2017年01月19日
なぜ、早稲田大学は大学改革に挑むのか
~ビッグデータで見えてきた大学の新しい可能性~
新しい視点やヒントに向けてNECと共創へ
しかし、さらなるデータ活用に向けて乗り越えなければならないハードルも残されている。これだけ大規模なデータ分析を行うのは、他の大学でもほとんど例を見ない。そのためビッグデータから解を導き出したくても先例がなく、どんなデータをどの粒度で収集すべきか、集めたデータをどう活用していくかは、まだ手探りだ。

第一官公ソリューション事業部
雨宮 聡子
そうした中、手段の1つとして同大学が活用したのが「ビッグデータディスカバリープログラム」である。「ビッグデータ活用の第一歩は、まず狙いや目的を明確にすること。大学IRとして掲げるテーマを共に検討するプログラムであることを紹介しました」とNECの雨宮 聡子は述べる。
ビッグデータディスカバリープログラムは、NECが培った業種・業務コンサルティングやノウハウを結集し、ビッグデータ専門要員がビジョニングからデータ活用仮説立案、データ分析検証までトータルにサポートするもの。今回のケースでは、課題の抽出からデータ活用の仮設立案までがその対象となった。
「課題抽出、データ分析、業務への落とし込みなど、それぞれにエキスパート人材がいて、組織体制がしっかりしていた。幅広い業種にわたる豊富な実績やノウハウを活かし、我々が気付かなかった、新しい視点やヒントが出てくる可能性に期待していました」と永間氏は述べる。
このプログラムに際し、NECでは大学の経営や業務課題の抽出を担う「ドメインエキスパート」、データ分析の基盤に詳しい「分析エキスパート」、業務課題の解決に向けた分析シナリオを検討する「コンサルタント」という3つの役割に応じて担当を編成している。この3つの連携により、早稲田大学の状況をきちんと把握し、適切な課題抽出や分析シナリオの構築を行ったという。
その布陣で臨んだ第一弾が、EMIR(Enrollment Management)、つまり学生の入学前~卒業後までにまつわるあらゆるデータを把握するという取り組みの具体化だ。その中でも特に今回は入学試験を含む入学者選抜制度に焦点をあてて検討を進めることになった。

助手(経済学博士)
姉川 恭子氏
「今回の大学改革の重点テーマの1つが、高い志を持った多様で優秀な学生を国内外から獲得すること。入学者選抜制度はその入口となります。入試制度検討にあたっては現状の制度評価が欠かせませんが、現状の評価指標は在学中のGPA(Grade Point Average)を中心とした学力評価に頼らざるを得ません。一方で、学力のみで測れない能力を多様な観点で評価すべきという意見があります。例えばサークル活動やボランティア活動等を通じて身につける能力です。そうした学生の多様性を見極めるには、入学前から入学、在学、卒業後に至るまで『なにを学んだか』『どんな経験をしたか』『成果はなにか』を把握した上で、どんな学生に入学して欲しいのか、そのためにどんな入学制度が必要なのかを改めて考える必要があるのです」と姉川氏は語る。
そこでプログラムでは、具体的には、入試形態別/学部別/就職先別/地域別(大都市圏・地方・海外)といった観点でGPA の高い学生の特徴を明確化するとともに、GPA以外における個々の授業の評価、学生生活、留学・学外活動(部活・サークル・ボランティアなど)といった観点から優秀な学生の再定義や入学者選別制度の可能性を検討。今度どのようなデータを集めるべきか、どのようなデータの活用シナリオがあるのかをNECとの複数回の検討会から導き出していったという。
教育の質を高め、経営基盤の強化を図る
このようなビッグデータ・ディスカバリー・プログラムをはじめ、早稲田大学では様々なアプローチでビッグデータを「Waseda Vision 150」に基づいた大学改革に活かそうとしている。プロジェクトはまだ始まったばかりだが、大きな可能性を感じているという。
データを分析し、その結果を実際の業務レベルに落とし込む方法論が徐々に見えはじめており、より多種多様なデータを長期にわたって蓄積・分析していくことで、「点」でしかなかったデータを「線」や「面」で捉えることができるようになるという確信を得られつつあるからだ。
「例えば、学生が優秀な学業成績を修めていたとしても、希望の仕事に就けるとは限らないし、その逆のパターンもあります。そこには様々な要因が複雑に絡み合っています。果たして専攻したコースが本人の適正に合っていたのか。授業の内容や教授のサポートは満足のいくものだったのか。授業の出席状況はどうだったのか。学業だけでなく、スポーツやサークル活動、友人との関係も大きく影響してくるでしょう」と永間氏は推察する。
社会に出てからの追跡調査も必要になる。「人によって価値観・人生観は様々です。収入だけが人の幸福や生活の満足度を測る指標ではありません。どのような仕事に就き、やりがいを感じているのかいないのか。そうしたことも重要な情報になります」(姉川氏)。
学生が充実した大学生活を送れる、魅力溢れる大学づくりには、これらを総合的かつ長期にわたって見ていく必要がある。大学在籍中のデータだけでなく、入学前や卒業後の公私にわたる情報も必要だ。「在学生だけでなく卒業生にも協力を得て、ビッグデータ活用プロジェクトを推進していきたい」と永間氏は続ける。
データの分析結果は様々な施策に活かされていくだろう。「統計的な分析から見えてくる傾向を全学的動向としてフィードバックすることで、教員や部署などが学生に対して行う、履修や就職、学生生活の指導に活かすといったことも可能になるでしょう。本学の独特な修学環境を踏まえて、学業成績だけでは見えてこない、本人も意識していない適性や能力に気づきを与えられれば、将来の選択肢を大きく広げることに役立つものと期待しています」と山田氏は語る。
同大学の進めるビッグデータ活用プロジェクトはまだ始まったばかり。「早稲田大学様との共創を進めることで『Waseda Vision 150』の具現化に貢献するとともに、より大きな社会価値の創出に少しでも貢献したい」と雨宮は言う。
今後も早稲田大学はビッグデータ活用の取り組みを継続し、進取の気性に溢れた有為の人材を育成するという建学の理念を柱に「Waseda Vision 150」の実現を推進。アジアのリーディングユニバーシティとしての地位確立を目指す構えだ。
大学の経営や教育は今後どうあるべきなのか。早稲田大学とNECは共創しながら、創立150周年に向けた新たな取り組みの第一歩を踏み出した。
※記事内容は、2017年1月現在となります。