を解くためにあると思っています。現在の仕事では、お客さまが抱える実際の問題に対面できることが楽しいですし、研究や開発の結果がお客さまの具体的な課題解決につながることに、大きなやりがいを感じています。

──趣味や余暇の過ごし方など、藤巻さんの素顔について教えてください。
藤巻:
以前は、旅行が好きでしたが、いまではインド、ニュージーランド、アメリカ東海岸、中国など、毎月のように海外出張がありますので、個人的な旅行はちょっと時間がないかなという感じですね。いま、家族とともに北米で暮らしていますが、夜8時から10時までは打ち合わせを入れないようにしています。その時間は、家族との団らんや子どもたちとのお遊びタイムですね。夜10時を過ぎると、自宅からアジアへ電話やWeb会議で打ち合わせするのが日課です。夜10時過ぎてから日本との打ち合わせは大変じゃないかとよく聞かれますが、そうでもないですよ。夜遅くまで会社に残ったり、早い時間に帰宅しにくい日本と比べると、アメリカの生活は逆に自分の時間がコントロールしやすいとも言えます。なので、子供たちと遊ぶ時間も大切にしています。アメリカはクルマ社会で歩く機会が少ないため、空いた時間は体を動かすように心がけています。もともとスポーツが好きなので、気分転換を兼ねてトランポリンで飛んだり跳ねたりしています。冬場になるとスノーボードを楽しんだりします。ただ、雪質は日本の方がいいのでスノーボードのシーズンになると、日本の雪が恋しくなりますね。
