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2014年02月10日

NECのイノベーターズたち

機械学習による予知・予測の若きリーダー

 ビッグデータ活用によって期待が高まる需要などの「予知・予測」。膨大かつ多様なデータから、いままで不可能だった高精度な予測を可能にするNEC独自の異種混合学習技術。そのコアアルゴリズムを開発したのは、現在32歳の藤巻 遼平。機械学習の研究者として、また海外案件の責任者として、グローバルに活動する若きリーダーが、データへのこだわりや仕事の展望などを語ります。

いままでできなかった予知・予測を可能に

──ビッグデータの活用で、いま注目や期待されていることは何でしょうか?

藤巻:
 ビッグデータの活用は、その名の通り大量のデータを利用して情報の新たな価値を見い出し、それを社会やビジネスに役立てるものとして、いま各分野で注目されています。

NECラボラトリーズアメリカ メディアアナリティクス部門 リサーチャー 工学博士: 藤巻 遼平

 その代表的な価値のひとつが「予知・予測」です。これまで専門家による知識や過去のモデルによって行われていた予知や予測が、大量のデータを活用することでより高精度に、幅広い分野で実現できるようになります。こうしたビッグデータの活用による予知や予測を可能にした背景には、膨大なデータを集めるインフラ、データ処理の高速化、さらに機械学習など分析技術の進化などがあります。予知や予測というと難しそうですが、みなさんがよくご存じの身近な例もあります。Googleの検索サイトやAmazonなどの通販サイトを思い浮かべてください。個人が頻繁に検索するサイトや購入した商品の履歴データをもとに、先回りして推奨サイトを提示したり、おすすめ製品を紹介する。これも、機械学習によって実現した予知・予測の事例のひとつなのです。

──ビッグデータの活用で予知や予測を上手く成功させるためには、何が重要なのでしょうか?

藤巻:
 ビッグデータの活用は、いろいろな分野で注目されていますが、実際に活用しているのはまだまだ一部です。ビッグデータを活用して予知や予測を上手く行うためには、まずICTベンダの存在が大きく関わってきます。多くのお客さまはビッグデータの分析の技術やノウハウを保有しておらず、ICTベンダのサポートを必要としています。そのため、サポートする側であるICTベンダの技術や実力がとても重要になってきます。

 たとえば、センサ技術などを駆使した「データ収集能力」、大量のデータを処理するための「データ処理技術」、予測や最適化を実現する高度な「分析技術」、さらに人的リソースとして「データサイエンティストのスキル」など、ICTベンダにはお客さまのビッグデータの活用を成功に導くためのさまざまなサポート力が求められます。

 現在、分析技術の専門家としてデータサイエンティストの重要性が注目されていますが、データサイエンティストとともにビッグデータの活用で欠かせなのがドメインエキスパートという存在です。ドメインエキスパートは、お客さまの業種や業務に精通し、どんなデータをどのように活用したいか、何が目的なのかなど、領域や課題、目的などを明確にして整理するプロフェッショナルのことです。すぐれたデータサイエンティストとドメインエキスパートの密接なコミュニケーションも、ビッグデータの活用を成功させる重要なポイントのひとつです。

──ビッグデータを活用した予知や予測について、NECの強みをお聞かせください。

藤巻:
 先ほどお話しした「データ収集能力」、「データ処理技術」、「分析技術」、「データサイエンティストのスキル」という条件を、すべて満たしているNECは、お客さまのビッグデータの活用をワンストップでトータルにサポートすることができます。またNECは、これまで多彩な業種ソリューションの提供を通じて培ってきたさまざまな実績やノウハウを活かして、ドメインエキスパートの強化という点においても、今後ますます力を注いでいきます。

 現在、さまざまなベンダがビッグデータの活用に対するサポートを打ち出していますが、そうした状況の中でNECの独自性を生み出すことが重要だと考えています。たとえば、ベンチャー企業ではできない超大量のデータを扱うシステムや複雑なタスクの処理・運用など、NECならではの強みを追求しています。我々の開発した異種混合学習技術も、ビッグデータの活用における世界最先端のNEC独自分析技術として、優位性を発揮しています。

膨大なデータから、隠れた価値を機械が発見

──異種混合学習技術とはどんな技術なのか。わかりやすく説明してください。

藤巻:
 それでは、コンビニを例にお話ししましょうか。どんなモノが、どんな日に売れるのか?単純ですが、これを予め知るのが実は難しいのです。たとえばアイスクリームは、天候や気温、立地などの要因によって売れ行きが変わります。こうした異なる複数の要因によって変わる商品の売れ行きを予測する時、アイスクリームという1商品だけならドメインエキスパートがモデルを作りこみ、ある程度予測することができます。ですが、商品の点数が何百何千という数にのぼり、商品の売れ行きを左右する要因も多種多彩、しかも全国に拡がる10,000店における売り上げ予測となると、その組み合わせパターンが膨大になり、従来のやり方ではとても不可能です。そうした予測を可能にするため、多種多様なデータの中から機械自身が適切な予測式を自動的に導き出すのが、私たちが開発した異種混合学習技術なのです。機械学習技術のひとつである異種混合学習技術は、いろんな種類のデータや異なる大量のデータの中から、頻出するパターンや隠れた規則性などの知識を機械が自動的に発見することができます。しかも、機械自身が条件や要因を組み合わせたり、取捨選択しながら適切な予測のパターンを賢く導き出してくれます。これによりアイスクリームだけなく、おにぎりや洗剤など多種多様な商品、さらに日本全国に展開しているさまざまな店舗の売り上げを予測することが可能になるのです。

