2016年03月09日
AI対談:スポーツ界のデータアナリスト×データサイエンティスト
データアナリストがスポーツに起こす革新とは――スポーツの勝敗を左右するビッグデータ活用
ビジネスの世界で日々進化するビッグデータ活用。その技術革新の勢いはスポーツ界にも大きな影響を与えている。スポーツで「勝つため」のデータ活用はどう進化しているのか。スポーツ界からトップアナリスト・渡辺啓太氏と、ビジネス界からNECのトップデータサイエンティスト・本橋洋介氏に、データ活用の現在と未来を聞いた。
スポーツ界における「データ分析」の広がり
──バズワードとしてはおなじみの言葉ですが、「ビッグデータ活用」は社会のどんな領域まで広がっているのでしょうか?
本橋:
トレンドという意味では、ビッグデータ活用の有効な手段として、2015年に人工知能(AI)が社会的に大いに注目されたことが、ビジネス界におけるターニングポイントだと感じています。ビッグデータの可能性の道筋が示され、多くの業界がデータ活用に積極的になりつつあるなか、データを集めて可視化することは当たり前になり、機械が自動的に分析して意思決定する方法に注目がシフトしています。
私が考える理想的なデータ活用プロセスは、「認識」と「分析」と「制御」の3ステップが全てしっかりしているものです。小売業の世界でたとえると、消費者がいつ何を買っているのか、店舗内での行動や売り上げを、まずデータとして「認識」します。
次に、その行動にどのようなパターンや特徴があるかを「分析」をする。そして、最終的には「制御」として、仕入れ商品を変更したり、商品の棚割りを変えたりと何かしらのアクションを起こす。
データの「認識」や「分析」だけで終わらずに、実際に「制御」すなわち改善策としてのアクションにつなげていくことが、理想的なデータ活用です。いまNECでは、さまざまな業界のクライアントに対して、この「制御」の部分をどのように実現するか、さらには機械によって自動化できないか、研究開発とソリューション提供を進めています。
渡辺氏:
やはりビジネス界のほうが、データ活用は圧倒的に進んでいますね。特に機械学習の進歩スピードが桁違いに速いと感じます。
──スポーツの世界では、データ分析はどのように進んできているのでしょうか?
渡辺氏:
2000年代の初頭から、さまざまなスポーツで同時多発的にアナリストたちが活躍するようになっています。アメリカのメジャーリーグで、データに基づく野球を世に広めた「マネー・ボール」が出版されたのが2003年。プロバスケットボールリーグのNBAで、各チームにスポーツアナリストが付き始めたのも2004年頃です。
バレーボール界のトップレベルのチームに、データ分析ソフトの「データバレー」が導入されだしたのも同じ頃です。いまや「データバレー」は全世界共通で使われていて、細かい試合の流れがすべてデータ化されているんです。
本橋:
「データバレー」は、NECのバレーボールチームも使っているので、見たことがあります。あらゆるスポーツの中でも、特にバレーボールはデータ活用の歴史が長いですよね。スポーツをデータ分析の観点から分類すると、「ストップ・アンド・ゴー」と「ノンストップ」の2種類があります。
野球やバレーボールのように、1プレーごとにゲームが止まる「ストップ・アンド・ゴー」タイプのスポーツはすごく分析に向いている。それに対してサッカーやラグビーのような、攻防が入り乱れている「ノンストップ」タイプのスポーツは分析が難しい。
渡辺氏:
確かに、それはありますね。バレーボールの1試合の平均試合時間は27分半ですが、実際にボールが動いている時間って、実は5分半しかないんですよ。
それに多くのスポーツでは、試合中に外部からリアルタイムで情報伝達を行うことが禁止されていますが、バレーは監督やコーチがコートのすぐそばで通信機器を持って情報を集め、選手に指示ができる。こんなスポーツはめずらしいと思います。