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なぜ、早稲田大学は大学改革に挑むのか
~ビッグデータで見えてきた大学の新しい可能性~

2017年01月19日

日本を代表する総合大学として、政財界を中心にリーダー人材を数多く輩出する早稲田大学。同大学は創立150周年を迎える2032年に向け“あるべき将来像”を描いた「Waseda Vision 150」を策定し、大学改革を推進している。その一環として取り組むのが、ビッグデータの活用だ。学内の多種多様なデータからどのような大学改革の方向性を導き出そうとしているのか。その具体像を紹介したい。

すでに約4割の私立大学が「定員割れ」の状態に

 大学を取り巻く状況が厳しさを増している。文部科学省の「大学基本調査」によれば、18歳人口は、1992年の205万人から、2014年には118万人まで減少。最近の数年は横ばいだが、人口推計から考えれば2018年ころから再び減少に転じていくという。すでに約4割の私立大学が「定員割れ」の状態にあり、18年以降は私立だけでなく国公立大学も経営難に見舞われる可能性がある。

 環境の変化は、人口減の問題だけではない。グローバル化も新たな課題となっている。現在は海外の大学に進学する学生も増加する一方、海外の留学生をどう呼び込んでいくかも重要なポイントだ。グローバルに流動化している学生をどう呼び込むか、これは多くの大学にとって最重要テーマの1つといえるだろう。

 もちろん大学側も手をこまねいているわけではない。大学改革に向け様々な取り組みを始めている。日本を代表する“私学の雄”早稲田大学はその代表例だ。大学の価値向上に努め、志の高い優秀な学生が集まる吸引力を高め、安定的な大学経営につなげる好循環の創出を目指している。

データを“共通言語”に全学的な活動を推進

 活動の基軸となるのが、創立150周年を迎える2032年に向けた中長期計画「Waseda Vision 150」である。世界中から高い志をもった学生が早稲田に集い、卒業生が世界のあらゆる分野でグローバルリーダーとして社会を支える。すなわち、アジアのリーディングユニバーシティとして確固たる地位を築き、早稲田大学がアジアのモデルとなりうる運営体制を確立することを目指したものだ。入学者選抜、教育・研究、国際展開・新分野への挑戦、大学運営など13の核心戦略を策定し、それぞれ具体的なプロジェクトを定義している。

 「Waseda Vision 150」において特に注目すべきなのは、他にあまり類を見ない視点が盛り込まれている点だ。それは具体的な数値目標の設定である。「全学生が海外留学の経験を行う」「女子学生の比率を50%まで増員する」「授業の公開率を100%にする」など個別の施策について具体的な数値目標を掲げ、半期ごとにその実効性を検証している。

 その“共通言語”となるのが「データ」だ。データを紐解くことで、具体的な成果を測るエビデンスが得られ、改善につながる課題も把握しやすくなる。また人知や経験では気付くことのなかった新たな有効な施策を立案できる可能性もある。

 こうした観点から、同学では分析ツール「SAS Visual Analytics」を活用した「大学IR(Institutional Research)システム」を構築。2016年3月より、その運用を開始している。

 IRとは大学が有する教育研究・経営・財務情報などを幅広く収集・蓄積し、大学の教育改善や意思決定の合理化を目指す取り組み。1960年代の米国で始まり、多くの大学が教育改善と運営基盤の強化を実現した。近年、日本でもこの有効性に着目し、IR活動に取り組む大学が増えつつある。

早稲田大学
大学総合研究センター事務長
兼 情報企画部マネージャー(教育支援システム担当)
永間 広宣氏

 IR活動で重要な役割を担うのが、早稲田大学 大学総合研究センターである。その活動を統括する大学総合研究センター事務長の永間 広宣氏はIRシステムの意義について次のように述べる。「まずは統合データウェアハウス(DWH)に集約された学内のあらゆるデータを用いて、大学の現状を可視化すること。その後統計的手法による高度な分析を行い、その分析結果をもとに『Waseda Vision 150』の実現をサポートしていくことが求められています」。

 学部ごとに分散していたデータの集約を進め、見える化を加速する取り組みはすでに進行している。「目指すのは、教職員各自が自由にデータの活用・分析が行える環境を構築することです。分析やそれに基づいた施策に対して、部門単位で取り組んでいては効果が限定されてしまいます。大学内の組織間に横串を刺し、分析と施策の実施、その効果検証について全学的な取り組みを進めていく必要があります」と大学総合研究センター調査役の山田 晃久氏は話す。

早稲田大学
大学総合研究センター調査役
グローバルエデュケーションセンター調査役
教務部調査役
山田 晃久氏

 分散していたデータを活用するために、運用上の新たな枠組みも必要となる。早稲田大学では学内の規程により個人情報はその情報管理責任部署に閉じた形でしか利用できない。そこでIRシステム内でのデータの取扱いについてガイドラインを策定した。IRシステム内で扱うデータは個人が特定できないよう加工されているが、データそのものの秘匿性に配慮し、アクセス権の付与にあたってはその目的を明確にしたうえで必要最低限の範囲に限定するとともに、詳細なアクセスログを記録するなど厳格な運用につとめている。

 こうして集約したデータから得られた分析結果はわかり易いレポートにして、学内で共有を図る考えだ。「教育の質向上や経営に関する意思決定の迅速化につなげていきたい」とIRの分析を担う大学総合研究センター助手の姉川 恭子氏は続ける。

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