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2017年01月05日

人の脳を模した「ブレインモルフィックAI」が未来を切り拓く

「NEC×東京大学」で挑むAIの未知なる世界 新たな協創プロジェクトが目指すものは

社会にどう受け入れてもらうかも考える必要がある

 こうした特徴を持つブレインモルフィックAIをどう実用化するか──。「従来のAIは、大量のデータ入力を基にタスク処理の精度を高めていくのが一般的でした。一方、ブレインモルフィックAIは、少ないデータからいかに精度良く学習できるかを目標とします。既存の発想にとらわれず、社会に役立つものを生み出す。そのための学習法などを研究するのが私の役目です」と話すのは、機械学習を専門とする東京大学大学院 新領域創成科学研究科の杉山 将教授だ。

 また、高速画像処理技術の研究を基に、高速のAIを目指す東京大学大学院 情報理工学系研究科の石川 正俊教授は次のように続ける。「AIに対する人々の期待が、過剰に膨らんでいるのが今の状況だと私は感じています。この期待に応えるには、杉山先生も言われたとおり、インプットだけに頼らず、自ら考えて答えを導く『価値創造型』のAI研究が必要。ブレインモルフィックAIは、その突破口の1つとなるでしょう」(石川教授)。

 「実用化に向けては、技術的イノベーションのみならず、社会との接点を意識することも肝心」だと、人間と科学技術の関係を研究する東京大学大学院 情報学環の佐倉 統教授は提唱する。

 そもそもAIは人々にどんなものだと思われているのか。それを調査すると、「期待する」という回答が多い半面、「不安を感じる」と答える人も少なからずいるという。その不安とは「人の知能を超える」「自我を持つ」「人間と見分けがつかなくなる」といった根源的なものが大半。これらはAIに対する誤解から生じるものもあるが、研究開発の段階で社会的な価値観を取り入れていくことも技術の普及と成熟には欠かせない。

 「とかくAIは『万能のテクノロジー』と思われがちです。それが先のような不安につながっているのですが、実際のところ、AIは人の暮らしを豊かにする目的で開発されているもの。しかし研究開発の段階では研究者がどのように考えているかは社会から見えにくいし、その段階で社会からの意見や視点を取り入れていくことが必要です。技術は常に、社会に出たときどう役立つかという観点で考えられるべき。本プロジェクトでも、そうした視点を忘れずに取り組みたい」(佐倉教授)

明日を担う「独創的」な人材育成にも注力

 同プロジェクトでは、仕組みづくりと同時に、AIの明日を担う人材育成にも注力していく。その方向性について石川教授は、「独創性を育む」ことが大事だと指摘する。

 「『すでにあるものの改善』より、『ゼロからの発明』を評価すべき。そのためには、リスクを許容しチャレンジを促す環境が必要でしょう。実際、いち早くそうした環境を整えてきた米国は、AI技術でも世界をリードしています」(石川教授)

 例えば、10回中8回は失敗しても、残りの2回が成功すれば褒める。評価する側にこの姿勢がなければ、やがてその人は挑戦へのモチベーションを失い、「すでにあるものの改善」に回帰してしまうようになるだろう。

 「これは長年いわれ続けていることですが、なかなか改善されません。しかし、欧米諸国にこれ以上差を広げられないためには、もはや猶予はない。優秀な人材の育成に、すぐに本腰を入れるべきです」(石川教授)

 この点についてはNECへの期待も大きい。「NECは、AIはもちろん、コンピュータや通信・ネットワーク機器などのプラットフォーム技術の開発に関する豊富な知見や、世界トップクラスの機械学習技術などを有しています。様々な研究テーマの深堀、人材育成までに包括的に対応できるNECとの連携は、大学だけでは難しい、大きな価値創出の可能性を広げてくれるはずです」と杉山教授は語る。

 将来的には、NECと東京大学が他の学術・研究機関とも柔軟に連携しながら、さらに新しいフィールドへと取り組みを拡大していく計画もある。NECと東京大学、社会価値最大化を目指す両者の挑戦に、いま多くの期待と注目が集まっている。

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