小売り向け需要予測型自動発注ソリューション
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──異種混合学習技術開発の目的や開発の経緯を、教えてください。

藤巻:
 NECは、20年以上の長年にわたって機械学習の研究を続けてきた数少ない日本企業のひとつです。現在でも、日本の中央研究所や北米の研究所で機械学習における最先端の研究を行っていますが、こうした研究や実績の蓄積をベースに生まれたのが異種混合学習技術です。私たちの仕事は、お客さまの課題を聞き、その課題解決の方法を数理的に表現し、アルゴリズムとして提供することです。アルゴリズムというのは、課題解決するための数式を解くための手順のことを言います。このアルゴリズムを具現化したものがソフトウェアですね。

 異種混合学習技術の開発背景を、もう少しわかりやすくお話ししましょうか。当時、ビッグデータの流れがはじまっており、お客さまの課題解決の案件が増えるに従い、自分たちがやるべき業務が加速度的に増えて、完全にパンク状態でした。数多くのお客さまの案件に今後すばやく対応していくにはどうしたらいいのか。限られたメンバーの業務の生産性を上げるためには何が必要か。そこで、考えたのが機械学習という技術を活かした新たな仕組みづくりでした。私たちが行っている業務の一部を機械に任せたい。さらには、予測に必要な要因の組み合わせや取捨選択など煩雑な業務も、人間に代わって機械に考えさせたり、判断させて自動化したい。ざっくり言うと、こうした発想が異種混合学習技術の開発のきっかけでした。

 はじめは、ちょっとした思いつきで上司からは「そんなことはできない」と言われたのですが、数式の導出や理論解析、プログラム化、実際のお客様のデータによる検証などを何度も繰り返し、アルゴリズムとしての改善や精度のブラッシュアップを図りました。でも、いまでは、そのときに作った基礎理論をベースにして、さまざまなアルゴリズムが開発され、さまざまなお客さまの課題を解決できるようになった結果、当初の狙いとは逆に、もっと忙しくなったかも知れません(笑)。

北米で研究者と海外案件担当の1人2役

──NECに入社後の藤巻さんの、研究者としての歩みを教えてください。

藤巻:
 大学では宇宙工学が専攻だったのですが、機械学習に興味が湧いて卒論のテーマとして自分なりに勉強や研究を進めていました。卒業後は、引き続き機械学習の研究を続けたかったのですが、卒業当時はまだ大手のネット企業なども少なく、機械学習の研究を行っている企業はごくわずかでした。そうした中で、いちばん最初に採用の手を挙げてくれたのがNECだったのです。

 NECに入社後はデータマイニングチームに配属され、それ以降ずっと機械学習の研究を続けています。初めのころは、機械学習技術を使ってネットワークの異常検出やクルマの故障原因診断などの仕事を担当していました。入社した後の3年間くらいは、データから問題を解くという応用研究をやっていました。やり方はともかく、まずは解ければいいという思いで、データとひたすら向き合っていました。大学とは違い、企業であるNECではいろんなデータと出会えるので、すごくうれしかったですね(笑)。また、いろんなお客さまと実際に会って、さまざまな問題を生で聞くことができるのも大きな魅力でした。そうやっていろいろな問題を解いている中で、数理的な根拠を持った方法の重要性を再認識し、5年目くらいから、機械学習研究の原点回帰というか、お客さまが抱えている問題の本質を抽出し、それを数理的に表現し、解決する手順(アルゴリズム)を構成するというプロセスを重視するようになりました。これは、その後の自分の機械学習研究者としてのスタンスやキャリアに大きく影響を与えたと思います。

 2011年5月からは、北米のシリコンバレーにあるNECラボラトリーズ アメリカに研究員として出向して、現地のスタッフと議論したり、コラボしながら異種混合学習技術の発展などに努めています。北米は機械学習技術研究の最先端で、世界の第一線で戦う研究者がたくさんいるので、とてもいい刺激になります。また、GoogleやFacebookなど、機械学習を活用している先端企業がすでにたくさんあるというのも、研究者にとって魅力です。現在は、異種混合学習技術のコアアルゴリズム開発の責任者として、また日本国外のお客さまの課題解決をサポートする海外案件のリーダーとして、2つの立場から仕事をしています。

※文中の商標等は各社に属します。

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