2016年02月26日
インダストリー4.0最新動向、日本・ドイツ・アメリカが目指す未来とは
10年後、日本の製造業に待つ未来。インダストリー4.0へ取り組むべき理由とは?
インダストリー4.0で直面する製造業とIT系のビジネスモデルの違い
2015年は、IoT(モノのインターネット)やインダストリー4.0(ドイツ発、製造業向け第4次産業革命への取り組み)といった言葉が幅広く取り上げられた年でした。
こうした取り組みも2年目に入り、IT系企業やベンチャー企業が様々な領域で新しい製品、新しいサービスを開発して市場に展開しつつあります。
これに対して、製造業系企業の取り組みは慎重です。IT業界のビジネスモデルは、先行者が一気にシェアを獲得して稼ぐスタイルで製品ライフサイクルは5年持たないのが一般的です。
製造業のビジネスモデルは、開発に数年掛けて一度市場へ投入すると最低10年間はサポートしなければなりません。アフターサービスや保守サポートを考えると、一度投入した製品を簡単に辞めるわけにはいかないのです。
例えば、読者の皆様はPCをどの程度使い続けているでしょうか。毎年新しい機種が登場するPCですが、3~4年も使えばそろそろ交換ではないかと思います。スマートフォンやタブレット端末だと、1~2年程度という方も多いでしょう。
しかし、製造業の工場などにある製造装置やシステムは10年使うのが常識です。半導体や電子材料といった、設備投資が製品ライフサイクルに連動するような特殊な業界もありますが、自動車産業や機械業界では10年間使い続けなければなりません。こうした理由があるため製造業系企業では、IoTやインダストリー4.0に対して慎重にならざるをえないのです。
日本の製造業が10年後にどのような状況になっているのか?
ではこのまま進んでいったとき、10年後の日本のものづくりはどうなっているのでしょうか? 2015年に大ブレークした池井戸潤氏原作の『下町ロケット』の世界観で、インダストリー4.0の世界を簡単にご紹介してみたいと思います。
『ツクダ社長、この度はお世話になりました。御社にお願いした部品、お客様が大絶賛されていました。これまで頼んでいたところから、人手不足を理由に注文を断られたときにはウチも終わりだと覚悟したのですが、ダメ元で御社にお願いして本当に良かった!』
受話器から聞こえるお客様の興奮した声が、徹夜明けの頭に響く。
ツクダ製作所は、機械部品の精密加工製造を強みとしている従業員300名ほどの町工場だが、その技術力は高く手掛ける分野は航空宇宙産業から医療機器分野まで幅広い。主力製品は、自動車関連だが高い技術力と丁寧な仕事で業界の信頼度も高い。しかし、国内市場が成熟し、需要が縮小している市場で生産拠点を国内に構えて、力を付けたアジア新興国や製造業が急成長しているインドなどとグローバル市場で戦い続けられるのも限界に近い。既に同業者の大半が、生産比率の大半を国内から海外に移していて、ツクダのように国内工場だけで生産している企業は数えるほどになっていた。
『ありがとうございます。そのように言って頂けると、ウチの社員も喜ぶと思います。』
新規で飛び込みの依頼であったため、注文数量も少なく限られた納期内で高い品質を維持するのも大変で利益もわずかだったのだが、今後の取引拡大への期待と工場の稼働率には貢献していた。
『ツクダ社長、それで今後の件でご相談したいので、来週どこかでお時間を頂けませんか。実は今回の実績を高く評価した自動車部品大手のお客様から、電気自動車の駆動系部品の製造を3ヶ月後の4月からツクダさんにお願い出来ないかとのことなのです。』
しめた!期待した通り、今回の実績が次の注文につながりそうだ。今回のようなスポット契約ではなく、願わくは中長期の契約の獲得だ。
『もちろんお受けしますよ!技術力と品質は、どこにも負けないと自負しております。』
受話器の向こうで、安堵したようなため息が聞こえた。高揚した声で、言葉が続く。
『それは良かった。我々にとってもツクダさんにとっても、ビッグチャンスになると確信しています。それで、来週のお打ち合わせまでにご準備いただきたいものがあります。
ご存知の通り、駆動系部品は電気自動車のキーデバイスとなりますのでその生産進捗をお客様のシステムとネットワークで直接接続する必要があります。そこで、ツクダ製作所の生産実行管理システム(MES)とのリアルタイム接続のための準備をお願いします。仕様は国際標準IEC(国際電気標準会議)のTC65ベース、RAMI4.0に準拠していれば良いとのことです。
(この時代の製造業は、発注元と受注先の工場システムがつながることが当たり前となっていると言われています。その規格は、国際標準仕様“RAMI4.0”が採用されると言われています。)
要するに、ツクダさんのところの生産実行管理システム(MES)をお客様のシステムに接続すればそれで大丈夫です。システムがつながれば、工程ごとの生産進捗や稼働状況などがお客様側のシステム上で把握できるので、万が一のトラブルや注文変更にも即時に対応できます。
システム接続の費用は、お客様側が負担しても良いとのことです。準備をお願いする内容については、後ほどメールで送りますので御社のシステム担当にお伝え下さい。それでは、どうぞよろしくお願い申し上げます。では、来週お会いしましょう。』
(つまり、ツクダ製作所が、今回の部品試作に成功して発注元から量産を受注するためには、工場間システムをつなぐ必要があるのです。システムがつながらなかったり、手作業でしか生産管理ができない場合は、量産の発注条件を満たすことができず、注文すら貰うことができません。)